新約聖書「コリント人への手紙」第1、第15章51~57節には、いわゆる「携挙」のことが書かれている。これは、使徒パウロが、コリントという町の教会のクリスチャンに宛てた手紙である。そこでは、イエスが、「私はまた来て、あなた方を私の元に迎えます。私のいる所にあなた方を置くためです」とある。パウロも言う。「私はあなた方に奥義を告げましょう。私たちは皆が眠ってしまうのではなく、変えられるのです。終わりのラッパとともに、たちまち、一瞬のうちにです」。
イエスを信じた人たちは、忌まわしこの地上からいずれイエスの元に連れていかれ、永遠の命を授けられるという信仰が「携挙」である。
『レフトビハインド』は、そうした携挙から取り残された人たちのことを書いたものである。神がこうした行為を見せるのは、これまで、神を拒絶してきた人たちに最後の注意を出すためであると、この小説は力説する。堕落した世界から神を信じる者たちを連れ去り、残された人たちに自らを悔い改めさせるべく、地上に大きな苦難をもたらすというのである。
さらに聖書では、「反キリスト」(the AntiChrist)の悪魔のペテン師が現れ、多くの人たちの心を掴み、世界的指導者と自称して地上に戦乱を巻き起こすと予言されている。イエスは言った。
「私は私の父の名によて来ましたが、あなた方は私を受け入れません。他の人がその人自身の名によって来れば、あなた方はその人を受け入れるのです」と。
小説では、この携挙が、生じたことが執拗に書かれている。一瞬のうちに、敬虔なクリスチャンたちがこの世から消え去った。そのために、世界中で大混乱が起こった。
小説では、携挙から取り残された牧師の口を通して、黙示録の解説が行われる。携挙の日から7年間、残されたもの(レフトビハインド)の苦難が続く、その期間は、最初の1年9か月の「封印の審判」、その後に続く同じく1年9か月の「ラッパの審判」、そして残り3年半の「鉢の審判」となる。これは、「大艱難時代」(トリブーレイション)といって、もっとも過酷な時代である。艱難は、時を追って厳しくなる。この7年を生き延びたとき、イエスが救済に来る。そして平和な「先年王国」(ミレニアム)がイエスによってもたらされる。しかし、それまでの間は、「反キリスト」の大ペテン師によって、第三次世界大戦を初めとした様々な第艱難が起こされると説かれる。
大ペテン師とは、一夜にしてルーマニアの大統領になり、その後、日をおかずして国連事務総長になるニコライ・カルパチアである。彼は、国連の公用語をすべて話し、世界統一政府を作るために、各国がそれぞれの保有武器を9割廃棄し、1割を新世界統一政府に供出し、国連の本部もイラクのバグダッド近郊に移し、その地を新バビロンと呼ぶという大構想を掲げて国連事務総長の地位を得たと説明される。
また、大ペテン師が人類にもたらす大災害を、小説は、黙示録第5章との絡みで解説する。それは、「7つの封印のある巻物」のことである。7つの封印のうち、最初の4つは、白い馬、赤い馬、黒い馬、青ざめる馬である。5つめの封印は、回心したユダヤ人の布教者たちの殉教、第6の封印は聖者たちの虐殺、そして、第7の封印は黙示録第11章3節から14節に記されている2人の証人の虐殺である。
第1の封印の白い馬は、それに乗る反キリストを暗示する。大ペテン師が平和を人類に約束しながら体制を整える1か月から3月間を指す。第2の封印である赤い馬は戦争を暗示する。これが第三次世界大戦である。戦争自体は3か月から半年で終息する。第3の封印は黒い馬で、飢饉を意味する。そして、第5の封印が、飢饉と疫病の結果、生み出される死を暗示する青いざめた馬である。
小説は、こうした黙示録の封印を忠実になぞりながら、ストーリーを展開し、さりげなく、父ブッシュを褒め、通貨統合、環境保護、世界政府を唱える勢力を反キリストとして断罪して行くのである。恐怖を煽り、米国に反対する世界の勢力を反キリストとしてクリスチャンの米国人は打倒しなければならないと、米国人の保守的心理を煽るのである。