読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

熊本よかとこ味なとこ、がまだせ!応援旅(第3回)懐かしい風情漂う子飼商店街、そして呑み歩き第1ラウンド

2016-09-24 18:22:17 | 旅のお噂
熊本城を一回りしたあと、わたしはそのままテクテクと、北東の方向へと歩みを進めました。今回の熊本の旅でぜひとも立ち寄ってみたかった場所の一つ、子飼商店街へ行くためでした。
藤崎八旛宮からすぐ北のほう、国道3号線から細い道に入り込んで少し歩くと、金属製のアーチが見えてきました。そこが、子飼商店街の入り口でありました。
熊本大学からもほど近い場所にあるこの商店街は、「昭和レトロ感が漂う商店街」として、熊本県外でもよく知られているところであります。

アーチをくぐってそのまま進むと、クルマ1台がやっと通れそうなほどの細い道(実際、午前10時から夕方の7時までは歩行者天国とのことでしたが)に沿って、大小のお店がズラッと立ち並んでおりました。


青果店に鮮魚店、精肉店、漬物店、洋品店、生花店、薬店などのお店、それに食堂や寿司店、うどん屋といった飲食店。それらの店先はいずれも、まさしく昭和の頃の商店街にあったお店そのままの雰囲気で、見ていてしきりに、懐かしい気持ちがこみ上げてまいりました。商店街の中にはいくつかの椅子が置かれた休憩所や、小さなお寺も。
八百屋さんの前では、お店の方と買い物客の方が、地元のことばで会話を交わす光景も。そこには、人びとの営みに寄り添ってきた商店街ならではの温かみが伝わってくるようでした。ああ、こういう商店街が自分の身近にあったらなあ・・・つくづく、そう思わずにはいられませんでした。
おっと、焼き鳥などで呑ませてくれるという居酒屋さんも一軒ございましたね。営業時間を見ると午後3時から。こういう商店街の雰囲気の中で明るいうちから呑むっていうのも、なかなかオツな感じでいいですなあ。ちょっと気持ちが動きましたが、呑むのは夜の部までガマンすることにいたしました。

商店街の一角には、古本屋さんもございました。これがまた嬉しいことに、小さいながらもしっかりした正統派の古本屋さんで、名前は「古懐書林」。「古懐」はおそらく「子飼」のもじりなのでしょう。

中に入ると、並んでいる本はハードカバーも文庫も新書もコミックスも雑誌も、すべて一冊100円という貼り紙が。さらに嬉しくなったわたしは一通り、棚を見ていくことにいたしました。
一冊100円均一とはいえ、見ているとところどころにお宝っぽい本もあったりして、なかなか楽しいものが。わたしは文庫の棚から、とっくに絶版となっている『落語文庫本 竹の巻』(講談社)と『日本美術案内』(現代教養文庫)の2冊を買いました。

おばあちゃんに連れられてやってきていた子どもも、お目当てのものが見つかったのか、嬉しげになにか買っていっておりました。いい光景だったなあ。

そんな子飼商店街にも、地震の被害は及んでおりました。商店街の一角には、完全に倒壊してしまった建物が一軒ありましたし、補修中の建物もありました。
しかし、懐かしさに溢れた人情商店街は、それぞれのお店の方々の努力もあってか、しっかりと風情ある雰囲気が守られておりました。そのことに、しみじみと嬉しい気持ちが湧いてまいりました。
いつまでもいつまでも、地元の人びとの暮らしを支え続ける場所でありますように。


子飼商店街から中心市街地に戻ったわたしは、宿泊するホテルにチェックインすることにいたしました。下通アーケードのすぐ近くにある「ホテルサンルート熊本」。今回はここでの2連泊であります。
チェックインしてシャワーを浴び、しばし休憩したあと、いよいよお待ちかねの熊本呑み歩きの時間がやってまいりました。熊本での呑み歩きは生まれて初めてのこと。もう心は弾み足取りは軽く、でありますよ。
下通のアーケード街は日中と同様に人びとで溢れ、そこから左右に伸びる呑み屋街も、徐々に人通りが増してきているようでした。
もうとにかく、お店の数がハンパなく多い熊本の繁華街。どのお店に入ったらいいのかかなり迷うところなのですが、わたしはあらかじめアタリをつけておいた「料理天國」という居酒屋さんに入りました。お店の名前にも、なんかこう惹きつけられるものがあったもので。


生ビールで喉を潤しつつメニューを拝見すると、定番料理に加えて熊本の郷土の味がズラッと並んでおります。ここはやはり、熊本ならではのうまかもんを、たっぷりと味わいたいところであります。わたしはまず、「一文字ぐるぐる」を注文いたしました。

江戸時代に倹約料理として考案されたという「一文字ぐるぐる」。文字どおりぐるぐる巻きにして茹でたネギに、酢味噌をつけていただきます。ネギのシャキシャキ感と酢味噌が相まって、お酒のお供にはまことにうってつけであります。
続いて注文したのは、「天草大王」という地鶏を使ったタタキです。

文字どおり、天草で生み出されたこの「天草大王」。かつては博多の「水炊き」用の鶏肉として人気があったそうですが、昭和になって一度は絶滅してしまいました。ですが、かつての資料をもとにした交配の甲斐あって、平成になって復活することができたのだとか。
実はわたしも、その存在を知ったのは熊本へ出かける直前になってからのこと。これはぜひ一度賞味してみなければ、と注文した「天草大王」のタタキを口にしてみると・・・いやもうこれはアナタ(←誰に言ってんだ)、驚くほどの美味さでしたよ。噛めば噛むほど、濃厚な旨味がお肉からじわじわ、じわじわと染みてきて、口いっぱいに広がってきました。
こんなに美味い地鶏だったとは!食べてみて良かったです!と、思わずコーフン気味にカウンターの中におられる料理人の方(けっこう気さくなお方でした)に言うと、その方はこうおっしゃいました。
「ありがとうございます!いや〜、宮崎から来た方にそう言っていただけると嬉しいですねえ」
・・・あ、もちろん、宮崎の地鶏も美味いんですよ、すごく。でもね、この「天草大王」の濃厚な美味さにはやられてしまいましたよ、ほんとに。復活することができたのは慶賀の至りであります。
ここまできたら、やはり馬肉料理もいただきたいところです。ということで注文したのは、馬のたてがみの刺身。ずいぶん久しぶりに味わう馬肉料理であります。滑らかな口当たりと濃厚な味わいは、すっきりした球磨焼酎の水割りによく合いました。

さらにもう一品、なにか食べたくなってまいりました。なんてったって「料理天國」ですからねここは。メニュー見てるといろんな料理が食べたくなってくるんですよ。
そのメニューの中で、なんだか気になる一品であった「サラダちくわ天」を注文してみました。ちくわの中にポテトサラダを詰めて天ぷらにしたものです。

料理人の方によれば、もともとは熊本のお弁当チェーン店である「おべんとうのヒライ」の人気惣菜だったもので、やがて熊本の飲食店でも広く食べられるようになったのだとか。
口にしてみると、これがまた想像以上の美味しさでした。そのままでも十分いけるのですが、添えられたウスターソースをつけて食べると、また一味違う美味さに。
熊本のうまかもんの連続攻撃に、もうやられっぱなしでございました。球磨焼酎はぐいぐいと進んでしまいましたし。いやもうまいった。降参。

カウンターでは、このお店の常連さんと思しき初老の男性が、わたしの隣で焼酎を楽しんでおられました。その方と料理人さんが、翌日の日曜日に開催される藤崎八旛宮の秋季例大祭での飾馬行列についてお話になっていました。
まだ地震から半年も経っていない段階で、お祭りどころではないという人もまだまだいる。今年は参加する団体も少ないし、いったん休みにしてからでもいいのではないか・・・お二方のお話を要約すると、そういう感じでした。
復興に向けて前向きに進もうという動きがある一方で、まだまだそれどころではないという方々もおられるという、震災から半年足らずの現実を、思い知らされることになりました。
「まさか熊本でこんなことがあるなんて思ってもいなかった」という、その初老の男性は、わたしにも地震に遭ったときのことを語って聞かせてくださいました。住んでいた自宅も大きな被害を受け、現在は別のところに住んでいるといいます。
「まあ、住むところがあるだけマシだと思いますよ、ええ」
確かにそうなのかもしれません。しかしそれはそれで、やはり大変な思いをなさっておられるのではないかとお察しするばかりでした。
「同じ九州の者同士、頑張りましょう!」
男性はお店を後にするとき、そう言ってわたしにハイタッチをしてくださいました。ほろ酔い気分の胸の中に、なんだか熱いものがこみ上げてくるような気持ちがいたしました。

美味しい料理とお酒、居心地のいい雰囲気、そして地元の方とのふれあい・・・。三拍子の嬉しさを味わうことのできた「料理天國」。ぜひまた来たい、と心から思えるいいお店でありました。・・・で実際、翌日の夜にも立ち寄ることになるのでありましたが。


「料理天國」を出て次へ行こうとしていると、いつしか外はすごい土砂降りに。近づきつつあった台風16号の間接的な影響だったのかもしれません。こりゃかなわん、としばし下通のアーケードで土砂降りをやり過ごすことに。
雨が弱まったところでアーケードを出ると、2軒目のお店に寄る前にラーメンを食べておきたいと思い、「天外天」というラーメン屋さんに入りました。細長いカウンターだけの小さいお店ですが、ご当地ではけっこう人気のあるお店だとか。

ここのラーメンは一見こってりしていそうですが、スープを口にしてみるとびっくりするくらいあっさりとしていました。トシをとったせいか(泣)、飲んだあとのラーメンはお腹にもたれてダメになってしまったわたしですが、このラーメンは細麺とともにスルスルとお腹に収まりました。うまかった〜〜。


ラーメンを食したあと、2軒目に立ち寄ったのは「Glocal Bar 芋Vibes」という焼酎バーでした。
焼酎にはひとかたならぬこだわりをお持ちのマスター氏が選び抜いた、熊本の米焼酎や鹿児島の芋焼酎を、お寿司とともにリーズナブルなお値段で呑むことができるというお店です。古い付き合いの友人から教えられ、立ち寄ることにいたしました。

ところが、たまたまではありましたが、この日はイベントDAY。アメリカ人ながら焼酎の魅力に取り憑かれ、自ら蔵元を回ったりして焼酎のガイドブックを出版した方と、球磨焼酎「極楽」の蔵元の方を招いてのトークイベントが開催されるというのです。
店内には地元のご常連さんたちに加え、外国人の皆さんも詰めかけておりました。普段のわたしならちょっと、後ずさりしてしまいそうな雰囲気ではありましたが、すでにお酒も入っていい気分だったこともあり、よっしゃ、ここはこの雰囲気を楽しんでみることにしようかな、と参加してみることに。

この夜の主役となった「極楽」という球磨焼酎。すっきりさっぱりという米焼酎のイメージとは異なる、どっしりしっかりとした味わいで、米焼酎にもいろいろと個性があるんだなあ、と実感させられました。
招かれていた蔵元の方のお話では、この「極楽」というネーミング、先々代の社長が酔った勢いで喧嘩になったりすることを嫌い、気分良く呑んでもらえたらという願いを込めて、このネーミングにしたんだとか。いやあ、いい話だなあ。さらに言えば、「適飲保健」という言葉が記されたラベルも味わいがあって、実にいい感じだなあ。
歓談タイムでは、アメリカからやって来られたという男性が話しかけてくださったりもしたのですが、英語がロクに話せない上に、基本人見知りなもんで緊張したりしていて、まともにお話できなかったのが悔やまれました。ああ、ちゃんと英語が話せるようになっておくべきだったよなあ。
とはいえ、よくこのお店に寄るという地元のご常連さんや、イベントを取材しに来られていた業界紙『醸界タイムス』の方とお話できたりして、なかなか面白い時間を過ごすことができました。昆布と鰹節からしっかり出汁をとった、上品な味わいの味噌汁も振る舞われたしな。

ということで、普段のわたしからすればちょっぴり刺激的な体験で、初日の熊本呑み歩きを終えたのでありました。


(第4回に続く)

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