すちゃらかな日常 松岡美樹

すちゃらかな視点で世の中を見ます。

【サッカー日本代表】香川の最大の敵は「自分自身」だ

2015-06-26 23:59:45 | 日本サッカー
ミスしてもネガティヴ・モードに陥らないメンタル・コントロール術

 香川の不調やその原因について過去いろいろ技術的な、あるいは戦術的な分析がなされてきた。もちろん理論づければいろんな見方ができる。だが香川の最大の敵は「自分」ではないだろうか。

 たとえば6月16日に行われたロシアワールドカップ・アジア2次予選のシンガポール戦。ブラジル・ワールドカップの結果を受け、香川は内心、期するものがあっただろう。メンタル的にいえば(無意識のうちに)自分で自分を追い込み、(意識的にかどうかは別にして)自ら高いハードルを設定して臨んだシンガポール戦だったのではないか。

 そしておそらくあの試合で彼のデキを決めたのは、前半11分の彼のあのシュートだ。右サイドにいた柴崎がダイレクトで出した縦パスに対し、ゴールに背を向けてボールを受けた香川。ワンタッチで鋭く反転し、ゴールに向き直ってカンペキなシュートを放った。だが信じられないことに、相手ゴールキーパーの超絶的なパンチングで防がれてしまった。

 勝負に「たられば」はありえないが、まだ前半早いうちのあのシュートが入っていれば、まさにあの試合は香川の日になっていただろう。精神的にプラスのスイッチが入って勢いづき、すべてのプレイがうまく行くポジティヴ・モードに入れたはずだ。それほどスポーツにおけるメンタルは死命を制する。

 そして香川という選手はおそらく、そのメンタルに人一倍左右されやすいタイプの選手なのだろう。あの入らなかったシュート以降、ガチガチに肩に力が入ってちょっとしたミスに顔を歪め、ネガティヴな表情を浮かべ続ける彼の姿が印象的だった。まるで日本代表の今後の行く末がそこに投影されているかのようだった。

 サッカーはよく芸術に例えられるが、芸術家であればあるほど完全主義者でちょっとした自分のミスが許せないものだ。常にパーフェクトで芸術的なプレイをする自分の姿が脳裏にあるだけに、現実がその通りに行かないと気持ちが腐ってしまう。チームメイトや観衆に「ダメな自分」を見られることに耐えられない。

 その結果、メンタル状態がますます悪くなり、自分で自分に負けてしまう。何をやってもうまく行かないマイナス・モードに陥ってしまう。繊細でマジメな完璧主義者ほど、そんな悪循環にハマりやすい。

 日本人選手が伝統的にシュート下手なのも、プレッシャーに弱いからだろう。日本代表の課題が「決定力不足」であり続けるのも、かなりの部分、メンタルに負うところが大きいのではないか。

 たとえばブラジル人などとサッカーをするとよくわかるが、彼らは「いい意味」でエゴイスティックだ。たとえば試合で自分がミスしたせいでチームが劣勢に追い込まれたとき、とたんに他人をどなりつけ「おまえ、何やってるんだよ!」などとやっていたりする。つまり何でも自動的に「他人のせい」になってしまうのだ。

 こういうタイプの選手はメンタルが強いし、失敗してもへこたれない。逆に「いまのはオレのせいだ」などと引きずってしまう生真面目な選手ほどハマりやすい。

 香川がメンタル・コントロールにどう対処しているかわからないが(専門のメンタル・トレーナーを抱えていたりするのだろうが)、たとえば自分が「いいプレイ」をするシーンを思い描くメンタル・トレーニングや、試合中にミスしたとき「その失敗プレイ」を自動的に「脇へ置いて」その試合中は考えないようにするメンタル・コントロール術、つまりいい意味での「思考のクセ」をつけることが大切だ。

 日本代表の今後は香川のメンタルにかかっている。いいプレイは自分のせい、悪いプレイは他人のせいにして、太く短く大胆にぶっちぎってほしい。
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【サッカー日本代表】早くも展望、ロシア・ワールドカップ本大会へのステップ

2015-06-24 16:19:41 | 日本サッカー
柴崎と宇佐美、太田は守備の積み上げを

 日本代表の攻撃の課題と修正点についてはマッチレポート分析記事-1分析記事-2でさんざん書いたので、今回は守備をテーマにしよう。アジア2次予選レベルで日本の守備が破綻することはそうないだろうが、現状、問題がないわけではない。ましてや本大会となると話は別だ。

 攻めか? 守りか? となれば攻撃を選択する、いかにもフォワード出身らしいハリルホジッチ監督。選手起用にもそのポリシーは貫かれているが、そこが本大会で吉と出るか、凶と出るか?

 具体的には、日本が攻めにかかり最終ラインを押し上げた状態でボールを失い、カウンターを食らったときの宇佐美と柴崎の守備への懸念がひとつ。また槙野がいつかやらかすんじゃないか? という杞憂もある(ただしあんなに気合いが入ってる選手を代えるなんてありえないが)

 この3人については攻撃力を買われての起用だが(槙野はFK時のヘッドが魅力)、大舞台で果たして守備が破綻しないかどうか? そこが焦点のひとつだ。

 特に宇佐美と柴崎は守備は本職じゃないから、本大会に向けこれから積み上げて行くことになる。高い意識をもち、攻撃だけでなく必須の守備にも取り組んでほしい。

 あえて課題と修正点をあぶり出すため、厳しく見積もってみよう。

 例えば柴崎はプレスをかける際、腰高で守備が軽い。一発で飛び込んでかわされる場面も散見される(これらの点は宇佐美にも共通しているが、特に柴崎はボランチなので死命を制する)。おそらく柴崎はハリルホジッチ監督から「もっと相手と距離を詰め、寄せてボールを奪え」と指導されているのだろう。だから飛び込んで置き去りにされる場面が発生するのだと推察する。

 だが監督の指示はどうあれ、守備で重要なのは自分がいちばん得意な間合いに持ち込むことだ。

 そして周囲にいる味方のポジショニングとの兼ね合い(特に自分のカバーがいるかどうか? 等)、また自チームの特に後ろ半分のバランスがどうなっているか? を総合的に判断し、ボールを取りに行くところと、行かずにディレイをかける場面の見分けをつける。ここが重要だ。

 もちろんそれ以前にチームの約束事として、どのゾーンからプレスをかけ始めるのか? どこで守備のスイッチを入れるのか? はっきりしておく必要がある。加えて周囲の味方も「そこで飛び込む」のか、行かないのか、声を出し合いコーチングすることがカギになる。

 また交代カードの切り方も重要だ。

 例えばリードして逃げ切る場合など、状況に応じクローザーとしてボランチ・山口蛍、CB・森重という守備重視の布陣に変えるやり方もある(同時に2人代える、という意味ではない)。

 ところで青山は本大会用に取っておくのだろうか? (個人的には、彼を連れて行かないってありえないのだが)

太田は対人プレイの強さと集中力があれば一流になれる

 さて一方、ディフェンスラインに目を移せば、シンガポール戦での左の太田は非常に正確で鋭いクロスが目を引いた。彼のクロスは現状でもレベルが高い。だがもう一声、修正点を見直せばさらにひと回り大きくなれるはずだ。

 例えばシンガポール戦では、対人プレイに粘りや強さがなく淡白なところがあった。もっとカラダをしっかり寄せる、カラダを入れる、という粘着性や強度がほしい。

 加えて彼はプレイの途中で気持ちを切り、動きを止めてしまうような欠点がある。ドリブルしながら競り合いになったとき粘りがない。また特にディフェンスの競り合いのとき、これをやるのは致命的だ。審判の笛が鳴るまで絶対に動きを止めないようにしてほしい。

 太田が取り組むべきテーマは、(1)対人プレイの強さと(2)集中力を切らさないことだ。この2点が修正できれば、彼は一流になれる。

 一方、攻撃面では、シンガポール戦での彼はドリブルでサイドを突破し、深い位置からボールを折り返すようなプレイができなかった。(早めのアーリークロスが多かった)。ここは今後の課題だろう。

 ただしもちろん本人だけに責任があるわけではない。単騎でのドリブル突破ではなく、例えばサイドで宇佐美とワンツーをかまして縦に抜け出すなど、複数の選手によるコンビネーション・プレーでサイド突破しクロスを入れたい。右サイドの酒井と本田のコンビも理屈はまったく同じだ。(内田の復帰が待ち遠しいが)

 本大会では、アジア予選と異なりさらに攻撃力のあるチームと当たる。とすればいま以上に粘りや強さのある守備が必要になる。攻撃とちがい、守備はある程度マニュアル的な積み上げがきく。いまからしっかり見直して行きたい。
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【サッカー・ロシアW杯予選】シンガポール戦・引き分けの隠された真相

2015-06-22 18:48:13 | 日本サッカー
選手は「サイド攻撃しろ」という監督の指示を無視した?

 シンガポール戦で1点も取れなかった大きな原因のひとつは、サイドを使った攻撃をしなかったことだ。戦前からシンガポールは引いて守ってくると予想されていた。それを崩すには、サイド攻撃が重要なことは試合前からわかっていた。

 そこでネット検索し、マスコミの報道を調べてみた。で、試合の前日以前にどんな練習をし、どう準備していたかチェックしてみた。すると唖然とするような結果が出た。例えば共同通信(サンスポ)は、以下のように報道している。

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 格下のシンガポールが引いて守る展開が予想される。ハリルホジッチ監督はクロスの精度を求め、それに合わせて走り込む人数やタイミングを細かく指示したという。

『ハリルJ、非公開で攻撃の戦術確認 クロスへの合わせに細かく指示』(共同)

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 ほかにも「左SBの太田を軸にし、サイドからクロスを入れる形を練習していた」ことが複数のソースで確認できた。つまり日本代表はサイド攻撃の練習をし、準備していたにもかかわらず、できなかった。

 もっと正確にいえば、選手は中央突破にこだわり「サイドを使え」という監督の指示を聞かなかったことになる。

 厳密にいえば、シンガポール戦は前半からサイドを充分使ってなかった。そこでハーフタイムに監督が「もっとサイドを使え」との念を押す指示を出した。

 で、後半にやっと修正し、ある程度サイドからクロスを入れる形が実現した。(だがアーリークロスを入れることはあっても、サイドの深い位置まで切り込んでの折り返しは後半もほとんどなかった)

 やろうとして、できなかったのなら修正のしようはある。だが中央からの攻めにこだわり、ハナからやろうとしなかったのであれば事態は深刻だ。

 ハリルホジッチ監督は、岡田監督(当時)がカズと北沢を切ったのと同じことをすべき局面を最後に迎えるのかもしれない。
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【サッカー・ロシアW杯予選】アジア2次予選モードのタクティクスが必要だ

2015-06-20 11:42:01 | 日本サッカー
対戦相手がリトリートしてくる2次予選はこう戦え

 シンガポール戦では、相手はワントップを残して9人が自陣に引き込んだ。低く構えて自陣のスペースを完全に消し、(もしチャンスがあれば)ロングカウンター狙いの引き分け仕様できた。

 そんな相手にハリル・ジャパンは「いつもの縦に速いサッカー」で挑み、十二分にチャンスを作った。完全に崩した形もあり、あとは最後の決定力だけの問題だった。

 だから今後も同じやり方でもいいのだが、戦況に応じて効率的にモードチェンジする方法もある。つまり立ち上がりから一定時間、いつものやり方=縦パスとワンツーを軸にした中央突破を仕掛け、もしラチがあかないようなら試合中にやり方を変えるテだ。

敵をボールサイドに引きつけ、一気にサイドチェンジする

 ハリル監督が考えている「ダイレクトプレーを使ったハイプレスからの縦に速いショートカウンター」てのは、明らかにヨーロッパの一流強豪国とやるための戦術だ。だがアジア2次予選予選ではシンガポールと同じく、対戦国は日本をリスペクトし「引き籠りサッカー」をやってくるだろう。ならばアジア予選用の戦い方が必要になる。

 対戦相手が徹底的にリトリートしてくるなら、敵陣にスペースはない。最終ラインの裏のスペースも消されている。となればゾーンプレスを破るときと同じテが通用する。サイドを使い、ボールサイドを囮にして素早く逆サイドに展開することだ。

 例えば右サイドにボールを出したとき。敵がつられてフィールドの右半分に重心をかけてきたら、必ず逆サイドが空く。そこで今度は左サイドへの斜めのサイドチェンジで、逆サイドのスペースを使う。

 そしてボールを反対サイドに振ったら、そこから速い攻撃を仕掛ける。なぜならそこで何度もボールをつないで時間をかけてしまうと、また敵がポジションを修正し、またもやスペースがないイモこぎ状態になるからだ。

同サイドMFとサイドバックの連携でサイドにスペースを作る

 もうひとつはやはりサイドを使うこと。シンガポール戦でも、たまたま流れでクロスが入る形になればチャンスを作れていた。このパターンを自動化したい。

 同サイドのMFとサイドバックの連携でサイドにスペースを作り、サイドバックが縦方向に敵陣深く侵入し、サイドを崩し切った状態でクロスを入れる。具体的には、同サイドのMFが絞る⇒サイドにスペースができる⇒サイドバックが上がる。このパターンを自動化したい。

 次はフィニッシュだ。

 ゴール前中央を厚く固められているときは、(1)ゴールへ向かうドリブルで積極的に仕掛ける(足を引っ掛けてさえくれればバイタル近くでFKがもらえる)、(2)ミドルシュートを打ち敵を引っ張り出す、(3)中央でクサビを入れワンツーなど動きながら崩す――これらは前回、詳しく書いたので省略する。

監督は形を指示するのでなく「なぜそうするのか?」論拠も示せ
チームコンセプトを実現するには徹底したパターン練習も必要だ


 おそらくハリルホジッチ監督は、まだ日本人のメンタリティを理解していない。シンガポール戦のように太田を呼び「今日は君の日だ」なーんて「本人だけ」に言葉をかけたり、「逆サイドにダイアゴナルのパスを出せ」などと言葉だけで指示しても日本人はその通りできない。

 日本人はマニュアル脳だ。自分の頭では考えない。監督の指示を「うわべの形だけ」そのままやろうとする。「なぜそうすることが必要なのか?」なんて考えない。

「縦に速く」といえば状況がどうであれ、愚直にそればっかりやる。「監督からはこう指示されたが、今は試合の状況が○○なんだから指示と違ってこう対応しよう」なんて応用問題は解けない。これは日本人の根深い文化の問題である。サッカーに限らず国民的な問題だが、そこを直すには100年かかる。

 とすれば監督は試合を控えた練習で、「こうしろ」と形を示すだけではだめだ。「なぜそうすることが必要なのか?」その裏付けになる理論も説明してやる必要がある。そうすれば選手は、「なるほど。それであの動きが必要なのか」と理解する。

 と同時に本番でその形を実現するため、練習でしつこいくらいパターン練習をする必要がある。マニュアル脳の日本人には絶対パターン練習がいる。で、頭だけでなくカラダに覚えこませる。上に書いたような戦い方も、言葉で説明するだけじゃなくパターン練習でカラダに染み込ませる。で、ふだんから動きを自動化しておくことが重要だ。

 もしそれでも実戦で指示通り動かない選手がいれば、そのときは容赦なく選手交代させる。なんせ舞台はまだ2次予選、もともと控えの選手でも勝てるレースのはずだ。バックアッパーを育てる練習用に実戦を使ってもいいくらいである。しかも日本は選手層がそれなりに厚い。

 ならば、「チームコンセプトに従えないヤツはいらない」という毅然とした態度を監督が示すべきだ。選手は試合に出てナンボ。交代させられるとわかれば、さすがに言うことを聞く。監督には、これくらいハッキリした選手のコントロール術が必要になる。

アジア2次予選でボランチは2枚必要か?

 次はシステムの話へ行こう。相手が引き籠ってくるのがわかっているアジア2次予選で、はたしてボランチは2枚も必要なのか? 疑問がある。

 いかにもフォワード出身らしく、ハリルホジッチは攻撃重視の選手選びと起用法をしている。宇佐美や原口、武藤などドリブルできる選手を重用し、柴崎のようなパッサーも重視している。同じボランチでも、逆に守備が得意な山口蛍のような選手は控えに回している。非常に分かりやすい選手起用だ。

 想像だが、おそらくハリルは攻撃的な柴崎を中盤でどうしても使いたいのだろう(守備なら明らかに山口蛍のほうが上だ)。それならアジア2次予選に特化したやり方として、ボランチを1枚にして柴崎を2列目に上げるテもあるのではないか? 相手はどうせリトリートして攻めてこないのだから、初めからボランチを2枚置く必要はない、という考え方である。

 とすれば4-1-4-1でボランチは長谷部。2列目の左に宇佐美、真ん中に本田と柴崎、右に武藤を使うイキのいい豪華布陣が実現する。本田のプレイを見ていると、やはり彼は真ん中の選手だからこのほうがいいかもしれない。

本田を1.5列目にしトップ下の香川と組ませるテも

 あるいはどうしても香川を使いたいなら、中央で本田を1.5列目にしてトップ下の香川と組ませ、左に宇佐美、右を柴崎にする。これだと4-1-3-1-1のような形になる。

 本田も香川も明らかに真ん中でのプレイのほうが得意だ。ゆえにこの布陣なら両雄が並び立つかも? (ただし中央突破オンリーになるかもしれないが(笑)。で、点を取ってリードし時間が立てば柴崎を引っ込め、クローザーとして山口蛍を入れボランチを2枚にする方法もある。あるいは途中で柴崎を1列下げてボランチにするテもあるな。

 青山がいれば長谷部と組ませてボランチで使い、左右両サイドに開く長くて正確なボールを青山に入れさせ、柴崎は2列目で使うというテもあるのだが……。いずれにしろ、もし本田をサイドで使えば彼は必ず中へカットインするから、同サイドのサイドバックとの連携でサイド攻撃を機能させることが必須になるだろう。

 最後は妄想と願望がごっちゃになっておちゃらけたが、いずれにしろサッカーは相手に応じ臨機応変に戦うことが重要だ。とすれば「アジア2次予選専用」の戦い方も必要になるのではないか? と問題提起しておこう。
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【ロシアW杯予選】本番に弱いガラスの巨人 ~日本0-0シンガポール

2015-06-17 16:27:03 | 日本サッカー
解消されたはずの決定力不足が蘇った

 きのう行われたロシア・ワールドカップ・アジア2次予選の第1戦。われらが日本代表は、すっかり決定力不足の昔に戻っていた。特に攻撃がスローダウンした後半は、まるでタイムマシンに乗りザック・ジャパンを見ているかのようだった。懐かしい思いはしたが、できればあの「想い出」は心の地下室に深くしまっておきたかった。

 柴崎はこの日も相変わらず、強くて速いグラウンダーの縦パスを何度も通した。彼が攻撃のスイッチを入れ続けた。だがロープの先にぶら下がった肝心の操り人形たちが踊らない。まるで砂場に釘を打つかのようだった。攻撃陣がチャンスをものにできず、柴崎が放ったナイフの先はむなしく砂の中で曲がり続けた。

 格下相手に日本は数え切れないほどチャンスを作った。放ったシュートは実に23本(シンガポールは3本)。ボールポゼッションは66%もある。得点の匂いだけはプンプンした。だが肝心の食事がノドを通らない。シュートしたボールがゴールラインを割らない。見ているこっちはすっかり消化不良である。逆にシンガポールは彼らのシナリオ通り、勝ちに等しい引き分けを手中にした。

 負け同然の引き分けと、勝ちに等しい引き分けを分け合った両チーム。明暗がハッキリ分かれた試合だった。

香川はチャンスをことごとくフイにした

 この日のスタメンは手堅かった。DFラインはセンターバックに吉田と槙野。サイドは左が故障の長友に大事を取らせ代わって太田が、また右には酒井(宏)が入った。ボランチは長谷部と柴崎の2枚。その前のトップ下には香川、さらに右に本田、左は宇佐美。センターフォワードは岡崎だ。ほぼ規定路線である。

 最初にいい形を作ったのは本田だった。前半3分、長谷部から右サイドで縦パスを受けた本田が2タッチで前を向き、シュートを打ったがゴールキーパーの正面を突いた。シュートはやや勢いがなかったが、非常にいい判断だった。

 続いて前半11分、右サイドにいた柴崎がダイレクトで鋭い縦パスを放った。そのときゴールに背を向けてボールを受けた香川は、まるで牛若丸のようにワンタッチで鋭く反転しゴールに向いた。すばらしい動きだった。シュートはゴールキーパーにパンチングで防がれたが、シュートに行くまでの香川の動きは非常に敏捷で持ち味を出していた。だがこの日の香川はそこまでだった。

 前半16分には、またも柴崎が前タテの本田の足元に鋭い縦パスを入れた。本田はダイレクトでボールを香川にハタく。だがもらった香川はゴール方向へ進むドリブルでボールを2回小突いたあと、自分とゴールの間に敵が2人いるのを見るや、自信なさそうに後ろにいた本田になんとパスをした。

 お上品で育ちのいいチキンの香川は、荒々しいドリブルで正対した守備者を「1人かわしてシュートを打つ」ことができない。あのとき香川はきちんと前かけをつけ、すでに行儀よく食卓に座っていた。あとはナイフとフォークを使ってごちそうを食べるだけだった。

 あんないい形で神様がプレゼントをくれたのに、なぜ彼はシュートを打たないのか? おそらく彼は絶世の美女がプロポーズしてきても、うつ向いて「ママに聞いてからね」と言うのだろう。そして後ろにパスするのだ。

 もし私が監督だったら、あの「お断り」を見た瞬間に速攻で選手交代だ。「あなたはいりません」で、ジ・エンドである。現にハリルホジッチ監督は試合前日の記者会見で、「100%の力で戦わない者がいれば、開始10分でも交代させる。どの選手でも同じだ」とかっこよく語っていた。なぜそれを実行しないのか? あのプレイは開始10分どころか、16分だ。言行不一致だろう。

得点の匂いはプンプンしたが幻だった

 香川は前半22分にも左サイドをドリブルで駆け上がり、決定的なシュートを放った。だがワクへ行かずにゴールの左へそれた。

 23分にも右の酒井からの短い折り返しをダイレクトでシュートしたが、ボールは遥か高く宇宙を開発しただけだった。おまけにそのボールはもともと中盤にいた香川自身が右サイドの本田に預けたあと、次に酒井へ渡り「香川に戻ってきたボール」なのだ。つまり香川は見事なパス・アンド・ゴーをしている。まさにひとり舞台である。

 すごくいい形を作る。今にも点が入りそうな気がする。だが何度トライしても決してボールがゴールラインを越えない。過去、今までわれわれ日本人が何度も目にしてきた、すばらしく日本代表「らしい」姿だった。

 それに先立つ前半21分には、バイタルエリアに侵入した長谷部が宇佐美から横パスをもらい、4タッチ目でシュートを打った。強くていいフィニッシュだったが、GKの正面を突きパンチングではじかれた。

 なかなか点が取れずに気落ちしたのか、日本は前半30分頃にガクッとペースダウンした。攻め疲れたのだろう。ダイレクトプレーもめっきり減った。あれだけ攻めた前半で1点も点を取れなかったのが敗因のすべてだ。

 もしサッカーに判定勝ちがあったなら、前半30分の時点でわれらが日本代表のコールドゲームである。だが残念ながらサッカーは、ボールをゴールに入れて勝ち負けを競うゲームだ。

 彼らは前半だけでも数え切れないほどシュートの山を築いた。もし前半のうちにあれらシュートのうち1本でも入っていたら、展開はまったくちがったものになっていただろう。だがわれわれを待ち受けていたものは、「ああ、惜しかった」「勝てたはずなのに」といういつもの日本代表だった。

クロスバーとGKにごっそりゴールを盗まれた

 後半、日本はぱったりダイレクトプレーをやめ、ザック・ジャパン化した。1人1人がたっぷり3~4タッチ、あるいは「中盤で」ドリブルしてボールを持ち、時間をかけてボールをこねるスタイルに変わった。それは退行現象のようだった。もし意図的にそうしたのなら、たまる疲労を考え、体力温存のためにペース配分を変えたのだろう(または監督の指示か?)

 日本がマイポールにした瞬間、シンガポールはフォワードも含め自陣に素早く全員が引き込み、特に後半はペナルティエリアを守る深い守備をした。そのため中盤が消失し、日本は中盤でダイレクトパスをする必要がなくなった。そんなことをしなくても相手ゴール前まではカンタンに行け、そのため自然にダイレクトプレーが減った。そういうことなのかもしれない。

 だが厳しい言い方をすれば、(1)前半の日本はダイレクトプレーにあまりにも固執しすぎ硬直化した、(2)後半の日本は正反対に積み上げてきたもの=ダイレクトプレーをすべて捨て、自分から奈落の底に沈んで行った。

 前半と同様、日本は何度も相手ゴール前へ迫った。だがそれは前述した通り、日本のボールになるとシンガポールの選手たちは全員がするすると引いて自陣に立て篭もったため、敵のゴール前までラクに侵入できたからだ。

 特に時間経過とともにボールを失ってからの彼らの引き方は顕著になり、最後は「自陣バイタルエリア手前までなら、ご自由にどうぞ」「ただしペナルティエリアには入らせませんよ」という守備のしかたになった。そのため日本の選手は後半にあれだけ選手間の連携が崩壊していても、容易に相手ゴール前まで行けた。逆に言えば日本は相手のシナリオ通り、攻めさせられた

 ただしシンガポールが弱者にありがちな「引き篭もりサッカー」とちがう点は、自分たちのボールになると最終ラインをしっかり押し上げ、攻めをフォローアップするところだ。かつ、ボールを失うと自陣への引きがとても速くスムーズだった。非常にインテリジェンスのあるチームである。

 さて大迫と原口、武藤が交代出場した後半は、(いつものことだが)切ったカードが有効に機能しなかった。日本は選手交代するたび連携が取れなくなり攻撃がグレードダウンする。後述するが、見えた問題点は多い。

 それでも後半、前述した通りシンガポールの守備スタイルとの兼ね合いにより、日本は比較的ラクに相手ゴール前へ殺到した。だがシュートがゴールポストやバーを叩くわ、相手GKにパンチングされるわで散々だった。

 シンガポールのGKはそう身長があるように見えないのに、片手1本でことごとくシュートをかき出した。彼には鬼神が乗り移り、ほのかに後光が射していた。ご承知の通りGKなるものは、あんなふうに「当たり」始めると手がつけられない。もう何をやってもシュートに手が届くオカルト現象がサッカーでは起こる。あれでは相手が悪かったとあきらめるしかない。

 ただし勝てずにくやしがるのをやめたあとは、しっかりクールダウンした頭で(1)問題点はどこにあり、(2)それを修正するには何をすればいいか? 考えることが重要だ。これをやらなければ「勝てなかった意味」がない。では見えた課題と、修正のしかたへ行こう。

相手は自陣でナイフを構えて待っている

 前半の立ち上がりから、シンガポールは自陣ペナルティアークあたりを守備の最終勝負ラインに設定していた。DFラインはそのラインからセンターサークルあたりまでを上下動していた。そして前半25分以降から後半にかけてはもっと勝負ラインを深くした。

 つまりマイボールのとき最終ラインは意外に高いが、ボールを失うと自陣に引くのも速い。

 そして最前線にいる味方にボールが出ると、するするとセンターサークル近くまでラインを上げてプッシュアップする。前半終了間際になっても、味方がボールをアタッキングサードでキープできている限り、彼らはていねいにラインをセンターサークル付近まで押し上げていた。

 例えば日本のディフェンス・ラインがボールを持ったとしよう。するとシンガポールはフォワードも含め、まず全員がスーッと完全に自陣に引き込む。こうして後ろ半分に守備ブロックを作る。そして最終ラインを自陣のちょうど真ん中あたりに置く。これを基本形にしてクレバーなライン・コントロールをしていた。

 また時間経過と試合展開に応じて勝負ラインを下げ、後半の最後は日本がシュートを打つころにはペナルティエリアの左右に伸びるラインあたりを最後の防波堤にしていた。

 最終ラインから最前線までの距離をコンパクトにし、自陣ディフェンス・ラインからきっちりビルドアップする力を彼らは持っていた。

 また日本のビルドアップがグラウンダーの縦パス中心であることを彼らは研究しており、特に前半の早いうちは日本の縦パスが出た瞬間に守備者が前へ飛び出しパスカットを狙っていた(試合が進むと、今度は逆に引き込んでディレイをかけるやり方に変えた)。いかにもドイツ人監督らしい、ロジカルな戦い方だった。

 もし前線の選手にもっと決定力があれば手強い相手になるはずだ。1人1人の技術力はそうでもないが、複数の選手が有機的にユニットを組んで構成するチーム力はけっこうある。実際、引き分けに終わったのが何よりの証拠だ。日本は相手のシナリオ通りに攻め疲れさせられ、相対的に彼らの粘り強い守備が光り輝いていた。

 アジア予選を戦う場合、常にこういう戦い方になることが予想される。しかもシンガポールはマイボールになれば最終ラインを案外高く押し上げていたため、まだよかった。日本がボールを奪った瞬間には、敵陣に敷かれた彼らの最終ライン後方にはたっぷりスペースがあったからだ。そこを使っての攻めが利いた。

 だがアジアの他の国々はそうはいかない。彼らはじっくり自陣に引き込んだあと、ボールを奪っても最終ラインを押し上げず、数人でしか攻めてこない可能性が高い。つまり自陣のスペースは消したまま、「腕だけ」を伸ばしてちょろちょろ攻める。そして初めから引き分けを狙っている──。そういうやり方でくると予想される。

 ではそんな相手に対し、どう攻めれば有効なのか? それについてはこの日の後半残り15分~20分あたりの展開を次にあげよう。このモデルケースを分析して反省材料にし、早急に問題点を修正すべきだ。

フィニッシュのバリエーションを見直せ

 後半30分以降、シンガポールは全員が深くまで完全に引き込み、勝ちに等しい引き分けを目指していた。彼らは自陣ペナルティエリア内に、ぎっしり10人が鮨詰めだった。東京の朝の山手線とすらいい勝負の混みぐあいだ。もちろんスペースはまったくない。

 にもかかわらず日本のアタッカーたちは、茫然自失のような様子で最前線に4~5人が一列に並び、棒立ちになっていた。ワンツーを使ってシュートを呼び込むなど、動きながらの攻めがなかった。

 最前線は(大迫を除き)ただ立っているだけだ。日本は相手ペナルティエリアの外側で単にボールキープゲームをしているような状態だった。時間がたつうちメッキがはがれ、最後にとうとう日本の「地」が丸出しになった。得点ではなくゴール前でパスをつなぐこと自体が自己目的化しているかのようだった。ザックジャパン現象である。

 相手は全員がペナルティエリアに入り、ゴール直前のスペースを完全に殺している。そんな相手に対し、どう攻めるか? たとえばアルゼンチン代表みたいに、最前線に張った味方の足元に速いグラウンダーのクサビを打ち、その落としからワンツー、続けてそこからゴール前で速いダイレクトバスをパン、パン、パンと4~5本つないでゴールをこじ開けるのか? いや、そんなものはアルゼンチンのお家芸だ。まだ日本にそんな技術はない。

 とすれば、あとの選択肢は限られている。まず考えられるのは、(1)ゴールに向かって積極的にドリブルを仕掛けること──だ。たとえ相手を抜けなくても、単に足を引っ掛けてくれさえすればOKである。バイタルエリア近くでフリーキックをもらえる。

 もしくは(2)意識して遠めから何度もシュートを打つこと。そうすればペナ内に篭った相手は、シュートを打たすまいと前に出てプレスをかけてくる可能性が出てくる。つまりミドルシュートを打つことにより、思い切り引いた相手を「巣」の外に引っ張り出すわけだ。もちろんシュートがそのまま入らなくても、リバウンドのセカンドボールを狙って攻めが続く。

 あるいは(3)ボールをいったんサイドに開いてからクロスを入れる──というテも有力だ。もっとどんどんボールをサイドに開いてクロスを入れ続ければ、中でボールを敵とハジキ合ったあとに何が起こるかわからない。クロスが生むセカンドボールは敵にとって読みにくく、守備がむずかしい。またたとえクロスがクリアされたとしても、コーナーキックが取れる可能性が高まる。再度、チャンスが広がる。

 ざっくり、この3つしか選択肢はない。

 だが日本はどれもやりたがらないようだった。なぜならこれら3つのどれかを選択すると、ボールを失う可能性があるからだ。彼らはボールを失うことを極端に嫌う。

 後述するが、これら3つの選択肢はいい意味での「バクチ」である。サッカーは「チャレンジ」しなければ勝ちを手にできない。なのに彼らは、上がるか上がらないかわからない株に投資できない。元本保証のある「足元へのパス」しか選択しない。

 ひとことで言ってザック・ジャパン病なのだ。

 確かに前半の日本代表はダイレクトプレーを多用し、縦に速く攻めるサッカーをやっていた。だが時間の経過とともに、衣の下から鎧が見え始める。みんなが「素顔の自分」に戻り、またぞろザック・ジャパン症候群が発症する。

 すなわちポゼッションしたがり、相手ペナルティエリアの前でひたすらパスを回す。とにかく安全にキープしたがる。あえて意図的にイーブン・ボールの状態を作り、クロスを入れて「ボールがどちらの支配下にもない状態」を作るのを拒絶する。これでは引いた相手から点を取ることなどできない。

 以前、ちょうどうちのブログで、ザック・ジャパンの引いた相手に対する攻めの欠点を分析したことがある。問題点は基本的に今回と同じだから、少し長いが以下に引用しておく。


-------------------引用はここから--------------------

 ザック・ジャパンはグラウンダーのボールを丁寧に転がし、低いパスをつないで戦うチームだ。すると中盤と最前線で振り向かせてもらえない(前を向けない)守備をされているときには、つなぐ→つなぐ→つなぐ→つなぐ→つなぐ→シュートみたいなリズムになる。背後にマークに張り付かれた味方にボールを当てては戻し、当てては戻し、を繰り返すことになるからだ。そしてベラルーシ戦では、チャレンジしないこの同じリズムの攻めをずっと続けていた。

 敵が同じリズムで動いてくれると、相手は非常に守備しやすい。対戦相手の同じ動きに目が慣れ、「まだチャレンジに来ないな」とか「こいつら、アーリークロスは使わないぞ」などとカンタンに予測がきくからだ。敵が要求される動体視力も同じで済むし、まったく同じリズムで機械的に対応していればいい。

 わかりやすい例を考えてみよう。まずきのうの日本のリズムを【同じリズム】として最初に再掲し、次にそのリズムを変えた攻撃例【例1】、【例2】をあげてみる。

【同じリズム】 つなぐ→つなぐ→つなぐ→つなぐ→つなぐ→シュート

【例1】 つなぐ→アーリークロス→こぼれたセカンドボールをシュート→敵に当たってコーナーキック

【例2】 つなぐ→ドリブル突破→敵の足に当たりボールがイーブンに→こぼれを拾ってまたつなぐ

 音楽でいえば、最上段の【同じリズム】の場合は敵も「タン、タン、タン、タン」と同じ四分音符を刻んでいるだけでいい。だが【例1】や【例2】が途中で混ざると途端に動きが複雑になり、敵はそのつど臨機応変な対応を求められる。当然、敵の肉体的・精神的な疲労度も高まり、そのうちどこかに必ず 「穴」 があく。

 90%確実につながる安全なパスを足元に入れ続けるだけでなく、ときには成功率50%の「チャレンジする博打パス」を仕掛けること。もちろん第三の動きを入れながら。

 ザック・ジャパンに必要なのは、このチェンジ・オブ・リズムである。

【ザック・ジャパン】 日本に必要なのはチェンジ・オブ・リズムだ ~日本0-1ベラルーシ 

----------------------引用はここまで--------------------------
※2013年10月16日に記事公開。今回、若干、加筆修正した。

サイドに開いてクロスを入れろ

 さて、ここで少しクロスの効能をくわしく書いておこう。実は自陣でゴールを背負って守備する人間にとって、クロスを入れられることほどやっかいなものはないという話だ。

 まず相手チームの選手が自陣に引き込み、ゴール前が多人数でぎっしり密集しているとしよう。そんなときにはまず例えば、グラウンダーの速いクサビを中央に打つ。で、そのボールをダイレクトで落としたあと、いったんボールをサイドに開くのだ。そしてサイドからクロスを入れる。この一連の動きを、相手ディフェンダーの視野から見るとどうなるか?

 まずゴール前の中央にクサビのボールが入れば、当然、彼らは絞る動きをする。そこでゆるめたら振り向いてシュートを打たれるからだ。ゆえにボールを受けた日本のポストプレーヤーの背後には、3~4人の守備者が集中するだろう。

 だがクサビになった人間が、もらったボールをダイレクトではたく、落とす、のようなプレーをすると、敵の守備者はたちまちボールの動きに目がつられる。と同時にそのボールの周囲で爆発的に急ダッシュを始める数人の日本選手の動きが目に入り、たちまちディフェンダーは混乱状態に陥る。いったいボールはどこへ行くのか? もう守備者は危機感でいっぱいだ。

 だが彼らにとって不幸なことに、ポストプレーヤーがダイレクトで落としたボールは、お次は遥か遠くのサイドに運ばれるのだ。するとその瞬間に守備者たちは、ポジショニングを即座に修正する必要が生じる。

 サイドから何のプレッシャーもなく、自由に正確なクロスを入れられるわけにいかない。とすれば最低1人、うまくすれば2人の敵が、コースを切りプレッシングするためサイドに開く動きをするだろう。これで真ん中に密集した敵を引き剥がせる。相手選手の中央への「偏り」をほぐしてしまえる。

 そして実際にクロスが入った瞬間、守備者はまたポジショニングの修正を強要される。即座にボールと自分のマークする相手、そして自陣のゴールの位置を確認し、これら3つが同時に視野に入る位置にポジショニングし直さなければならない。この作業がディフェンダーにとって、どれだけ大変かおわかりだろうか?

 つまり相手の守備者は、クサビに対応しいったん絞って、サイドに運ばれ今度は開き、最後にクロスが入ってまた絞り直すことになる。おまけに相手の選手はこの複雑な動きに対応するため、非常に高く正確な動体視力のレベルが要求されるようになるのだ。こうしてゆさぶりをかければ、どんなに人数をかけた固い守備でも網の目のどこかに必ず穴ができる。

 こうしたクロスを入れるプレーは、相手が疲れて運動能力が落ち、動体視力も鈍っている後半ほど、有効になる。では日本の選手はシンガポール戦の後半、どれほどクロスを入れただろうか? 流れでその形になることはあったが、まだまだ少ない。点が取れるまで、もっと徹底してやるべきだ。

スタメンとバックアップ組に信頼関係はあるか

 すぐ上に書いたことと関係するが、この日の右サイドでは本田がボールを持つと、たいていドリブルで中に切り込んできた。ゆえに香川がそのとき外へ開く動きをするか、同サイドの酒井がオーバーラップしない限り、開いた右サイドからクロスを入れる形にならなかった。

 この日だけでなく、先日のイラク戦でも本田の動きはまったく同じだった。ちがうのは相手の守備のレベルだ。こないだは相手が中央のバイタルエリアを空けてスカスカにしてくれる、守備のゆるいイラクだった。だからその弱い中央部へ切り込む本田の動きは見事に結実した。ゆえに本田のポジショニングは「うまい」と私は書いた。

 だがこの日の相手のシンガポールは、その中央に人数をかけてガッチリ守っているのだ。にもかかわらず単騎で中へ切り込む本田の動きは、見上げるほど高くそびえる城壁にバンザイ突撃するドンキホーテのようなものだ。

 また左サイドにしても、宇佐美が中へ切り込むドリブルをするので理屈は同じ。せっかくクロスが鋭く正確な太田が同サイドにいるのに、太田は特に前半あたりは宝の持ち腐れだった。

 そこで非常に気になったのは右の本田と酒井の関係だ。本田はボールを持つと中へ絞るため右サイドにスペースができる。そのスペースに酒井がオーバーラップしても、本田は酒井にボールを絶対出さない。フィールドの内側しか見ていない。右の同サイドに内田が入ったときはそんなことはなかったように思う。ひょっとして彼らの間には信頼関係がないのではないか? 特に本田は酒井を信頼してないのではないだろうか?

 あるいは自分で中へ持ち込み、あわよくば点を取りたいという誘惑に駆られているのか? どちらにしても、あまり喜ばしいことではない。スムーズな連携の支障になる。

 一方、長友の故障のせいとはいえ、太田をスタメンで使う以上は、左サイドから彼の持ち味である質の高いクロスを入れさせたい。ハリルホジッチ監督は、そういう太田の使い方、起用した意図をちゃんと事前に選手たちに説明したのだろうか? (あのサッカー・オタクのおっさんが、それをしてないわけはないと思うが)。

 せっかく代表ではまだ未開拓な手駒の太田を入れたのだから、もっとどんどん使うべきだった。実際、流れで左サイドの太田にボールが回ると、彼はほぼ100%に近い確率で非常にクオリティの高いマイナス方向に曲がるクロスを入れていた。あの攻めを使わないテはないだろう。

 自分でドリブルしながらゴール目がけて絞って行く本田と宇佐美は、フィールドの内側しか見ていない。自分がいる同サイドに「その自分が」パスを出すのだという発想がないように見える。だから両サイドの酒井、太田に本田と宇佐美からボールが渡らない。もちろん別の選手からたまたまサイドにボールが渡ることはあり、そのときにはサイドからいいクロスが入った。日本はその形をもっと「自動化」したい。

 つまり右は本田と酒井がワン・ユニットになり、本田が絞る動きをすれば自動的に空いたスペースに酒井がオーバーラップし、そこに本田からサイドに開くパスが自動的に出る、というふうに──。

 というのも、見ていてなんだか中央の「お偉いさん方」だけでサッカーをやっているような感じがするのだ。邪推だが、もし「岡崎、香川を含めた本田、宇佐美ら仲良し4人組だけでワンツー使って中央突破でカッコよく勝とうぜ」みたいな考え方をしているなら論外だろう。

ボールをもらえない大迫は虚しい空走りを繰り返した

 バックアップ組とのギャップという意味では、同じく犠牲になったのが大迫だった。彼は後半16分に香川と交代出場した。ハリルジャパンがスタートして以降、おそらくいちばん「長い時間」をもらえた。

 大迫はトップの位置でしきりに前のスペースにボールを欲しがったが、味方からパスが出ない。彼は自分に張り付いたマーカーと駆け引きしながら細かい予備動作をするが、すべて空走りになっていた。

 あげくパスが来ないがゆえにボールに触りたい大迫は、いったんボールを持つとだんだんドリブルしがちになった。ボールを離したがらない。今度はいつボールに触れるかわかったもんじゃない──そんな思いが彼の中にあったのではないか? 邪推かもしれないが、ボールが来ないと商売にならないサッカー選手は、よくこういう心理に陥るものだ。

 いやドリブルすること自体はいい。まさにこの日、むしろドリブルが少なすぎた。だから大迫はいい選択をしたのだ。だが敵のかく乱を狙ってドリブルするのでなく、もしも万一「ボールに触っていたい」がゆえにドリブルするのでは、手段が目的化してしまっている。チーム内での意思の疎通や一体化を考えてもいいことではない。

 大迫はパスを受けるためいい動きをしているのに、なぜ彼にパスが出ないのか? 前述した酒井、太田が使われない理由とあわせ、ハリルホジッチ監督は徹底分析し、修正を促す必要があるだろう。 

ハリルは「用兵術」で自分に酔うところがある?

 邪推ついでに書いてしまうが、後半25分に柴崎と代わって出場した原口起用の意図はよくわからなかった。この日、鋭い縦パスで攻撃のスイッチを入れ続けていたのは誰あろう、柴崎である。その彼を引っ込めたのは、どんな狙いがあったのか?

 想像すれば、ひとつにはフィールド中央部にひんばんに速い縦パスを入れ続けていた柴崎をはずすことで、中央に集中していたボール運びを修正し、ボールをサイドにも分散させてクロスを使おうという意図があったのかもしれない。あるいは柴崎に疲労の色を感じ取ったのか? 監督本人に聞いてみなければわからないが、いずれにしろ私は柴崎を下げるのは賛成できない。

 結果論になるが、代わって入った原口はまったく有効に機能しなかった。動きも緩慢でゲームにうまく入れてなかった。チームでいちばん鋭い縦バスを供給していた柴崎が抜けたことで攻撃がスローダウンし、そのため展開がザック・ジャパン化する一因になったのではないか?

 日本代表は昔からそうだが、スタメンの選手を交代させ、バックアップメンバーが入るとがっくり質がグレードダウンする。選手間の連携の精度がガタ落ちになる。この日も選手が交代した後半は、全体のスペック落ちがハッキリしていた。前半とくらべれば雲泥の差だ。後半も手数こそ多く攻めていたが、それはあくまで相手が自陣深くに引いた結果である。別に日本が自分の力でこじ開けたわけじゃない。

 このスタメンと控えの連携の落差は、今後もハリル・ジャパンを悩ませそうだ。

 ハリルホジッチ監督の選手のセレクションや実際の起用のしかたを見ていると、どことなくあの元日本代表監督のオシム氏を思い出す。「新しい井戸」を掘ることに熱心で、多くの選手を取っ替え引っ替えし、なかなかスタメンを固定しなかった。そのオシム氏と共通項がある気がする。

 いやハリルホジッチ監督の場合は「練習試合」でこそ新戦力を多く積極的に登用したが、ド本盤であるシンガポール戦のスタメン選びは慎重で手堅かった。大迫に続き原口の交代は後半26分であり、そのあと入った3人目の武藤に至っては、後半33分まで引っ張った。最後の最後で武藤の思い切りの良さと爆発力にかけたのだろう。狙いはよくわかった。これらの交代はうなずけるものだ。

 ポストになれ、キープもできる大迫を入れて前にポイントを作ろうとした意図もよく理解できた。かつシュートを何本も外しまくり、またぞろいつものネガティヴ思考に囚われつつあったかに見えた香川と代えたのもうなずける。

 また武藤の投入があんな間際にならざるを得なかった点も常識論としてはわかる。(ただし野球の代打じゃあるまいし、あんな短時間でいったい何ができるんだ? 武藤にもっと時間をやれ、とは個人的には思う)

 ただし原口と柴崎の交代だけはうなずけなかった。ハリルホジッチ監督は、「用兵術」で自分に酔うところがあるのではないか? あくまで誹謗中傷ではなく、ひとつの問題提起として書いておこうと思う。

低く構えるチームに日本はどう守備するのか?

 さて、すでにとんでもなく長い原稿になっていることは自覚している。だが書くべきことがたくさんあるので、もう少しおつきあい願いたい。

 ハリル・ジャパン結成後、まだ何試合もしてないのでしようがないのだが……。この日初めて日本代表は、相手ボールのときには自陣深く引き込み、マイボールになったらラインを押し上げてプッシュアップする相手に対し、守備をする機会を得た。その結果は、惨憺たるものだった。

 日本はこれまでのように、相手ボールのとき敵陣でプレスをかけているぶんにはいい。だが敵にビルドアップされて(日本の)自陣でボールを持たれると、とたんにディフェンスが不安定になった。まるで「俺らは攻められるのに慣れてないんだよ」とでもいうかのように。

 象徴的なシーンをひとつあげよう。前半10分、敵に相手の自陣から組み立てられ、センターにいたフォワードに縦パスを通された。この瞬間、人数は4対3で有利であるにもかかわらず、日本はたちまち安定を欠いた。次にそのボールを日本の左サイドに展開されたが、最後はなんと6対3の状態でゴール前にクロスボールを入れられている。

 シーンを巻き戻そう。このとき最前線にいた敵フォワードに最初のクサビのボールが出た瞬間、左サイドにいた宇佐美はのんびり歩いていた。彼が自陣に戻ろうと必死で走り始めたのは、ポストになったその相手フォワードがボールを宇佐美のサイドに開いた「あと」だった。

 左サイドに展開されたボールに対し宇佐美は完全に「後追い」の形になり、見事にボールから取り残された。現実のものとは思えないような気風の良さだ。

 また日本が攻め込み、敵陣でボールを失ったとき、確かに宇佐美は前でプレッシングしていた。だが簡単にかわされ、置き去りにされていた。守備に粘りがない。

 いや、もちろん宇佐美に守備を期待する人間は世界に1人もいないだろう。それより攻めで力を発揮してほしい。だが自陣に危険な穴ボコができるのは心臓に悪い。ありえない守備の不安定さだ。

 例えばワールドカップの本大会では、アジアレベルとは異なり、前がかりでガンガン攻めてくる世界の強豪国とも当たる。彼らと試合をした場合、日本の守備はいったいどうなるのか? この日の彼らを見る限り、想像もつかない。特に自陣での守備の基本を確認すべきだろう。

専売特許の「速いプレス」が使えなかった日本

 これも守備の話だ。シンガポールの攻撃パターンは、まず中央のトップにボールを当て、その落としを展開する形だった。そのあとサイドに開くパターンもあった。いずれにしろ、シンガポール陣内の奥深くで「日本のボール」を奪ってからのロングカウンターである。

 だが日本のゴール前へ攻め込んでくるシンガポールの選手は常に1~2人だった。おそらく引き分けを当初から頭に置いていたのだろう。彼らはまったく人数をかけて攻めてこなかった。

 そのため日本はお得意の「複数の守備者が速いプレスをかけてボールを奪う」という専売特許を使いようがなかった。なにしろ攻めてくる敵は1~2人なのだから当たり前だ。攻め込まれても常に数的優位な状況だった。

 今後、長時間にわたりゾーンを低く構えるチームとやるときは、必ずこの展開になる。これから予選で戦うアジアの国々はおそらく皆そうだ。日本を警戒し、自陣に引き込んでくるだろう。

 すると日本は当然、シンガポール戦同様攻め続けることになる。グイグイ前にかかり、全体の重心が敵陣寄りになる。それにつれ最終ラインはハーフウェイラインあたりまでかなり押し上げ、最終ラインと自陣ゴールの間にはたっぷりスペースができる。とすれば日本がボールを失ったとき、宇佐美がやったような前に居残りプレイに関わらないポジショニングをしてしまうと、日本は自陣にある広大なスペースを狙われる。

 例えばシンガポールのように1人だけ日本陣内に居残ったフォワードにクサビを入れられ、彼がキープして時間を作るかまたは味方に落とせば、相手チームは攻め上がりの時間がかせげる。その間に数人がダッシュして日本陣内に飛び込んでくれば、あとは日本陣内には広大なスペースがあるのだ。ほんの2~3人でロングカウンターが成立してしまう。

 となれば相手のロングカウンター対策が必要になる。日本が圧倒的に敵陣に攻め込み全体を押し上げているとき、もし敵陣でボールを失ったら、ゆるまずプレッシングし味方が帰陣するまでディレイをかけ続けられるかどうか? あるいは敵の攻めを遅らせるだけでなく、前でボールを取り返し攻め続けられるのが理想だが。そう考えればアジア予選では、日本は攻守に渡りかなりの運動量を要求されそうだ。

 ハリルホジッチ監督のことだから、ロングカウンター対策や自陣での守備戦術に抜かりはないと思うが……この日の日本の守備を見ると心もとない。これも基本に立ち帰り、やるべきことをがっちり確認してほしい。

ちくしょう、おもしろくなってきやがったぜ

 われらが日本代表は、このしびれるような精神的重圧の中で苦しみながら戦うことに意義がある。なんせあのブラジルだって、手の内を知られている南米予選ではワールドカップの本大会より苦しむのだ。日本はこの難行苦行が終わるころには自動的に経験が蓄積され、本大会(もちろん!)ではひと回りもふた回りも大きくなっているだろう。

 このさいそんなポジティヴ馬鹿になり、そう考えてやらなきゃもったいない。特に心配なのは香川だ。彼はネガティヴな精神状態に陥ることなく、本田や武藤、宇佐美のような気持ちの強さを身につけてほしい。あれだけの才能と後天的な積み上げがありながら、ネガなループにハマって低迷するのではもったいない。日本の損失だ。

 さあ、決して楽観できないことがよくわかった。すっきり膿を出せた。むしろ早い段階でわかってよかったじゃないか。あとはこの日に見えた問題点を緻密に分析し、それを修正するには何をすべきか? を考えることだ。

 負けるより遥かにマシだ。「勝ち点1」が取れてよかった。いいハンデだ。大会が盛り上がる。

 ちくしょう、おもしろくなってきやがったぜ。
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ハリルジャパンの合言葉は「6つの速さ」だ ~日本4-0イラク

2015-06-12 11:44:10 | 日本サッカー
タテへの速さで圧倒し相手に何もさせない

 圧倒的な勝利だった。昨日のイラク戦、人とボールがよく動くサッカーで完全に主導権を握り、終わってみれば4-0のシャットアウト勝ち。前半の終わりから後半立ち上がりにかけて運動量がガクンと落ちたが、それを除けばタテに速いチームコンセプトを貫徹し勝ち切った試合だった。

 ではいったい、このチームの何がタテへの速さを生んでいるのだろうか? キーワードは「6つの速さ」である。

(1) ビルドアップの速さ

(2) パスを出すタイミングの速さ

(3) パススピードの速さ

(4) 攻守の切り替えの速さ

(5) プレッシング(寄せ)の速さ

(6) 判断の速さ

 要素を並べればざっとこんなふうになる。(1)~(6)のそれぞれの速さは独立した要素ではなく、たがいに相関関係がある。では具体例を見て行こう。

ショートカウンターを成立させるにはいろんな速さが必要だ

 ハリルジャパンは相手ボールのときに(5)速いプレッシングでボールを奪い、ショートカウンターから点を取るのが約束事だ。この場合、前でボールが取れれば取れるほど敵の守備隊形が整っておらず、そこからのカウンターが有効になる。

 こうしたボール奪取を成立させるには、味方が前線でボールを失ってもそこで決して足を止めず、(4)素早く「攻」から「守」へ切り替えることが大切だ。重要なのは、相手に守備陣形を整える「時間を与えないこと」。つまり攻守の切り替えやプレスの速さだけでなく、ボールを奪ってからの速さも必要になる。

 例えば1点目の本田の得点は、左サイドにいた柴崎のスルーパスから生まれている。柴崎は味方がヘディングで競ったボールのこぼれをダイレクトで、本田の前に広がるスペースに強くて速いスルーパスを出している。

 逆にいえぱダイレクトのスルーパスだったため、敵の守備者はまさかあのタイミングで前にラストパスが出るなどとは思っておらず、対処が遅れた。

 このとき柴崎は自分の目の前にヘディングのこぼれ球が落ちてきた瞬間、ボールに触る前に最前線の本田を見ている。そしてあの地点から「ラストパスが出せる」と(6)速い判断をした。かつ、ダイレクトのスルーパスという(2)最もタイミングの速いパスを出したことが得点につながった。

自陣から6本のショートパスをつないだ岡崎の3点

 岡崎があげた3点目は、(2)パス出しの速さ(6)判断の速さがミックスされた総合芸術だった。あの得点は自陣からダイレクト~ツータッチのパスを連続して5本つなぎ、最後は宇佐美がドリブルでためて岡崎にラストパスを出した。

 こんなふうに自陣からビルドアップする場合、1人1人がたっぷり時間をかけてボールを持った上で6本のパスをつないだとしたらどうか? ラストパスが出るころには、敵の守備隊形はがっちり固まってしまう。

 逆にいえぱあの3点目は、1人1人が速い判断でダイレクト~ツータッチのパスを畳みかけたから生まれたものだ。またラストパスを出した宇佐美が最後にドリブルで敵陣にゆさぶりをかけ、守備の綻びを作ったのも大きかった。

「第3の動き」が生み出すダイレクトパスの乱れ咲き

 ではなぜこのチームは、これほどダイレクトパスを何本も続けてつなぐことができるのか? 重要なカギを握るのが「第3の動き」である。

 ボールの出し手(選手A)とパスの受け手(選手B)の2人だけがプレイにかかわるのでなく、3人目(選手C)の動きが同時にあれば、Cは1本目のパスを受けた選手Bから、その次の2本目のパスをダイレクトでもらえる。

 単純にいえば、味方がボールを持った瞬間に2~3人が同時に連動してパスを受ける動きやスペースを作る動きをすれば、第3の大きなうねりが生まれる可能性が高くなる。

 昔のサッカーでは、ボールホルダーとパスの受け手の2人だけがプレイに関与し、ほかの選手は足を止めてしまっているシーンがよく見られた。だがこれでは選手Aから選手Bに1本のパスが通るだけだ。ダイレクトパスが次々につながる展開にはならない。

 あげく、次に新しくボールホルダーになった選手Bと、パスの受け手である選手Cのまたもや2人だけが次のプレイに関与するのでは、また1本のパスが通るだけで終わる。1本1本のパスがぶつ切りになってしまう。次の新たなボールホルダーがまた何タッチもかけてあたりを見回し、じっくり考えてからパスを出す、というのでは絶対に速い攻撃はできない。

 つまり第3の動きを心がける強い意識づけが、このチームにダイレクトパスの乱れ咲きをもらたしている。これは大きな意識改革といえるだろう。

バックラインやGKまでビルドアップのダイレクトパスを出す

 そしてこのチーム最大の特徴は、自陣・後方からの(1)ビルドアップの速さだ。なんとゴールキーパーまでが、ダイレクトでビルドアップのための1本目のパスを出している。

 また特筆すべきは昨日の槙野がやっていたように、センターバックからの(3)強くて速いグラウンダーのパス出しである。そう短くはない中距離のパスを、センターバックもダイレクトで前へ出している。つまりバックラインの選手がボールをもった瞬間、速い判断ですぐ最前線を見て、スキあらば少しでも前のポイントへボールを運ぼうとする意識が徹底されている。もちろんこれは監督が考えたチームコンセプトだろう。

 日本のサッカー界はもう長い間、強くて速く長いグラウンダーのパスを出せるかどうか? が永遠のテーマになっていた。

 中~長距離のパスを通すとき、海外の一流クラスは平気でインサイドを使い、強くて長い正確なパスを出す。一方、日本の選手はといえば、中~長距離になるとゆるい浮き球のパスを出すか、グラウンダーだったとしても「ポーン、ポーン」と何度も軽く弾みながら目的地へ到達するような緩慢なパスしか出せなかった。だがそんなパスでは速い攻撃はできない。

 つまり従来の日本人選手は、「ズバン!」と強くて速い(しかも長い)グラウンダーのパスが出せなかったのだ。だがハリルジャパンのセンターバックのパス出しを見ていると、このチームは日本サッカー界の長年の課題に答えを出そうとしている。これは歴史的な転換点である。

バイタル手前の中央にクサビのパスがよく通った

 とはいえ喜んでばかりはいられない。この日の日本の攻撃がうまくハマったのは、ひとつにはイラクの中央の守備が甘かったのも大きい。

 日本の選手がボールを持ったとき、イラク陣内のバイタルエリアから少し手前にいる味方の選手がしょっちゅうフリーになっていた。そこへ「スパン!」と強くて速い縦のクサビのボールが通り、その落としから展開するパターンがよく見られた。

 あれだけクサビのパスがよく収まれば組み立てはラクになる。守備のレベルが高い相手なら、なかなかそうはさせてもらえない。ゆえに、この点はかなり割り引いて考える必要があるだろう。

 圧勝したが、相手がゆるかった──。ここは肝に銘じておくべきだ。

 もうひとつはスタミナの問題がある。前半の終わりから後半の初めにかけ、ガクンと運動量が落ちて前への推進力が鈍った。むろんあれだけ速いプレスをかけ続ければ、後半に運動量が減るのは自然の成り行きだ。この点は「プレス型」のチームにとって、これまた永遠の課題である。

 過去、Jリーグでもハリルジャパンのようにこまめにプレスをかけてよく走るチームが登場するたび、「後半も同じように続けられるかどうか?」がテーマになってきた。古くはベンゲル時代の名古屋グランパスのように、いくつものチームが挑戦しては果たせずにきた。ゆえに90分間、同じハイペースでプレスをかけるのは現実的ではない。

 とすれば試合展開や点差に応じ、プレスをかけ始めるゾーンを低く設定するなど、意図的に相手にボールを持たせることも必要になってくる。こうした状況判断を選手1人1人が「自分の頭で考えて」できるかどうか? ここは今後の課題だろう。

柴崎、宇佐美、武藤に期待がふくらむ

 最後に選手個々の寸評へ行こう。まず個人的には、いちばん強く印象に残ったのは柴崎だった。彼は状況判断が速く、自由自在にダイレクトパスが出せる。この点ではチーム一だろう。

 また短いパスだけでなく中~長距離のパスが正確無比だ。おまけに自分がボールを持ってないときも労を惜しまず、こまめにプレスをかけ続ける。今回、ザックジャパン以降に代表デビューした選手の中で、チームコンセプトに適応しながら短期間でいちばん伸びているのは柴崎ではないだろうか。

 次は宇佐美だ。彼の攻撃的な動きは非常に頼もしい。宇佐美はドリブルで攻撃にアクセントをつけられ、攻めのリズムを変えることができる。この効能はチームにとって大きい。相手チームは彼をファウルでしか止められないシーンも見かけるが、逆にいえぱ彼のドリブルは敵のバイタルエリア近くでフリーキックを取れる「飛び道具」になる。あとは自分がボールを持ってないときに足が止まるクセが直れば鬼に金棒だ。

 そして後半、目を引いたのは武藤である。彼の場合は(周囲との問題もあり)「連動性」という意味では前半の選手より落ちたが、なにしろ積極性がすばらしい。勢いがある。常にシュートを狙っているし、ドリブルもできる。宇佐美とポジションがかぶってしまうのが非常に惜しい。

 おそらく武藤は前半から出ていれば、周囲との連動性にも問題なかったのではないか? 次は、もともと連携の取れている本田、香川、岡崎の3人とからむところを見たい。彼らと同時に出場したとき、どれくらいの完成度が期待できるのか? 興味がつきない。

 また武藤と同時に交代出場した永井と原口も武藤と同様、非常に思い切りがよく勢いがあった。彼らも一度、連携が取れている「土台たち」との組み合わせで見てみたい。

勢いと思い切りのよさ――メンタリティが変わった日本代表

 一方、ベテラン組に目を移すと、右の本田はボールを持つと内側へ切り込んでくる動きを繰り返し、うまく真ん中寄りでポイントを作っていた。ポジショニングのうまさは相変わらずだ。

 また岡崎もボールの収まりのよさはピカイチだし、この日は香川が復調している気配が感じられたのもよかった。さらに長友、酒井の両サイドバックの信じられない運動量も目を引いた。かたや後半、柴崎と交代出場した山口蛍は、クレバーで読みがよく守備だけでなくパス出しも非常によかったのが印象的だった。

 いつも後半の残り時間が少ないところで出てくる大迫は、必然的にゲームに入るのがむずかしくなり、少し気の毒な気がした。しっかりポストになれてパス出しもできる彼は、たっぷり出場時間があれば必ず結果を出す力がある。今後に期待しよう。

 さて総評として、日本代表はいまやメンタリティがはっきり変わった。強い精神力と団結心が備わってきている。実はこれがいちばん大きい。後半に出てきた武藤が象徴するように、チームに勢いと思い切りのよさが根を下ろしつつある。この「無鉄砲なほどの思い切りのよさ」は、歴代の代表チームにはまったくなかったものだ。実に頼もしいし、いよいよ本番が楽しみになってきた。
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【安保法制】4つの選択肢ごとに長・短所をあげ、時間をかけて国民的な議論をすべきだ

2015-06-03 19:39:17 | 政治
(1)非武装中立、(2)安保破棄・武装中立、(3)安保維持・集団的自衛権行使、(4)完全な現状維持

 安保関連法案について、明治大学の浦田一郎教授ら憲法学者171人が「憲法違反であり、重大な問題がある」とし、国会に対して拙速に採決しないよう求める声明を発表した。

 まったく賛成だ。もっとじっくり時間をかけ、前提になる改憲論議も含め、ネットを交えて国民的な議論をすべきだろう。

 例えば議論の叩き台として、まず取りうる4つくらいの選択肢をあげる。一例をあげれば、以下の通りだ。

(1)安保破棄・非武装中立。

(2)安保破棄・武装中立。

(3)安保維持・集団的自衛権を行使容認。

(4)安保維持・完全な現状維持。


 ※もちろん想定するオプションはもっと多くていい。

 そして各オプションごとに、国際情勢などから見たメリット・デメリット、かかるコスト、実現性をすべてテーブルの上に出し、専門家も交えて国民的な議論をすべきだ。

 安倍政権のやり方は、「由らしむべし、知らしむべからず」の典型である。なぜそれが必要なのか? をロジカルにはっきり説明せず、「うまくごまかし押し通そう」という意図しか感じられない。このまま決めてしまっては、国家として100年の禍根を残す。

 一方、護憲派も「命」や「人権」など抽象的な議論に終始し、論理ではなく人の感情に訴えて議論に勝とう、という論法でしかない。いったい「どんな世界をめざすのか?」が具体的に伝わってこない。

 このさい相撲を取り直し、時間をかけて具体的に議論すべきだ。今はインターネットもあるのだから、国民総がかりで素材を出し合えば建設的な話し合いもできる。感情論やイデオロギーに流されず、ロジカルに結論を集約しよう。
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