Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Matthew Young

2006-03-28 | SSW
■Matthew Young / Traveler’s Advisory■

 今日、取り上げるアルバムは、かなり異色というか特異なアルバムです。 カテゴリーは SSW にしていますが、全11曲中、ボーカルが入っているのはたった3曲で、他はインストです。 ジャケットや雰囲気からふつうの SSW アルバムかと思ってしまいますが、それが落とし穴なのです。 1986 年にニュージャージーの自主制作レーベル Mt.Rose Records からリリースされた Matthew Young のセカンド・アルバムは、アメリカの音楽シーンでもかなり異端な内容から、ごく一部のマニアからは注目されているようです。
 このアルバムを語るためのキーワードは「ハンマー・ダルシマー」、「宅録」の二つでしょう。 まずは、前者のほうから。 このアルバムの主役となる楽器「ハンマー・ダルシマー」は、台形の箱に張られた弦を2本のばちで叩き演奏する打弦楽器で、ピアノの原形と言われている楽器。 この楽器の音色がこのアルバム全体を包みこむ重要なファクターになっています。 ところが、この中世に起源をもつ古典楽器だけならば、特別なアルバムにはならないのですが、ここに Matthew Young が自宅で多重録音して重ねたパーカッションやカシオトーン(クレジット表記では単に CASIO となっています)、ボーカルなどが重なってくると、経験したことのない音楽世界が広がってくるのです。 なぜ、このようなアルバムを制作しようとしたのか本人の意図を訊きたくなってしまいます。 
 「Objects In Mirror」は、打ち込みのリズムの上にダルシマーの音色が重なり、そこに淡々としたボーカルが重なるちょっとニューウェーブ的なサウンド、続く「Kyrie Eleison」はダルシマーがまるで琴の音のようです。 「Werewolf」は、Michael Hurley のカバー曲。 カバーされた本人も絶賛ということのようですが、僕が Michael Hurley には疎いので、ちょっとコメントできません。 しかし、かなりアシッドな雰囲気であることには間違いありません。 アルバムタイトルの「Traveler’s Advisory」は、ダルシマーの音がおとなしめのガムランを聴いているかのよう。 チープな打ち込みに無表情なボーカルが乗ってくる「Dummy Line」は、音のすき間感が、イギリスの同時代のグループ Eyeless In Gaza に似ている感じすらします。
 B面に入ると、このアルバムの世界がさらに深まっていきます。 ミニマルミュージック的な「Schuyler’s Blues」、10分近いインプロヴィゼーション「None Born Wise」など、ラストに至るまで、すべてアンビエントなインストで展開されていきます。 
 このアルバムについて誰か語っていないかと検索してみたところ、Carlson Arnold という人物が「Matthew Young Revisited」というタイトルの記事を書いていました。 もし時間があったら覗いてみてください。

 ここには 2003年 5月31日に行われた Matthew Young 本人とのインタビュー(おそらく電話ですが)も掲載されています。 ここで分かったのが、このアルバム以前の1981年に「Reccuring Dreams」というエレクトロなアルバムをリリースしていること。 クレジットされている Don Kawalek なる人物もダルシマーで参加していることなどです。 この人はゲストで演奏参加しただけかと思っていましたが、ダルシマーの製作者でもありました。
 このインタビューのなかには、Cluster、Peter Bauman、Popol Vuh、Can といった強烈な個性を放ったジャーマンロックの面々の名前が出てきます。 なるほど、たしかに Popol Vuh の霧に包まれたような静寂感、Can のような足場のない浮遊感も感じることができます。 
 ダルシマーによるミニマルミュージックという独自の音楽世界を築きながらも、同時代の批評家に耳にさえ届かなかったこのアルバム。 1986 年といえば、レコードから CD への移行が本格化しようとしていた時期でもあり、このアルバムは意図不明のタイトル「旅行者の忠告」というメッセージとともに、静かに世間から隔離されていったのでしょう。



■Matthew Young / Traveler’s Advisory■

Side-1
Objects In Mirror
Kyrie Eleison (12th century)
Werewolf (Michael Hurley)
Traveler’s Advisory
Caitlin’ s Reile
Dummy Line (word.trad)

Side-2
Schuyler’s Blues
None Born Wise
Red Thoughts , White Teeth
Carmina Burana (variation on a theme by Carl Orff)
100 Saints for Travelers

Matthew Young : Hammerd Dulcimer , vocals , casio , percussion , banjo , tape
Composed and arranged by Matthew Young except an noted
Recorded at home

Mixed at Gabriel Farm Studio by Andy Gomory
Art by Marion Moore Costello

Hammerd Dulcimer by Don Kawalek

Mt.Rose Records MR-002


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