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【閑古堂の映画千本ノック】3本目『サイコ・ゴアマン』 特撮魂あふれるつくりが嬉しい、SF &スプラッター&アドベンチャー&コメディの快作

2023-10-11 19:33:00 | 映画のお噂

『サイコ・ゴアマン』PG(Psycho Goreman)(2020年 カナダ)
カラー、95分
監督:スティーヴン・コスタンスキ
製作:スティーヴン・コスタンスキ、スチュアート・F・アンドリューズ、シャノン・ハンマー
製作総指揮:ジェシー・クリステンセン
脚本:スティーヴン・コスタンスキ
撮影:アンドリュー・アッペル
音楽:ブリッツ//ベルリン
出演者:ニタ=ジョゼ・ハンナ、オーウェン・マイヤー、アダム・ブルックス、アレクシス・ハンシー、マシュー・ニネバー
Blu-ray発売元:キングレコード


その無慈悲で短気な性質と底知れぬパワーから「悪夢の公爵」と呼ばれ、宇宙を恐怖に陥れてきた名前のない残虐宇宙人(マシュー・ニネバー)。正義の勢力「テンプル騎士団」により囚われの身となり、地球に封印されてしまうが、極悪自己中な性格の少女ミミ(ニタ=ジョゼ・ハンナ)が、赤く光る不思議な宝石を見つけたことから封印を解かれる。さっそく3人のチンピラを血祭りにあげ、その力を見せつける残虐宇宙人。だが、自身を意のままに操ることのできる赤い宝石をミミに独占されてしまったことで、宇宙人はミミの家来のように扱われた上、「サイコ・ゴアマン」(略してPG)なる名前を勝手に押しつけられるハメに。かくてしぶしぶ、ミミの「友達」あるいは「家来」としての身分に甘んじる残虐宇宙人。一方、彼の覚醒を知った「テンプル騎士団」は、PGを抹殺すべく最強の戦士・パンドラを地球に送りこむのであった・・・。

恐怖の存在として恐れられている残虐宇宙人が、ひょんなことから極悪自己中な少女の「家来」にさせられたことから起こる騒動を描いた、カナダ産SF&スプラッター&アドベンチャー&コメディ映画の快作です。監督は、主にB級のSF映画やホラー映画を製作している、カナダの過激映像集団「アストロン6」の一員で、特殊効果のエキスパートでもあるスティーヴン・コスタンスキ。
おととし、宮崎キネマ館で上映された時に観て、いっぺんで気に入った作品であります。このたび廉価版Blu-rayが発売されたということで、喜んで購入し改めて堪能いたしました。

残虐宇宙人と主人公の兄妹が、さまざまな冒険をする中で友情(らしきもの)を育んでいく・・・というストーリー展開は、いわばダークな『E.T.』(1982)あるいは『グーニーズ』(1985年)といったところで、眠っていた子ども心を大いに刺激してくれます。「サイコ流血男」というタイトルらしく、劇中にもスプラッター描写がちょいちょい入るものの、そこには陰惨さやどぎつさはなく、それほど不快な感じはいたしません。
極悪自己中な性格でPGや、兄であるルーク(オーウェン・マイヤー)をアゴで扱う少女ミミを演じる、本作が映画初出演というニタ=ジョゼ・ハンナちゃんのぶっ飛び演技はまことに痛快。劇場パンフレットに収められているコスタンスキ監督へのインタビューによれば、ニタちゃん本人が「ミミそのまま」で、演じるにあたって唯一お願いしたのは、静かなシーンでは「もう少し抑えた感じで」ということくらいだったとか。そんなニタちゃんの弾けるような元気っぷりが、作品に活気と勢いを与えています。
ミミの父親で、なんだか情けないけど憎めないグレッグを演じるのが、コスタンスキ監督と同じく「アストロン6」のメンバーであるアダム・ブルックス。「アストロン6」のほかのメンバーも、端役やクリーチャー役で出演したりしております。

本作がなによりも嬉しいのは、何かにつけてCG頼りの昨今にあって、特殊メイクにミニチュア、コマ撮りといった、手づくり感あふれるアナログ特撮にこだわっているところ。自ら本作の特殊効果も手がけたコスタンスキ監督は、『仮面ライダー』やスーパー戦隊シリーズなどの特撮ものや、映画『リング』(1998年)などの日本の映像作品の大ファンでもあるということで、それらからの影響やリスペクトが随所に見られるのも、また嬉しいですねえ。
(映像特典の監督インタビューの中で、ちゃんと「スーパーセンタイ」って言ってるのにはカンドーしたなあ。あと、パンフレット収録のインタビューで『ゴジラ対メガロ』に登場したロボット・ジェットジャガー好きを公言しているところも最高であります)
映画自体は低予算だったようですが、そんな中でも主役のPGをはじめとして、総勢16体ものバラエティ豊かな宇宙人、クリーチャーを(もちろんCGは使わずにすべて造形で)登場させている頑張りっぷりにも拍手したくなります。
正義を守るといいながら、PG抹殺のためには手段を選ばない、天使と悪魔を合わせたような容姿の最強戦士パンドラ。PGの覚醒にうろたえつつ、彼を倒すべくあれこれと画策する「宇宙会議」の面々。PG奪還に来たと見せかけて、彼を捕らえようと襲いかかる5体の「暗黒の勇士たち」。PGの超能力によって、触手の生えたでかい脳みそのような姿に変えられてしまったニタのボーイフレンド・アラスターや、身体がドロドロに溶けてしまった警官「バイオコップ」(コスタンスキ監督が手がけた短篇映画の登場キャラでもあります)・・・。
このうち、「暗黒の勇士たち」の一員であるギョロ目の魔法使い「ウィッチマスター」の声を演じているのが、塚本晋也監督の『六月の蛇』(2002年)や、園子温監督の『冷たい熱帯魚』(2010年)などに出演している日本の俳優、黒沢あすかさん。劇中でも、「まったく悪夢の公爵だ!」などと、日本語でセリフを演じているのがまた、愉しいですねえ。

特撮好きの皆さま、そして子ども心を忘れないオトナの皆さまには、愉しめること間違いなしの快作であります。


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