すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【国際親善試合】なでしこジャパンが格下相手に8G圧勝 〜日本女子 8-0 アルゼンチン女子

2023-09-24 05:00:23 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
これでは「守備の練習」にならない

 なでしこジャパンが9月23日、アルゼンチン女子代表と親善試合を戦った。試合は日本が8対0で圧勝した。アルゼンチンはFIFAランキング31位、日本は8位と大きく力が違い、そのため大差の結果になった。

 日本は今年7〜8月に行われた女子W杯を3-4-2-1のフォーメーションで戦いベスト8入りしたが、この試合では新たに4-1-2-3にトライした。彼女たちは今年10月のパリ五輪アジア2次予選を控えている。

 相手のアルゼンチンは守備がゆるく日本のSBは上がり放題。特に左SBの遠藤純はMFのようなポジショニングでプレイしていた。攻撃時には両SBを高く構えて幅を取る、ということだろうが、「ああ、これでは肝心の守備の練習にならないな」と感じた(なでしこのアキレス腱は守備だ)。

 実際、日本は相手を押し込み、ほとんど敵陣でプレイしていた。

 アジアの予選では日本が圧倒するから守備の練習はいらない、ということだろうか? だがそんな近視眼的な考え方には賛同しかねる。常に世界のトップ・オブ・トップを視野に入れて強化すべきだ。ならば日本はすでに攻撃面では十分いいのだから、まず手つかずの守備にもっと手を入れトータルでレベルアップしたいのだが……。

世界基準とアジア仕様のちがい

 もちろんアジア仕様の戦いがあることは承知している。そのための攻撃的な4-1-2-3採用なのだろうな、という想像もつく。特にこの日、アンカーに起用された熊谷紗希のワイドな機能の仕方を考えれば、「なるほどな」とは思う。

 アルゼンチンは4-4-2でキックオフを迎えたが、今日の攻撃的な日本とその新フォーメーションを見て途中で4-3-2-1に変えてきた。いわゆるクリスマスツリーだ。ボランチ3枚で守備が堅い。

 アジアでも日本の対戦相手は守備を固めてくるはずなので、その点ではいいシミュレーションになった。だがこの試合は本当に意味があったといえるのだろうか?

 今日は対戦相手との力関係でいくらでもゴールは取れるだろう。だが相手は関係なく自分に厳しくやる必要がある。自らの課題を見つけ、そこを修正しながら自分たちの細部を詰めて行かなければ始まらない。その意味では疑問の残る試合だった。

 日本のスタメンはGKが平尾知佳。最終ラインは右から清水梨紗、高橋はな、南萌華、遠藤純。中盤では熊谷がアンカーを務め、右IHは長谷川唯、左IHは長野風花。3トップには右から猶本光、田中美南、宮澤ひなたが入った。

強くて速いインサイドキックのボールがほしい

 例えばこの試合を観ただけでも、課題は山とある。

 序盤で右に開いたFW田中美南がサイドチェンジしようとしたが、ボールが逆サイドまで届かない。思わず目をこすった。遠藤はトラップが大きくなりボールロストする。まるで20年前の男子代表を見ているかのようだった。

 その当時、「日本人選手は一発でサイドを換えられない。いったん中央の選手を経由しないとサイドチェンジできない」などと問題になっていたが、久しぶりにそんな昔話をなつかしく思い出した。

 いちばん気になるのはボールスピードだ。

 まず、これは彼女たちのインテンシティ(プレー強度)が高くないこととも関係しているが、全体になでしこジャパンはボールスピードが決定的に足りない。インサイドキックのボールが「てん、てん、てん」とゆるく弾みながら転がるのではダメだ。あれでは密集地帯を通せない。スパン! と瞬時に味方の足元に届く速いボールを出したい。

 例えば女子W杯ではイングランドやスウェーデン、オーストラリアなど上位に入った各国女子代表は、例外なくインサイドキックで目にも止まらぬ強いボールを出していた。まずそこから始める必要がある。

左SB遠藤純はサイドのレジスタだ

 ただ選手個々を見れば非常にいいものを持っている。だからこそチームとしての改善点が気になるのだ。

 例えば選手別では、遠藤は攻撃面は非常にいい。高い技術を持っている。正確無比でゲームを動かすキーパスが出せる。最終ラインのレジスタだ。オーバーラップしてのプレーが特によかった。

 レジスタ的な機能は時代とともにかつてのピルロのようなアンカーに降り、今では最終ラインにまで降りて来ている。それだけサッカーは攻撃的になったのだ。

 また熊谷のアンカーもハマっていた。ボールを左右中央に振り分け、全体のコンダクターの役割をする。彼女がいままでセンターバックでやっていた組み立ての仕事を、一列上がってやっているような感じだ。彼女のアンカー機能により、いっそうチームが攻撃的になった。

 一方、猶本は第二の全盛期を謳歌しているようなプレーぶり。またこの日2ゴールの長谷川はドリブルも織り交ぜ、いつもより攻撃的なプレイを見せた。敵を欺くここぞのボールコントロールなど、ひとクラス違うさすがのプレーを披露した。

 女子W杯で得点王になり、マンチェスター・ユナイテッドWFCへ移籍の宮澤ひなたはどんなプレイをするのかな? と思って観たが、この試合ではいまいち冴えが見られなかった。前半45分の弱いシュート、あれはない。後半3分にもチャンスを迎えたが、なぜあそこでワンタッチで打たなかったのだろうか。

途中出場で2GのFW清家貴子がすごい

 さて得点シーンは書き切れないが、4つのゴールが印象に残った。まず前半2分の1点目だ。田中美南が前線の右サイドで敵DFが犯したボールコントロールのミスを見逃さず、ボールを奪いボックス内からシュートを決めた。抜け目のないゴールハンターという感じだ。

 次は同25分の3点目だ。左の遠藤がクロスを入れ、CB高橋が飛び込んで倒れながらヘッドで押し込んだ。なぜCBの高橋があそこにいるの? という意表を突くゴールだった。彼女の機敏な動きはすばらしい。

 続いて後半16分の5点目である。アンカー熊谷からの縦パスを受けて途中出場のFW植木理子がポストプレイ。複数の守備者に寄せられボールがこぼれるが、途中出場のFW清家貴子がすかさず拾って右足で詰めた。彼女は一部のスキもなく、ピッチを見張っているようだ。

 植木の堂に入ったポストワークと、清家の鋭い動きが目を引いた。清家は同47分にも、ボックス手前で敵GKの頭上を抜く山なりのシュートを放ち8点目を獲った。ナイスアイディアだ。

事情はわかるがマッチメイクに疑問が残る

 なお先日、MF長谷川唯がメディアにコメントを求められた映像を観たが、彼女は「今回の試合は女子W杯で出た課題を修正するというようなゲームではない。徹底的にボールを保持して攻撃する試合だ」という意味のことを発言していた。でもそれって意味あるの? と感じる。まあ彼女は組まれた試合をこなすだけなのだから仕方ないが。

 これを言い始めると、そもそもアルゼンチン女子代表とのマッチメイク自体の問題になってしまうが……4日に行われた記者会見で、佐々木則夫女子委員長は「女子W杯で8強入りしたが、別の国から対戦オファーはなかった」と明かした。

 各大陸で五輪予選が開催されているため試合が組みにくい、という事情もあるのだろうが、何か解せない疑問が残るスッキリしない試合だった。

 なお、なでしこジャパンはパリ五輪・アジア2次予選でグループCに入っている。ベトナム、ウズベキスタン、インドと同組だ。今年10月26日から11月1日にかけ、ウズベキスタンで集中開催される。さらに来年2月には最終予選がある。アジアの出場枠「2」を争う戦いだ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【なでしこの課題】なでしこジャパンは致命的な「2つの欠点」を修正せよ

2023-09-08 05:00:55 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
ボールはオープンか? クローズか?

 今年8月に行われた「女子ワールドカップ2023」で8強入りしたなでしこジャパンには、2つの大きな欠点がある。もちろんあの大会で得た収穫は大きかったが、ここではあえて課題にフォーカスする。今後のためだ。

 なぜなら問題点はどこにあり、それを修正するには何をすべきか? を考えるのがサッカーで強くなる秘訣だと考えるからだ。

 さてサッカーでいちばん大切なことは、まずボールはオープンか? クローズか? を見ることだ。

 オープンというのはボールに敵のプレスがかかっておらず、ボールを前方へ自由に展開できる状態を指す。一方、クローズとは、ボールにプレスがかかり規制下に置かれている状態だ。そして、もし相手ボールがオープンならば、これをクローズしに行かなければならない。

ボールの状態を認知することですべてが決まる

「ボールはオープンか? クローズか?」によって、攻撃面ではパスコースの作り方や第3の動きをどこにどう入れるのか? また守備面では第1プレッシャーラインの置き方や、そもそも最終ラインをいったいどこに設定するのか? まで、すべてのプレイがこれによって決定づけられる。

 もしオープンか? クローズか? を認知せずにプレイしているとすれば、それは運まかせでクジ引きをひくようなサッカーになっているはずだ。強く運に左右されてしまう。日本サッカーの歴史を振り返れば、思い当たるフシは多いはずだ。

 たとえば古くはドーハの「悲劇」とやらから(さすがカズはあのときボールをクローズしに行ったが間に合わなかった)、最近では「ロストフの14秒」などと美的に伝説化されたベルギーに超ロングカウンターを食らった「喜劇」まで(あのときGKクルトワが抱えたボールは「オープン」だった)、すべてがボールの状態を認知してなかったために起きた悲喜劇だ。

 確かに試合中で疲労が蓄積しているときは、認知する力が鈍磨しがちだ。特にそれは攻守の切り替えのときに起こりやすい。場面が移り変わって、つい集中力が切れるからだ。ゆえに「心のトランジション」は常に研ぎ澄ませておかなければならない。

球際で競る意識が低い

 だがなでしこジャパンの場合、この「ボールはオープンか? クローズか?」の見極めが甘い。同時に敵のボールをクローズしようという意識が低い。

 で、球際の激しい競り合いを嫌い、ややもするとボールウォッチャーになってしまう傾向がある。よしんば競り合ったとしても球際で負けてしまう。特に言えることはプレッシングのハメどころがはっきりしない点だ。というよりハメどころが「ない」。

 例えばこの記事(リンクあり)で書いたようにプレスの収めどころを作り、ボールを保持する敵の最終ラインをマンツーマンでハメて、前でボールを奪うところまで行きたい。

 で、ボールを取ったら即、前線からショートカウンターをかける。これができれば1ランクも2ランクも上へ行けるはずだ。

 重要なのはパスコースを切りながらただ「見る」だけでなく、能動的に前からアグレッシブにプレスをかけること。球際でカラダを入れて敵ボールホルダーと激しく競る。ボールを保持する相手にカラダを押っ付け、足元に強くプレスをかけて自由にプレイさせない。そういう強度の高い守備が必要だ。

敵がクロスを入れる前にプレスで潰せ

 プレスの甘さと、その意識の低さ。このためなでしこジャパンは、互いにカラダをぶつけ合うハイボールの競り合いに持ち込まれるとテキメンに弱い。たとえば女子W杯・決勝トーナメント1回戦のノルウェー戦では、この形でしっかり1失点している。

 もしノルウェーがあんなに後ろに引いて守備的に構えず、サイドからがんがんクロスを入れる、縦にロングボールをどんどん放り込む、という自分たちの高さを積極的に生かす戦い方をしてきたら、なでしこジャパンは何失点していたかわからない。

 ノルウェーはこういう自分たちのストロングポイントを生かす戦い方をせず、「受けに回った」から自滅したのだ。

 さて、こんなふうに相手がハイボールを入れてくることを狙うケースでは、敵がクロスを入れる前にボールホルダーにプレスをかけて先に潰してしまいたい。まずはマークを掴んで離さない。自由にさせない。クロスを入れさせない。 

 ここがポイントだ。

 そういう「一手前」のディフェンスがなでしこジャパンには欠けている。相手ボールにプレスがかからず敵はクロスを入れ放題。これではやられる。

 以上が第一の課題になる。

敵の陣形が崩れていれば速攻を

 もうひとつの欠点は、「アジアカップ2023」で優勝したU-17日本男子代表のダメな点とまったく同じだ。

 それは、アドリブでそのときの局面や相手の態勢に応じてやり方を変えるところがない点だ。なでしこはあくまで自分たちの間合いだけで攻めたり守ったりしている。

 それが顕著に表れるのは、マイボール時に何気なくいったんバックパスして組み立て直し、「何でもかんでも遅攻に」してしまうところだ。

 なでしこを観ていると、深く考えず手クセのようにバックパスしているように見える。「取りあえずバックパスしておけば安心だ。あとのことはそれから考えよう」みたいな感じだ。

 そうじゃなく、特に相手の守備の態勢が崩れているときには、崩れているうちに早いタイミングで速攻をかけて攻め切りたい。逆に敵の守備隊形が万全ならば、そのときはいったんバックパスしてポゼッションをしっかり確立させてから攻めるのでいい。

 こんなふうに「すぐ攻めるべきか? それとも遅攻か?」は、あくまで相手の状況による。ゆえに何も考えずバックパスするその前に、敵味方の陣形を事前にまずしっかり確認しておくことだ。

 そして遅攻ばかりでなく、状況に応じて「必要なら縦に速く攻めること」も心がけたい。

 さて、なでしこジャパンは9月23日(土・祝日)12:00に福岡・北九州スタジアムでキックオフされる国際親善試合・アルゼンチン女子代表戦を戦う。先の女子W杯で出た上記のような課題を、しっかり修正して臨みたい。

 なおこの親善試合は、テレビ朝日系列で全国生放送される。現地へ行けない人はテレビでぜひ応援してほしい。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【WEリーグカップ 第2節】新潟Lはおすすめだ ~東京ヴェルディベレーザ 3-2 アルビレックス新潟レディース

2023-09-05 23:12:26 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
石淵萌実の2点目(ループ)がすごかった

 女子サッカーのカップ戦「WEリーグカップ」の第2節を観た。東京ヴェルディベレーザが攻撃的なサッカーをし、3-2でアルビレックス新潟レディースを破った。

 このカップ戦は6チームづつが、グループAとグループBに分かれて戦う。各グループで1回戦制によるリーグ戦を行い、各グループの1位チームが決勝に進出する。

 新潟レディースは、前節の第1節では2タッチ以内でグラウンダーのパスをていねいに繋ぐサッカーで、「男子チームとコンセプトを共有してるんだ!」と非常に驚かされた。

 一方、彼女たちは今回の第2節では相手が強豪ベレーザなので、後ろに重心を置いた守備に手堅い戦術的なサッカーをやっていた。第1節とはまったく違うスタイルで戦った。

 おそらく第1節のほうが本来のスタイルなのだろう。相手によってこんなにやり方を変えられるんだ? とびっくりした。

 特に2点を取ったFW石淵萌実選手の2ゴール目がなにしろすごかった。「まさか、これが入るのか?」というような超絶的なループシュートだった。

 彼女はフィジカルも高くバネがあって、とてもいい選手だ(なぜなでしこジャパンに選ばれないのか?)。男子サッカーの試合でも、あんなダイナミックなシュートはいままで観たことがない。

 女子サッカーというとベレーザ、浦和、INACあたりの名前が上がるが、石淵萌実選手とアルビレックス新潟レディースは要チェックだ。

テクニカルなベレーザもいい

 一方のベレーザは大きなサイドチェンジを交えながら、うわさ通り豪快に点を取りまくっていた。

 テクニック的にも申し分なく、もちろんこっちもおすすめだ。個人的にはもっとボールスピードがほしいが、まあ彼女たちはショートパスを繋ぐチームなので仕方ないか。

 新潟レディースのサッカーは「好きな人は好き」な個性的なスタイルで(私は大好きなタイプだ)、かたやベレーザのほうは「誰が観ても好き」なサッカーだった。

 試合のプレー強度(インテンシティ)も高く、非常におもしろかった。新しい発見だった。

 なお以下のサイトの下方で、今大会の試合のフル配信・見逃し配信を観られる。ハイライトその他もアリ。特に新潟レディースは第1節のほうが攻撃的なので、ぜひそっちの方を見てほしい。どうぞお楽しみ下さい。

【関連サイト】

WEリーグ公式チャンネル

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【サッカー日本女子代表】なでしこジャパンはなぜ練習試合が組めなかったのか?

2023-09-05 06:51:05 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
23日にアルゼンチン女子代表戦

 日本サッカー協会(JFA)は4日、国際親善試合のアルゼンチン女子代表戦(9月23日・土・祝/12時、テレビ朝日系列で全国生放送)を戦うなでしこジャパンのメンバー23人を発表した

 記者会見に出席した佐々木則夫女子委員長は席上、「W杯で8強入りしたのに別の国から対戦オファーはなかった」とこぼした。

 おかげで今月26日にアルゼンチンともう1試合、練習試合を行う異常事態だ。

 なでしこは、なぜ女子W杯で8強入りしたのにアルゼンチン以外の別の国から対戦オファーがなかったのだろうか? これは各大陸で五輪予選が開催されているから、というのもあるだろうが、ひとつにはスタイルの違いもあるのではないか?

なでしこのタイプが特殊だから?

 例えば女子サッカーの世界では、強い上位チームは日本みたいに丁寧にパスを繋ぐスタイルより、女子W杯でベスト4入りしたスウェーデン女子代表やオーストラリア女子代表のように大柄でフィジカル勝負のゴリゴリ来るストロングスタイルなチームが多い。

 だから日本のように技術はあっても華奢で非力な「特殊なチーム」と練習試合しても、日本みたいなタイプは五輪や女子W杯にはいないからあまり意味がない、ということではないか?

 つまり日本と練習試合しても「球際を強く激しく競り合うような練習」にはならないから、本番で役に立たないわけだ。

 まあなでしこジャパンとやれば、唯一、彼女たちとスタイルが似ている世界チャンプのスペイン女子代表を倒すための練習にはなるわけだが。

 やっぱりなでしこは、フィジカルを鍛えてアスリート化するしかないのかもしれない。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【女子サッカー】なでしこジャパンの「アスリート化」は正しい道か?

2023-08-27 09:17:31 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
選手がロボット化する?

 きのう投稿した記事で、なでしこジャパンはプレー強度(インテンシティ)が強豪国に劣ると書いた。だからフィジカルを上げ、アスリート化を進めることが強化の道だと説いた。

 先日開かれた女子ワールドカップ2023を観てそう思ったからだ。

 だが自分でそう書いていながら、疑問も感じる。

 なでしこは強豪国とくらべ、プレー強度やフィジカルで劣ることは確かにその通りだ。だがスウェーデン女子代表やオーストラリア女子代表のように選手のアスリート化を進め、ロボットのようになって行くのが果たして正しいのだろうか?

 確かにそうなることで球際の競り合いに強くなることは確かだし、それはサッカー選手として必要なことだ。だが選手を頑強にアスリート化することで、なでしこ特有の小回りの利きや繊細さ、細やかさ、アジリティが失われるとすれば、それは本末転倒だと感じるのだ。

プレー強度の強化は守備面限定で?

 例えばフィニッシュひとつ取っても、なでしこには繊細さがある。

 一例としてライン裏に狙いすましたグラウンダーの絶妙なスルーパスを出し、それに合わせてアタッカーが裏抜けする、というような解像度の高い攻めはなでしこの真骨頂だ。

 だがそれに対し欧米の強豪国のフィニッシュは、単純にサイドからハイクロスを入れて敵にパワーで競り勝つような大味で原始的な攻めが目につく。

 もしアスリート化を進めることで、なでしこジャパンがそんなふうに「欧米化」してしまったら「つまらないな」と感じる。

 そう考えるとプレー強度の強化は、おもに球際の競り合いなど守備面限定で進めるのが正しいのだろうか?

 なでしこは守備面でのプレー強度を高める必要があるのは確かだと思うので、ここではひとまずそう結論づけておこう。

 さて、みなさんはどう思いますか?

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【女子サッカー】なでしこジャパンに「欠けているもの」とは?

2023-08-26 10:48:17 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
球際で競るプレー強度がほしい

 なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)は、オーストラリアとニュージーランドが共催した女子ワールドカップ2023で健闘した。結果、8強で終わったが、「ある要素」さえあればもっと上まで行けたように思う。

 もちろん彼女たちには勝つための技術がある。敵を打ち負かす一定レベルの戦術もある。だが広い意味でのプレー強度(インテンシティ)で他国に見劣りした。

 これはこの記事でも指摘したのだが、強度が足りないと球際で強く競れない。デュエルで劣る。カラダを自分から敵に押っ付けて競るような激しい接触プレーに弱くなる。プレス強度が落ちる。結果、きわどい場面でボールを支配下に置けなくなる。

 これでは、強度がますます高まるばかりの現代フットボールで勝てない。もちろん女子と男子とでは違うにしても、である。

 プレー強度を上げるには、ひとつはなでしこが世界に劣るフィジカルを上げる必要がある。アスリート化だ。特にスウェーデン女子代表やオーストラリア女子代表などを見ると、その波を感じる。またボールを強く競ることにも日常的に慣れなければいけない。

 これはなでしこジャパンが世界で勝つための大きなハードルだろう。

ボールスピードが足りない

 もう一点、なでしこジャパンを観て感じることがある。それはボールスピードだ。

 これもプレー強度と関係あるのだが……たとえば女子ワールドカップ2023では、特にイングランド女子代表やスウェーデン女子代表、オーストラリア女子代表がものすごい速さでパスを繋いでいた。ヘタをすると男子より速いくらいだった。

 それが端的にあらわれるのがインサイドキックだ。彼女たちが蹴るインサイドキックのボールスピードはとんでもなく速い。スパン! と来る。だからインサイドキックで、かなり離れた味方選手にもボールがつなげる。

 これもなでしこジャパンに欠けている点だ(というより日本人男子にも欠けているのだが)。もちろん、なでしこジャパンやスペイン女子代表のボールスピードが他国と比べそう速くないのは、ひとつにはショートパスを多用することとも関係しているが。

 プレー強度の向上は一朝一夕には難しいだろうが、なでしこジャパンはこうした点をテーマに取り組み「世界」をめざしてほしい。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【女子W杯・分析】なぜ女子W杯2023はおもしろかったのか?

2023-08-22 07:25:53 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
真剣さとボールスピードがすごかった

 熱かった女子ワールドカップ2023が終わり、また元通り男子サッカーを観るようになった。で、手始めに鎌田大地のラツィオ戦、南野拓実のモナコ戦、藤田譲瑠チマのシント・トロイデン戦を観たのだが、ちっともおもしろくない。「女子ワールドカップの方がはるかにおもしろかったなぁ」と感じた。

 ちょっとした「女子ワールドカップ・ロス」である。

 で、それは一体なぜなのか? をちょっと分析してみた。

1)女子ワールドカップの方がパスがよく通った

 これはよし悪しなのだが、ボールに激しくプレスをかけ合う男子にくらべ、女子はそこがゆるい。そのぶんパスがよく通る。実際、なでしこジャパンやスペイン女子代表はこれでもかとパスを繋いでいた。プレスが辛い男子サッカーにくらべ女子はプレスが甘いのだが、エンターテインメントとしては逆にそこがいい。

 考えてみたら男子サッカーだって往年の時代はプレスなるものがゆるく、ゆうゆうとパスを通しあっていた。その意味では、女子サッカーは「古き良き時代のサッカーの味わいがある」と言えるかもしれない。

2)女子ワールドカップの方がボールスピードが速かった

 個人的な好みなのだが、私はボールスピードの遅いサッカーを観る気がしない。インサイドキックのボールが「てんてんてん」などとゆるく弾みながら転がっているのを観ると、それだけでテレビを消したくなる。

 そこへ行くとイングランド女子代表とスウェーデン女子代表、オーストラリア女子代表のインサイドキックのボールスピードはかっ飛んでいた。スパン! と来る。痛快だった。

3)女子ワールドカップの方が国を背負って真剣だった

 サッカーって国を背負っているのと、単に勝敗をかけているのとでは純度がちがう。

4)女子ワールドカップの方が無駄なアイドルタイムがない

 世の中のコンテンツはどんどん短サイクル化している。例えば人々は長大な書籍などは読まず、いまや短いX(旧ツイッター)を読む。YouTubeにしても「1時間は長すぎるなぁ」となり、いまどきは15分のコンテンツがせいぜいになった。そんななか、サッカーの90分は長すぎる。

 で、その長い90分の中でも、男子より女子ワールドカップの方が無駄なアイドルタイムがないのだ。例えば男子みたいに大げさに倒れてファウルをアピールし、笛が鳴るといちいち時間が止まってモメるーー。これがかったるい。思わず「早送り」したくなる。女子サッカーにはそれがない。汚いプレーなし。これは大きい。

「女性のサッカーだからパワーがないだろう」などと先入観を持つなかれ。今大会のイングランド女子代表やスウェーデン女子代表、オーストラリア女子代表のプレーはパワフルですごかった。技術的にも申し分ない。遠い逆サイドに1本のボールで楽々サイドチェンジしていた。

 てなわけで私は女子サッカーに対する偏見がすっかりなくなり、「WEリーグが始まったら観てみよう」と思っている次第である。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【女子W杯2023 決勝】そして時代はひと回りしてティキタカが復権する 〜スペイン 1-0 イングランド

2023-08-21 09:59:50 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
スペインが史上初の大会制覇

 オーストラリアとニュージーランドが共催する女子ワールドカップ2023は20日、決勝戦が行わた。スペイン女子代表(世界ランキング6位)とイングランド女子代表(同4位)が戦った。試合はオルガ・カルモナ(レアル・マドリード)のゴールでスペインが1-0で勝利した。初優勝だ。彼女たちはたった3度目のW杯出場で制覇を成し遂げた。

 スペインはグループリーグ最終戦でなでしこジャパンに負けた以外、全ての試合に勝って決勝へたどり着いた。一方のイングランドも全勝での決勝だった。

 複数のパスコースを作りショートパスを繋ぐスペインの伝統的なスタイルはティキタカと呼ばれる。だが今回、スペイン女子代表が演じて見せたのはただのティキタカじゃない。

 単にひたすらボールを繋ぐだけの旧来のティキタカではなく、あくまでその先にあるゴールを目指すスペイン女子代表の「未来型ティキタカ」が世界を制したのだ。今大会でその「未来型ティキタカ」をプレイしていたのは、実はスペインとなでしこジャパンの2チームだけだったことは歴史に刻んでおきたい。

 明日がある、未来は明るい、ということだ。

 そのなでしこジャパンの宮澤ひなたは、計5ゴールでゴールデンブーツ(得点王)に輝いた。

イングランドのボールスピードはすばらしく速い

 スペインのフォーメーションはいつもの4-1-2-3。スタイルはハイライン・ハイプレスだ。対するイングランドのフォーメーションは3-4-1-2である。イングランドのボールスピードは相変わらず、すばらしく速い。それにくらべショートパスを繋ぐぶん、スペインの球速はそれほどない。

 イングランドのビルドアップはGKからのロングボールも交えるが、スペインは徹底してグラウンダーのショートパスを繋ぐスタイルだ。

 15分。最初に際どいシーンを作ったのはイングランドだった。FWローレン・ヘンプ(マンチェスター・シティ)が左足でシュートを放つが、クロスバーを叩く。すると17分、今度はスペインのFWアルバ・レドンド(レバンテUD)のシュートがGKメアリー・アープス(マンチェスター・ユナイテッド)に弾き返される。まるでシンクロしている。

 続く29分だった。スペインが右サイドから左にサイドチェンジして展開したあと、前のスペースにスルーパスを出す。これに走り込んだ左SBのオルガ・カルモナがダイアゴナルな美しいショットを放つ。ボールはゴール右スミのサイドネットに突き刺さった。スーッと糸を引くようなグラウンダーのボールだった。これでスペインが先制だ。

 その後はゴールがなく、一進一退のまま時間が過ぎる。

 前半が残り10分になり、リードしたスペインが横パスとバックパスを繰り返して安全に時間を使う。「絶対にリードしたまま後半に折り返すぞ」という意思表示だ。繋ぐ力があるスペインに対し、イングランドが真っ向勝負し押されている格好である。

 えんえんボールを繋ぐスペインに、業を煮やしたイングランドがミドルプレスからハイプレスに変えてボールを奪いに行く。許々実々の駆け引きだ。かくて前半が終わった。

ブロックを下げ守備的になるスペイン

 後半に入り、監督から指示があったのか、リードしているスペインはややブロックを下げてきた。「金持ちケンカせず。もうリスキーなハイプレスはやりません」ということか? まだまだ時間はたっぷりあるというのに、1点を守り切るつもりなのか……。対するイングランドは4-2-3-1にフォーメーションを変えた。

 スペインがブロックを下げたため、めっきりイングランドがボールを保持するようになった。

 そして68分。イングランドのキーラ・ウォルシュ(バルセロナ)がハンドし、PKになる。スペインのFWジェニ・エルモソが右を狙って蹴ったが、GKメアリー・アープス(マンチェスター・ユナイテッド)が同方向に飛んでセーブした。これは大きい。

 しかしイングランドはボールを握って攻めるが、相手の力を柳のようにしなって受け止めるスペインの守備に合い、なかなか得点チャンスを作れない。後半アディショナルタイムは13分もある。だがスペインはあのテこのテで時間を稼ぎながら受けてくる。

 こうしてスペインはイングランドの猛攻をしのぎ切り、かくてタイムアップ。勝利の女神はスペインに微笑んだ。

 ただリードしてからのスペインは前半の終盤から時間稼ぎが露骨で、追うイングランドも焦りすぎて後半はほとんど試合にならなかった。せっかくいい大会だったのに、決勝の後半は「ない」も同然だった。もし0-0のまま後半に入ればもっと手に汗握る展開になったのに……と思うと残念だ。

 スペインの勝因は、グループリーグで日本に0-4と大敗したが動揺せず、まったくブレずに「自分たちのサッカー」を曲げなかったことだろう。自分の得意形で勝つーー。そんな彼女たちの信念の力が初優勝を引き寄せたのだ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【女子W杯2023 3位決定戦】やっぱりスウェーデンは強かった ~スウェーデン 2-0 オーストラリア

2023-08-20 08:19:26 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
スウェーデンがポゼッションで圧倒する

 オーストラリアとニュージーランドで共催されている「女子ワールドカップ2023」は19日、3位決定戦を行った。熱戦の末、スウェーデン女子代表が2点を取って競り勝った。点差ほどの差はなかった。これでスウェーデンは女子W杯最多4度の3位に輝いた。オーストラリア女子代表は負けはしたが、過去最高の4位を手にした。

 前半のスウェーデンはポゼッションで圧倒し、オーストラリアを押し込んだ。オーストラリアはカウンター狙いだったが、ボールを相手に持たせすぎた。前半はPKで失点し、後半には逆にカウンターから攻められゴールを奪われた。だがスタッツほど差のない、つばぜり合いが続いた一戦だった。

 ネットの書き込みで誰かが「女子サッカーはコートを狭くしてやった方がいい」などと書いていたが、冗談じゃない。それは「小さいサッカー」をする日本の場合だ。この2チームにはまったく当てはまらない。

 彼女たちは一発のサイドチェンジで逆サイドまでボールを運ぶし、最終ラインからロングボールを入れれば余裕で最前線まで到達する。ダイナミックでスケールがビッグな大きい展開をするサッカーだ。

PKとカウンターでスウェーデンが2発

 スウェーデンのフォーメーションは4-2-3-1だ。守備時4-4-2に変化する。対するオーストラリアのフォーメーションは4-4-2。オーストラリアは本来4-2-4の形でビルドアップするが、引き気味だった本ゲームではあまりこの形は見せなかった。

 均衡が崩れたのは26分だった。オーストラリアのペナルティエリア内に入り込んだスティーナ・ブラックステニウスが、クレア・ハントと交錯し足のかかとを踏まれて転倒する。

 これでスウェーデンにPKが与えられ、キッカーのフリドリーナ・ロルフォがゴール右スミに決めてスウェーデンが先制した。

 前半はスウェーデンがボールを保持して圧倒的に押し込んだ。だがオーストラリアもカウンターから徐々に反撃する。ボール保持率の差ほどの力の違いはない。

 そして後半に入り62分だった。スウェーデンが鮮やかなカウンター攻撃を見せる。

 抜け出したブラックステニウスがペナルティエリア左からマイナスに折り返し、受けたアスラニがボックス手前から右足で鮮やかな一発をゴール右スミに叩き込んで2—0とした。そして試合終了だ。

スウェーデンは対戦相手をよく研究していた

 スウェーデンはラウンド16・アメリカ戦でのアバウトなハイボールの放り込みが頭に焼き付いてあまりいい印象がなかったが、やっぱり強い。

 彼女たちは対戦相手をよく研究し、決勝トーナメントに入ってからはアメリカ戦、日本戦、スペイン戦、3決のオーストラリア戦と、まったく違う戦術で戦った。まるでカメレオンのようなチームだった。

 うらやましい高い身長と鋼のようなフィジカルで、守備に回ると当たりも強く球際で競る。最終ラインからグラウンダーのボールでていねいにビルドアップするスタイルと、ロングボールを使ってのダイレクト攻撃を見事に使い分けた。バランスの取れたいいチームだ。

 対するオーストラリアもすばらしいフィジカルで、男子のような大きい展開をする。長い距離でも、平気で強くて速いインサイドキックのボールを通すのには驚いた。すごいボールスピードだった。

 彼女たちは日本と同じアジア枠だ。2枠をかけたパリ五輪予選では、おそらく来年2月の最終予選で日本と当たる可能性が高い。今から楽しみだ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【女子W杯2023 準決勝】イングランド3発劇勝、決勝はスペイン戦へ ~オーストラリア1-3イングランド

2023-08-17 05:00:36 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
イングランドが試合を終始リードする

 オーストラリアとニュージーランドが共催する「女子ワールドカップ2023」で8月16日、準決勝が行われ、オーストラリアとイングランドが対戦した。

 イングランドが終始、試合をリードし、3-1でオーストラリアを下した。

 イングランドは36分に先制すると、そのままの勢いで2点を加えて追いすがるオーストラリアを振り切った。オーストラリアは63分に1点取ったがそれまでだった。欧州女王が貫録を見せつけた。

 8月20日(日)19:00に行われるスペインとの決勝戦では、ともに初優勝をかけて相手とぶつかる。試合はサイトFIFA+で生中継される。

イングランドは3-1-3-1-2でビルドアップする

 イングランドのフォーメーションは3-4-1-2、オーストラリアは4-4-2だ。イングランドは3-1-3-1-2の形でアンカーが一列降りてビルドアップする。

 3バックのイングランドが最終ラインからビルドアップする際、2トップのオーストラリアはミドルブロックを組み、時おり前を3枚にして数を合わせてくる。イングランドはこれを嫌い、思い切りロングボールを放り込むーー。虚々実々の駆け引きが行われている。

 グラウンダーのボールでビルドアップするのはたいていイングランドだ。オーストラリアはそれを受けて立つ。カウンター狙いである。イングランドのポゼッション率は58%ある。しかし前半の立ち上がり、オーストラリアの方は伸び伸びやっているのだが、イングランドは様子がヘンだ。どこかおかしい。変調だ。

 だがそれを吹っ飛ばしたのが36分の豪快な一発だった。

 イングランドの左サイドのスローインからだ。まずFWローレン・ヘンプ(マンチェスター・シティ)がパスを繋ぎ、同アレッシア・ルッソ(アーセナル)がマイナスの折り返しを入れる。

 これに合わせてMFエラ・トゥ-ン(マンチェスター・ユナイテッド)が、右足インステップでゴール右上スミに強烈な弾丸シュートをお見舞いした。先制点だ。

 オーストラリアが強くて速いグラウンダーのパスを出す。すごいボールスピードだ。彼女たちはめいっぱい力を出している。だが、なかなか追いつけない。そうこうするうち前半が終わった。時間がたつのがとても速く感じる。

オーストラリアが63分に同点弾を放つ

 後半が始まった。

 1点リードしているイングランドは少し引き気味に構え、前半とは違いオーストラリアにビルドアップさせている。

 そんな63分だった。オーストラリアのエースFWサム・カー(チェルシー)がハーフウェーラインから長いドリブルをし、ペナルティエリアの外から右足で豪快な一発をかます。同点弾だ。盛り上がる観客席。一気に雰囲気が変わった。

 続く71分。自ゴール前でオーストラリアのDFがボールと敵アタッカーとの間にカラダを入れた。が、DFの態勢が一瞬崩れたのを見て、背後についたイングランドのヘンプがワンタッチでゴールを決めた。これでまたイングランドが1点リードする。

 イングランドの選手のシュートは非常に正確だ。ほとんどがワクへ行く。

 そして81分にオーストラリアは、DFポルキングホーンに代えて10番のMFエミリー・ヴァン・エグモンド(サンディエゴ・ウェーブFC)を投入する。勝負に出てきた。

 だが86分だった。イングランドが痛烈なとどめを刺した。

 ハーフウェイラインの手前から、ヘンプが延々ドリブルする。仕上げはライン裏へのスルーパスだ。これに抜け出したルッソは、右足インステップでゴール左スミに叩き込んだ。イングランドが突き放す3点目を取った。

 試合は後半アディショナルタイムに入り、リードされているオーストラリアは立て続けにロングボールを入れてくる。そしてタイムアップ。イングランド、初の決勝進出だ。相手は強豪スペインである。

 予言が当たった。

 イングランドは決勝トーナメント1回戦・ナイジェリア戦の「踏みつけファウル」で、2試合の出場停止になっていたFWローレン・ジェームズ(チェルシー)が決勝で戻ってくる。

 かくて舞台は揃った。

 あとはやるだけだ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【女子W杯2023 準決勝】超絶2発でスペイン決勝へ初名乗り ~スペイン 2-1 スウェーデン

2023-08-16 08:25:07 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
終盤に激しく試合は動いた

 オーストラリアとニュージーランドで共催されている女子ワールドカップ2023は15日、準決勝を行い、スペインとスウェーデンが対戦した。2-1でスペインが決勝に初進出した。

 ゲームは拮抗し両者無得点のまま進んだが、終盤に激しく動いた。後半終了間際にスペインが1点を上げるとすぐスウェーデンが追いつき、結局スペインが劇的な「サヨナラ弾」を放って追いすがるスウェーデンを突き放した。

 ゲームは序盤からパスを繋ぐスペイン、強靭な守備でそれを防ぐスウェーデン、という構図で進行した。

 スペインはまったく変わらずいつものサッカーだ。だがそれに対しスウェーデンは、決勝トーナメント1回戦のアメリカ戦や準々決勝の日本戦とはまったく違う展開を見せた。

 今大会、彼らはよく対戦相手を研究し、敵のよさを消すサッカーをしてきた。

スペインのカルモナが劇的な一発を叩き込む

 さて両者一進一退で0-0のまま迎えた終盤。だれもが「延長戦だ」と思っていた後半36分だった。

 スペインはペナルティエリア手前でエルモソが瞬時にアーリークロスを放つ。狙ったファーには通らなかったが、こぼれたところをサルマ・パラジュエロが押し込んだ。

 だれもが「これで決まった」と思った。

 だがスウェーデンも黙っちゃいない。同43分だ。敵陣左サイドでスローインをもらった。縦へボールを入れるとロルフォが鋭く反応する。

 彼女が絶好のセンタリングを入れると、これにリナ・フルティグが頭で落とす。仕上げはレベチャ・ブロムクビストだ。信じられないぎりぎりのコースにハーフボレーを叩き込み、スウェーデンが地獄の底から蘇る。

 これに対しスペインは44分、左CKを得た。キッカーのテレサ・アベリェイラがグラウンダーのボールを入れると、ボックス手前でフリーのカルモナが左足を一閃。劇的な一発がクロスバーを叩いてゴールに突き刺さった。

 これでスペインがケリをつけた。初の決勝進出だ。

決勝戦は20日19:00から生中継される

 決勝戦は日本時間20日(日)19:00から戦われる。今夜行われるオーストラリアvsイングランドの勝者とスペインは対戦する。

 一方、負けたスウェーデンは、同19日(土)17:00から3位決定戦を戦う。

 いずれもサイトFIFA+で生中継される(過去の試合も観られる)。

 なお、私の決勝戦のカード予想は以下の記事の通りだ。

【女子W杯・分析】決勝はスペイン対イングランドか?

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【女子W杯2023 分析】なでしこジャパン、スウェーデン戦の課題と収穫は?

2023-08-15 05:12:38 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
前からプレスをかけてラインを上げる

 女子ワールドカップ2023の準々決勝、なでしこジャパンは強豪スウェーデン女子代表と戦い、1-2で敗れた。だが、あの試合は戦い方を変えればもっと勝負になったはずだ。

 まずは総論から行こう。

 前半の日本はスウェーデンの猛攻に押し込まれた。気おされ、低い最終ラインのまま耐えた。そのため攻撃のチャンスがなかなか回ってこない。どこかでラインを上げたかった。それなら前からプレスをかける必要がある。

 そもそもスウェーデンは前半の立ち上がりから、グラウンダーのボールで最終ラインからていねいにビルドアップしてきていた。明らかにそういうゲームプランだ。ならばなおさらプレッシングで彼らのビルドアップを断ち切るべきだった。

5-2-3に可変しフォアチェックをかける

 一例だが、たとえばフォーメーションを5-2-3に可変し、フォアチェックをかける方法がある。前線3枚で中央を規制し、ボールをサイドに追い込む作戦だ。

 これでスウェーデンがたとえば左SBにボールを出せば、ボールサイドのCMFが寄せに行く。もう片方の日本のCMFも、敵CMFへのパスコースを切るため同様に右へスライドする。

 このときなでしこの右シャドーは敵の左CBに付き、ボールを保持した敵の左SBがバックパスできないようにする。また逆になでしこの左シャドーは自軍CMFが空けた左のハーフスペースを埋めに下がり、カバーリングすると同時に敵の右CMFに付く。

 これでスウェーデンはボールを出す場所がなくなる。ボールはクローズされたので、なでしこは最終ラインを上げられる。もちろんあわよくば、ボールに強く寄せて奪い取ってしまうチャンスもうかがう。

 こうしたプレッシングは応用可能だ。同様にボールがどこにあろうと、なでしこのポジショニング次第で絡め取ってしまえる。

 たとえば上記の例で敵SBがボールを保持しているとき、(間に合うなら)同サイドのなでしこのウイングバックがプレスをかけに出て行ってもいい。これで残りの4バックがボールサイドにスライドする方法もある。つまり「偽5バック」だ。

 なでしこジャパンは攻撃はグレードが高いのだから、こんなふうにもっと守備に手を入れてチーム全体をグレードアップしたい。守備面での伸びしろはまだまだ大きい。

ハイクロスは避け低いボールで勝負する

 あとは各論だ。

 日本はしきりにサイドからハイクロスを入れてフィニッシュした。だが高さのあるスウェーデン相手にあれでは勝ち目がうすい。もうひと工夫ほしい。なるべくなでしこの小柄さが不利にならないグラウンダーのボールで攻めたかった。

 たとえば相手GKと最終ラインとの間にできたスペースに、サイドから強くて速いグラウンダーのボールを入れる。で、味方をライン裏に飛び込ませる。

 あるいは中央にいるFWやシャドーの選手に、クサビのボールを当てる。これで敵DFは中へ絞るので、空いたサイドにボールを展開する。またはポストになった選手が落としたボールを、3人目の動きで受けて中央突破を図ってもいい。

 前へ飛び込みFWが落としたボールをシュートするか、落としのボールをワンツーで一度ゆさぶり敵の視点を移動させてからフィニッシュするのもアリだろう。こんなふうに変化球はいくらでもある。

 これで高さ勝負を避け、あくまでグラウンダーのボールでゆさぶり攻めたかった。

ほしかったセットプレー対策

 スウェーデンには得意のセットプレーから2点を取られた。彼らは今大会にあげた11ゴールのうち、8ゴールがセットプレーがらみだ。その意味ではもっとセットプレー対策をしておきたかった。

 また超各論だが……後半29分、植木が倒されPKを取った場面だ。彼女のシュートはクロスバーを叩き、跳ね返ってきたボールを植木はGKの真正面にヘディングしてしまいボールを跳ね上げて外してしまった。

 あそこも例えば真正面でなく、ゴールのスミを狙ってボールを下に叩きつけるような抜け目のなさが欲しかった。

 一方、収穫としては、途中交代で入ったMF林穂之香とMF清家貴子は非常によかった。層が厚い。1次リーグのときから手駒の豊富さは感じさせていたが、このあたりは将来に希望がもてる点だ。伸びしろしかない。

 重ねて前半から積極的に敵と撃ち合っていれば、と残念でならない。先手必勝だった。なでしこジャパンは今大会をよく検証し、来年のパリ五輪をかけた今年10月から始まるアジア2次予選に臨んでほしい。

 彼女たちのおかげで今回は女子W杯のおもしろさに気づけた。なでしこジャパンの次戦が楽しみだ。そんな気持ちにさせられたのが今大会、最大の「収穫」といえるかもしれない。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【女子W杯2023 準々決勝】PK戦で10人目までが蹴る死闘に ~オーストラリア 0-0(PK7-6)フランス

2023-08-14 07:19:37 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
「ホーム」のオーストラリアが気迫の粘り勝ち

 オーストラリアとニュージーランドで共催されている女子ワールドカップ2023は12日、準々決勝が行われた。FIFAランキング10位のオーストラリア女子代表と、同5位のフランス女子代表が対戦した。試合は90分で決着がつかず、延長・PK戦の末に7-6でオーストラリアが準決勝進出を決めた。

 オーストラリアのブリスベン・スタジアムで行われたこの試合は、完全にオーストラリア女子代表の「ホーム」と化した。ワンプレイ、ワンプレイに詰めかけた地元サポーターが大歓声を送り、試合は熱狂の渦と化した。

 そんな観衆の声援に押され、オーストラリアが攻め、フランスが受ける展開でゲームは進んだ。技術的にはフランスが一枚上と見えたが、この雰囲気ではもはや関係ない。

 オーストラリアのフォーメーションは4-4-2だ。非常にアグレッシブ&ダイナミックなチームで、大声援を背に躍動した。彼女たちは4-2-4でビルドアップし、ワイドな展開をする。スタイルとしてはスウェーデンに近いダイレクト攻撃のチームだ。

 バーティカル(縦方向)なロングボールやアーリークロスの雨を降らせ、パワフルに前線へ飛び込んで行く。かと思えばFWにクサビのボールを当てるような小技も見せる。この日はとにかくGKアーノルドが当たりまくり、何度もフランスのシュートを弾き返した。

フランスはトランジションが速く個人技がある

 対するフランスのフォーメーションは4-4-1-1だ。声援に押されたオーストラリアの攻撃を受ける形になったが、彼女たちはすばらしく守備が堅い。しかも簡単にクリアに逃げない。例えばオーストラリアに押し込まれ、ディフェンディングサードでボールを奪った時も巧妙にパスを繋いで前線へ送り出す。

 相手ボールに対するプレッシングも強烈だ。プレー強度が高い。この点はなでしこジャパンもぜひ見習ってほしい。彼らはカラダがムチのようにしなり、しなやかで躍動感がある。

 メンタル的にも個が強く、「自分でシュートするんだ」という強い意識がある。ヘタするとパスなんか考えない。そんな個の意志力がゴールを生むのだろう。

 トランジション(攻守の切り替え)はポジティブ、ネガティブともに機敏だ。被カウンター時はおそろしく帰陣が速い。一方、ボールを奪ってカウンターのチャンスともなれば、素早く切り替え敵陣に殺到する。

 攻撃面ではドリブルやフェイントがすばらしく上手く、男子レベルだ。個人技では明らかにオーストラリアを上回っている。戦闘能力が高い。彼女たちは個による突破のほか、強くて速いグラウンダーのボールも使う。フィニッシュはアーリークロスや縦にロングボールを蹴るダイレクト攻撃もある。SBから対角の長いパスを入れるビルドアップも見事だ。

PK戦はサドンデスに突入した

 さて試合は延長戦に入っても両者無得点のまま、ついにPK戦へ突入した。

 先攻のフランスは1人目がいきなり外し、どうなることかと思われたが両者5人目まではタイで進んだ。かくてサドンデスに入り、7-6でオーストラリアが振り切った。

 フランスのほうがプレーに見るべきものがあり、外野としてはフランスに勝って欲しかったがホームのオージーたちは狂喜乱舞だろう。やはりサポーターの後押しは大きい。

 こうしてオーストラリアは初の準決勝進出を果たし、日本時間8月16日(水)の19:00に世界ランク4位の強豪イングランドと対戦する。

 試合はサイトFIFA+で生中継する(過去のゲームも観られる)。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【女子W杯2023 分析】決勝はスペイン対イングランドか?

2023-08-13 12:43:33 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
ホームの豪州もあなどれないが……

 オーストラリアとニュージーランドで共催されている女子ワールドカップ2023で、準決勝のカードが決まった。(1)スペイン対スウェーデン[日本時間8/15(火)17:00]、(2)オーストラリア対イングランド[同8/16(水)19:00]だ。(1)と(2)の勝者が決勝[同8/20(日)19:00]で戦う。

 おそらく決勝のカードはスペイン対イングランドだろう(個人的願望込み)。ただし(2)の会場はオーストラリアのホーム、「スタジアム・オーストラリア」での開催なので、観衆の大声援を受けオーストラリアが火事場の馬鹿力を発揮するかもしれないが。

 実際、フランスとの準々決勝では、オーストラリアを応援する観衆の声援がものすごく、異様な雰囲気の中で試合が行われた。内容的にはフランスが一枚上だったが、応援団がプッシュして延長・PK戦にまでもつれ込んだ。

 サッカーは何があるかわからないものだ。

最終ラインからていねいにビルドアップする

 そう考えると(1)のカードも、スペインのティキタカに対し4-2-3-1のスウェーデンが前から激しいハイプレスをかける、あるいは徹底したカウンター戦術に徹したりすれば、勝負はひっくりかえるかもしれない。

 と、考えていたらキリがないので、仮想・決勝「スペイン対イングランド」と仮定し、イングランドについてはすでにレビューを書いたのでここではスペインについて触れておこう。

 スペインは本大会でいちばん美しいサッカーをするチームだ。フォーメーションは4-1-2-3で、ハイライン・ハイプレスのスタイルである。日本と同じく、最終ラインからグラウンダーのパスをていねいに繋いでビルドアップする。

 敵陣に押し込むと両サイドバックを上げ、2バックで攻める。グラウンダーのショートパスを何本も繋ぎ、フィニッシュはサイドからのクロス(アーリーまたはマイナス)や中央からの攻めもある。前線の選手の決定力と個の力は抜群だ。

激しいカウンタープレスが身上だ

 特に敵GKと最終ラインの間を狙った低いクロスは秀逸だ。美しいサイドチェンジや機敏なワンタッチプレー、ワンツーには見惚れてしまう。

 また彼女たちは前線でボールを失ってもリトリートせず、その場で強くプレッシングして即時奪回を狙うカウンタープレスを得意としている。逆に撤退する場合はディフェンディングサードまでリトリートし、4-4-2のブロック守備に移行する。

 特筆ものなのはプレスの厳しさだ。準々決勝の強豪オランダ戦では、後ろを向いた敵ボールホルダーの背後にぴったり付いて前を向かせなかった。そのためオランダは中盤でボールを奪っても、前を向けずバックパスするしかなかった。

 男子のスペイン代表がやってるティキタカは、ボールを繋ぐこと自体が自己目的化した意味のないポゼッションスタイルだ。だが女子はそうじゃない。きっちりゴールまでの絵が描かれている。

 おそらく彼女たちのサッカーは、日本人がいちばん好きなタイプのスタイルじゃないだろうか。興味がある人はサイトFIFA+で試合を生中継しているので観てみたらどうだろうか(過去の試合も観られます)。

 このチームが苦手とするのは、自分たちの精緻なパスワークを破壊してくる強固なスタイルのサッカーだ。おそらく決勝で当たるだろう「剛」のイングランドとは、いい勝負になるだろう。 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【女子W杯2023 準々決勝】フィジカルに圧倒された日本の課題は? 〜日本 1-2 スウェーデン

2023-08-12 11:35:44 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
低すぎたライン設定

 オーストラリアとニュージーランドで共催されている女子ワールドカップ2023は11日、準々決勝が行われた。世界ランク11位のなでしこジャパンは同3位のスウェーデンと対戦し、日本が1-2で破れた。なでしこジャパンの旅は8強で終わった。

 試合は立ち上がりから違和感があった。日本の最終ラインが低すぎるのだ。1次リーグで当たったスペイン戦のときのように、5-4-1で深く構えて相手にボールを持たせているのか?

 だが実際にはスウェーデンのハイプレスとフィジカルに圧倒され、「押し込まれた」というほうが正しいだろう。いずれにしろ低いライン設定で受けに回った前半は、日本にとって「ない」のと同じだった。

 もう一点、なでしこには異変があった。選手の動きが重いのだ。キレが悪い。まったく別のチームのようだ。疲れがたまっているのだろうか? 日程や会場の移動は日本の方が有利なのだが……。この点も謎だった。

序盤は丁寧にビルドアップしてきたスウェーデン

 一方、スウェーデンはハイボールの雨を降らせた16強のアメリカ戦とは打って変わって、序盤は最終ラインからグラウンダーのボールで丁寧にビルドアップしてきた。自分たちの高さを生かすロングボールでなく、このやり方で来てくれるなら日本はやりやすい。

 スウェーデンは4-2-3-1だ。彼女たちはインサイドキックの精度がそう高くない。スウェーデンが得意な後ろからロングボールを放り込んでの高さ勝負でなく、ボールを転がしてきてくれるなら大歓迎だ……。ただしスウェーデンは次第に「本性」をあらわし、その楽観は前半の途中で終わった。

 日本のフォーメーションは3-4-2-1だ。スタメンはGKが山下杏也加。最終ラインは右から高橋はな、熊谷紗希、南萌華が構える。

 右ウイングバックは清水梨紗、左ウイングバックは杉田妃和。ダブルボランチは長谷川唯と長野風花。2シャドーには藤野あおばと宮澤ひなた。ワントップは田中美南だ。

スウェーデンが得意のセットプレーで先制する

 前半15分に日本は初めて相手を押し込み、しばらく敵陣でボールをつないだ。このままラインを押し上げられるといいのだが……アテが外れた。

 スウェーデンは同18分に、初めて最終ラインから縦にロングボールを入れてきたが事なきを得た。やはりスウェーデンは長いボールを使ったときの方が攻めに迫力がある。プレー強度が日本よりはるかに高い。ハイボールの競り合いになると完全に不利だ。

 同32分。スウェーデンが得意のセットプレーから先制する。中央左から縦にロングボールを放り込まれ、一度はGK山下が弾いた。だがゴール前の混戦からこぼれ球を決められた。これが彼女たち本来のスタイルだ。長い浮き球を自在に駆使する。日本はクリアするチャンスすらなかった。これでスウェーデンが1点リードした。

 また同42分にも、スウェーデンのシュートがGK山下の手をかすめてポストを叩く。ヒヤリとするシーンだった。こうして前半は完全にスウェーデンのペースで進んだ。日本はシュート0本で前半を折り返す。

日本のプレスは中途半端だ

 かくて後半に入った。立ち上がりから日本は杉田に代えMF遠藤純を投入した。先行された日本は点を取るしかない。最終ラインを上げて全体の重心をより前にかけ、ボールを保持する敵最終ラインに積極的にプレスをかけたい。なぜなら前でのプレスが利いてなければラインを上げられないからだ。

 だが日本の前からのプレッシングは相変わらず中途半端なまま。プレスの「ハメどころ」がはっきりしない。ただワントップの田中が単発でコースを切るだけだ。

 例えばワントップと2シャドーの3枚に加えWBも前に出て、マンツーマンで前からハメに行くような工夫がほしい。もちろんリスクは高いが、この点は日本の大きな改善点だろう。

 後半6分。長野がハンドを取られ、PKになり決められた。あのハンドは故意ではないと見えたが、ボールが手に当たったのはツキがなかった。これで2失点した日本は同7分、田中に代えてFWの植木理子を入れた。植木は球際の競りに意欲を見せている。だがしょせんは単騎のプレスなのだ。集団による「投網」ではない。

 日本はサイドからハイクロスを入れる。だが高さのあるスウェーデン相手にあれでは勝てるイメージがわかない。日本はあくまでグラウンダーのボールで攻めるべきだ。

林が待望のゴールを決める

 後半29分、ドリブルを仕掛けた植木がペナルティエリア内で倒されPKになる。植木が蹴ったが、惜しくもクロスバーに当たって入らない。日本はついてない。続く同35分。長野と宮澤に代えてMF林穂之香とMF清家貴子を投入した。林はボランチ、清家はシャドーに入った。

 そして42分だ。藤野がボックス手前でエリクソンに倒され、日本はFKを得る。キッカーは藤野だ。右足で直接ゴールを狙ったが、なんとボールはクロスバーとGKムショビッチに2度当たって地面に強くはね返る。ゴールか? と思われたが、ゴールラインは割っていないと判定が出た。

 クロスバーに嫌われ、これで日本は「2点」を取り損ねた。

 43分、ボックス内でボールを受けた清家が中へ折り返す。これをゴール前でスウェーデンが弾き返し、そのこぼれ球を林が詰めた。待望のゴールだ。アディショナルタイムは10分ある。まだいける。

 46分。藤野が右コーナーキックを蹴り、ニアで植木が合わせたがGKムショビッチにセーブされた。続く47分には高橋はなに代えてFW浜野まいかを投入。日本は猛攻を続けたが1点は遠く、かくてタイムアップとなってしまった。

課題はフォアプレスと球際だ

 後半20分以降と、アディショナルタイム10分間での日本の攻めは迫力があった。本来、日本はもっと早い時間帯からあれぐらい積極的に攻めたかった。 

 敗因のひとつは、前半から受けに回って最終ラインが低すぎたことだ。このためスウェーデンの攻めがモロに直撃した。相手の圧に押され、持ち前の速いトランジション(攻守の切り替え)やショートカウンターが生かせなかった。

 例えばグラウンダーの緻密なパスワークで来るスペインとの試合では、確かに日本は5-4-1で相手にボールを持たせる戦略が成功した。だが反対にアバウトなロングボールやハイボールを多用するスウェーデン相手には、ボールがリバウンドして思わぬ「事故」が起こりやすい。

 それを防ぐにはもっと前からプレスをかけてディフェンスラインを高く構え、ウイングバックとボランチ(の片方)も積極的にフォアチェックに加わりたかった。プレスで潰し、球出しさせない工夫が必要だった。

 だが前線からプレスをかけて球際で激しくボールを競るには、大柄なスウェーデンに大きく見劣りする日本のフィジカルではいかんともしがたい。結局はフィジカルの問題に帰結する。また、なでしこの選手はそもそもボディコンタクトを怖がる傾向がありむずかしい……。

 しかし現代フットボールにプレッシングと球際の厳しさは不可欠であり、この点でなでしこジャパンは深刻な課題に直面してしまう。ここを解決しない限り、前進はない。また明日からやり直しだ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする