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蓮實重彦『魅せられて 作家論集』

2013-09-22 07:23:00 | ノンジャンル
 蓮實重彦先生の'05年作品『魅せられて 作家論集』を読みました。
 「樋口一葉 恩寵の時間と歴史の時間 樋口一葉の『にごりえ』」では、新たに人が住むようになった新開地の酌婦で、そこで生きる才能を“恩寵”として与えられていた女が、過去=歴史の時間を語るように客に強要されることで、殺されるに至ったこと、「夏目漱石 1 修辞と利廻り―『道草』論のためのノート」では、報酬を期待された主人公が書いた文章がたやすく金銭と交換され、「首の回らない程高い襟」で動きを奪われ、「多くの人より高い所に立」ったり、「赤い印気(インキ)を汚ない半紙へなすく」ったり、「暑苦しい程細かな字」でノートを埋めたりしていた限りは享受しえなかった余裕がもたらされ、修辞学的にいうなら、書くという振舞いをめぐる表現が換喩的なものから隠喩的なものへと転換したこと、「夏目漱石 2 試練と快楽―「愛」の人称的構造 『それから』の場合」では、「私」と「貴方」との間に介在すべき「愛」の能動的他動詞性を回避しながら、その等価的表現の模索にあけくれてきた近代日本の小説は、恋愛を、快楽の対象ではなく、二人してくぐりぬけるべき試練のごときものに仕立てあげたことなど、「芥川龍之介 接続詞の破綻 『歯車』を読む 説話論の視点から」では、自動車/列車、避暑地/首都などの二者択一的であり同時に両価的でもある「接続詞」的とも呼ぶべき風土が導入されていることなど、「谷崎潤一郎 厄介な「因縁」について 『吉野葛』試論」では、「この頃は」だの「今頃は」だのといった言葉を物語に導入すれば、そう書く主体の位置すべき時間と空間がきわめて限定されることを谷崎は充分に承知していたのに、そうした自粛は最後まで守られなかったことなど、「大岡昇平 1 露呈する歴史のために 『堺港攘夷始末』」では、大岡が「終わり」に顔をそむけ、ひたすら現在を生き、現在を書くことで読む者を刺激し続けたことなど、「大岡昇平 2 反復と平面―歴史小説はいかにして書かれるか 『天誅組』の場合」では、「すでに書いたことだが」、「前に書いたように」といった表現が多用されているが、それらは事柄の平面が共有されていることを表していることなど、「安岡章太郎 真実と「軽症の狂者」 『海辺の光景』」では、「軽症の狂者」の予言は、干潮と満潮を正確にとり違えることによって、正しさを超えた真実であったこと、「河野多惠子 1 『みいら採り猟奇譚』」では、倒錯的な愛のすがたかたちへ至る、教育的な振る舞いの実践から漏れてくる照明が、命令の風土に漂っている照明とはまるで異質なものであったこと、「河野多惠子 2 「異変」と予兆 『赤い脣 黒い髪』」では、あたりに注がれている光景にはこれといった変化も認められないのに、それまでおとなしく視界におさまっていた風景が、何かのはずみですっと遠ざかってゆく、そんな体験へのこだわりが生なましく描かれていること、「後藤明生 『挟み撃ち』」では、多くの不在や空白や欠落ばかりをかかえている「わたし」が、その事実にたったいま気がついたといわんばかりの言い訳めいた言辞の羅列で始まること、「古井由吉 狂いと隔たり 『白髪の唄』を読む」では、「人の話をめっきり、黙りこんで聞く」という近年の「癖」を口実にしただけで、はたして長編小説が書けるものなのかという試みであること、「金井美恵子 果物籠が凶器となるとき 『岸辺のない海』」では、真の意味で必然化さるべきは、おそらく、書かれていることのほとんどが、いわば説話論的な凶器として機能せざるをえないという事実にほかなるまいこと、「中上健次 路地と魔界 『熊野集』『千年の愉楽』」では、「一人二人」と集い寄り、いつの間にか黒々とした群れにおさまっていく異形者も、そして「路地」に住み着いている男振りの若者の縁者たちも、おそらくは時間を超えた同じ存在であることなど、「村上龍 アイスピックとアーミーナイフ 『ピアッシング』」では、製作者と演出家の2人の村上が一気呵成に書いた小説であること、「島田雅彦 呼吸と脚力 『彼岸先生』」では、ごく身軽な脚力と乱れを知らぬ呼吸が必要とされていること、「阿部和重 1 『ABC戦争』」では、一切隠しだてをしていないこと、「阿部和重 2 パン屋はなぜパンを焼く以外の多くのことに手を染めざるをえず、また、あるとき、ただのパン屋であることへのノスタルジーを憶えざるをえないのか 『シンセミア』論」では、「ぶち壊れる」などの口語調をまとわせていることなど、が書かれていました。
 これでも、蓮實先生の文章としては、分かり易い方なのではないかと思いました。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

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