読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【閑古堂の気まぐれ名画座】3時間超をぐいぐい見せるストーン監督の力量にあらためて感服した『JFK』

2020-05-05 09:35:00 | 映画のお噂


『JFK』JFK(1991年、アメリカ)
監督=オリバー・ストーン 製作=A・キットマン・ホー、オリバー・ストーン 脚本=オリバー・ストーン、ザカリー・スクラー 原案=ジム・ギャリソン『JFK ケネディ暗殺犯を追え』、ジム・マース『CROSSFIRE』 撮影=ロバート・リチャードソン 音楽=ジョン・ウイリアムズ
出演=ケヴィン・コスナー、シシー・スペイセク、トミー・リー・ジョーンズ、ケヴィン・ベーコン、ゲイリー・オールドマン、ローリー・メトカーフ、ジャック・レモン、ウォルター・マッソー、ジョー・ペシ、ドナルド・サザーランド
ブルーレイ発売元=20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン


数あるNHKスペシャルの中でもとりわけ好きなシリーズ企画である『未解決事件』。未解決のまま終わり、いまなお多くの謎を残す事件の真相に、膨大な取材に基づいた実録ドラマとドキュメンタリーで迫っていくというシリーズです。
これまでずっと、国内の未解決事件を取り上げてきたこのシリーズが、はじめて海外で起こった事件に挑んだ「JFK暗殺」篇が、4月29日と5月2日の2夜にわたって放送されました。新たに発掘されたという機密資料などをもとに、単独の暗殺犯とされたリー・ハーヴェイ・オズワルドの知られざる足跡を丹念に辿るとともに、キューバ侵攻の失敗からケネディに強い反感を抱いていた一部のCIAメンバーが暴走し、オズワルドを〝捨て駒〟としてケネディ暗殺に利用した・・・という事件の構図を明らかにしていて、まことに見応えがありました。
番組の中で、CIAメンバーの関与を暴露した元CIA高官は「オリバー・ストーンの映画のように複雑なものではありません」などと語っていました。タイミングのいいことに、そのオリバー・ストーンの映画『JFK』のブルーレイをしばらく前に購入しておりましたので、久しぶりに観直してみることにいたしました。1991年に劇場で観て以来、およそ30年ぶりの再見であります。

1963年11月23日、テキサス州ダラスでジョン・F・ケネディ大統領が暗殺される。それから2時間もしないうちに、警官殺しの容疑者として逮捕されたリー・ハーヴェイ・オズワルドが、ケネディ暗殺の犯人ということにされるが、そのオズワルドも2日後に射殺されてしまう。その後発表された、オズワルドをケネディ暗殺の単独犯と結論づける「ウォーレン委員会」の報告の内容に疑念を持ったニューオーリンズの地方検事、ジム・ギャリソンは真相追及に動き出す。陰に陽に圧力を受けながらも、ギャリソンは少しずつ事件の核心へと迫っていき、ついに実業家クレイ・ショーを暗殺の共謀者として告訴することに・・・。

ベトナム戦争をテーマにした『プラトーン』(1986年)以降、社会性の強い題材で映画を撮り続けているオリバー・ストーン監督によるこの作品。映画の主人公であり、実在する地方検事ジム・ギャリソンの『ON THE TRAIL OF THE ASSASSINS』(邦訳『JFK ケネディ暗殺犯を追え』ハヤカワ文庫NF、現在は品切れ)と、ジム・マース『CROSSFIRE』という2冊のノンフィクションをベースに、ストーン監督のチームによる調査の結果を加えて映画にまとめ上げたものです。
この映画で描かれた事件の構図は、たしかにNスペ『未解決事件』で提示された構図からすればいささか複雑なものではありますが、にもかかわらず記録映像や再現シーンなどを巧みに組み合わせながら、3時間を超える時間(ブルーレイに収録されているのは、劇場公開版より17分長い206分のディレクターズ・カット版)をダレることなくぐいぐいと観せるストーン監督の力量に、あらためて感服いたしました。

豪華なキャスト陣による演技合戦も大いに見物でした。
主人公であるギャリソンを演じるのは、当時キャリアの絶頂期を迎えていたケヴィン・コスナー。真相追及に向けて一心に突き進む熱血漢的なキャラクターは、まさにハマり役といっていいものでした。ギャリソンというより、ストーン監督の主張を代弁するかのような終盤の法廷シーンでの大演説には、観ているこちらにも力が入る気がいたしました。
共演陣も本当にスゴい。ギャリソンの妻を演じるシシー・スペイセクをはじめ、トミー・リー・ジョーンズ、ケヴィン・ベーコン、ゲイリー・オールドマン、ジョー・ペシ、ドナルド・サザーランド、ジョン・キャンディ、それにジャック・レモンやウォルター・マッソー・・・。
オズワルドを演じたゲイリー・オールドマンは、写真で見るオズワルドのイメージとまさに生き写しという感じの見事ななりきりぶりでしたし、ふてぶてしい態度を見せるクレー・ショーを演じるトミー・リー・ジョーンズの芝居にも、さすがと唸らされました。
『ホーム・アローン』(1990年)の間抜けで愛すべき泥棒役の印象も強いジョー・ペシは、本作では暗殺に関わっていたデイヴィッド・フェリーの役ですが、ギャリソンに証言したことで命の危険を察して怯えまくる、迫真の演技を見せてくれます。『フットルース』(1984年)などの青春映画のスターという印象があったケヴィン・ベーコンも、本作以降「演技派」という認識が広がったように思います。
ちなみに、本作には原案者であるジム・ギャリソンもちょこっと出演しております。演じるのは、自身が疑念を持ったウォーレン報告書をまとめた張本人である、最高裁長官のアール・ウォーレンというのが、まことに皮肉であります。

本作が描き出した事件の構図には、おそらく賛否両論があることでしょう。わたしには、それらの当否を判断することはできませんが、ケネディ暗殺の闇にあらためて光を当て、真相究明への機運を高めたという功績は否定できないでしょう。その意味においても、本作は問題作にして傑作だと思います。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿