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【閑古堂の映画千本ノック】2本目『エクソシスト』 超自然的な装いで描き出された、普遍的な「善」と「悪」とのせめぎ合いの物語

2023-10-09 14:42:00 | 映画のお噂

『エクソシスト』The Exorcist(1973年 アメリカ、ディレクターズカット版は2000年)
カラー、122分(ディレクターズカット版は132分)
監督:ウィリアム・フリードキン
製作・原作・脚本:ウィリアム・ピーター・ブラッティ
製作総指揮:ノエル・マーシャル
撮影:オーウェン・ロイズマン
音楽:マイク・オールドフィールド、ジャック・ニッチェ
出演者:エレン・バースティン、リンダ・ブレア、ジェイソン・ミラー、マックス・フォン・シドー、リー・J・コッブ、ジャック・マッゴーラン、マーセデス・マッケンブリッジ(声の出演)
Blu-ray発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

映画の撮影のため、ワシントン近郊のジョージタウンに家を借りて暮らしている女優クリス(エレン・バースティン)。その一人娘であるリーガン(リンダ・ブレア)の身に、奇怪な異変が起こりはじめる。ベッドが激しく揺れたり、部屋が異常に寒くなったり、醜い形相で卑猥な言葉をわめき散らしたり・・・。病院で検査を受けさせるものの、医学的にはなんの異常も見出されない。リーガンの異常がエスカレートしていく中、クリスは“エクソシスト”(悪魔祓い師)の存在を知り、精神科医でもある若い神父カラス(ジェイソン・ミラー)に悪魔祓いを依頼する。はじめは“悪魔”の存在に懐疑的だったカラスだったが、経験豊富なベテラン神父メリン(マックス・フォン・シドー)とともに、悪魔祓いの儀式に臨むことを決意する。かくて、2人の神父と悪魔との壮絶な闘いが始まる・・・。

『フレンチ・コネクション』(1971年)によって、興行面でも批評面でも大成功をおさめたウィリアム・フリードキン監督が次に手がけたのが、本作『エクソシスト』です。
実際にあった出来事をもとに書かれたという、ウィリアム・ピーター・ブラッティのベストセラー小説を、ブラッティ自らの製作・脚本により映画化したもので、こちらもまた興行・批評の両方で大成功。ホラー映画としては異例の、アカデミー作品賞へのノミネートという快挙も果たしました(ほかにも監督賞など9部門でノミネートされ、うち脚本賞と録音賞を受賞)。
2000年には、リーガンがブリッジ姿勢のまま「蜘蛛歩き」で階段を降りてきて血を吐く、などのカットされた場面を追加・再編集したディレクターズカット版も公開されました。現在では、オリジナル劇場版とディレクターズカット版の両方を、Blu-rayやDVDで鑑賞することができます。

本作でなんと言っても目を奪われるのが、当時まだ12歳だったというリーガン役、リンダ・ブレアの熱演ぶり。序盤で見せる、少女らしい利発で可憐なキャラクターのリーガンと、中盤以降の悪魔に取り憑かれ恐ろしい形相で大暴れするリーガンを見事に演じ分け、アカデミー助演女優賞にもノミネートされたその演技力には、あらためて舌を巻くばかりでした。ジョン・ブアマン監督が手がけた続篇『エクソシスト2』(1977年)でもリーガン役で出演しましたが、その後はB級エロ映画『チェーンヒート』(1983年)などといった、いささかキワモノめいた作品ばかりに出ることになってしまったのは、少々残念ではあります。
もっとも、悪魔に取り憑かれたリーガンが発するドスの効いた太い声はブレアではなく、『オール・ザ・キングスメン』(1949年)や『ジャイアンツ』(1956年)などに出演したベテラン女優、マーセデス・マッケンブリッジが演じています。マッケンブリッジといえば、スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮のTVシリーズ『世にも不思議なアメージング・ストーリー』で唯一のアニメーション・エピソードである「ワンワン騒動記」(1987年。監督はブラッド・バードで、ティム・バートンもキャラクター設定として参加)でも、どこか魔女めいたブキミな老婆の声を演じていたのが、個人的には記憶に残っておりますねえ。

傷だらけの恐ろしい形相となり、緑色の液体を吐きかけたり首を180度回転させたりするリーガンの特殊メイクや造形を手がけたのは、『タクシードライバー』(1976年)や『スキャナーズ』(1981年)、黒沢清監督の日本映画『スウィートホーム』(1989年。現在は諸事情により「封印」状態にあるのですが・・・)などなど、数多くの映画で腕を振るい、後進にも多大なる影響を与え続けた特殊メイクアップアーティスト、ディック・スミス。
スミスは変貌したリーガンのメイクに加えて、『ゴッドファーザー』(1972年)や『アマデウス』(1984年)でも見せたテクニックでもって、当時まだ40代前半だったメリン神父役のマックス・フォン・シドーを完璧なまでの老人に仕立て上げています。その手腕にもまた、つくづく感心させられるばかりでありました。

映画のクライマックス。悪魔との対決に臨もうとするカラス神父に、メリン神父は「絶対に悪霊と会話をしてはならぬ」とのアドバイスを与えます。そのときのセリフが、わたしの胸に強く響きました(以下は字幕より)。

悪魔はウソつきだ 我々を混乱させ そのウソに真実を混ぜて我々を攻めるのだ デミアン(註:カラス神父のこと) それは心理的で非常に強力だ だから聞くな 耳を傾けてはならぬ

ウソに真実を混ぜて心理的に混乱させ、我々を攻めてくる「ウソつき」。そのような存在は「悪魔」のみならず、現実の人間社会にもわんさかといるのではないでしょうか。そのような人間たちによって心理的に混乱させられ、判断を狂わされることがいかに多いことか。
メリン神父のセリフは、現実の人間社会にもはびこっている「悪魔」的な「ウソつき」に惑わされないための有益なアドバイスでもあるように、思われてなりませんでした。
そもそも、人間における「善」と「悪」との境目じたいが紙一重というもの。たとえリーガンのような「いい子」であっても、人間は何かの拍子で「悪」に取り憑かれ、豹変してしまうことがあり得るのだ・・・。
『エクソシスト』は超自然的オカルト・ホラーという装いの中で、「善」と「悪」のせめぎ合いの背後にある、普遍的な人間の真理を描き出している作品でもあるように思います。ゆえに、製作から時が経ってもまったく色褪せることなく、観ているわれわれの心に響いてくるのです。


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