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現実となった気候危機に日本はどう対応すべきか

2021年11月08日 | 自然・農業・環境問題

ゴールドマン環境賞を受賞した平田仁子さんに聞く

平田仁子(「気候ネットワーク」国際ディレクター・理事)

(構成・文/志葉玲)

Imidasオピニオン2021/11/05

 草の根の環境運動活動家に贈られ、「環境分野のノーベル賞」とも言われるゴールドマン環境賞の2021年の受賞者に選ばれた平田仁子(ひらた・きみこ)さん。日本人の受賞としては3回目で23年ぶり、日本人女性としては初の快挙だ。平田さんは、気候変動に取り組むNGO「気候ネットワーク」で長年活動を続け、現在は同団体の国際ディレクターである。今年8月にIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書の一部が先行して公表され、世界的に温暖化への危機感が高まっている。ところが日本は、火力発電の中でもCO2排出が多い石炭火力への依存が高く、国際社会から批判されてきた。平田さんに、温暖化対策をめぐる日本の課題について聞いた。

平田仁子さん

――このたびはゴールドマン環境賞受賞おめでとうございます。授賞理由は、平田さんたちの活動により日本国内の13基の石炭火力発電所の計画が中止となり、16億トン以上の二酸化炭素(CO2)排出を食い止めたことでした。まずは、受賞のご感想を伺えますでしょうか。

 日本では2012年以降計画された50基の石炭火力発電所の計画・建設のうち、ゴールドマン環境賞受賞が決定した2020年12月時点で13基、その後4基追加され、計17基が計画中止になりました。しかし、すでに20基以上は、完成して稼働しており、環境的には大変深刻な状況が続いています。福島第一原発事故以降、特にここ数年、猛烈な勢いで石炭火力発電所の建設が推し進められてきました。石炭火力の建設計画中止を求める活動は、私たち「気候ネットワーク」だけではなく、地域団体や住民の皆さん、サポートしてくださる国内外の法律家や専門家、NGOなどの力が合わさって大きくなってきました。ところが、今まで日本では、17基が止まったことについて、私たちNGOや市民の活動によるものだとは、あまり認められてきませんでした。今回の受賞で「脱石炭」の市民の動きがあることに光をあててもらったことは大変有り難く思います。賞をいただいたことで、大手メディアも私たち市民の動きに目を向けてくれるようになりました。今回の受賞は、一緒に粘り強く取り組んできた皆に与えられた賞にほかなりません。

――今年8月にIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書のうち、第1作業部会の報告が先行して公表されました。この報告書では、温室効果ガスの排出抑制に応じた5つのシナリオごとに世界の平均気温上昇を評価しています。10年ごとの酷暑の発生率は、現在から1.5度上昇で4.1倍、2度上昇で5.6倍、4度上昇で9.4倍となるなど、かなり具体的に書かれていることが話題となりました。平田さんは今回の報告書をどう受け止めましたか?

 第6次報告書では、気温の上昇によって熱波や大雨、洪水が増えていると、温暖化と異常気象の関係を強調しています。そのことは過去の研究の蓄積によって証明されているからです。さらに、この報告書には、地域ごとに顕著な温暖化の影響が見られ、これらは自然現象だけではまったく説明がつかないと精緻に検証されているのです

 温暖化の進行は、ここ数年でステージが上がっています。グリーンランドの氷床や南極の氷などが、想定を超える規模で解け始めており、科学者たちからは、ティッピング・ポイント(それを超えると不可逆的な変化が起きる臨界点)を超えてしまったのではないか、と強い危機感が示されています。人類のお尻に火がついている状況という厳しい現実に、恐ろしさを感じます。

 2014年にNHKが制作し、2019年に環境省がその新作版を制作した「2100年 未来の天気予報」という動画があります。動画では、温暖化が進行した2100年の天気予報を想定して気象がどうなるかを示しており、日本各地で気温が40度超えになるとされていました。しかし、すでに近年、日本各地で40度超えが記録されていて、この動画は80年後のニュースどころか今の状況をそのまま表しているような内容です。もう私たちは危機に突入しているのですから、単純に「温暖化」というのではなく「気候危機」という言葉を使っていくべきでしょう。

 気象庁も深刻な豪雨被害と温暖化との関連性を指摘するようになってきました。報道においても、今起きている現実の被害として、気候危機の影響についてもっと報じるべきだと思います。

――そもそも、日本ではメディアも温暖化に対する危機感が希薄だと感じます。気候危機に対する認識を改めないといけないということですね。

 その通りです。日本ではこれまで、「温暖化」という問題に対して、「途上国の人々だとか、ホッキョクグマだとか、未来の世代だとかが困るから、対策をやらないといけないね」というイメージが一般的でした。一部のインテリが聞こえのいいことを言ったり、生活に余裕のある層がマイボトルを持ったりするというような、一部の人だけが関心を持つ問題である状況は、1990年代からさほど変わっていません。大人も子どもも、温暖化問題はすでに学校で教えられたりすることで、昔から言われていることだと思っていて新鮮味を感じていないし、知っているつもりになってしまっています。「対策としてこれ以上できることはないんじゃないの」という認識で止まってしまっている。だから、まずは今、世界が置かれている状況がどれほど危険なのか、その危機に対応するためには、何をすべきなのかを根本的に“知り直す”ことが必要です。米国では、今夏のカリフォルニア州での大規模森林火災や、ニューヨークでの大水害に際し、バイデン大統領が「(気候危機に対し)我々は行動を起こさなくてはならない」と、気候危機と災害をはっきりとつなげて対策を呼びかけています。災害が起きても、避難と復興だけをやり、気候変動対策と結び付けない日本とは、認識が大きく異なりますね。

――対策という点では、LED電球への付け替えとか、お風呂等の節水とか、個人レベルの努力も無駄とは言いませんが、エネルギー政策自体を根本的に見直す必要がありますよね。

 はい、そう思います。日本が排出する温室効果ガスの排出源を多い順に見ていくと、石炭火力、運輸(主に自動車)、LNG(天然ガス)火力、製鉄産業、化学産業となります。

 燃料の燃焼などによる「エネルギー起源」の排出が全体の8割以上を占めています。一般家庭で石炭やLNGを燃やしているわけではないので、電気をつくるための火力発電所からの排出が多いということです。発電の中でも石炭火力が最大の排出源なので、真っ先に石炭火力をやめるという方向性が重要になります。

――日本では、昨年10月に菅政権が「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」と宣言し、今年10月に政府の新たなエネルギー基本計画(以下、エネ基)が閣議決定されましたが、これはいかがでしょうか?

 世界平均気温の上昇を1.5度までに抑え込み、気候危機の破局的な影響を食い止めるためには、2030年までに世界全体の温室効果ガスを半減させなくてはなりません。それを実現するには、先進国は2030年までに50%以上の削減が必要です。
 ところが、今回のエネ基では、2030年に日本の温室効果ガス排出を46%削減するという目標にとどまっていて、目標設定が不十分です。さらに真っ先に停止するべき石炭火力が2030年時点でも、電源構成の中で19%も占めることになっており、石炭・LNG・石油などの化石燃料を用いた火力発電の割合は、41%程度とされています。しかも、2019年時点で6%にすぎない原発の割合を2030年では20~22%程度にするとしています。これは、すでに老朽化したものを含めて現在ある原発をすべて再稼働し、それぞれ福島第一原発事故以前を上回る稼働率でフル稼働させるという非現実的な計画なのです。原発でまかなえなかった電力は火力で補うことにもなりかねません。「2030年に46%削減」という目標すら実現できないかもしれません。
 同様にエネ基では、太陽光や風力といった再生可能エネルギー(以下、再エネ)は、2030年に36~38%程度とされていますが、その割合はもっと引き上げるべきだと思います。世界的に見ると、再エネは、新規導入のスピードが速い。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の発表によれば、昨年1年間に世界全体で新規導入された再エネは、発電容量で261基の原発分(=261ギガワット)です。導入コストから考えても、再エネは、すでに多くの国々で最も安価なエネルギー源として競争力を持つようになってきているので、日本でももっと活用していくべきでしょう。

――昨年10月に菅政権が温室効果ガス排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を2050年に実現するとの目標を打ち出しましたが、実際は、化石燃料と原発への依存から抜け切れていないのですね。

 私が特に問題だと思うのは、エネ基案では、石炭火力やLNG火力関連事業のイノベーションとしての水素やアンモニア利用や、JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)を通じた石炭・LNG資源開発事業に資金面から支援を行うとしていることですね。
 ここ数年、気候危機の観点から、石炭やLNG、石油といった化石燃料関連の事業から資金を引き上げる「ダイベストメント」という動きが世界の金融の中で広がってきています。IEA(国際エネルギー機関)も、世界平均気温の上昇を1.5度以内に抑え込む目標の実現のためには、今後、化石燃料への投資は行うべきではないとしています。日本政府は税金を投入してまで、ビジネスとして成り立たず民間が手を引き始めている化石燃料関連事業を継続しようとしているのです。納税者である私たちは、もっと怒った方がいいのではないでしょうか。

――経済合理性すらない化石燃料依存を日本はやめられない。深刻ですね。

 化石燃料からの脱却という世界的な潮流の中で、経営戦略を見直せない日本企業にも問題があります。

 とあるエネルギー関連企業では、商社などが石炭事業から撤退し、国内でも石炭火力利用が疑問視され始めている中、本来であれば、閉鎖するべき老朽石炭火力発電施設を、政府と足並みをそろえて、維持し続けようとしています。政府は、石炭や天然ガスから水素やアンモニアを製造し、新たなエネルギー源として活用する政策を推進しているのですが、水素やアンモニアをつくる過程でCO2が出てしまいます。そのため、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)といって、CO2を回収して地中に貯留したり再利用したりしようとしています。それには莫大なコストがかかるのです。国内には、CO2を貯留する場所はほとんどないと考えられますので、海外に運んで貯留してもらうのか、またどのようにCO2を利用することができるのか、などについてはまったく答えが出ていません。結局、無駄にお金がかかるだけでしょう。水素やアンモニアの活用も、石炭やLNGなど化石燃料からではなく、再エネを使ってつくる「グリーン水素」「グリーンアンモニア」ならまだ良いのですが……。

――なぜ、政府も企業も発想を変えられないのでしょう?

 鉄、電力、自動車、プラントメーカーといった、いわゆる「重厚長大」の産業が日本経済を支える基幹産業だという前提があり、これらの企業の一心同体の連合体の利益を守ることを優先しているからなのでしょう。再エネを事業の中心にすると、利益構造は変わり、個々の企業はそれで利益を上げるかもしれませんが、これまで自分たちが守ってきた企業連合体としての利益は失うことになる。そのことに抵抗しているのだと思います。

 政府の審議会などでも、利益団体やそれに同調する専門家、官僚、政治家たちの毎度同じようなメンバーが、これまでの路線を改めないでエネルギー戦略を議論しているのです。そうこうしている間に、再エネ技術では中国や欧州に負け、電気自動車の普及でも大幅に遅れてしまっている。

 エネ基は経産省のものですが、環境省の地球温暖化対策計画案(温対計画)も、「産業界の自主的な取組」「ライフスタイルの転換」という、この間ずっと使われてきた言葉が並んでいて、本来最優先でやるべきエネルギーの転換は、政策の柱の中でも最後の扱い。この構図は1990年代の京都議定書の頃から変わっていません。

 米国のバイデン大統領も、元々はそれほど気候危機への対策に熱心ではありませんでした。でも、米国の若者たちが声を上げ、対策を強く求めるようになり、若者たちの声を背景に、バーニー・サンダース上院議員ら気候危機対策に熱心な議員たちの政策を受け入れていった経緯があります。

 日本でもやはり、市民が声を上げることが重要だと思います。日本の若者たちは米国や欧州に及ぶほどのスケールで活動しているわけではありませんが、それでも各地で声を上げている若者たちが増えてきています。点と点を結ぶようなかたちで連帯していくことで、大きな力になるのかもしれません。もちろん、大人たちの責任も大きい。これからの10年が本当に大切なので、諦めないで頑張っていきたいと思います。


 頭が「化石」の人には退場していただかなければなりません。先の選挙がいい機会でしたが力及ばずでした。でもここであきらめるわけにはいきません。地球の未来と若者の未来がかかっているのです。事は緊急を要するのです。

園内のようす。