うたことば歳時記

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青柳の糸

2015-06-06 12:21:00 | うたことば歳時記
四神思想によれば、「青春」という言葉が示しているように、春の色は青であった。もっとも「あを」と言っても、古の「あを」は現在の青も緑も含む幅広い色であった。実際、春には青草や青葉が萌え、春の色には「青」が相応しい。青柳は、早春にその「青」を感じさせるものなのである。
 青柳とは春に芽吹いた枝垂柳のことで、その姿から糸に見立てられるのが普通であった。
  ①浅緑いとよりかけて白露を珠にも貫(ぬ)ける春の柳か(古今集27)
  ②浅緑乱れてなびく青柳の色にぞ春の風も見えける(後拾遺76)
  ③風吹けば波の綾織る池水に糸ひきそふる岸の青柳(金葉集25)
  ④青柳のはなだの糸をよりあはせ絶えずも鳴くか鶯の声(拾遺集34)
①は、柳の枝を糸に、枝にすがる白露を白玉に見立てたもの。②は、風になびく柳の枝の薄い緑色を、「春の風の色」と表現し、目に見えないはずの風が見えるという。風を触覚に感じるならば当たり前のことであるが、視覚に感じ取るというところに、この歌の発想の素晴らしさがある。フォスターの曲に付けられた 「春風」という歌にも、「吹けそよそよ吹け柳の糸に」という歌詞があった。③は池の水面の風紋を綾織りの布に見立て、それにさらに青柳の糸を引いて添えていると詠んでいる。柳は水辺を好むので、池端の柳の影が水面に映っているのである。④は、柳に鳴く鶯を詠んだもの。鶯が柳の糸を縒って鳴いているというのである。ここでは挙げなかったが、鶯が柳の糸で梅の花を縫って花笠にするとい歌もある。梅と柳はほぼ同じ頃に唐から伝えられた樹木で、現代人には理解できないが、共に鶯との相性がよいものと理解されていたのである。
 春霞が春の女神佐保姫の織った薄布や佐保姫の衣に見立てられたように、青柳の糸は佐保姫に絡めて理解されることもあった。
  ⑤佐保姫の糸染めかくる青柳を吹きな乱りそ春の山風(詞花集14)
  ⑥佐保姫のうち垂れ髪の玉柳ただ春風のけづるなりけり(堀河百首114)
⑤では、佐保姫が染めた青柳の糸を、風よ吹き乱すなと詠んでいる。佐保姫が染色や機織りをつかさどる女神と考えられていたのである。⑥では、青柳の枝を佐保姫の髪に見立て、それが風になびく様子を、風が髪を梳(くしけず)っていると詠んでいる。
 青柳の歌の見たては、いずれも大変に美しいものである。風になびく様子、水に映る影、白露のすがる様子など、遠くから、また近くから、その見たてを追体験してみたい。 


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