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歌に私は泣くだろう~その1~

2013-09-28 14:14:27 | 歌う

         「歌に私は泣くだろう」~その1~

 永田和宏氏『歌に私は泣くだろう』は第29回講談社エッセイ賞に決定。サブタイトルは「妻・河野裕子闘病の十年」、十年はあっという間に過ぎてしまう。しかし癌との闘いの十年は長く、苦しい十年だったことであろう。

❤左脇の大きなしこりは何ならむ二つ三つあり卵大なり  裕子

 この一首からこの本ははじまっている。2009年の9月20日の夜のこと。入浴中に裕子が気が付いたそうだ。卵かけごはんが好物の彼女に卵大の「左脇の大きなしこり」とは。

❤そうなのか癌だったのかエコー見れば全摘ならむリンパ節に転移  裕子

❤何という顔してわれを見るものか私はここよ吊り橋ちゃない  裕子

 夫の和宏氏はこの一首が酷く辛かったらしい。「診察を終えて病院の横の路上を歩いていると向こうから永田がやってきた。彼とは30年以上暮らしてきたが私を見るあんな表情は初めて見た。痛ましいものを見る人の目。この世を隔たった者を見る目だった」と裕子は書いている。

❤なんにしてもあなたを置いて死ぬわけにはいかないと言う塵取りを持ちて  和宏

❤癌と腫瘍の違いからまず説明すなにも隠さず楽観もせず  和宏

 「死にいたる病」という裕子の固定観念を拭い去り、気分を明るくすることだけを願った和宏、23日はシドニーオリンピックのサッカー、日本ー米国戦。裕子と一緒に最後まで観た、とのことである。翌日はマラソンで高橋尚子が金メダルを獲得。この晴れがましいニュースを
裕子はどのように受け止めたか。あの頃の河野裕子は歌壇の明星、ますます光り輝こうとしていたとき、公私ともに幸せの絶頂にいた彼女が奈落の底に落とされたような九月の末。
 
 9月28日  急に涼しく、朝夕は寒くなり、「あまちゃん」も終わりましたね。 松井多絵子