すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【キリン杯メンバー発表】「何のためにやるのか?」狙いが希薄な花試合

2017-09-29 08:55:38 | サッカー日本代表
おなじみの顔がズラリ。スタメン熟成のための企画なのか?

 キリンチャレンジカップの代表メンバーが発表された。10月6日にニュージーランド、10月10日にハイチの各代表と対戦する。

【GK】
川島永嗣(メス)
東口順昭(G大阪)
中村航輔(柏レイソル)

【DF】
酒井宏樹(マルセイユ)
酒井高徳(ハンブルガーSV)
長友佑都(インテル)
吉田麻也(サウサンプトン)
昌子源(鹿島アントラーズ)
植田直通(鹿島アントラーズ)
槙野智章(浦和レッズ)
車屋紳太郎(川崎フロンターレ)

【MF】
山口蛍(C大阪)
井手口陽介(G大阪)
遠藤航(浦和レッズ)
香川真司(ドルトムント)
小林祐希(ヘーレンフェーン)
倉田秋(G大阪)

【FW】
乾貴士(エイバル)
浅野拓磨(シュトゥットガルト)
久保裕也(ヘント)
原口元気(ヘルタ・ベルリン)
大迫勇也(ケルン)
武藤嘉紀(マインツ)
杉本健勇(C大阪)

アグレッシブなFW武藤にぜひチャンスを

 メンバー全体を見ると、おなじみの顔ぶれがズラリ並んでいる。ニュージーランド、ハイチという弱小国との対戦で新戦力を試さないでどうするんだ? と違和感を覚えるが、おそらくハリルはすでに本番のメンツはほぼ決めているのだろう。とすれば今回は常連さんの組み合わせを熟成させるための企画なのだ。そう考えないとやってられない。

 さてまずDFから見て行くと、このチームは右の酒井宏樹が壊れたら終わりだ。厳しいことをいうが酒井高徳がバックアップの第一候補という現状ははなはだ心もとない。ここの問題をいったいどうするのか? もっとテストが必要ではないか?

 同様にこのチームは長谷部が欠ければ終わりだが、今回彼は選ばれてないのでこれについては試せる。ハリルはまさか、また適性とは真逆の山口蛍をアンカーに据えるんじゃないだろうな? 山口は積極的にどんどん前に出てボールを狩ってナンボの選手。うしろにステイして全体のバランスを取るアンカーでは持ち味を出せない。むしろ穴になる。

 長谷部の代わりになる若いアンカーを育てるなら日本には遠藤航しかいないんだから、ハリルは辛抱強く使ってほしい。所属チームとポジションがちがうが、呼ぶ以上は必ず起用すべきだ。

 FWに関しては、もし今回の企画がテストならアグレッシブな武藤嘉紀をぜひ見たい。またいいものをもっている杉本健勇にもチャンスをやりたい。その意味ではすでにスタメン鉄板の大迫は招集しなくてもいいぐらいじゃないかと思うが、彼が呼ばれているということはキリン杯はやはりテストではなくスタメンの熟成が狙いなのだろうか?

 とすればテストにもってこいのニュージーランド、ハイチという弱小国を迎えて、バカみたいに鉄板スタメンで臨むのだろうか? 武藤や杉本は単なるベンチウォーマーなのか? もちろんスポンサーがからむので事情は複雑なのだろうが、なんとも意図のハッキリしないテストマッチである。

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【サッカー日本代表】「ハリル後」は攻撃サッカーを積み上げろ

2017-09-19 07:50:17 | サッカー日本代表
長期的な視野で代表チームを育てる

 ロシアW杯が終わったあと、日本代表がめざすべき道はハッキリしている。守ってカウンターを狙うスタイルに関してはすでにハリルが作った土台がある。このやり方はボールを握って圧倒してくる格上の相手と噛み合う。

 これをベースに、「ハリル後」は日本人ならではのアジリティとスピードを生かした軽快なパスサッカーを注入する。こっちのやり方は基本ポゼッションだから、守備がベースの硬いチームとやるとき生きる。もしくは同じタイプ同士でパスを丁々発止する機敏なサッカーになる。

 つまり前者のスタイルについてはすでにハリルが作った雛形があるわけだから、この土台の上に真逆のスタイルを積み上げるわけだ。そうすれば、どんな相手とやるときも敵の出方に応じてうまく危機対応できるようになる。

相手や局面に応じて複数の戦術を使い分ける

 ただし後者のパスサッカーは「組織中心だから個の力はいらない」なんてことは無論ない。理想は原口や本田、長友のようなフィジカルの強さをベースに、ルーズボールを激しいデュエルで支配下に置く。またいったんボールを失えば、素早く攻守を切り替えて組織守備に入る。

 逆にマイボールのときには長短のパスをつなぐが、そのとき相手の陣形がどうなっているかを瞬時に察知し、パスの種類と味方の動きを使い分ける。もし相手の守備隊形が崩れているなら、正確なロングフィードでタテに速く。相手がガッチリ守備の態勢を整えているなら、うしろから丁寧にビルドアップして斜めや横のショート&ミドルパスをつなぎながらゆさぶりをかけ、相手の守備のほころびを作る。

 パスワークは第3の動きやクサビを入れながら人とボールをよく動かす。運動量が必須だ。パスの角度や味方の左右どちらの足元に出すか? 前のスペースを狙うのか? など精密にパスをあやつる個の力が必要になる。

 また敵味方の配置を見て、必要ならサイドチェンジを入れ大きな展開を忘れない。くれぐれもショートパスだけをつなぐ「小さいサッカー」に陥らないことが肝要だ。加えて中央突破に固執せず、サイドをうまく使って攻めることも重要になる。

 もしハリルがロシアW杯の本番までに、上に書いたような後者(パスサッカー)の積み上げをできるなら問題ない。だがおそらくそうはならないだろうから「応用編」はハリル後に期待したい。ひとまずロシアW杯はハリルのサッカーでどこまで行けるか? を見るのも貴重なデータになるだろう。

 もうひとつサッカー協会には、W杯が終わればいままでやってきたことを全部チャラにして新監督に丸投げするのでなく、「ハリル時代にはここまで土台を作った。あとはその上に何々を積み上げよう」というふうに、長い目で将来を見た代表運営を望みたい。

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【サッカー日本代表】ハリルジャパンになって変わったこと

2017-09-18 09:55:45 | サッカー戦術論
目を見張る正確なロングフィード力

 サッカー選手の個の能力は、フィジカルやメンタル、トラップの精度、キックの正確さなどいろいろあるが、ハリルジャパンの時代になって特にめざましく進化したのはロングパスの精度だ。

 以前の日本代表には正確なロングボールを蹴れる選手がいなかった。だから前線に長いボールを入れると、すなわちそれは「アバウトな放り込み」になっていた。一方、短いパスなら思ったところに蹴りやすい。ゆえに日本人選手はどうしてもお互いに近い距離を保ち、ショートパスを交換するスタイルになりがちだった。よくいわれる「距離感が大事だ」というやつだ。

 ところがハリルジャパンになって、目を見張るような正確なロングボールが目立つようになってきた。これは「タテに速く」というハリルの指示が結果的に長い縦パスを目立たせている、という側面もある。だが少なくとも日本人選手が出すロングパスの精度は、昔とくらべ飛躍的に上がっているのはまちがいない。

 特に長谷部と吉田、森重、井手口はすばらしいロングボールを蹴れる。彼らはフィールドを斜めに横切るサイドを変える正確なボールを出せるし、しかも前線にいる味方選手の足元に長いパスをぴったりつけることができる。

 ことに若い井手口は相手ボールを狩る能力ばかりが取り沙汰されるが、見逃せないのがフィード力だ。特に左サイド深くでボールを奪った後、逆サイドの高い位置まで味方の足元へぴたりと正確につけるロングフィードに威力がある。

 おそらく彼の中では、ボールを奪ったらまず逆サイドを見ることが習慣づけられているのだろう。なぜならボールサイドに敵味方の選手が密集しがちな現代サッカーでは、相手からボールを取ったらガラ空きの逆サイドにボールを振れば攻撃がスムーズに行くからだ。

 いずれにしろ味方が近い位置にポジショニングし合い、ショートパスをチマチマ何本も繋いでいた過去の代表から考えれば隔世の感がある。こんなふうに選手の「個の力」が上がりキックのバリエーションが増えれば、それがチームのスタイルを根こそぎ変えてしまう。つまり個とスタイルは別個に存在するのではなく、互いが互いを補い合う「相互補完の関係」にあるのだ。

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【サッカー日本代表】ハリルは自己の哲学を押し付ける独裁者か?

2017-09-14 09:58:58 | サッカー戦術論
遅攻&ポゼッションで勝てなくなった日本

 ずっと謎だと思っていることがある。ハリルはもとから、持論として守備からの縦に速いショートカウンターを掲げていたのか? それとも日本に合わせてあのスタイルを考えたのか? おそらく後者なのだろう。なぜそう思うのか? 説明しよう。

 ハリル就任前、本田や香川がスタメンを張っていた時代のサッカーは、グラウンダーのショートパスを主体とするポゼッション・スタイルだった。

 グラウンダーのショートパスをつなぐには、当然パスのコースが必要だ。で、コースを切られているときは、彼らは何度でも横パスやバックパスをして最終ラインでボールを回し、時間を作ってはまた前につなごうとする。だがまたパスコースを切られてバックパス。これを繰り返していた。

 すっかりバックパスがクセになり、相手からボールを奪えばひとまずバックパスをする。で、ひと休みしてから考える。そんなスタイルになっていた。よくいえば一度ボールを保持したらぜったい相手に渡さない遅攻タイプのポゼッションサッカーだ。

ハリルの処方箋が日本サッカーを「矯正」した

 だがボールを奪った直後に横パスやバックパスをすると、みすみす相手に守備の隊形を整える時間の余裕を与えてしまうことになる。

 なぜって、それまで敵は自分からわざと守備のバランスを崩して前がかりになって攻めていたのだ。ゆえにボールを奪った直後は、相手の守備隊形が整っていない。そこで素早く攻守を切り替え、相手の守備の態勢が整う前に速く攻め切ってしまう。つまり相手ゴールに直結する縦パスを通して速攻をかける。そうすれば得点の可能性は高くなる。それがハリルの唱えるタテに速いサッカーだ。

 どうだろうか? ハリルが打ち出したコンセプトは見事に、横パスやバックパスを繰り返して敵に守備の態勢を整える時間をやり、ますます自分から攻めにくくしていた以前の日本サッカーを矯正する処方箋になっているではないか?

 おそらく分析オタクのハリルは以前の日本サッカーを分析しまくり、「彼らの欠点を修正し、勝てるサッカーにするにはどうすればいいか?」を考えた。で、実行に移した。そういうことなのだろう。

 別にハリルは自分がもともと持っていた高邁なサッカー哲学を押し付けているのではない。ハリルがしきりに唱えているのは、「改善策」なのである。

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【サッカー日本代表】激しいアップダウンを繰り返す両SHはあれが基準か?

2017-09-13 08:11:44 | サッカー日本代表
攻め込まれると5-4-1、6-3-1に

 4-1-4-1のハリルジャパンは相手のSBが上がると両SHがついて下がり、最終ラインに吸収されて6バック、5バックになる。5-4-1、6-3-1みたいな形だ。特にサウジ戦ではそれが顕著だった。

 相手ボールになれば最終ラインまでもどり、マイボールにすると今度は最前線まで上がって行く。そんな激しいアップダウンはもともと原口がやり始めた動きだが、サウジ戦では本田もやっていた。ここで3つの疑問がわく。

 あれは(1)そもそもハリルの指示なのか?(2)あれが90分間もつのか?(3)「攻め残り」という発想はないのか? である。

11人で守り、11人で攻める

 まず(1)についてだが、両SHが最終ラインまで下がるあのプレイはチームとして共通理解があるのか? つまりハリルの指示なのかどうかだ。原口が勝手に1人でやってるんじゃなく、本田まで同じことをやってるんだからおそらく指示が出ているのだろう。

 このチームは「まず守備から」だぞ、と選手にコンセプトを明示する狙いだろうか。「われわれは引いた形が基本であり、そこから前にカウンターを繰り出すのだ」。11人で守り、11で攻める。そういうことだろうか。

 SHが攻め上がって相手ボールになったとき、トイ面の敵SBが上がる動きをすれば味方にマークを受け渡す、という考え方もある。こうしてSHが攻め残れば、次にマイボールになったとき高い位置で攻めの基点になれる。だがハリルはどうやらそういう考え方はしないようだ。

 そうじゃなく敵SBにマンツーマン的について行き、自陣の深い位置までもどる。で、守備ブロックを再構築して相手の攻めに備える。そういうことなのだろう。となると問題は、そういう激しいアップダウンが90分間もつのかどうかだ。

「いや俺はそんな考え方はしない。スタメンの11人でサッカーをやるんじゃなく、控えを使うベンチワークまで含めてトータルで考えてるんだ」

 そうハリルに言われてしまうと二の句が継げなくなるが。

 それにしてもSHはあんな動きを常に求められるのだとしたらかなりの重労働だし、特にコンディションに問題を抱える本田には無理だろう。とすれば本田はやっぱりほかのポジションで使うか、フェイドアウェイか? のふたつにひとつじゃないだろうか。


(追記)今まで本ブログでは、アンカーを置くホームのオーストラリア戦のようなシステムを4-3-3と表記していた。だがハリルジャパンではサイドの選手の守備の負担が高いことを考えると、原口や本田のポジションはWG(ウイング)というよりSH(サイドハーフ)だ。そこで今後は4-3-3ではなく、4-1-4-1と表記することにした。

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【サッカー日本代表】世代交代は「悪」か?

2017-09-12 08:31:13 | サッカー日本代表
世代交代を極端に毛嫌いする人々

 日本のサッカー界には「世代交代」なる言葉を極端に毛嫌いする人々がいる。印象ではクラブや協会側だけでなく、特にサッカージャーナリストに多い感じだ。彼らは台頭する若い選手に記事でふれるときにも、「いや世代交代というよりいい意味の競争が〜」などと、なんだか持ってまわった書き方をする。非常に不思議だ。

 ではなぜ彼らは世代交代という言葉を否定したがるのか? 理由は3つ考えられる。

 まず第一に世代交代に対する誤解だ。世代交代なるものは、まだ試合に出る能力がない若い選手を「えこひいき」し、ベテランを押しのけ試合に出してやることで「人工的に」進めるものだ、と考えている層が一定数いる。だから「世代交代は悪だ」となる。なぜこんなアクロバチックなカン違いをするのかよくわからないが、確かにそういう人々はいる。

 ふつう世代交代って、若手がグングン伸びてきて力でベテランを押しやり自然に勝ち取るものだと思うのだが、まちがっているだろうか?

ベテラン選手と利益共同体を形成している

 第二には、選手とジャーナリストの癒着だ。記者は選手としょっちゅう顔を合わせているから、選手に都合の悪いことは書かない「ナアナア」になる可能性も高い。で、若い選手が伸びて「すわ世代交代か?」てな雰囲気が出てくると、仲のいいベテラン選手を慮って「世代交代など、どこの話か?」「まだまだベテランのA選手は必要だ」のような記事を書き、「火消し」をする。

 もっとハッキリしている場合は、特定のベテラン選手と任意のジャーナリストが「利益共同体」を形成している場合だ。

 いろんなパターンが考えられるのでいちいち列挙できないが、たとえばベテランのA選手の本を書いて以降いろいろネタをもらっているから悪く書けない、公私にわたる付き合いもあるし、とか、何らかの契約関係にある場合などいろいろ考えられる。もっと単純にベテランの人気選手Aのコメントを紙面にデカく載せればよく売れる、だからいなくなられると困る、なんてのもあるだろう。

 つまり世代交代なんぞが起きてしまうと「商売上がったりだよ」みたいなケースだ。この場合も世代交代の流れが自然に出てくると、火消し記事を書いて世論を誘導し情報操作することが考えられる。

 いずれにしろ健全じゃないよなぁ、と思う。みなさんもみょうに世代交代を揶揄するような記事を見かけたら、眉にツバつけながら読んだほうがいいかもしれない。

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【サッカー日本代表】落日の本田をどこで使うのか?

2017-09-11 09:49:10 | サッカー日本代表
周囲の味方と共通理解がない

 サウジ戦前半で象徴的なシーンがあった。本田が中盤に下がってボールをもち、ゴール前へグラウンダーのクサビのボールを放った。だが周囲は「このパスの意図はなんだ?」みたいな感じでボールを迎え入れる動きがなく、たちまちサウジの守備者にパスカットされてしまった。

 これがザックジャパン(における香川あたり)ならあのクサビに素早く反応し、ボールをはたくなり、ワンツーなりを本田と咬まして立派にゴール前で攻めになっていただろう。つまり今のハリルジャパンでは、本田と周囲に共通理解がないのだ。

 本田だけが別のサッカーをやろうとしている。そして本田はそのことをもちろん理解していながら、決してチームのスタイルに合わせて自分を変えようとしない。これでは好むと好まざるとに関わらず、自然に世代交代が進んでしまうだろう。なんせ本田の意図を理解し本田と噛み合う選手が、もう代表にはいないのだからいかんともし難い。

4-3-3の右インサイドハーフでは?

 だが実際のところ、本田はコンディションさえよくチームのスタイルにハマれば、まだまだ活躍の場はあるはずだ。このブログではもう何度も指摘しているが、そもそもスピードと個による突破力のない本田に、それらが強く要求される右WGはマッチしない。本田には「それら以外の能力」があるわけで、つまり適材適所じゃない。

 では本田をどこで使うのか?

 彼は所属チームでは4-3-3の右のインサイドハーフで出場したりしている。一方、今後ハリルジャパンでも、オーストラリア戦のやり方(4-1-4-1に近い4-3-3)がベースになる雲行きだ。ならば代表でも右のインサイドハーフとして彼の体幹の強さとキープ力を攻撃に守備に使うのはアリだろう。

 ただし本田が所属チームでコンスタントに試合に出ておりコンディションがよく、かつハリルジャパンのスタイルに順応することが出場の絶対条件だが。

偽9番で替えのきかない大迫のオプションに

 あるいは本田を偽9番として、ワントップの大迫と競わせる(別オプションにする)というテもある。本田の偽9番はオーストラリアとのアウェイ戦でもぴったりハマっていた。

 一方、最前線でボールを収め時間を作る大迫は、サウジ戦で証明されたように替えのきかない選手である。もしその大迫が何かの事情で試合に出られないとき、埋めがたい穴が開く。そこで本田を「最前線のゲームメーカー」として偽9番で使い、前でタメを作らせるというのは有力なオプションになる。

 また大迫の代わりに本田に時間を作らせるという意味では、大迫が欠場したとき本田を4-2-3-1のトップ下で使い、最前線でなく中盤で本田にタメを作ってもらうという考え方もある。(が、ハリルはこのパターンはやらないんだろうなぁ)。まあ個人的には、デュエルに強く守備に粘りがある本田にはボランチをやってもらうのがいちばんいいと思うのだが。

 いずれにしろ本田はコンディションさえよければ、まだまだ使える。その彼をどこで、どう使うのか? 監督の手腕が問われる分水嶺になる。ハリルならびっくりするような「解」をひねり出すような気がしている。

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【サッカー日本代表】ポゼッション率が試合の優劣を決めないサッカーで勝つ

2017-09-10 10:34:27 | サッカー戦術論
「あのサッカーでいいのか?」という永遠の課題

 ハリルジャパンは、(オーストラリア戦のように)汗臭く、泥臭く、走りに走って運動量でダイナミックに圧倒するスタイルである。彼らは、(1)わざとボールを持たず、逆に相手にボールを持たせて、(2)敵ボールホルダーを集団でハメてできるだけ高い位置でボールを奪い、(3)敵が守備のバランスを崩しているうちにショートカウンターで素早く点を取って勝つサッカーだ。

 となれば当然、「華麗さ」とか「惚れ惚れする」みたいな感嘆ワードとは縁遠い。

 かくて常に「日本はあのサッカーでいいのか?」という議論の的になる。いや、かく言う私も日本にはメキシコみたいに躍動するパスサッカーが向いていると思っている。日本人ならではのアジリティを生かし、鬼ごっこのようにひらりひらりと機敏なパス回しで敵をかわしゴールを取るサッカーだ。

 実際、Jリーグが始まって以降の日本代表を振り返れば、ジーコジャパンやザックジャパンのようにパスでポゼッション率の向上をめざす攻撃型のチームが目立った。いわば彼らは夢見る理想主義者たちである。だが結局、成績がよかったのは、2010年南アフリカW杯でベスト16を取った第二次岡田政権のような守備的な現実主義者たちだった。

 実は短期的に結果を求めるなら、もう結論は出ているのだ。

 いや100年計画でタマを仕込めばドイツのように圧倒的なポゼッションサッカーで日本も勝てるようになるかもしれない。それはそれでうれしい誤算だし、もちろんそのときは私も支持するだろうが。

アギーレから途中でバトンタッチされたハリルの選択

 こんなうふに日本人の血の中には「パスをつないで勝ちたい」という業のようなものが渦巻いている。だが少なくとも短期計画でこれまで好成績を収めたのは、「労働者」たちが汗をかく現実主義的なプロジェクトが多い。さて、ここまでが前提だ。

 では、いま代表監督をやってるハリルさんはどんなふうに就任したか? アギーレ監督のうんちゃら疑惑で急遽、決まったお人である。ワールドカップはただでさえ4年サイクルの短期計画なのに、ハリルに残された期間はそれよりさらに短い。で、ハリルは当然、超短期で結果を出せるいまのスタイルでチームを作った。まさに水が高いところから低いところへ流れるかのように自然な成り行きだ。

 いや、「日本はあのサッカーでいいのか?」と疑問を呈する人たちが、こう言うなら話はわかる。

「ハリルさん、あんたに向こう100年間、時間をやるよ。その間はどんなに負けてもいいから、体幹鍛えて日本人のフィジカルを根本的に変え、もちろん針の穴を通すボールコントロールも身につけさせて長期計画でドイツみたいにポゼッションで圧倒するチームを作ってよ」

 だけど当然そうじゃないわけでしょう? (というか「それ」は代表じゃなく育成の仕事だ)

 なのに「3年で結果を出せ。ただしスタイルはパスサッカーだ。ポゼッションで敵を圧倒しろ」。こんな無茶なオーダーはない。繰り返しになるが、そもそも過去の代表の成績を見れば結論はすでに出てるんだから。

バカ正直な日本人にズル賢さを仕込んだ

 もし日本にハリルというクセ者がやって来なければ、日本代表はタイみたいに素直にボールをつなぐだけで、「敵をハメて」ボールを奪い点を取って勝つサッカーにはなかなか脱皮できなかっただろう。その意味では革命家・ハリルに乾杯を、だ。

 もし彼がいなかったら「相手の良さを消す」なんてズル賢い発想は、バカ正直な「正々堂々」の日本人には身につかなかったろう。未だに「パスが何十本つながるか?」だけで優劣を競うザック・ジャパンやジーコ・ジャパンみたいな正直サッカーしかできていない(で、未だに日本は勝てなかったはずだ)。

 それこそ相手がイヤになるぐらいボールを回して(だが点が取れずに)一発のカウンターに沈むサッカーで終わっていただろう。いままでがそうだったように。

 アジアでは強者だった日本が、あえて弱者のサッカーに徹するという逆転の発想をしたからこそ「ここ」に到達できた。もちろん本番はこれからだからまだなんともいえないが、このサッカーならある程度の強い相手(ポゼッションしてくる敵)とも、うまくスタイルが噛み合ってひどい大崩れはしないだろうという読みが効く。

カウンターとポゼッションをモードチェンジせよ

 もちろん本田と香川がポゼッション・サッカーへの転換を謳い、反乱を起こす可能性もある。だがそれも程度問題で取り入れるのはアリだ。彼らの突き上げを奇貨として、変幻自在にカウンターとポゼッションをモードチェンジするという選択は十分ありうる。

 ハリルの指示だけを聞きタテへ急いでばかりではスタミナが消耗する。また日本人が苦手なイーブンボールを競り合うフィジカル勝負になりがちだ。そんなときには試合の状況や得点差、疲労の度合いなどに応じ適宜ポゼッションして時間を作り、次への展開を仕込む必要もある。

 ポゼッションでタメを生み出し、その作った時間の間に味方がダイアゴナルランしたり、マークを外す動きをしたり、ウラのスペースへ飛び込んだり。そんなパターン・チェンジを嚙ますことが次なる日本の目標だ。時には流れるようなパスワークを見せてお客さんを魅了する時間帯があってもいい。

 こうしたポゼッションとカウンター狙いのベストミックスは、今後のハリルジャパンの大きなテーマになるだろう。その混ぜ合わせが完成すればチームはグッと円熟度を増す。

 例えばリードしている時の時間の使い方ひとつ取っても、ゾーンを下げて相手にボールは持たせるが決定的なチャンスは作らせない、という時間の使い方もあれば、危険な味方ゴールからより遠い高い位置(敵陣)でボールをキープし続けて時間を使うという考え方もある。

 加えてボールを放棄して待つばかりでは、相手はこちらの動きを読みやすい。ときにはポゼッションを混ぜて支配する時間帯も作れば、敵は次に日本が何をやってくるか予測不能になる。的を絞りにくいし、研究し対策を立てる作業も難航するだろう。

ワンパターンでは対策を立てやすい

 例えばもし私の率いるチームがいまのハリルジャパンと試合するとしたら、どんな指示を出すだろうか?

「お前ら、あいつらは特に前後半の立ち上がりはハイプレスでくるぞ。そういう時間帯はムリに最終ラインからビルドアップせず、縦や斜めに適宜ロングボールを入れろ。そうすればやつらのハイプレスは空振りし、(ロングボールに対応しようとDF陣は下がるから)敵の陣形をタテに引き延ばすことができる。そうなればやつらは前後が間延びし中盤にスペースができる。そこを狙え」

「で、こっちのロングボールを警戒して日本の陣形が全体に低くなったら、今度は手前にスペースができる。つまりそのスペースを使って我々は最終ラインからビルドアップしやすくなる。そうなればしっかりポゼッションしろ」

「それから日本はボールサイドに人数をかけて守ってくる。その状況では、カットされやすいショートパスをつなごうとするな。相手ボールのときも同じだ。密集地帯で日本からボールを奪ったら、まず空いている逆サイドを見ろ。で、サイドチェンジを入れて敵を撹乱しろ」

 こんなふうに同じパターンでくる相手なら、研究し読みを効かせてゲームプランを練ることができる。だが日本が守ってカウンターだけでなく時にはパスをつなぎポゼッションもしてくるとなれば、対策は一筋縄ではいかない。単純に考えて2チーム分の参考書「傾向と対策」を徹夜で上げなきゃならなくなる。

 ただし、いまからパターンを増やせるかどうかは、W杯本大会までに「どこまでできるか?」という勝負になる。ゆえに日本は弱い相手をホームに迎えて「顔見せ興行」をやってる場合じゃない。できればアウェイで格上の相手と1試合でも多く強化試合をする必要がある。

 もちろんビジネスとしてのフットボールを成功させることは重要だ。だが残り時間が少ないいま、できることは限られている。あとは強化試合の日程と対戦相手のグレードを、協会にはいま一度揉んでほしい。

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【サッカー日本代表】ハリルの選手起用は諸刃の剣だ

2017-09-09 10:49:11 | サッカー日本代表
問題点は3つに分類できるハリルの用兵術

 最終予選を突破した今でこそ「スタメンは毎試合、猫の目のように変わる。ハリルは特定の選手にこだわらないカメレオンだ」などと選手起用がマジックであるかのように大絶賛されている。だが過去を振り返れば、W杯アジア二次予選のころの選手起用は本当にひどかった。あれがいつまた顔を出さないとも限らない。そこで今回は警鐘を鳴らす意味でハリルの用兵術を分析してみたい。

 ぶっちゃけ、ハリルのスタメン選びは諸刃の刃だ。よく言えばハリルのこだわり、悪く言えば頑迷さが足を引っ張ることがある。おおよそ問題点は以下の3つに分類できる。

(1)ハリルがその選手の技術やセンスに傾倒するあまりの頑なな囚われ、(2)ヨーロッパ・ブランドへのあくなき固執、(3)奇策に近い選手起用で自己アピールしたがるハリルの自己顕示欲ーーこの3点だ。

 特に(1)については、ハリルはテストマッチやW杯アジア二次予選で好不調とまったく関係なく香川と宇佐美に執拗なまでにこだわった。あれを見て「ああ、この監督はもう切らないと危ないぞ」とさえ思えた。で、(1)の理由から私は一時、監督解任を唱えた。私は戦術面ではハリルを支持する。だがメンタルもデュエルもダメでファイトできない香川とハリルが心中するつもりなら、「もう監督ごと香川を切るしかない」と判断したからだ。

二次予選ではヨーロッパ組を完全固定で使った

 一方、(2)については説明の必要はないだろう。相手チームがかなり格下のアジア二次予選など若手の発掘に使えばいいのに、ハリルはヨーロッパでプレイする選手にえらく固執した。ヨーロッパ由来の「黄金メンバー」を完全固定で何試合も続けて使い、頑としてスタメンを変えなかった

 現在では井手口や昌子らJリーグ勢を起用するなど以前より柔軟になったが、いまでも「私はずっと彼を追跡してきたんだ」などと自慢げに言い、ヨーロッパのクラブに所属する無名選手を呼び試合でまったく使わないなどの前科がある。

 この点は(3)とも関係するが、おそらくハリルの自己顕示癖なのだろう。要は「だれもあの選手に注目してないが、世の中で唯一オレだけは彼の良さを見抜いていたんだぞ」的な自己アピールのしかたである。日本人なら「なんだか小児的だなぁ」と引いてしまうが、「オレはこう考える」とハッキリ自分を前面に出し他人ととことん議論しようとするフランス文化の影響下にあるハリルにとっては自然なことなのだろう。このへんはトルシエとそっくりで非常に興味深い。

「どうだ? 驚いただろう?」と奇策を繰り出す

 さて、(3)の問題も賛否両論アリだ。ハリルは自分に酔った奇策を使い「どうだ? 驚いただろう?」と見る者の度肝を抜くことで自己アピールするクセがある。例えば本田を突然偽9番で使い、自陣に引きこもったW杯最終予選オーストラリア戦でのアウェイ対決。かと思えば逆に迎えた大一番のホーム戦では井手口、浅野という若手を大胆にスタメンに抜擢、香川と本田の二枚看板を控えに回した。

 こうした大胆采配は、ハマればいいが外れると痛い失敗をする。あのトルシエの「2002年日韓W杯トルコ戦」と化す危険性が常について回る。例えば過去に原口をボランチやトップ下、SBで使ったりもしたが、一度もコンバートは成功していない。またスピードと個による突破力のない本田を、それらの能力が特に要求される右WGとして固定的に考えるのも見直しの余地があるーー。

 繰り返しになるが、私は戦術的にはハリルを支持する。だが選手起用に関しては、ハリルはいつ自爆してしまうかわからない「自分の異能」と隣り合わせにいることを忘れてはならない。

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【サッカー日本代表】リアルに徹してひたすら勝利をめざす

2017-09-08 08:41:51 | サッカー日本代表
EURO 2004で優勝したギリシャの姿がよぎる

 もしロシアW杯本大会の初戦、ハリルのチームが頑なにポゼッションにこだわるスタイルに変わっていたとしても、ちっとも驚かないだろう。ハリルにとってスタイルやシステム、選手選考は単に勝敗を決める1要素にすぎない。「相手と噛み合わせるにはどうすればいいか? そのために必要なことを必要なときにやる」。それがハリルの戦術だからだ。スタメンやシステムを固定して熟成させる、なんて日本人的な発想は彼にはないのだろう。

 見る者を陶然とさせるような美しさはないけれど、効率を重視しリアルに徹してひたすら勝利をめざす。ハリルジャパンはそんなチームだ。ロシアW杯アジア最終予選。ホームで劇的な勝利を収めたオーストラリア戦を振り返れば、日本はポゼッション率で相手を4:6と下回っているのに、シュート数は敵の3倍もあった。非常に効率的である。

 かつてギリシャはUEFA EURO 2004で優勝したが、「弱者」の彼らが優勝するなんて誰も想像だにしなかった。ギリシャは自分たちが弱者であることを認識し、日本と同様、リアルに徹し自分たちにしかできないサッカーをやった。自陣に引いてボールを奪ったら、ハイテンポでパスを回し5〜6人が攻め上がる彼らのコレクティブ・カウンターは爽快だった。

 またスタイルはまったく違うが勝ちに対するこだわりや粘りという意味では、ハリルジャパンのメンタルはかつて黄金時代を築いたドイツのようなチームといっていいかもしれない。「なんだかんだ言って最後にフィールドに残っているのはドイツ人だ。うんざりする」と彼らは敗者にイヤがられた。無骨で決してカッコよくはないけれど、日本もそんな頼もしいチームになれればいい。最後にフィールドに残って祝杯をあげるのは我々だ、そう言いたい。

入れ替わり立ち代りラッキーボーイが出た

 アジア予選を振り返れば、入れ替わり立ち代りラッキーボーイが出たのが大きかった。相手ボールになったら最終ラインまで戻り、マイボールにすればまた最前線まで上がって行く原口はその壮絶なアップダウンで一時代を築いた。

 久保も高い得点力でひと頃のチームを支えた。そして最後に爆発したのは若い井手口と浅野だった。原口のコンディションが落ちたら久保が台頭し、次は井手口と浅野にお鉢が回ってくる。そんなふうに常にそのとき調子のいい選手がブレイクすることでチームは好回転になった。

 確かにメッシやロナウドのように「個人力」で際立つ選手はいない。ハリルジャパンは泥臭く11人で勝つサッカーだ。原口や久保は一時的にスタメン落ちしたとしてもコンディションさえよければいつでも任せられるし、井手口と山口蛍という中盤の狩人は今まさに黄金時代を築こうとしている。これにまだ柴崎や武藤、清武が控えているのだ。まったくワクワクする。お楽しみはこれからである。

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【ロシアW杯最終予選】サウジ戦でわかった日本のアキレス腱

2017-09-07 10:16:40 | サッカー日本代表
大迫の穴をどう埋めるか?

 日本の足りない点があれこれ見つかったサウジ戦だった。予選の最中にわかって本当によかった。これでW杯本大会までに修正することができる。

 まずハッキリしたのは従来のスタメン陣と控え組との力の差だ。特に最前線でボールを収め、時間を作れる大迫の穴はデカい。日本はボールを奪ったらまず大迫に預けてタメを作ってもらい、その間に攻撃陣が前へ上がる、というパターンが確立している。それだけにターゲットになる大迫の穴が大きい。

 解決策はふたつしかない。大迫と同じことを同レベルでやれる人材を開発するか? またはワントップのポストプレイを起点に全軍がすばやく攻撃態勢に入る、という以外の新しい攻撃パターンを作るのか? ふたつにひとつだ。

 しかも、これは大迫が出場している場合も同じである。もしW杯本大会で、アジア基準とは格段の差があるワールドクラスのセンターバックに大迫が封じられると、たちまち日本は何もできなくなる可能性がある。となれば大迫が抑えられたときの攻めの確立は急務になる。

 まず考えられるのは、左サイドの長友がアシストしたオーストラリア戦の1点目のような形だ。SBを使ったサイド攻撃である。それにはビルドアップの段階からSBが高い位置を取り、サイドに基点を作りながら攻めるのが肝要だ。両WGと同サイドのインサイドハーフがSBのオーバーラップをサポートし、彼らを「使ってやる」ことがポイントになる。

 相手の攻めを切って最終ラインでマイボールにしたら、アンカーがひとつ下がって両センターバックとともに3バックを形成し、そのぶんSBが前に高く張り出すというパターンもあるのだが……ハリルはこれはやらないんだろうなぁ。

ポゼッション・スタイルとの融合を

 お次はカウンター頼みからの脱却だ。サッカーには当然ながら相手があり、である以上は相手がどんなやり方をしてくるか? によってこっちもやり方を考える必要がある。また自分たちがリードしているのかどうか? や、その得点差など試合の状況によってもやり方は変わってくる。となれば今のように速いカウンター一辺倒ではパターン不足になる。

 そんなときには、本田が志向しているようなポゼッション・スタイルをモノにしておけばやりやすい。例えば自陣に引いてカウンター狙いでくる相手には、押し上げてじっくりポゼッションする。

 あるいはリードしているときには、リスクを減らすためできるだけ相手陣内でポゼッションして時間を使う。またはリードされているとき、積極的にボールを握って前がかりで行く、という考え方もできる。

 こんなふうに持ち前の速いショートカウンターとポゼッションを併用すれば、グンとバリエーションが豊富になり、どんな状況にも適切に対応できるようになる。

 ポゼッションするとなれば、後ろからマイボールを大切にしてビルドアップする時間帯を作る必要もある。ていねいにビルドアップするためには、前の選手がオフ・ザ・ボールの動きをしてパスの角度を作ってやることが大切だ。

陣形が間延びするよ問題

 もうひとつ、陣形が間延びする問題もサウジ戦で目立った。最終ラインと最前線の距離が開いてコンパクトに保てなくなると、マイボールにして攻めるときには後ろからのサポートがしにくくなる。逆に相手ボールのときにこうなると、敵の攻めをはじき返してクリアしてもクリアボールを拾われて2次攻撃を受ける。

 マイボールのときにはしっかり押し上げる。相手ボールのときには前の選手はプレスバックをサボらない。基本的なことだが、これがすごく大事だ。

 ほかにサウジ戦で目についたのは、人はいるけどボールウォッチャーになってバイタルにパスを通される、とか、前がかりになったところでボールを奪われカウンターを食らう、とか、バックパスを狙われてるぞ問題とか。

 あとはディフェンディング・サードからの1本目の縦パスが狙われる、そこでグラウンダーの縦パスを出すならカットされないようもっとボールスピードが必要だぞ、みたいな細かいことだ。まあそのへんは分析オタクのハリルならもう分析してるんだろう。以上、修正点をしっかり見直して本番に備えたい。

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【ロシアW杯最終予選】ストロングポイントを捨てた必然の敗戦 〜サウジ1-0日本

2017-09-06 09:41:39 | サッカー日本代表
未完のポゼッションにトライし自滅する

 日本は持ち前のショートカウンターに加え、ポゼッション・スタイルに挑戦して自滅した。日本は最終ラインからグラウンダーのパスで丁寧にビルドアップしようとするが、暑さのせいか味方の動き出しが悪くパスコースを作れない。で、ビルドアップの1〜2本目の縦パスをカットされてカウンターを食らう。サウジはショートパス主体に多くのボールをつなぎ日本の守備陣を混乱に陥れた。

 ただ失敗はしたものの、カウンターとポゼッションの融合は意義あるトライだ。これまでのようにタテに速いカウンター一辺倒ではフィジカル勝負になりがちである。そのため体格のいいヨーロッパの選手に競り負ける可能性もある。そんなときポゼッションできれば相手のやり方を見て変化をつけられるし、疲労時の体力温存にも効く。また自陣に引きこみブロックを作る相手にもポゼッションは有効だ。日本はW杯本大会までの期間にぜひ、ポゼッション・スタイルを自分のものにしてほしい。

 日本のシステムは4-3-3。右サイドに時間を作れる本田を入れポゼッションに挑んだ。ディフェンスラインは右から酒井(宏)、吉田、昌子、長友と不動の4人。中盤のアンカーに山口を置き、右のインサイドハーフに期待の柴崎、左のインサイドハーフには豪州戦でブレイクした井手口を配した。左WGには原口、ワントップはベテランの岡崎だ。

ロングボールを封印し足元勝負へ

 立ち上がり、日本は例によってハイプレスから入った。日本の圧力が強く、タテにボールを繋げないサウジは横パスとバックパスを繰り返す。この日の日本はタテへのロングボールをまったく使わない。徹底して足元にグラウンダーのショート&ミドルパスを出してポゼッションしようとする。またバックパスして最終ラインでじっくりボールを回すなど、速攻一辺倒だったハリルジャパンでは珍しい光景が頻発した。まるでジーコジャパンかザックジャパンを見ているかのようだ。

 前半15分頃から日本はゾーンをやや下げた。相手ボールになるとリトリートして自陣に4-4のブロックを作り、相手を待ち受けるようになる。ゲームプラン通りなのだろう。暑さ対策の省エネ戦術だろうか。

 だが日本はこの形からボールを奪っても後ろからビルドアップできず、組み立て直すためにバックパスするところをサウジに狙われる。またバックラインから出る縦パスをカットされてカウンターを食っている。

 カウンターの場面ではワントップの岡崎に預けるボールが出るが、岡崎はキープし切れない。日本は次第に最終ラインと最前線の距離が開いて間延びするようになり、ますますビルドアップが難しくなって行く。そんなときにはロングボールを織り交ぜることも有効だが、この日の彼らはまるでオーストラリアのように頑固にショートパスにこだわった。

 前半の日本はいつもの鋭いカウンターもなければ、パススピードもない。ワントップにボールも収まらない。凡庸なふつうのチームに成り下がっていた。

バイタルにパスを通され失点する

 日本は後半の頭から本田に代えて若い浅野を投入する。スピードのあるサイド攻撃を意図したか、あるいはタメの作れる本田を下げてポゼッションをあきらめる狙いだろうか。

 後半の日本はバイタルエリアにパスを通されて苦しんだ。相手の攻撃を跳ね返しクリアしても、またボールを拾われて2次攻撃を受けている。

 後半18分の失点シーンは日本陣内でボールを回され、密集した中央で2本のダイアゴナルなパスを通されゴールを割られた。このときサウジは自陣から4本のパスを繋いでビルドアップしたが、特に3本目のパスをバイタルに通されたのが痛かった。日本は自陣にブロックを作り人はいたが、疲れからか足が止まってボールウォッチャーになっていた。

 日本の最終ラインは相手ボールに自分が先に触れるのに待ってしまい、自陣でボールをキープされ続けるシーンが目立った。また前線と最終ラインの間がますます間延びし、コンパクトに保てなくなる。前と後ろが分断される時間帯が増えた。

 後半22分には岡崎に代えてFWの杉本健勇、35分には柴崎に代えて久保を入れた。久保の投入でシステムを4-2-3-1にし、久保を中央のトップ下のような位置に置いた。だが期待の杉本は前線でポイントを作れず消えてしまい、久保も出場時間の短さのためか良さが出せなかった。

 日本は最前線でボールを収め、タメを作ってくれる大迫がいないと攻めにならない。大迫ら従来からのスタメン陣と、この日起用された控え組とのレベルの差が強く目についた。個人的には力のわかっている岡崎より、アグレッシブな武藤をぜひ使ってほしかった。

オフ・ザ・ボールの動きが足りない

 では修正すべき点はどこだろうか? まずビルドアップに関しては、SBを高い位置にポジショニングさせ、サイドにポイントを作る組み立てができなかった。またこの日のように後ろからショートパスを繋いでビルドアップするためには、パスの受け手になる選手がもっとフリーになる動きをする必要がある。オフ・ザ・ボールのフリーランニングが決定的に足りなかった。

 加えてリードされた後半は特に日本が焦りから前がかりになったところでボールを奪われ、カウンターを食らうシーンが目立った。南米やヨーロッパの中堅国はカウンターが得意なチームが多い。ここはW杯本大会でも注意する必要があるだろう。

 そんなわけで課題の出たゲームだったが、新しいトライをした上での失敗ゆえ悲観する必要はない。ビルドアップしポゼッションする戦い方は今後のテーマだが、ぜひマスターしておきたい。そうすればロングボールを使ったカウンター主体のこれまでの戦い方に加えバリエーションができる。局面や時間帯、相手との兼ね合いによって両者の使い分けがきく。 

 また控え組のレベルアップも重要なテーマだ。選手層の厚みはそのままチーム力となって跳ね返ってくる。W杯グループリーグ突破に向け産みの苦しみが続くが、その先には輝かしい栄光がある。ハリルジャパンの面々にはぜひこのヤマ場を乗り越えてほしい。

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【ロシアW杯最終予選】豪州戦はハリル・スタイルの完成形だった

2017-09-04 07:11:36 | サッカー戦術論
彼らのカウンターサッカーはW杯本大会でこそ生きる

 奇妙な仮定をしよう。もしあのロシアW杯最終予選のオーストラリア戦で浅野と井手口によるあの2本のシュートが入っていなかったら、どうだったか? 日本は単に守っただけで、何の意味もない。ただの引き分けだ。ウラを返せばあの2点があったからこそ、サッカーの神様は日本に微笑んだのだ。

 点を取って勝つことの重要性はそこにある。

 これが昔の日本、例えばジーコ・ジャパンやザック・ジャパンなら、豪州戦とはまるで逆の結果になっていただろう。ポゼッション率こそ6:4や7:3で日本は敵を圧倒していたはずだ。だがシュートが入らず(あるいは「シュートを打つ発想」そのものがなく)、逆に2-0で負けていた。あるいは引き分けで終わっていた。

 サッカーは「パスが何本つながったか?」で勝敗を争うボールキープゲームではない(逆に言えば昔の日本は今のタイのサッカーみたいに単なるボールキープゲームをしていた)。だから勝てなかった。

 つまりハリル・ジャパンはポゼッション率を意図的に敵に譲ったが、点を取ったからこそ勝てたのだ。しかもオーストラリア戦、ポゼッション率は4:6で劣っているが、なんと日本は敵の3倍のシュートを打っている。非常に効率的である。ひとことで言えば、ハリルのサッカーがハマったわけだ。

 いや細かく分析すれば豪州戦は別にデキがよかったわけじゃないが、少なくとも狙いはズバリ当たっていた。まず守って敵を引き出し、攻めてはカウンターで2点取って勝った。その意味においてはハリル構想の完成形といってもいい。

敵を引きつけウラにスペースを作る️

 ではハリル・ジャパンはなぜ昔の日本と違って点が取れるのか? それはいったんゾーンを下げて敵を引きつけて守り、相手のウラに十分なスペースを作らせてからカウンターを仕掛けているからだ。

 敵のウラにはぽっかり空いた空間があり、しかも相手は自分たちが攻めた直後だ。当然、日本がボールを奪った瞬間には、敵は前にかかって陣形が乱れている。

 日本はそこでポジティブ・トランジションを発動し、素早くタテに早いショートカウンターを見舞う。するとポゼッション率では敵に譲っていながら、3倍のシュートが打てる。すなわち「勝ちやすいサッカー」になる。非常に理にかなっている。

 しかも彼らがやっているサッカーは、相手が強くてポゼッションしバリバリ攻め込んでくるW杯本大会に向いている。W杯本大会でこそ敵のスタイルとガッチリ噛み合う。

リアリズムに徹している。だから勝たなければ意味がない

 ぶっちゃけ、ハリル・ジャパンのサッカーはゴツゴツしていて不恰好で汗臭い。リアリズムに徹している。子供たちが見て「僕らもあんなサッカーがやりたい」とあこがれるような華麗なサッカーではない。だから一部のメディアやサポーターは「あんな夢のないスタイルでいいのか?」と疑問を投げかける。

 だからこそW杯本大会で勝たなければ意味がない。いや実際、W杯本大会で勝つために仕込んできたサッカーなのだ。相手が強い本大会でこそ日本は強みを発揮する。もちろんジーコ・ジャパンやザック・ジャパンのときマスコミが騒いだように、「日本は当然決勝トーナメントに進みベスト4、いや優勝も夢じゃない!」などとバカみたいに煽るつもりなどまったくない。

 だが吉田中心のディフェンスラインがしっかり守り、サイドでアグレッシブに泥臭く粘って上下動しプレスバックをサボらない原口や乾、浅野、久保、武藤らが機能し、はたまた中央で長谷部や井手口、山口が閂に鍵をかけ、柴崎や清武が敵を切り裂くキラーパスを出して大迫が最前線で鉄板のポストプレイをすれば? 結果は自ずとついてくる。

 絶対に優勝はしないが、決勝トーナメントでおもしろい存在になれる可能性はある。

 なぜならハリルが仕込みを入れた無骨なショートカウンターは、W杯本大会でこそ生きるのだから。

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【ロシアW杯最終予選】まったく落ちない運動量。11人で勝つしぶといサッカーだ 〜日本2-0豪州

2017-09-01 00:41:40 | サッカー日本代表
走っては走るスタイルでW杯本大会出場をゲット

 ハリルは日本懸案の一大テーマだった世代交代をやってのけた。この日、起用した若い井手口と浅野が1ゴールづつ決めオーストラリアを完全シャットアウト。守っては崩れないブロックのバランスと、後半30分以降はゾーンを低く構えるうまい試合運びで流れを締めた。

 日本は4-3-3だ。スタメンはGK川島に、4バックのディフェンスラインは右から酒井(宏)、吉田、昌子、長友。中盤はアンカーに復帰が待たれた長谷部、右のインサイドハーフに山口蛍、左のインサイドハーフには若い井手口を置いた。前線はワントップに大迫を、右WGに浅野と左WGは乾だ。セットプレイはすべて井手口がキッカーになっている。

 対するオーストラリアは、3バックの前に2人のボランチを置く3-6-1である。立ち上がりから彼らは最終ラインからていねいにグラウンダーのボールでビルドアップしてくる。対して日本は最前線の3枚(右から浅野、大迫、乾)がアグレッシヴに前からプレスをかける。ボールを支配しようとするオーストラリアと、逆にボールを持つことを拒絶する日本の噛み合った対決だ。予想通りの展開である。

 前半15分以降、相手ボールのとき日本は立ち上がりよりややゾーンを低くし、ボールを持つ敵DFに対しセンターサークルの前半分あたりからプレッシングしている。これでマイボールになれば、早めにワントップの大迫にボールを当てる。敵を背負った大迫は絶対にボールを取られない安定したポストプレイで前線にタメを作る。彼のポストは鉄板だ。

 すると前半41分。左サイドで長友が下がりながらドリブルし、逆サイドへダイアゴナルなクロスを入れた。そのクロスが入った瞬間、オーストラリアのディフェンスラインは完全に足が止まり棒立ちになる。と、スピードのある浅野がそのウラのスペースに飛び出し、どフリーのシュートを仕上げた。1-0の先行!

 ディフェンスラインでボールをキープしているときのオーストラリアは、日本にプレスをかけられてもあわてない。前回のアウェイ対決のときとは、ここがまるで違う。落ち着きがある。まだ未完成だった前回とくらべ、彼らはうしろからビルドアップする自分たちのスタイルをしっかり自分のものにしている感じだ。

 対する前半の日本はリードはしているものの、オーストラリアと違いチームとしての積み上げがあまり感じられない。ボールが流れるスムーズさもない。ただし相手の良さを決定的に殺すチームカラーであることだけは確かだろう。

代表初ゴールの井手口は群を抜く「個の力」を見せつけた

 後半の立ち上がり、オーストラリアは畳み掛けるようにスピーディな攻めを見せる。ハーフタイムに指示があったのだろう。ただし日本のプレスは決して緩まない。一進一退の攻防が続く。

 そして大団円は後半37分だった。乾にかわり交代出場した原口が左サイドで粘ってタメを作り、井手口にボールが出る。すると井手口は左サイドから中にドリブルでカットインして思い切りよくシュートを振り抜く。目の覚めるような弾丸ライナーがゴールに突き刺さった。彼は少なくともアジア・レベルでは圧倒的な「個の力」を見せつけた。

 前半の日本はさしたるインパクトはなかったものの大きな破綻もなく、後半になるにつれジワジワとまとまりができて行く。後半30分以降はゾーンをさらに低く構えてまず守備から入り、リードを確実なものにする試合運びのうまさを見せつけた。

 さて、終わってみればハリル采配がドンピシャだ。起用した選手が起用に応え活躍する好回転になった。加えて日本はなんといっても絶対に落ちない運動量(特に守備時)がひときわ目を引いた。

 とはいえ本大会出場を決めたというのに、まったく喜びがない。出るべき結果が順当に出ただけ、という感じだ。ヨーロッパのチームならともかく、アジアのオーストラリア程度に日本が負けるわけがない。それに日本はまだ本大会で何も成し遂げてない。

 ただ頼もしいのは、日本は相手にボールを持たせ、走って走ってしぶとく守り少ないチャンスをモノにするショートカウンターを仕掛けていることだ。リトリートしっ放しではなく、プレスバックも怠らない。ネガティブ&ポジティブ・トランジションがいい。最前線3枚のフォアプレスだけでなく、中盤3枚もしっかり守備に効いている。そして、こういうサッカーは「強い相手に強い」。強豪ひしめくW杯本大会向きだ。それはハリル就任の頃からわかっていたことだが、こんなふうにしぶといタイプのチームになるとは思わなかった。

 だが日本の完成度はまだまだである。逆に言えば、チーム全体に伸び代がある(特に吉田と長谷部のイージーミスはかんべんしてほしい)。なんでもハリルはプライベートな問題で監督を辞めそうなのが気になるが……今後は若い選手が中心になり、本大会の決勝トーナメント目指してがんばってほしい。

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