すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【サッカー日本代表】ポゼッション率が試合の優劣を決めないサッカーで勝つ

2017-09-10 10:34:27 | サッカー戦術論
「あのサッカーでいいのか?」という永遠の課題

 ハリルジャパンは、(オーストラリア戦のように)汗臭く、泥臭く、走りに走って運動量でダイナミックに圧倒するスタイルである。彼らは、(1)わざとボールを持たず、逆に相手にボールを持たせて、(2)敵ボールホルダーを集団でハメてできるだけ高い位置でボールを奪い、(3)敵が守備のバランスを崩しているうちにショートカウンターで素早く点を取って勝つサッカーだ。

 となれば当然、「華麗さ」とか「惚れ惚れする」みたいな感嘆ワードとは縁遠い。

 かくて常に「日本はあのサッカーでいいのか?」という議論の的になる。いや、かく言う私も日本にはメキシコみたいに躍動するパスサッカーが向いていると思っている。日本人ならではのアジリティを生かし、鬼ごっこのようにひらりひらりと機敏なパス回しで敵をかわしゴールを取るサッカーだ。

 実際、Jリーグが始まって以降の日本代表を振り返れば、ジーコジャパンやザックジャパンのようにパスでポゼッション率の向上をめざす攻撃型のチームが目立った。いわば彼らは夢見る理想主義者たちである。だが結局、成績がよかったのは、2010年南アフリカW杯でベスト16を取った第二次岡田政権のような守備的な現実主義者たちだった。

 実は短期的に結果を求めるなら、もう結論は出ているのだ。

 いや100年計画でタマを仕込めばドイツのように圧倒的なポゼッションサッカーで日本も勝てるようになるかもしれない。それはそれでうれしい誤算だし、もちろんそのときは私も支持するだろうが。

アギーレから途中でバトンタッチされたハリルの選択

 こんなうふに日本人の血の中には「パスをつないで勝ちたい」という業のようなものが渦巻いている。だが少なくとも短期計画でこれまで好成績を収めたのは、「労働者」たちが汗をかく現実主義的なプロジェクトが多い。さて、ここまでが前提だ。

 では、いま代表監督をやってるハリルさんはどんなふうに就任したか? アギーレ監督のうんちゃら疑惑で急遽、決まったお人である。ワールドカップはただでさえ4年サイクルの短期計画なのに、ハリルに残された期間はそれよりさらに短い。で、ハリルは当然、超短期で結果を出せるいまのスタイルでチームを作った。まさに水が高いところから低いところへ流れるかのように自然な成り行きだ。

 いや、「日本はあのサッカーでいいのか?」と疑問を呈する人たちが、こう言うなら話はわかる。

「ハリルさん、あんたに向こう100年間、時間をやるよ。その間はどんなに負けてもいいから、体幹鍛えて日本人のフィジカルを根本的に変え、もちろん針の穴を通すボールコントロールも身につけさせて長期計画でドイツみたいにポゼッションで圧倒するチームを作ってよ」

 だけど当然そうじゃないわけでしょう? (というか「それ」は代表じゃなく育成の仕事だ)

 なのに「3年で結果を出せ。ただしスタイルはパスサッカーだ。ポゼッションで敵を圧倒しろ」。こんな無茶なオーダーはない。繰り返しになるが、そもそも過去の代表の成績を見れば結論はすでに出てるんだから。

バカ正直な日本人にズル賢さを仕込んだ

 もし日本にハリルというクセ者がやって来なければ、日本代表はタイみたいに素直にボールをつなぐだけで、「敵をハメて」ボールを奪い点を取って勝つサッカーにはなかなか脱皮できなかっただろう。その意味では革命家・ハリルに乾杯を、だ。

 もし彼がいなかったら「相手の良さを消す」なんてズル賢い発想は、バカ正直な「正々堂々」の日本人には身につかなかったろう。未だに「パスが何十本つながるか?」だけで優劣を競うザック・ジャパンやジーコ・ジャパンみたいな正直サッカーしかできていない(で、未だに日本は勝てなかったはずだ)。

 それこそ相手がイヤになるぐらいボールを回して(だが点が取れずに)一発のカウンターに沈むサッカーで終わっていただろう。いままでがそうだったように。

 アジアでは強者だった日本が、あえて弱者のサッカーに徹するという逆転の発想をしたからこそ「ここ」に到達できた。もちろん本番はこれからだからまだなんともいえないが、このサッカーならある程度の強い相手(ポゼッションしてくる敵)とも、うまくスタイルが噛み合ってひどい大崩れはしないだろうという読みが効く。

カウンターとポゼッションをモードチェンジせよ

 もちろん本田と香川がポゼッション・サッカーへの転換を謳い、反乱を起こす可能性もある。だがそれも程度問題で取り入れるのはアリだ。彼らの突き上げを奇貨として、変幻自在にカウンターとポゼッションをモードチェンジするという選択は十分ありうる。

 ハリルの指示だけを聞きタテへ急いでばかりではスタミナが消耗する。また日本人が苦手なイーブンボールを競り合うフィジカル勝負になりがちだ。そんなときには試合の状況や得点差、疲労の度合いなどに応じ適宜ポゼッションして時間を作り、次への展開を仕込む必要もある。

 ポゼッションでタメを生み出し、その作った時間の間に味方がダイアゴナルランしたり、マークを外す動きをしたり、ウラのスペースへ飛び込んだり。そんなパターン・チェンジを嚙ますことが次なる日本の目標だ。時には流れるようなパスワークを見せてお客さんを魅了する時間帯があってもいい。

 こうしたポゼッションとカウンター狙いのベストミックスは、今後のハリルジャパンの大きなテーマになるだろう。その混ぜ合わせが完成すればチームはグッと円熟度を増す。

 例えばリードしている時の時間の使い方ひとつ取っても、ゾーンを下げて相手にボールは持たせるが決定的なチャンスは作らせない、という時間の使い方もあれば、危険な味方ゴールからより遠い高い位置(敵陣)でボールをキープし続けて時間を使うという考え方もある。

 加えてボールを放棄して待つばかりでは、相手はこちらの動きを読みやすい。ときにはポゼッションを混ぜて支配する時間帯も作れば、敵は次に日本が何をやってくるか予測不能になる。的を絞りにくいし、研究し対策を立てる作業も難航するだろう。

ワンパターンでは対策を立てやすい

 例えばもし私の率いるチームがいまのハリルジャパンと試合するとしたら、どんな指示を出すだろうか?

「お前ら、あいつらは特に前後半の立ち上がりはハイプレスでくるぞ。そういう時間帯はムリに最終ラインからビルドアップせず、縦や斜めに適宜ロングボールを入れろ。そうすればやつらのハイプレスは空振りし、(ロングボールに対応しようとDF陣は下がるから)敵の陣形をタテに引き延ばすことができる。そうなればやつらは前後が間延びし中盤にスペースができる。そこを狙え」

「で、こっちのロングボールを警戒して日本の陣形が全体に低くなったら、今度は手前にスペースができる。つまりそのスペースを使って我々は最終ラインからビルドアップしやすくなる。そうなればしっかりポゼッションしろ」

「それから日本はボールサイドに人数をかけて守ってくる。その状況では、カットされやすいショートパスをつなごうとするな。相手ボールのときも同じだ。密集地帯で日本からボールを奪ったら、まず空いている逆サイドを見ろ。で、サイドチェンジを入れて敵を撹乱しろ」

 こんなふうに同じパターンでくる相手なら、研究し読みを効かせてゲームプランを練ることができる。だが日本が守ってカウンターだけでなく時にはパスをつなぎポゼッションもしてくるとなれば、対策は一筋縄ではいかない。単純に考えて2チーム分の参考書「傾向と対策」を徹夜で上げなきゃならなくなる。

 ただし、いまからパターンを増やせるかどうかは、W杯本大会までに「どこまでできるか?」という勝負になる。ゆえに日本は弱い相手をホームに迎えて「顔見せ興行」をやってる場合じゃない。できればアウェイで格上の相手と1試合でも多く強化試合をする必要がある。

 もちろんビジネスとしてのフットボールを成功させることは重要だ。だが残り時間が少ないいま、できることは限られている。あとは強化試合の日程と対戦相手のグレードを、協会にはいま一度揉んでほしい。

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