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高橋秀実『趣味は何ですか?』

2010-12-21 05:42:00 | ノンジャンル
 先日WOWOWで、ヘンリー・ハサウェイ監督の'42年作品『チャイナ・ガール』を見ました。'41年の中国が舞台で、ドキュメンタリー映画のカメラマンとジーン・ティアニー演じる中国人の間に展開する平凡なメロドラマでしたが、スパイの名のもと、一列に並べられ後ろ手に縛られた中国市民たちがマシンガンで処刑される冒頭のシーンの構図の素晴らしさと、ティアニーの美しさに魅せられました。

 さて、高橋秀実さんの'10年作品『趣味は何ですか?』を読みました。『野性時代』'07年12月号から'09年9月号に連載されたコラムに加筆・修正し再構成してできた本です。
 高橋さんはある日、講演をした後、聴講者から「趣味は何ですか?」と聞かれて答えに窮します。趣味などないのですが、その問いは「趣味がある」ことを前提としているので、そう答えることに躊躇したのです。そしてそもそもなぜ「趣味」を持たねばならないのか考え始め、日本国憲法における「文化的」という言葉が「『趣味』を持つ権利を享受せよ」と強要しているのでは、と思いつきます。今日、就活では「趣味」を活動的なものにしないと面接にも進めないという事実がある一方で、婚活でも「趣味」は話の取っ掛かりとして機能するなどしていますが、そもそも「趣味」は明治後半に定着した言葉で、もともとは「味わい」を意味していて、単なる「遊び」程度の意味でも使われていたこと、大隈重信に至っては「美人」が好きで「膝枕」を味わうなど、当時の知識人の多くは女性の分類・分析に血道をあげていたことも分かってきます。そしてその定義に従うなら、「趣味」とは楽しみを持つというより、様々な物事を通じて人生を味わうことなのだ、と著者は述べます。
 以後、具体的に「鉄道」「坂本龍馬」「航空無線」「蕎麦打ち」「ヨガ」「スタンプ巡礼」「エコ」「防災」「カメの飼育」「ラジコン」「ボウリング」「武士道」「階段」「ウォーキング」「茶道」「ガーデニング」「登山」などについて取材が進められていくのですが、そこには、初めて知る面白いネタが満載されていて、それに加え、蕎麦打ちの教則本はやたらに哲学的であり、まるで蕎麦打ちとは、蕎麦粉をというより理屈を捏ねるかのようであること、ヨガを始めて便秘が治った女性が、再び便秘になるのを怖れるあまりヨガを止められなくなっているのを聞いて、「まさに念じれば通じる、ということなのである」と著者がいうことなどの小ネタも笑えて、ボウリングマニアの人が「続けられるということは楽しいはずです。楽しくなければ続けられませんから」と述べるに至り、なるほどと感心したりもしました。
 文章がこなれていて読みやすく、またネタのはさみ方も絶妙で、時々登場する奥さんの冷徹なツッコミも笑えました。やはり現在のノンフィクション作家では高橋さんが一番才能がある方だと改めて思った次第です。一読することをオススメします。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto