『エンディングノート』で鮮烈なデビューを飾った砂田麻美監督が、スタジオジブリに一年間密着したドキュメンタリー。ちょうど宮崎駿監督の『風立ちぬ』と高畑勲監督の『かぐや姫の物語』の製作から公開にかけての期間であり、スタジオジブリが最も忙しかった時期でしょう。
ジブリのアニメーションの制作現場がアナログそのものなことに、まず驚かされます。『風立ちぬ』の制作現場では、宮崎監督が一枚一枚絵コンテを手描きして経過時間をストップウォッチで確認します。一コマ一コマの飛行機やキャラクターの動きを、下が透けて見えるような専用紙にわずかずつずらしながら描いていって、途中途中でめくって下の絵とのつながりを確認していたのは、動きがスムーズに見えるかどうかの確認なのでしょう。
背景の群衆だったり、多くの部分は他のアニメーターが描いているのですが、当然皆同じように手描きで、宮崎監督と同じように少しずつずらしながら映像にしたときに自然な動きになるように描いていきます。映画全編を考えたら膨大な枚数になるだろうし、もしかしたら最後の編集作業でカットされるシーンもあるかもしれません。この手描きのきめ細かさがCGアニメとは違う宮崎アニメならではの滑らかな画面を生み出しているのでしょうから、同じクオリティの作品を作り続けることが体力的に不可能だというのも納得です。『風立ちぬ』の原画を描き終わったら大勢のアニメーターが荷物をまとめてスタジオを後にしていましたが、彼らは『風立ちぬ』の製作ということで契約していたのでしょうか。
『風立ちぬ』では、庵野秀明の声優起用も話題になりましたが、候補になってから実際にアフレコをやって決定するところまで、製作の裏側を少し覗き見ることができます。
実際に作品を作ることの中心が宮崎監督なら、スタジオジブリ全体を動かしているといってもいいのは鈴木プロデューサーでしょう。企画の進行管理から細かいところでは宣材ポスターのデザインにまで目配せします。当然この映画にはあらわれない所で、対外折衝やら費用管理などもやっているのでしょう。
もともと同時公開の予定だった『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』、途中までは宣伝もそれを前提に進めていましたが、高畑監督の方が遅れてきてどうしても間にあわない、というところで公開日程をずらすところなど、対外的にかなりたくさんの調整が必要だったと思いますが、そのあたりは淡々と記者会見の様子くらいしか出てこなくて、プロデューサーは陰で汗をかく役割なんだなあと。
宮崎監督や鈴木プロデューサーは、砂田監督のインタビューに答えるというよりはぽつりぽつりとその時に思ったこと感じたことを言葉に出しているようで、一年回したフィルムから映画にした場面を取り出すことも大変な作業だろうなあと思います。ただ、質問者のバイアスがかかるだろうインタビューの受け答えより、はるかに宮崎監督や鈴木プロデューサーの本音がぽろっとしたひとことの中に出ているようで、このあたりは砂田監督の上手いところですね。
カメラはスタジオの中を飛び出し、スタジオジブリの屋上や宮崎監督のアトリエにも入ります。屋上からは、雑木林と家々の屋根の向こうに中央線の走る姿が見えます。スタジオに居ついている野良猫は、猫バスか何かのモチーフになったのでしょうか。屋上から撮る木々の緑の光加減が、柔らかだけど鮮やかで印象的です。
宮崎監督のアトリエでは、宣伝で使ったものでしょうか、大きな山羊の人形を窓際に並べて子供たちの注目を集めています。「子供たちが喜ぶんですよ」と語る宮崎監督の声は本当にうれしそうで、純粋に子供たちのことを思っているんだなあと。
タイトルは「夢と魔法の王国」を意識して付けたんだろうけど、僕らが観る宮崎アニメという夢の後ろには妥協を許さずに理想を追い求める監督のこだわりと、それに応える多くのアニメーターや関係者がいて、あの完成された世界が作られているんだなあと実感しました。
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