すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【高倉なでしこJAPAN】世代交代は「悪」か? ~マスコミの印象操作とメディアリテラシー

2016-04-30 11:47:46 | サッカー日本代表
記事に込められた「含意」を読み取れ

 日本サッカー協会は4月27日に記者会見を開き、なでしこジャパンの新監督にU-20女子日本代表の高倉麻子監督が就任すると発表した。で、メディア各社が監督のコメントをさまざまに報道しているのだが、ひときわ違和感があったのが日刊スポーツの記事だった。なでしこジャパンの世代交代を、まるで「忌むべきもの」のように書いているのだ。

 いやもちろん日刊スポーツに他意はなく、何の気なしに書いているのだろう。だが、それを読んだ読者の中には「世代交代は悪なのか?」と洗脳されてしまう人もいるかもしれない。そこで今回はモデルケースを挙げながら、ニュース記事を読むときのメディアリテラシーについて考えてみよう。

 さて、問題の日刊スポーツの記事はこれである。同紙は編集部サイドの「地の文」を織り交ぜながら、高倉新監督のコメントを随所に散りばめるスタイルを取っている。その文中で違和感を感じた「世代交代のくだり」を以下に引用する。

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 選手選考は横一線の競争だ。「世代交代」が叫ばれるが、若手だからと、優遇することはない。

 高倉監督 その時に一番いいパフォーマンスをする選手を選考するのが基準。ベテランの経験値、若手の伸びしろのアドバンテージも考えながら、うまく融合させていければ。年齢で区切ることはない。

なでしこ高倉新監督、五輪で金獲る 自信の所信表明(日刊スポーツ)

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 このように「地の文」を混ぜるのはよくあるパターンだ。だが上に挙げた引用文中、高倉監督のコメントの前にある1行の地の文がクセ者だ。

『「世代交代」が叫ばれるが、若手だからと、優遇することはない』という1行である。

 監督コメントの前にこの1行が入ることにより、まるで世代交代とは「若手を特別扱いしながら進めて行くもの」であるかのような印象になる。で、新監督はそんな「悪しきもの=世代交代」には手を染めないのだ、というような記事の流れになっている。

 同じ部分をもう一度引用してみよう。今度は問題の「地の文」の1行を入れず、純粋に監督のコメントだけを以下に抜き出してみる。さて印象はどう変わるだろうか?

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 高倉監督 その時に一番いいパフォーマンスをする選手を選考するのが基準。ベテランの経験値、若手の伸びしろのアドバンテージも考えながら、うまく融合させていければ。年齢で区切ることはない。

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 ごらんの通り、監督はきわめて真っ当なことを述べている。だがこのコメントの前に『「世代交代」が叫ばれるが、若手だからと、優遇することはない』という問題の地の文1行が付け足されると、たちまち印象が180度変わる。地の文込みで、以下に再掲しよう。

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 選手選考は横一線の競争だ。「世代交代」が叫ばれるが、若手だからと、優遇することはない。

 高倉監督 その時に一番いいパフォーマンスをする選手を選考するのが基準。ベテランの経験値、若手の伸びしろのアドバンテージも考えながら、うまく融合させていければ。年齢で区切ることはない。

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 これを読んだ読者はどう解釈するか?

「なるほど。新監督は若手だからといって特別扱いせず、そのときの実力で選手選考するつもりだ。(逆に言えば)世代交代というものは若手を優遇し、特別扱いして実現するものなんだ。それなら無理に世代交代などやらなくていいな」

 こんなふうに誤読する読者だっているかもしれない。世代交代とは若手を「えこひいき」することで行なうものだと仮にこの記者が考えており、ゆえになでしこがそんな「悪い方向」へ行かないよう世論誘導しよう、と記者が考えてこの記事を書いたのだとすれば、その企てはまんまと成功したことになる。

 さらにおかしいのは、世代交代という語句を地の文の中でわざわざカギカッコ「」に入れてある点だ。このカギカッコの意味はなんだろう?

 記事を書いた記者の心理を推測すれば、「いまここで記事に『世代交代』という言葉を使うが、あくまでカギカッコ付きですよ。私は別に世代交代を『良いことだ』と思って書いているわけではないですよ。誤解なきように」というような含意の可能性がひとつある。つまり記者は世代交代に関し、なんらかの含みを持っているのではないかと想像できる。例えばそれは「意図的な世代交代には弊害アリ」というようなマイナス意識かもしれない。 
 
 さらにうがった見方をすれば、この記者は宮間や川澄ら、なでしこジャパンのベテラン選手と「ナアナア」の関係であり、記事中で世代交代なる言葉を使えば彼女たちベテラン選手の心象を害してしまう恐れがある。そこで世代交代という語句にわざわざカギカッコを付け、「私は世代交代を良いことだとは思っていませんよ」とベテラン選手たちに向けたエクスキューズつきで記事にしたーーこんな推理も成り立つ(もちろんあくまで想像であるが)。

 では一方、参考までに他社はどう報道しているだろうか? 例えば「スポーツ報知」が記事でなでしこの世代交代に触れた部分は以下の通りだ。

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―選手選考は。

「年齢で区切ることはない。パフォーマンスを注意深く見て、いいものを持った選手をなるべく多く発掘しながら競争させ、代表をつくっていきたい」

■【なでしこ】高倉新監督に聞く…東京五輪メダル獲得へ「年齢で区切らない。競争させて代表をつくる」(スポーツ報知)

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 まったくフラットな内容である。この記事からは何の含みも読み取れない。まっすぐな文章だ。ちなみに「何らかの作為があるのではないか?」と邪推できてしまう、前掲の日刊スポーツの記事と読みくらべてみてほしい。

 こんなふうに記者が何気なく付け加えたほんの1行の地の文から、いろいろな情報が読み取れる。メディアの記事を読むときにはあらゆる可能性を考えながら、くれぐれも世論誘導されないよう気をつけたほうがいい。

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【リオ五輪サッカー】OA枠は必要か? ~オーバーエイジの功と罪

2016-04-29 07:17:02 | サッカー日本代表
本田や香川ら海外組の招集は消えた

 一部報道によれば、予想通りリオ五輪代表への海外組のOA招集は可能性が極めて低くなったようだ。

 そもそもJリーグのクラブでさえ、「五輪期間中もJリーグが中断されるわけではないから」といって代表への選手の送り出しを渋るチームがあるくらいだ。にもかかわらず日本とまったく関係ない、海外のミランだのドルトムントだのが「Yes」というわけないだろう。ちょっと考えればわかる話だ。

 だいたい個人的には、OA枠を使うこと自体にためらいも感じる。

 例えばいまやA代表は、高齢化とメンバーの固定化が定番になっている。すでにロシアW杯で世代交代は無理だが、その次のW杯までにはなんとか進めたい。その意味では、あえてリオ五輪でOA枠を使わないという選択は十分ありえる。それどころか大いに有意義なトライといえるだろう。

 にもかかわらずメディア上では、「本田と香川を動員し、メキシコ五輪以来48年ぶりのメダル獲得を!」などという近視眼的で現実味のない論調が出てくることに疑問を感じる。

 個人的には、仮に本田と香川を招集したとしてもメダルなど難しいだろうし、そもそも日本は向こう100年くらいは「まずグループリーグ突破を目指します」と地に足をつけた目標設定をすべきだと考えている。それくらい段階的、計画的にプロジェクトを進めるべきだろう。

 W杯や五輪になるたびに、「次の目標はベスト4だ」、「48年ぶりのメダル獲得を!」みたいなイケイケ・ドンドンの報道ぶりになるのが本当に不思議だ。

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【リオ五輪OA枠】「戦術=岡崎」で、と日刊ゲンダイが仕掛ける壮大な釣り

2016-04-27 17:40:24 | サッカー日本代表
「岡崎を1人だけ選べばいい」の時代錯誤

 いやはや、昨日の日刊ゲンダイを読んで目が点になった。この記事はひょっとして釣りだろうか? 要約すると……(1)強豪ひしめくリオ五輪では、日本は弱者のサッカーを強いられる(2)ゆえにOA枠はレスターで堅守速攻を体現している岡崎を1人だけ選べばいい。「戦術=岡崎」でOKだーーなる論旨である。

 いや前段の(1)に異存はない。日本はレベルの低いアジアでこそ一定の地位を占めるが、「世界」へ出た瞬間に弱者の立場になる。その意味でこの記事の現状認識は正しい。

 だが後段の(2)「戦術=岡崎」はどうか?

 いちばん引っかかるのは以下のくだりだ。

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 岡崎はシーズンを通して“弱者のサッカー”をやり続けて結果を出している。岡崎を1トップに置き、その岡崎を最大限に生かすための戦術を採用する。これこそが、手倉森ジャパンの命運を左右する。

戦術ピタリ リオ五輪サッカーOAに岡崎1人召集という選択(日刊ゲンダイ)

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 それをいうなら「岡崎を生かすための戦術を採用する」のでなく、「堅守速攻なら結果として岡崎が全体戦術に貢献できる」という言い方が正解だろう。両者は似て非なるものであり、むしろ主客転倒だ。頭とお尻がひっくり返っている。

 レスターには岡崎に近い働きをする選手が何人もおり、彼らが揃ってプレスをかけコレクティヴに機能するから勝っているのだ。百歩譲って五輪代表に岡崎が11人いるなら、この記事の論旨もある程度は意味をなすだろう。11人の岡崎が組織的な動きをし、彼らが全体として「戦術」になるーー。なるほど、それなら話はわかる。

 だが当然ながら岡崎は1人しかいない。その岡崎をOA枠で1人だけ選び、「戦術=岡崎でOKだ」で事足れりとの発想はいただけない。いつの時代の話だよ、って感じである。

 この考え方は、例えばフィールドの中央にチームを仕切るゲームメーカー(死語)が帝王として君臨し、彼の存在がすなわちチーム戦術になるみたいな時代の論理だ。まるで80年代以前の話である。そんなふうに個がそのまま全体戦術化する世の中なんてとうの昔に終わっている。

 当然の話だが、現代サッカーでは岡崎を1人入れても単なる11分の1だ。彼1人の存在がそっくりそのまま戦術になるってありえない。

 日刊ゲンダイは、(釣りだとは思うが)もうちょっとサッカーを勉強すべきだろう。

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日本のサッカー界を左右する2つの大ニュースが気になる

2016-04-27 14:45:06 | サッカー日本代表
清武がブンデス2部でプレイするだって?

 日本のサッカー界を左右する2つの大きなニュースがあった。ひとつは、なでしこジャパンの監督にU―20女子日本代表の高倉麻子監督の就任が決まった件。もうひとつは、2部降格が確定したドイツ・ブンデスリーガのハノーバーでプレイするMF清武弘嗣の動向についてだ。

 まず世代交代のただ中にいるなでしこジャパンは、いろんな意味で転換点にある。高倉監督はむずかしい舵取りを迫られるが、ぜひがんばって成功に導いてほしい。なでしこジャパンの再興を願い、熱いエールを送りたい。

 そしてもうひとつの話題も、大変気になる。

 清武はこのままだと2部でプレイすることになるが、もし他クラブから実オファーがあり、5月31日までに固定違約金650万ユーロ(約8億1300万円)が支払われれば、移籍が可能とのことだ。実際、プレミアリーグのクラブ等から軽い当たりはあるらしい。

 清武には、日本の未来がかかっている。

 彼の居場所は2部ではない。

 ぜひ1部で優勝争いするチームに移籍し、心身ともにひとまわり大きくなることを祈っている。

 がんばれ清武!

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【映画評】「僕の彼女はサイボーグ」が描くアンドロイドの輪廻転生(2)

2016-04-24 18:57:09 | 映画
人間に生まれ変わった「彼女」はまた彼を選んだ

 映画「僕の彼女はサイボーグ」(監督:クァク・ジェヨン / 主演:綾瀬はるか)は、未来の「僕」=ジローがタイムマシンを使って過去の自分自身に送ったサイボーグの彼女と、「僕」との愛と葛藤を描いた作品だ。

 そしてこの映画の裏テーマのひとつが、サイボーグ綾瀬の発する無償の愛=母性であることは前回の記事で書いた。今回は、この映画のもうひとつの裏テーマについて書こう(ネタバレあり)。それは機械の彼女が体験した輪廻転生の物語である。

 サイボーグ綾瀬はジローとのふれあいのなかで、少しずつ愛が理解できるようになった。そして半ば人間化しながらも、彼を助けて身代わりに地震で破壊されてしまった。

 だが物語は終わりではなかった。

 なんと彼女は、未来で人間の女子高生として転生したのだ。

 だが、もちろん前世(サイボーグ時代)の記憶はないし、自分がサイボーグの生まれ変わりだなどという自覚はない。で、運命の糸に導かれるように、彼女は博物館に展示された寿命の切れたかつてのサイボーグ綾瀬と出会った。

「このサイボーグは、なぜ私と同じ顔をしてるんだろう?」

 好奇心にかられた未来の綾瀬は、オークションでサイボーグ綾瀬を父に買い取ってもらった。そしてサイボーグに埋め込まれた記憶チップを使い、いわば自分の「前世の記憶」を脳に再インストールした。この時点で前世が補完された人間の綾瀬は、文字通りあのサイボーグ綾瀬と完全融合した転生・綾瀬となった。

 そして地震後のラストシーンでは、主人公のジローと転生・綾瀬が結ばれるーー。

 彼女はサイボーグ綾瀬の記憶と意識をもち、サイボーグ時代の綾瀬と完璧に一体化している。なにより彼女は、人間として転生したのだから。そして生まれ変わった彼女は最後にジローと結ばれる。

 この解釈なら、サイボーグ綾瀬の方にしか感情移入できず、「最後に結ばれるのはサイボーグの方であってほしい」と願う人たちの心もサルベージできる。

 ただし、この物語は単純なハッピーエンドではない。

 人間の転生・綾瀬はラストで過去に介入し、ジローといっしょに生きて行くパラレルワールドを選んだ。歴史を変えられた時空はまた歪められ、いつか再び強い力でもとへ戻ろうとするだろう。その揺り戻しが起こす災難は、三たび彼と彼女を襲うはずだ。今度は、地震どころでは済まないかもしれない。

「それでも私は、彼といっしょに生きて行く」

「未来にくるであろう破滅も込みで、それでも私はまた彼を選んだ」

 この映画は、そういう物語なのである。


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【映画評】「僕の彼女はサイボーグ」が発散する母性の愛(1)

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【映画評】「僕の彼女はサイボーグ」が発散する母性の愛(1)

2016-04-24 07:52:21 | 映画
男たちはアンドロイド・マザーの夢を見るか?

 すべての男はマザコンである。

 自分の身を犠牲にし子を育てる母の無償の愛があるからこそ、息子は男として家庭を旅立てる。ゆえに、すべての男はマザコンである。

 映画「僕の彼女はサイボーグ」(監督:クァク・ジェヨン)は、未来の「僕」がタイムマシンで過去の自分に送ったサイボーグの彼女と僕(=ジロー)との愛や輪廻を描いたSF仕立てのラブストーリーだ。

「タイムパラドックスが穴だらけなのに、なぜか何度も観たくなる。この映画が気になって仕方ないーー」。ネット上では、よくそんな声を聞く。

 それはあなたが、主演する綾瀬はるかの姿に「母」を見ているからだ。身を挺し何度もジローの危機を救ってくれるサイボーグ綾瀬に、あなたは母の無償の愛を感じている。ゆえにこの映画は観た男性に本能的な思慕の情を起こさせる。すべての男は無意識のうちに胎内回帰願望を刺激される。

 だから何度も観たくなるし、この映画が気になって仕方ない。

 そう。本作最大の裏テーマは、無償の愛=母性である。見返りなど求めず、危険を冒してジローの危機を何度も救うサイボーグ綾瀬は母性の象徴なのだ。

機械の心が嫉妬する

 たとえば劇中で時間を遡行し、ふたりでジローの心の故郷へ帰るシーン。夕焼けをバックにサイボーグ綾瀬が主人公をおんぶするくだりがある。あれは「子供を背負う女=母性の象徴」という位置づけだろう。

 その証拠に「君の背中は機械だから冷たい(が母の背は暖かかった)」とジローにいわれ、サイボーグ綾瀬は背負ったジローをわざと落っことす。彼女はこのとき明らかにジローの母に嫉妬している。機械の心で愛を感じている。

 だが他方、クラブでジローがナンパした軽薄な女性には嫉妬していない。つまりあの程度の女はライバルに値せず、母性の象徴たるサイボーグ綾瀬の嫉妬の対象はあくまでジローの母であることを暗示している。

 実は故郷へ帰るシーンは、母性がこの映画のひとつのテーマであることを絵解きしたカギになる場面だ。「故郷へ帰るくだりは長すぎる。カットしてOK」という意見がネット上に多いが、重要なポイントを読み外していると思う。

 あの帰郷のシーンこそが、男たちの故郷=母の胸へと帰るこの映画最大の裏テーマを象徴するシーンなのである。

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【映画評】「僕の彼女はサイボーグ」が描くアンドロイドの輪廻転生(2)

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【リオ五輪サッカー】本田と香川をOAで、って冗談でしょう?

2016-04-22 21:18:59 | サッカー日本代表
それでメダルを取って何になるのか?

 一部報道では、U-23代表の手倉森監督がリオ五輪のオーバーエイジ(OA)枠に関し「本田、香川も頭にある」と言ったとか、あるいはその案はすでにハリルに断られた、などという噂が流れている。

 本田、香川をOAで、というのは手倉森監督一流の「釣り」だとは思うが、もし万一本気なのだとしたら大反対だ。仮に本田と香川入りでメダルを取ったとして、いったいそれが何になるというのだろう?

 それならいっそOA枠など使わず、最終予選を勝ち抜いたイキのいいメンバーで前からプレスをかけて玉砕したほうがよほど将来のためになる。

「森重をCBで使う」などというなら有益だが、(釣りだとは思うが)本田と香川の選択には絶対反対だ。

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【シリア戦・総括】ハリルの「秘策」は縦パスとハイプレスの融合だ

2016-04-06 05:27:04 | サッカー日本代表
スペースは必ずできる。ではどの選択がベターなのか?

 現代サッカーでは、陣形をコンパクトにすれば必ずどこかにスペースができる。ではどこにスペースができるのを「よし」とするか? それによって戦い方が決まってくる。

------------------------------戦術の選択とスペースの関係--------------------------------

(1)ハイプレス&ショートカウンター →スペースは低い位置(自陣ゴール寄り)にできる。

(2)ポゼッション・スタイル →同上(前がかりで攻め上がると、後ろにスペースができる)

(3)リトリート&ロングカウンター →スペースは高い位置にできる。

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 まず(1)のハイプレスは、敵のゴールに近いゾーンでボールを奪えばより得点が取りやすい、と考える戦術だ。しかし逆にロングボール等でプレスの網をかいくぐられると、自陣にあるスペースを突かれて失点のリスクが高まる。

 次に(2)のポゼッション・スタイルはどうか? 「ボールを保持する時間が長ければ長いほど、ゴールできる確率も高まる」と考えられていたのは昔の話だ。

 例えば引いてカウンター狙いの相手に対し、なかなかゴールを割れなければ? 高い位置でムダにポゼッションし続けることになり、低いゾーン(自陣のゴール寄り)にスペースができっ放しになる。で、ボールを失い、カウンターを食らえばこのスペースを使われて失点する。

 では最後に、(3)リトリート&ロングカウンター狙いならどうか? スペースは高い位置にできるため失点はしにくい。だが相手ボールを奪う位置が低くなるため、そのぶん敵ゴールまでが遠く、得点も取りにくくなる。

 すなわちどの選択も一長一短。サッカーに絶対的な正解はない。

縦パスでスイッチを入れる

 では我らがハリルの選択はどれか? (1)のハイプレス&ショートカウンター狙いに近いが、ただし前提条件がある。まずマイボールの時に、速いタイミングで相手陣内に長くきわどい縦パスを入れるのだ。もしこれが通れば決定的なチャンスになる。巷間、よくいわれる縦に速くである。

 そして他方、この縦パスが通らなくても、そのときボールを失うゾーンは必ず高い位置になる。つまり相手ゴールに近いエリアだ。わかりやすくいえば、縦にロングボールを放り込んだのと同じ状態である。

 その位置でボールロストするのを半ば想定し、前線にいる複数の選手がポジショニングする。で、すかさずネガティヴ・トランジション(攻から守への切り替え)を行い相手ボールホルダーにプレスをかけ、奪い返す。するとボール奪取地点は敵ゴールの近くだけに、絶対的なコレクティヴ・ショートカウンターのチャンスになる。

 つまり通れば「儲けもの」の縦パスで半分は勝負をかける。で、(いわばわざと)相手にボールを渡し、前からプレスをかける。縦パスでスイッチを入れるわけだ。ちなみにこの戦術はゲーゲン(gegen=ドイツ語:「カウンター」の意味)プレッシングなどと呼ばれ、ヨーロッパの最先端になっている。

 これがハリルの構想だ。単なるハイプレスでなく、その前段階の縦パスと組み合わせ攻守をワンパッケージで考える。で、その戦術を実行に移したのが先日のロシアW杯アジア2次予選・最終戦。シリア戦だった。

 ではテストの結果はどうだったか?

 日本はひんぱんにチャンスを作ったが、その多くでゴールできず、得点は5点に留まった(もし決定機をすべてモノにしていれば10点以上は取れた)。そして逆に自分たちが前がかりになりバランスを崩したところを突かれ、シリアに多くのチャンスを与えた(シリアにもっと決定力があれば少なくとも4点は失点していた)。

ピンチはざっくり3パターンあった

 シリアにチャンスを作られた原因は、何パターンかに分類できる。まず(A)マイボール時に前がかりになり前でボールを失った直後、高く構えた最終ラインの裏のスペースを狙われたケースがひとつ。

 次は(B)マイボール時に前がかりになったが、(特に後半は)疲労もありバックラインの押し上げが利かなかったケースである。このパターンでは最前線と最終ラインの距離が間延びし、中盤にぽっかりできたスペースを敵に使われた。

 最後は、相手ボールの時だ。(C)前でプレスがかかってないのに前がかりになっており、うしろのスペースを突かれたケースである(特に後半)。ざっくりいえば、ピンチを招いたのはこの3パターンに分けられる。

 では修正するには何をすればいいか? 

(A)のケースに対しては、ディレイをかけながら徐々にリトリートし、じっくり味方の帰陣を待つこと。(B)には、きっちり最終ラインを押し上げる。(C)の場合は、疲労などで前からプレスをかけられないなら重心を前にかけず、しっかり自陣にブロックを作ることである。

ハリルの方向性は正しいが……

 一方、試合運びの問題もある。(ただシリア戦は前から行くテストだったからあれでもいいのだが)、もしあれがW杯本大会の「ド本番」で、リードしている場合なら、相手ボールのときには無理に前からプレスをかけず自陣にブロックを作る。逆にリードしておりマイボールならば、ポゼッションしてうまく時間を使う、などの対処法が考えられる。

 結論として、前述したハリルの目指すサッカーはまちがっていない。それはハッキリしている。コレクティヴで勤勉な日本人に合っている。だがいかんせん、2次予選最終戦も決定力不足を露呈し作ったチャンスの数ほど得点できず、逆に守備に課題を残しているーー。

 目指す方向性は正しい。

 それだけに、勝負はあと2年でどれだけ課題を修正できるか? にかかっている。

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【シリア戦・撃ち合いの真相】ハイプレスをかわされカウンターを食らう

2016-04-02 08:44:22 | サッカー日本代表
前から行けば後ろが空く

 5-0で日本が勝ったロシアW杯・アジア2次予選最終戦。日本は作った決定機を決めていれば10点は入っていた。逆にシリアがチャンスをものにすれば、3~4点は失点していた。日本が1度攻めれば、次は必ず相手からカウンターを食らうーー。なぜ日本はシリアという格下相手に、そんな撃ち合いを演じたのか? それはこの試合の位置づけに関係している。

 シリア戦がハイプレス&ショートカウンターのテストだったことは前回の記事で述べた。あの試合はそういう位置づけだった。さて、これでもうピンとくる人はいるだろう。

 前からプレスをかけると、必然的に全体の重心が前がかりになる。すると当然、うしろが空く。で、日本のハイプレスが空振りに終わるとスカスカなうしろのスペースを使われ、攻撃を食らう。そうなれば撃ち合いは必然だ。

 具体的に説明しよう。ハイプレスをかけている際の日本はかなり押し上げ、ハーフウェイラインあたりに最終ラインを敷いている。つまりバックラインのうしろには、広大なスペースが空いている。日本は前からのプレスをかわされるか、あるいはセカンドボールを拾われれば、当然、ライン裏のスペースを使われてカウンターを受ける。

 もちろんハイプレスをかけ、相手ボールを奪って攻め切ってしまえば話は別だ。だがこの日も日本は決定力に欠け、パスをカットされたりこぼれ球を拾われ二次攻撃を受けた。すると今度は日本の高い位置取りがアダになる。

 またあの試合、特に後半は疲労もあり、日本の攻撃陣は前から行っているのにラインの押し上げが利いてない時間帯があった。前の選手は高いゾーンにいるのに、最終ラインが押し上げてないとどうなるか? 最前線とラインの距離が間延びし、当然、今度は中盤にスペースができる。で、そのぽっかり空いた中盤のスペースを使われて逆襲される。

原口のポジショニングは一因にすぎない

 シリア戦が撃ち合いになった理由は、ざっとこんなところだ。日本はすでに前半から相手のカウンターを受けていた。だから後半にボランチとして途中投入された原口のポジショニングがバランスを欠いた、というのは一要素にすぎない。なんせ前述のような理由で、もっと前から撃ち合いになっていたのだから。

 ではなぜ日本はわざわざ危険を冒してまで、格下相手に攻め合ったのか? 繰り返しになるが、それはシリア戦がハイプレス&ショートカウンターのテストだったからだ。別にブロックの位置を中庸に保てば、バランスが取れて安全な勝ち方はできる。だが日本はたとえ撃ち合いになったとしても、前から行くトライを優先した。

 もちろん前がかりになったところを突かれて攻撃されても、対処する術はある。例えばリトリートしてディレイをかけ、相手の攻めを遅らせ味方の帰陣を待てばいい。だが日本はハイプレスの実戦練習(テスト)をしたのはほぼ初めてであり、ディレイをかける対処も万全ではなかった。で、相手の攻めを食らった。

 つまり日本はリスクを犯してでもテストを優先した。

 これがシリア戦、撃ち合いの真相である。

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