読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

別府→日田・2年ぶりの湯けむり紀行(第1回) ワクワク、ヒヤヒヤする旅のはじまり

2022-02-23 22:38:00 | 旅のお噂
ワクワクしながらも、どことなくヒヤヒヤするような感じを覚える・・・2年ぶりとなるその旅は、初めて味わうそんな気分の中で始まりました。
先月(1月)の9日(土曜日)から11日(月曜日)にかけて、わたしは大分県の別府と日田へ向けた、2泊3日の旅行に出かけました。これから4回にわたって、2年ぶりとなった旅のお噂を綴っていきたいと思います。

もう2年近くにも及ぶ、新型コロナの感染の広がりをめぐる集団ヒステリー的な社会のパニック状況は、自由に飲食を楽しむ機会はもとより、旅行やレジャーを楽しむ機会もことごとく奪い去りました。年に2〜3回、気分転換のために旅行に出かけることを最大の楽しみにしていたわたしにとっても、この2年間の状況は本当に苦痛で、苛立ちとフラストレーションが溜まるものでした。
思えば、前回旅行に出かけたのはちょうど2年前の2020年2月下旬のこと。やはり別府と、同じく大分の山あいの温泉郷・湯平温泉への旅でした。そのときにもすでに、新型コロナの感染拡大のことがメディアで連日のように騒がれてはおりましたが、旅行に出かけること自体にはとりたてて支障もありませんでしたし、マスクなしで行動しても別段、咎め立てされることもありませんでした(そのときのお噂は、当ブログでも全4回にわたってご報告いたしました。→【その1】【その2】【その3】【その4】)。
しかしその後、状況は急激に悪化。飲食店で美味しいお酒を楽しむことや、県境をまたいで移動したりすること自体が「感染拡大の元凶」と言われかねないような、実にイヤな世の中と成り果ててしまいました。
そうこうするうち、昨年の秋以降は状況も落ちつき、大手を振って飲食や旅行を楽しめるような雰囲気へと変わっていきました。わたしは「やれやれ、これでようやく旅行に出かけられるわい」と、11月ごろから旅行の計画を立てはじめました。直近でまとまった休みが取れそうな1月の3連休に出かけることとし、寒い時期ということで温泉天国の別府と、そして江戸時代の古い街並み情緒が味わえる(そしてやはり温泉もある)日田へ出かけることにいたしました。
宿泊先の予約も済ませ、3連休を心待ちにする日々が続きましたが、年が明けるころになるとまたぞろ、マスコミは「オミクロン」なる変異株によるコロナ感染の増加を(さも嬉しそうに)騒ぎたてるようになりました。異常事態や社会の混乱、他人の不安や不幸をメシの種にして顧みないマスコミの煽り報道と、それに情緒的に流されてヒステリックになってしまう世論のありさまに、つくづく忌々しさが湧きあがってまいりました。
ですが、もう2ヶ月前から計画してきたせっかくの旅の機会を、これ以上奪われるようなことはまっぴらでありました。出かけるのに支障がないのであれば、何があろうと決行するぞ!とあらためて決意を固めました。
幸いにも県外への移動を妨げられるような事態にはならなかったので、9日は予定どおり出発することにいたしました。とはいえ、出かけたあとになって旅行を妨げられるような動きが出やしないだろうか、そして現地の皆さまはヨソ者であるわたしを普通に迎えてくださるだろうか・・・そのことが気がかりで、久しぶりの旅行にワクワクしつつも、いささかハラハラした気分を覚えていたのでありました。

そして迎えた出発の日。一番早い時刻に出る特急列車に乗るため、早朝5時前に起床。急いで身支度したあと、呼んでいたタクシーに乗って宮崎駅へ向かいました。
これまでの旅行だと、ウキウキした気分丸出しで「これから◯◯へ旅行に行くんですよ〜♪」などと、訊かれもしないのに運転手さんに話したりしていたのですが、今回はどうにも、そういう気分にはなれませんでした。そういうことでも言うと、コイツこういう時に県外に行くのか?とでも思われそうな気がして。まあ幸いにというか、この時の運転手さんはことさら話しかけてくるようなタイプの方ではなく、わたしからも何も申しませんでしたけれども。ともあれ、タクシーはつつがなく宮崎駅に到着。6時少し前、わたしの乗り込んだ特急列車は大分へ向けて出発いたしました。
列車が動き出すと、わたしは駅近くのコンビニで買った朝ごはんの弁当とともに(本当は宮崎駅名物駅弁の「椎茸めし」といきたいのですが、あまりに早朝なので駅構内の弁当屋さんが開いていないもんで・・・)、さっそく缶ビールを開けてグビリ。まだ外は真っ暗ではありますが、こうして車内で缶ビールを呑んでいると、ああ旅に出るんだなあというヨロコビと感慨が、軽い酔いとともにひたひたとカラダを満たしていくのを感じますねえ。今回は2年ぶりの旅ということもあり、そのヨロコビと感慨もひとしおなのであります。

やがて列車は宮崎から大分へ。8時ごろ、日が昇っていく外の風景(たしか佐伯あたりでした)を見ていると、海から蒸気のようなものが立ち昇っておりました。もしかしたらこれが、海水温と外気温との差によって生まれる「気嵐」(けあらし)というやつなのでしょうか。

見えたのはほんの少しの間だけでしたが、ふだんの生活ではなかなかお目にかかれない景色に、気持ちも思わず高揚したのでありました。

特急列車は大分駅に到着し、そこから別の列車に乗り換え。そして9時を少々過ぎたころ、別府駅へ到着いたしました。

これまでの別府訪問では、初日は決まったように「♪はじ〜まり〜はいつも〜雨〜」(by ASKA)的な状況だったのですが、この日の別府は素晴らしいくらいの快晴。2年ぶりの旅の初日としては、実に嬉しいスタートでありました。真っ青な空をバックにして立つ別府観光の立役者・油屋熊八さんの銅像を見ることができて、感慨無量なのでありました。
「熊八さん、ご無沙汰しておりました。久しぶりに別府にお邪魔できて嬉しゅうございます!」
熊八さんに向かって心の中でそうご挨拶して、2年ぶりの別府の街へと足を踏み出したのであります。

なにはともあれ、別府に来たらまずは朝風呂。ということで、別府駅から伸びる駅前通りに立つ「駅前高等温泉」に立ち寄りました。

大正13(1924)年に建てられたというレトロな洋館建築が目を惹く「駅前高等温泉」は、「竹瓦温泉」と並んで別府温泉を象徴する共同浴場です。別府に来たらまずはここの「あつ湯」で朝風呂を楽しむのが、わたしの別府旅のスタートなのであります。
別府の共同浴場でよく見かける、脱衣場から少し低いところにある「半地下式」の浴室には、地元のご常連と思しき先客の方が2人。小判型の浴槽にたたえられたお湯は熱めながらも浸かれないほどではなく、熱めのお湯が多い別府の温泉に慣れるのにも最適なのであります。ここのお湯に浸かっていると、ああ別府に来たんだなあ・・・というヨロコビと感慨がしみじみと湧いてまいります。
ふと浴室の壁を見ると、風変わりなマスク姿の自分を自撮りしたアーティストの写真作品が、いくつか展示されておりました。ちょうどこの時、別府では街のあちこちにアート作品を展示したイベントが開催されていて、この展示もそのイベントの一環というわけでした。
古き良き銭湯の風情あふれる共同浴場の中に展示された現代アートというのは、いささか唐突感もございましたが、昔懐かしい街の中にこうした新しい要素が交わっていたりするのも、別府という街の面白いところかもしれないなあ・・・と思ったことでした。

「駅前高等温泉」から上がり、カラダを少し休めてから、2ヶ所目の温泉に入りました。こちらも駅からほど近いところにある共同浴場「不老泉」であります。

建物こそ新しいものの、開業は明治時代の初期という歴史と由緒のある共同浴場で、訪れるのは4年ぶりのこととなります。
ここの「あつ湯」の熱さっぷりは格別で、一番最初に訪れた時にはものの1分と浸かれなかったのですが、4年前に入った時には5分足らずながらも浸かることができ、おおオレもついにここのお湯の熱さに慣れてきたのかのう、とウレシサを覚えたものでした。
ところが、今回久しぶりにここの「あつ湯」に入ってみると、カラダから出汁でも取るつもりかい?とでも言いたくなるようなキョーレツな熱さ。あまりの熱さにまたもや、ものの1分と浸かれずに出るハメとなってしまいました。やれやれと思いつつ、仕方なく「ぬる湯」に入りましたが、ぬる湯とはいってもそこそこ熱く、「駅前高等温泉」の「あつ湯」くらいの熱さはありそう。いやはや、別府の実力と底力をひしひしと感じる、まことにストロングな温泉であります。
こういうお湯に毎日のように浸かると、「不老泉」という名前の通りに老いや衰えを知らない人生を送れそうな気がいたします。もう2年も経つというのに、いまだに「コロナ怖い怖い」から抜けられない臆病かつ軟弱なミナサマは、1〜2週間ほど朝昼晩の3回ずつ、ここの「あつ湯」に浸かって、心身の抵抗力を高めるといいんじゃないでしょうかねえ。
・・・などと言っているわたしでありますが、このあと何回か「あつ湯」にトライしてみたものの、結局は1分のカベを破ることなく終わってしまったのでありました。わたしもまた、この2年の間にだいぶ軟弱者になったものよ・・・嗚呼。

「不老泉」を出るころにはちょうど昼時分。久々の泉都別府を満喫したら、今度は美味しいものに恵まれた「食都」別府を満喫せねば!ということで、昼食はやはり別府駅の近くにある、魚介料理メインの和食のお店「とよ常」別府駅前店にいたしました。海沿いのホテル街にある「ホテル雄飛」の食事処「とよ常」の支店であります。
席についたらまず、なにはなくとも生ビール。熱〜い湯から上がったあとの生ビール、それもプレモルの美味さはほんと格別であります。

次に運ばれてきたのは「りゅうきゅう」。魚の切り身をタレに漬け込んで作る大分の郷土料理で、お店ごとに味の違いがあります。このお店のは胡麻ベースのタレで、魚に絡む香ばしい風味でビールも進みます。

さあさあ!ここでやってまいりましたのは「関あじ」と並ぶ大分のブランド魚「関さば」!けっこう久しぶりとなるご対面であります。透明感のある白と鮮やかな赤のコントラストは目に美味しく、口に含んで噛み締めるとしっかりした弾力のある身から旨味がじわじわと染み出してきて、もうサバ好きにはたまらないのでございます。

こうなるとやはり日本酒が欲しくなってまいります。ということで、大分の地酒である「ちえびじん」純米吟醸を。すっきりした飲み口に米の旨味が感じられて、いいお酒ですねえ。
美味しいお酒でほろ酔い気分になったところで、仕上げはこのお店の名物「特上天丼」!揚げたてアツアツの大きめ海老天2尾と、ナスやカボチャなどの野菜天が乗っかったごはんに染みたタレの甘辛さが、食欲をぐいぐいとそそってくれる逸品。おかげさまでお腹は満腹、気分は満悦でありました。

別府ではけっこう人気のあるお店のひとつである「とよ常」さん。店内は観光客と思しきお客さんで賑わっていて、お店を出ると空席待ちのお客さんも何人かおられました。世はいろいろと騒々しい中でしたが、そこは3連休の初日だけあって、別府にはそれなりに観光客が来ているように見受けられたのでありました。

なにか食後のデザートを・・・ということで、駅前通りから伸びるアーケード街のひとつ「ソルパセオ銀座」の入り口近くにあるジェラートのお店「ジェノバ」さんへ。こちらも、別府に来るといつも立ち寄っているお店であります。
多彩な種類のフレーバーが揃うジェラートから、今回選んだのは「ストロベリーキュービック」。ミルク感たっぷりのアイスの甘みとコクに、凍ったイチゴ果肉の酸味が相まって、食後のお口直しにはうってつけでありました。


デザートもいただいたところで、腹ごなしに別府の街を歩くことにいたしました。向かったのは、別府のシンボルとなっているランドマーク「別府タワー」です。
1957(昭和32)年に完成した、高さ90メートルの展望施設で、2007年には国の登録有形文化財にも指定されております。雲ひとつない真っ青な空に向かって堂々と聳え立つ姿に、あらためて惚れ惚れいたしました。
設計したのは早稲田大学名誉教授だった内藤多仲(たちゅう)という人物。この方、別府タワーのみならず東京タワーや大阪の通天閣、札幌と名古屋のテレビ塔、さらには博多ポートタワーの設計に携わったという、まさに日本のタワー建築の総元締めみたいなスゴい人物なのであります。
別府タワーを訪れるのも4年ぶりのこと。エレベーターの入り口で入場券を買い、高さ55メートルのところにある展望階に足を踏み入れると、真っ先に目についたのはなんと「白蛇様」。4年前までには一度も目にしたことのないものでした。

受付のところにおられた女性に訊ねてみると、この「白蛇様」はタワーの運営会社が変わった昨年の3月からここにおられるとの由。ふーんそうなのか、と思いつつ「白蛇様」をしげしげと見たのですが、水槽に絡みついた状態でピクリとも動かず、「なんだコイツ?」とでも言いたげな視線を、じーーっとこちらに向けておられました。
展望階をぐるりと回りながら、わたしは眼下に広がる別府のパノラマをじっくり、たっぷりと堪能いたしました。




快晴の空の下、陽の光を浴びて広がる別府のパノラマは最高で、2年ぶりの旅の気分を大いに高めてくれたのでありました。

                             (第2回へつづく)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿