普段はあまり耳にしませんが、四季折々の自然の移ろいの趣を感じさせるものを「景物」といいます。語感が何か堅苦しいのですが、要するに季節を感じさせる自然の物ということでしょう。現代は個性が尊重されますから、感じ方は人それぞれですが、古には共通理解があり、おおむね決まっていました。勅撰和歌集の夏の部を順番に読めば、古人が何に夏を感じ取っていたかがわかります。
もっとも一般的には四季の歌のなかでは夏が最も少なく、また景物も貧弱です。例えば『古今和歌集』だは、藤・郭公(ほととぎす)・花橘・五月雨・短夜・卯の花・蓮・露・夏の月・撫子(なでしこ)・涼風と景物が続いています。一首の中に景物が二つ以上あることもあるので、合計は34以上になるのですが、夏の歌全34首のうち、28首に郭公が読まれていて、著しく偏りがあります。古人にとっては、夏は歌を詠みたくなる景物が少ない季節であったわけです。中世になるにつれて次第に夏の景物にも幅が出ては来ますが、後の俳諧の季語と比較すると、比較にならない程貧弱でした。
一方、現代人は何に夏を感じ取るのか、生徒のアンケート結果を御紹介します。これは平成11年にある女子高校の生徒90人にきいたものです。複数回答ですので、合計はかなりの数になります。多い順に並べてみましょう。○の数字は順位を表します。①ひまわり43、②蝉38、③西瓜29、④台風22、⑤海21、⑥雷14、⑦夕立10、⑦蚊10、⑨蛙9、⑩朝顔8、⑪鈴虫7、⑫梅雨6、⑬虹5、⑬胡瓜5、⑬トマト5、⑬入道雲5、⑰鮎4、⑱なす3、⑱とうもろこし3、⑱逃げ水3、以下、蛍・梨・短い夜・天の川・太陽が各2標、アジサイ・蛾が各1票という結果でした。
また平成14年に、ある高校で私が主催した公開講座の受講者が選んだ夏の景物についても、参考までに御紹介します。ただアンケートの回収数が不明なので、あくまでも参考資料です。①夕立31、②雲・入道雲25、③蝉・ひぐらし24、④朝顔23、⑤ほととぎす16、⑥ひまわり15、⑦卯の花12、⑦蛍12、⑨雷8、⑩梅雨・五月雨7、⑩西瓜7、⑫みかんの花5、⑫菖蒲5、⑭蚊5、⑭かきつばた・花菖蒲・あやめ5、⑯ほおずき4、⑯夏衣・白い衣4、⑱あじさい3、⑱夕顔3、⑱さるすべり3、⑱百合3、⑱藤3、⑱海3、⑱浴衣3、⑱天の川3、⑱つばめ3、⑱風鈴3。以下、虹・短夜・とんぼ・蝶・かっこう・はも・金魚・蛙・月下美人・芙蓉・かんな・むくげ・のうぜんかずら・サルビア・はんげしょう・麦・からたち・牡丹・しゃくやく・ちがや・十薬・のいばら・なでしこ・蓮・ねむ・すいかづらなどが2~1票で続いていました。
生徒たちが選んだ景物の中で、古歌の中にもよく詠まれているのは、蝉・台風(野分)・雷・夕立・鈴虫・梅雨(五月雨)・蛍・短夜・天の川・あじさいなどです。もちろんアンケートの回答数が少ないので、参考資料に過ぎませんが、古歌の景物と共通するものはそれ程多くはありません。また立秋過ぎの方が似合っているものもあり、季節の変わり目の認識がやはりずれていることがわかります。
その点で公開講座受講者は私と同じか、より年上の世代ですから、生徒たちよりは古歌の景物と共通するものが多いようです。長い間に熟成されてきた日本の伝統的季節感を、何としても次の世代につなげていってほしいものです。また景物の幅が広く、長年の生活経験の蓄積があることがわかります。菖蒲とあやめを区別しているのはさすがですね。卯の花・ねむ・やむくげ・ちがや・すいかづらなどは、生徒たちでは上げられないでしょう。それでも七夕は夏のものになってしまっていますが、本来は立秋後の秋の祭でした。しかしそれは要求する方が無理なのでしょう。
もっとも一般的には四季の歌のなかでは夏が最も少なく、また景物も貧弱です。例えば『古今和歌集』だは、藤・郭公(ほととぎす)・花橘・五月雨・短夜・卯の花・蓮・露・夏の月・撫子(なでしこ)・涼風と景物が続いています。一首の中に景物が二つ以上あることもあるので、合計は34以上になるのですが、夏の歌全34首のうち、28首に郭公が読まれていて、著しく偏りがあります。古人にとっては、夏は歌を詠みたくなる景物が少ない季節であったわけです。中世になるにつれて次第に夏の景物にも幅が出ては来ますが、後の俳諧の季語と比較すると、比較にならない程貧弱でした。
一方、現代人は何に夏を感じ取るのか、生徒のアンケート結果を御紹介します。これは平成11年にある女子高校の生徒90人にきいたものです。複数回答ですので、合計はかなりの数になります。多い順に並べてみましょう。○の数字は順位を表します。①ひまわり43、②蝉38、③西瓜29、④台風22、⑤海21、⑥雷14、⑦夕立10、⑦蚊10、⑨蛙9、⑩朝顔8、⑪鈴虫7、⑫梅雨6、⑬虹5、⑬胡瓜5、⑬トマト5、⑬入道雲5、⑰鮎4、⑱なす3、⑱とうもろこし3、⑱逃げ水3、以下、蛍・梨・短い夜・天の川・太陽が各2標、アジサイ・蛾が各1票という結果でした。
また平成14年に、ある高校で私が主催した公開講座の受講者が選んだ夏の景物についても、参考までに御紹介します。ただアンケートの回収数が不明なので、あくまでも参考資料です。①夕立31、②雲・入道雲25、③蝉・ひぐらし24、④朝顔23、⑤ほととぎす16、⑥ひまわり15、⑦卯の花12、⑦蛍12、⑨雷8、⑩梅雨・五月雨7、⑩西瓜7、⑫みかんの花5、⑫菖蒲5、⑭蚊5、⑭かきつばた・花菖蒲・あやめ5、⑯ほおずき4、⑯夏衣・白い衣4、⑱あじさい3、⑱夕顔3、⑱さるすべり3、⑱百合3、⑱藤3、⑱海3、⑱浴衣3、⑱天の川3、⑱つばめ3、⑱風鈴3。以下、虹・短夜・とんぼ・蝶・かっこう・はも・金魚・蛙・月下美人・芙蓉・かんな・むくげ・のうぜんかずら・サルビア・はんげしょう・麦・からたち・牡丹・しゃくやく・ちがや・十薬・のいばら・なでしこ・蓮・ねむ・すいかづらなどが2~1票で続いていました。
生徒たちが選んだ景物の中で、古歌の中にもよく詠まれているのは、蝉・台風(野分)・雷・夕立・鈴虫・梅雨(五月雨)・蛍・短夜・天の川・あじさいなどです。もちろんアンケートの回答数が少ないので、参考資料に過ぎませんが、古歌の景物と共通するものはそれ程多くはありません。また立秋過ぎの方が似合っているものもあり、季節の変わり目の認識がやはりずれていることがわかります。
その点で公開講座受講者は私と同じか、より年上の世代ですから、生徒たちよりは古歌の景物と共通するものが多いようです。長い間に熟成されてきた日本の伝統的季節感を、何としても次の世代につなげていってほしいものです。また景物の幅が広く、長年の生活経験の蓄積があることがわかります。菖蒲とあやめを区別しているのはさすがですね。卯の花・ねむ・やむくげ・ちがや・すいかづらなどは、生徒たちでは上げられないでしょう。それでも七夕は夏のものになってしまっていますが、本来は立秋後の秋の祭でした。しかしそれは要求する方が無理なのでしょう。
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