軽井沢からの通信ときどき3D

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金継ぎ教室

2021-11-19 00:00:00 | ガラス
 ショップの顧客Mさんが、軽井沢で金継ぎ教室を開くとの連絡を受け、参加することにした。

 東京在住というMさん夫婦が私のアンティーク・ガラスショップを訪れたのは、4年前に開店して間もなくの頃で、軽井沢に別荘探しのために来ていた際に立ち寄ったとのことであった。

 その後も、来軽の折には時々ショップに立ち寄って買い物もしていただいていて、なにかの話の折にMさんの在京の知人で金継ぎをしている方を紹介していただき、ショップのアンティークガラス品の金継ぎをお願いしたことがあった。

 この品は、100年以上前につくられた貴重なものだが、別の品を購入した際にヒビ割れがあるからということで、サービス品として一緒に送られてきたものであった。そのまま販売する訳にも行かないので、参考品として飾るだけにしてあったが、きれいに補修していただけたので、今は商品の仲間入りをさせている。

金継ぎ修理をした小型のゴールドサンドイッチグラス(高さ 5.4cm)


真上からみた同上のグラス

 そのMさん自身が金継ぎを習っていたことは知らなかったが、聞くともうずいぶん長い間金継ぎ教室に通い、技術を習得していたのだという。

 そして、軽井沢に新たにできた複合型ワーキングスペースで、教室を開く手筈が整ったとのことである。この複合型ワーキングスペースはコロナ禍の落とし子ともいえるようで、「軽井沢の豊かな自然を背景に、人と人、仕事と暮らし、地域と社会が緩やかに循環する」ことをめざして今年設立されたものだという。

 私のショップにその金継ぎ教室開催案内のパンフレットを置いてもらえないかとの電話連絡があり、後日このワーキングスペースで働く女性がパンフレットを届けにこられたが、その際私も金継ぎ教室への参加を申し込んだ。
金継ぎ教室の行われた複合型ワーキングスペースのパンフレットから


金継教室のパンフレットから

 かねて、私自身も金継ぎには関心があり、いずれはショップで扱っているアンティークガラス類の金継ぎ修理を自分で行いたいものと思っていたからであった。
 
 10月中旬に開催された金継ぎ教室は、午前・午後の2回行われたが、私は午後のクラスに参加した。

 当日の受講生は私を含めて5名で、それぞれ割れたり、欠けたりした器を持参し、これらを指導を受けながら修理し、金継ぎ技術を学んだ。

 教室に持参するものは金継ぎ修理をしたい器だけで、その他の必要な材料類はすべてMさんの方で用意されていた。次のようである。

・新うるし(本透明)
・金粉、小目
・新うるし専用薄め液
・新うるし専用洗い液
・ガラス・陶磁器用高透明度エポキシ系接着剤
・金属用エポキシパテ
・混錬用プラスチックシート
・注射器
・混錬用竹ぐし
・筆3本
・筆置き台
・手袋

 私自身の本来の目的はガラス器の修理であるが、金継ぎといえばやはり陶磁器というイメージがあるので、今回は真っ二つに割れた磁器皿と口縁部が欠け、ひびの入った磁器のカップを持参した。

補修前の二つに割れた皿

 最初の実践はパテの使い方である。芯部分と周辺部分に硬化剤と主剤とが分かれて詰まっている円柱形のもので、必要量を切り出して用いる。保護手袋をして、指で色むらが少なくなるまで練り、器の欠けた部分を補うように埋める。

 私の場合、上掲の皿はこの作業には適さないということで、後に回して、口縁部が一部欠損したカップの補修から始めた。

 しばらくしてパテが固くなると、カッターナイフで余分なところを削り落として形を整える。パテは不透明な灰白色をしていて、元の欠け部分の形状が判らなくなってしまうので、事前に写真を撮っておくと、削りしろを確認するのに都合がよいことも教わった。

 パテが充分に硬化したところで、その上に新うるしに金粉を混ぜたものを塗る。同時にひびの入っている部分にも、ひびに沿って金色うるしを塗る。この金粉は非常に細かいもので、新うるしとよく馴染み混じり合う。
 他の受講生が、この金色うるしを塗る作業をしている間に、私は真っ二つに割れた皿の修理を行った。

 この場合、パテは不要で破断面にエポキシ接着剤を塗布してつなぎ合わせた。2液のエポキシを等量混ぜ合わせ、両断面に塗り、少し硬化が始まった所で貼り合わせて強めに押し付けるようにする。速硬化タイプのエポキシなので数分間押し付けていると接着し、手を離すことができる。

 ここで、先にパテで補修してあったカップと一緒に、金色うるしを筆で塗る作業に入る。塗りやすくするために、注射器で適量の薄め液を垂らして粘度を調整して行う。

 カップの場合はパテの上と、ひびに沿った部分を、皿では接合したラインにそって細く金色うるしを筆で塗っていく。

 最後に新うるしを塗るときに使った筆を、専用洗い液できれいに洗い作業が終わる。

 こうして2時間ほどの講習の後に補修が終わった2点の器は次のようである。

パテと金色うるしで補修したティーカップ


ティーカップの補修部分の全体


エポキシ接着剤と金色うるしで補修した皿(径 15.5cm)

 パテとエポキシ接着剤の接着強度は予想以上に強く、しっかりと接着できているようである。金粉(実際は金色の合金粉)を混ぜた新うるしの色もなかなかきれいで、いい仕上がりに見える。

 こうして、入門編であるが基本の作業を教えていただいたので、帰宅後も連日金継ぎ作業を繰り返している。素材はいくらでも見つかった。

 ガラスの場合も基本的に陶磁器と同じようにすればいいと聞いていたので、部分的にかけたり、大きく割れて2つに分かれているグラスなども試みに修理してみている。

自宅で補修した縁の欠けた小皿(径 12cm)


自宅で補修した縁が欠け、ヒビの入ったた湯呑

自宅で補修した縁の欠けた湯呑 


口縁部に小さな欠けが数か所あるシャンパングラス(高さ13cm)


フット部に欠けがあるシャンパングラス(高さ 13cm)

大きく割れたゴブレットを接合し、口縁部全体にも金色うるしを塗った(高さ 12.5cm)


反対側から見た補修後の上掲ゴブレット

 まだまだ、パテや接着剤の扱い、そして金色うるしの塗布には不慣れで、満足のいく状態ではないが、欠けたり、ヒビが入ったり割れたりした陶磁器とガラス器の金継ぎ補修をどのようにすればいいか、その作業工程をおおよそ確認できた。

 今回補修の対象としたものはすべて食器であり、飲食用である。そのため、使用している材料が食品衛生上安全なものかどうかが問題となる。この点は、厳密な意味ではまだ確認がとれていないが、使用した新うるしの注意書きを読むと、「本品を器類の補修に利用する場合、本品が完全に硬化するまで24時間以上補修品を使用しないでください。」とあるので、安全性は確認はされている材料と思える。

  一方、今回使用したパテの方には「食器には使用しないでください。」とあるので、パテ単独での使用には問題があると思われるが、今回のようにその上に新うるしを塗布する場合には大丈夫と思われた。

 2液性のエポキシも同様に考えていて、特に安全性面での注意書きはないが、硬化後に上から新うるしを塗ることで直接表に出ない使用方法になっている。

 ただ、念のために今回補修したものは観賞用としての使用にとどめようと思っている。

 天然うるしは長年飲食用の器に使用されてきているもので、安全性は確認されているが、その代用品である新うるしは釣り具の補修用として開発されたもののようで、食器への利用はその応用としてであり、特に問題はないように思えるが、安全性は今後確認する必要があると考えている。

 そのため、Mさんには次回以降の講習の機会には、本うるしと純金箔や純金粉を使った金継ぎ技法について教えていただこうと思っている。

 ガラスショップで接客をしていると、やはりガラスが割れることに対する心配というか、恐れを抱いている人が多いことに気が付く。

 そのため、高価なガラス器をせっかく購入しても、使用しないでキュリオケースに飾るだけという人も結構いる。

 よほどの高級品は別にして、やはり食器類は使っていただかなければその意味はないと考えているので、お客さんにはぜひ使ってくださいと話すようにしているが、破損のことがネックとなり購入をためらう人がいることも事実である。

 そんな時のために、今回習い始めた金継ぎを役に立てたいと考えている。私のショップで購入していただいたガラス器が、使用時など万一欠けたり、ひびが入ったり、場合によっては割れたりした時には修復しますよと言えるようにしておきたいと考えているのである。


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