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川崎ゆきお『小説 猟奇王』その2

2011-09-04 06:58:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 井の頭公園で、猟奇王が通りかかるのを待ち続けていた便所バエは、そこへたまたま現れた紅ガラスに誰何すると、自分を相手にしてくれた紅ガラスは感激し、正義の味方である自分は探偵である便所バエの仲間であると力説しますが、そこへ現れた猟奇王は、もう引退するように紅ガラスに言って、闇に消えます。猟奇王の後を追おうとする便所バエでしたが、紅ガラスが猟奇王のことに詳しいことを知ると、猟奇王の尾行をあきらめ、紅ガラスを自分にアパートに連れて帰ります。
 便所バエから紅ガラスを紹介された沢村は、紅ガラスのあまりの窮状ぶりに耐えられず、すぐに木下に連絡を取るよう、便所バエに命じます。駆けつけた木下は、紅ガラスの話を聞くと、沢村らとともに、一旦は本気で探偵ごっとに付き合う決心をしますが、やはり危険だと判断し、知り合いの編集者・大塚に、今回のことからは足を洗うと言います。
 一方、カナの部屋を訪れていた猟奇王は、カナから東京に残ってほしいとせがまれ、東京でコトを起こす決心をします。
 そして沢村は仲代に呼び出されると、「十月十日深夜十二時、宝石をもらい受ける 猟奇王」と書かれた紙片が銀座の一流宝石店に投げ込まれたことを知らされます。猟奇的犯罪に惹かれる仲代は、自ら捜査に乗り出したいと思っていましたが、上司を説得するだけのデータが不足しているため、捜査のすべてを沢村に一任します。ノープランで決行するという猟奇王と、「それは無謀だ」と止めにかかる忍者。
 忍者の手によって情報がリークされ、スポーツ誌に大々的に報道されると、それを知らされた木下は思わず取材に駆け出し、便所バエのアパートを訪ね、そこにいた紅ガラスに話を聞きます。
 宝石店の上の階でコトに備える仲代、沢村と便所バエ。予告時間になると、そこにたまたま現れた紅ガラスを猟奇王と間違えた警官は、彼を取り押さえます。そのすきに猟奇王と忍者は宝石店のシャッターを爆破して中に侵入し、宝石ケースも爆破して宝石を奪うと、2階の採光窓を破ってアドバルーンに乗り逃亡します。猟奇王と忍者を乗せ、サーチライトに照らされ、空に舞い上がるアドバルーンと、それを追いかける群集。町は祝祭空間と化し、交通はマヒします。そしてアドバルーンが池袋近辺に差しかかると、空から宝石が雨あられとなって、町に降り注ぐのでした。
 数日後、喫茶店で木下に会っていた沢村は、猟奇王の犯罪を防ぐことができなかった自分の無力さを認め、怪人を追うために大阪へ向かうという便所バエに、仲代からもらったお金を渡します。木下は大塚から勧められていた猟奇王に関する本を書く自信がなくなったと言い、便所バエはいよいよ大阪に旅立とうとしますが、自分のポケットに一個宝石が入っているのを発見し、爆風で入り込んだのかもしれないという沢村と、入っているのを知らなかったと動揺する便所バエに対し、木下はあきれかえるのでした。

 単なるコミック・ノベルと思いきや、「戯曲 猟奇王」のあとがきで川崎さんが書いているように、実は今の世で「怪奇ロマン」をマジメに試みた小説であるとも考えられ、それは「(猟奇とは)妖しい物事や、不思議な物事を好むことで、異端じゃが、変質者のことではない。奇妙なものに憧れ、それを追い求める狩人のようなものじゃ」(P.66)とか「この世の中で怪人を職業とするなど稀少価値じゃ。人間国宝じゃ」(p.68)、「現実の探偵は誰もが小説の中の探偵に比べればヘボ探偵にしかならん。当然、怪人も同じだ。正義の味方も同じだ。現実の中では誰もが三流だ」(P.154~5)などの沢村探偵の言葉や、猟奇王、東京怪奇団総裁・角一郎の言葉などなど、随所で表明されているものでした。とても面白い小説だと思います。是非手に取って読まれることをオススメします。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/

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