NHKスペシャル『病の起源』第4集「心臓病 ~高性能ポンプの落とし穴~」
初回放送=10月27日(日)午後9時00分~9時49分
音楽=羽毛田丈史 、ナビゲーター=谷村新司、語り=伊東敏恵
人類を苦しめ続ける病に進化の視点から迫っていくシリーズ『病の起源』。第2シリーズの最後に取り上げられたのは、世界における死因が第1位という病、心臓病です。
80億個もの筋肉細胞により成り立つ、分厚い筋肉に包まれているヒトの心臓。その力強い筋肉の働きにより、心臓は一日に10万回も休むことなく拍動し、全身に血液を送り続けることができるのです。
3億年前に誕生した爬虫類の心臓は、空隙の多いスポンジ状の筋肉でできています。そのため大きな力が出せず、活発に動くことができません。
一方、2億2000万年前に誕生した哺乳類。まだ小さくか弱い存在だった当時の哺乳類は、心臓の筋肉を密度の高い強靭なものに進化させていきました。それにより獲得した高い運動能力で天敵から身を守り、やがて地上の王者として繁栄していくことになりました。
その反面、高度になった心臓には弱点もありました。少しの血管の詰まりが組織の壊死を引き起こし、時に致命的なダメージをもたらすようになったのです。
700万年前、2本の足で立ち上がり、直立歩行できるようになった人類の祖先。そのことによって両手は自由になり、食料を集めやすくなり、道具を使えるようにもなりました。
しかし、重力の影響により血液は下半身に溜まりやすくなり、血液を全身に循環させるために心臓には大きな負担がかかるようになってしまいました。
立ち上がったとき、心拍数が上がることに加えて、全身の血管をコントロールする交感神経が働きます。それにより血管が細く締まり、上半身へと血液が押し上げられます。
その細く締まった状態の血管に血液を行き渡らせるために、心臓はさらに大きな力を必要とするようになりました。結果、心臓の筋肉は疲弊し、そのことが心臓病のリスクを高めることにもなってしまったのです。
コレステロールにより血管が詰まり、心臓の筋肉が壊死する心筋梗塞。これは、ヒトが特になりやすい病気だといいます。ゴリラなどの類人猿の血中コレステロール値はヒトよりずっと高いのですが、それでも血管にはコレステロールは溜まらず、心筋梗塞も見られないとか。
血管の詰まりを引き起こすとされているのが「Gc」という物質。これが心臓の血管に炎症を起こし、その個所からコレステロールが溜まっていき、血管の詰まりを引き起こすといいます。
このGc、もともと他の哺乳類には存在していましたが、人類は270万年前に失って以降、長らくGcとは無縁でした。神経細胞の形成を抑制するGcがなくなったことで、人類は脳を巨大化させ、高度な文明を築き上げることができました。
やがて、食料生産の革命によって安定した食料を得ることができた人類は、Gcを含んだ動物の肉も大量に食べるようになりました。そのため、一度は失ったGcを再び体内に取り込み、それを異物として認識した免疫機能により血管に炎症が起こり、心筋梗塞の発症が増えていくことになるという、皮肉な結果をもたらしたのです。
栄養の摂り過ぎが心臓病のリスクを高める反面、逆に栄養が不足することで心臓病のリスクを高めることになってしまうのが、妊婦の栄養不足による胎児への影響です。
オランダのアムステルダム大学は、第二次世界大戦下の食糧不足の中で産まれた人々を追跡調査しました。当時の人々は、一日にわずか400~800キロカロリーと、必要な量の半分程度のカロリーしか摂取していませんでした。
調査の結果、対象者は心臓病になる割合が2倍高かったほか、その後に健康的な食生活を送っていても、心臓病になりやすいということがわかったといいます。
心臓の細胞は胎児期のみ分裂し、その後増えることはありません。このため、胎児期に充分な栄養が与えられないと細胞の一部が死に、細胞が少ないままの状態で成長することになってしまいます。結果、心臓は早く消耗することになるのです。
胎児に充分な栄養が行き渡らないとき、得られた栄養分は脳の形成のため最優先に使われ、心臓は後回しになってしまうことが、胎児期に心臓病のタネを植えつけることになる、といいます。ここでも、脳の巨大化が心臓に影響をもたらしていたのです。
これまで安静にすることが前提だった心臓病の治療。しかし現在では、心拍数などを管理した上で適度な運動を行い、心臓の負担を軽減させるという治療が試みられています。
足を動かすことで血管が締め付けられ、血液を押し上げることで循環させることができるとか。その意味で、足は「第2の心臓」といえる、といいます。
また、心臓に衝撃波を当てることで心臓をマッサージし、新たな血管の形成につなげようという「低出力衝撃波治療」なる治療も試みられています。これまで国内で40人ほとが治療を受け、そのほとんどに改善が見られた、といいます。
生命の根幹をなす最重要な臓器、心臓。それを、われわれは随分酷使しているんだなあ、ということが、この番組を観てよくわかりました。
だからといって、いまさら4本足に戻ることは無論できないことであります。であれば、可能な限り心臓に余計な負担をかけることのないよう、心臓をいたわりながら生きていかなければいけないなあ、そうしみじみ感じました。
初回放送=10月27日(日)午後9時00分~9時49分
音楽=羽毛田丈史 、ナビゲーター=谷村新司、語り=伊東敏恵
人類を苦しめ続ける病に進化の視点から迫っていくシリーズ『病の起源』。第2シリーズの最後に取り上げられたのは、世界における死因が第1位という病、心臓病です。
80億個もの筋肉細胞により成り立つ、分厚い筋肉に包まれているヒトの心臓。その力強い筋肉の働きにより、心臓は一日に10万回も休むことなく拍動し、全身に血液を送り続けることができるのです。
3億年前に誕生した爬虫類の心臓は、空隙の多いスポンジ状の筋肉でできています。そのため大きな力が出せず、活発に動くことができません。
一方、2億2000万年前に誕生した哺乳類。まだ小さくか弱い存在だった当時の哺乳類は、心臓の筋肉を密度の高い強靭なものに進化させていきました。それにより獲得した高い運動能力で天敵から身を守り、やがて地上の王者として繁栄していくことになりました。
その反面、高度になった心臓には弱点もありました。少しの血管の詰まりが組織の壊死を引き起こし、時に致命的なダメージをもたらすようになったのです。
700万年前、2本の足で立ち上がり、直立歩行できるようになった人類の祖先。そのことによって両手は自由になり、食料を集めやすくなり、道具を使えるようにもなりました。
しかし、重力の影響により血液は下半身に溜まりやすくなり、血液を全身に循環させるために心臓には大きな負担がかかるようになってしまいました。
立ち上がったとき、心拍数が上がることに加えて、全身の血管をコントロールする交感神経が働きます。それにより血管が細く締まり、上半身へと血液が押し上げられます。
その細く締まった状態の血管に血液を行き渡らせるために、心臓はさらに大きな力を必要とするようになりました。結果、心臓の筋肉は疲弊し、そのことが心臓病のリスクを高めることにもなってしまったのです。
コレステロールにより血管が詰まり、心臓の筋肉が壊死する心筋梗塞。これは、ヒトが特になりやすい病気だといいます。ゴリラなどの類人猿の血中コレステロール値はヒトよりずっと高いのですが、それでも血管にはコレステロールは溜まらず、心筋梗塞も見られないとか。
血管の詰まりを引き起こすとされているのが「Gc」という物質。これが心臓の血管に炎症を起こし、その個所からコレステロールが溜まっていき、血管の詰まりを引き起こすといいます。
このGc、もともと他の哺乳類には存在していましたが、人類は270万年前に失って以降、長らくGcとは無縁でした。神経細胞の形成を抑制するGcがなくなったことで、人類は脳を巨大化させ、高度な文明を築き上げることができました。
やがて、食料生産の革命によって安定した食料を得ることができた人類は、Gcを含んだ動物の肉も大量に食べるようになりました。そのため、一度は失ったGcを再び体内に取り込み、それを異物として認識した免疫機能により血管に炎症が起こり、心筋梗塞の発症が増えていくことになるという、皮肉な結果をもたらしたのです。
栄養の摂り過ぎが心臓病のリスクを高める反面、逆に栄養が不足することで心臓病のリスクを高めることになってしまうのが、妊婦の栄養不足による胎児への影響です。
オランダのアムステルダム大学は、第二次世界大戦下の食糧不足の中で産まれた人々を追跡調査しました。当時の人々は、一日にわずか400~800キロカロリーと、必要な量の半分程度のカロリーしか摂取していませんでした。
調査の結果、対象者は心臓病になる割合が2倍高かったほか、その後に健康的な食生活を送っていても、心臓病になりやすいということがわかったといいます。
心臓の細胞は胎児期のみ分裂し、その後増えることはありません。このため、胎児期に充分な栄養が与えられないと細胞の一部が死に、細胞が少ないままの状態で成長することになってしまいます。結果、心臓は早く消耗することになるのです。
胎児に充分な栄養が行き渡らないとき、得られた栄養分は脳の形成のため最優先に使われ、心臓は後回しになってしまうことが、胎児期に心臓病のタネを植えつけることになる、といいます。ここでも、脳の巨大化が心臓に影響をもたらしていたのです。
これまで安静にすることが前提だった心臓病の治療。しかし現在では、心拍数などを管理した上で適度な運動を行い、心臓の負担を軽減させるという治療が試みられています。
足を動かすことで血管が締め付けられ、血液を押し上げることで循環させることができるとか。その意味で、足は「第2の心臓」といえる、といいます。
また、心臓に衝撃波を当てることで心臓をマッサージし、新たな血管の形成につなげようという「低出力衝撃波治療」なる治療も試みられています。これまで国内で40人ほとが治療を受け、そのほとんどに改善が見られた、といいます。
生命の根幹をなす最重要な臓器、心臓。それを、われわれは随分酷使しているんだなあ、ということが、この番組を観てよくわかりました。
だからといって、いまさら4本足に戻ることは無論できないことであります。であれば、可能な限り心臓に余計な負担をかけることのないよう、心臓をいたわりながら生きていかなければいけないなあ、そうしみじみ感じました。