軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

ヤマカマスの成る木とウスタビガ2019年

2019-08-16 00:00:00 | 飼育
 今回は、蛾やその幼虫の映像・画像が多く出ますので、苦手な方はご注意ください。

 3年前の2016年、20匹ほどのウスタビガの幼虫を飼育し、多くを成虫になるまで育て、その成長過程を観察・3D撮影した。その一部は本ブログでも紹介させていただいた。この時、羽化した成虫から、卵を得るべく努めたものの果たせず2017年からは、我が家のウスタビガは途絶えてしまっていた。

 昨年、2018年の秋、南軽井沢の山荘で誘蛾灯を点けて蛾の採集を行った。主目的は、過去に途中まで飼育したものの、繭作り段階で撮影に失敗していたヒメヤママユの♀を得ることであったが、肝心のヒメヤママユの♀はやってこないで、♂ばかりが集まり、♀は一頭も採集することができなかった。集まってきたヒメヤママユの♂は、翅の色や文様が実に多様で、これはこれで興味深いものであった。


誘蛾灯を使って蛾を集める(2018.10.23 撮影)




誘蛾灯に集まってきた翅の色の異なるヒメヤママユの♂(2018.10.10 撮影)

 
 1週間ほど誘蛾灯を点灯し続けて様子を見たが、ヒメヤママユの♀は結局一頭も誘蛾灯に来ることはなかった。その代わりに、ウスタビガの♀3頭が集まってきたので、これを傍らの網かごに入れておいたところ、そこに産卵していた。この卵は、網かごに着いたまま冬の間外の軒下に吊るしておいた。


網かごに産卵したウスタビガの♀とその卵(2018.10.23 撮影)

 今年春、その卵から幼虫が孵化してきたので、再び飼育し、前回飼育時の疑問点の確認と、以前から考えていた「ヤマカマスの成る木」(後述)の作成を試みた。

 2016年にウスタビガを飼育した時の疑問点とは、①1齢幼虫も脱皮後に殻を食べるかどうか、②オオヤマザクラの葉がウスタビガにとって有害なものかどうか、という2点である。①は単純に撮影するチャンスを逃していたためであったが、②は飼育していたウスタビガの終齢幼虫が、餌の葉をそれまでのヨシノザクラからオオヤマザクラの葉に替えた際、数匹死んでしまうという事故が起きていた。

 今回は、約50-60匹ほどの幼虫が孵化してきたので、こうした疑問点についての確認ができそうであった。孵化直後の1齢幼虫には、今回もちょうど芽が出始めた鉢植えのヨシノザクラにとまらせて、自由にその葉を食べさせ、大きくなるにつれて、庭木のヨシノザクラの枝先を切ったものにし、そして一部は試験的に庭木のオオヤマザクラの葉に切り替え、さらに3~4齢になった頃からは、餌の量的確保の問題もあり、ほとんどをコナラの葉に切り替えた。軽井沢ではこのコナラがいちばん確保しやすいのである。

 孵化したばかりの1齢幼虫は、3㎜程度の長さで、小さく弱々しいが、鉢植えのヨシノザクラの新芽を食べて10mmほどに大きくなっていった。脱皮のタイミングを捉えて撮影することは、意外に難しいが、多くの幼虫を育てているので、数匹が先に脱皮を終えたところで、眠状態に入って餌の葉を食べなくなっている個体にターゲットを絞り、撮影した。その結果、先に脱皮を終えた、兄貴分の2齢幼虫が見守る中、うまく脱皮する1齢を撮影することができた。この1齢幼虫は、脱皮後その抜け殻を食べてくれたので、年来の疑問点はこれで解消した。30倍のタイムラプスで撮影した様子は次のようである。


ウスタビガ1齢幼虫の脱皮(2019.5.10 30倍のタイムラプスで撮影)

 前回の2016年に、この様子だけを撮影することができず、宿題になっていたが、こうして全ての齢段階で、脱皮後の幼虫がその抜け殻を食べる様子を撮影することができたことになる。

 幼虫が2齢、3齢と成長するに従い、食べる食葉の量も増え、鉢植えのヨシノザクラの葉を食べつくしてしまいそうになるので、この段階で庭に植えてあるヨシノザクラに切り替えるとともに、オオヤマザクラの葉を一部の幼虫に試験的に与えてみた。前回は、終齢幼虫になった段階で、今回と同じようにそれまでのヨシノザクラからオオヤマザクラに切り替えたところ、終齢幼虫は口から赤褐色の液体を吐いて、弱っていったのであった。

 この経験があったので、オオヤマザクラの葉は、ウスタビガにとり何かよくない作用をしているのではないかと思っていた。今回、一部の幼虫でそれを再確認しようと思い、実験台になってもらったのであった。

 結果は、今年の2、3齢幼虫の場合は、オオヤマザクラの葉を平気で食べて、何の異変も起きなかった。前回の終齢幼虫の場合と、今回の2、3齢幼虫のこの違いが何によるものか、今のところ判らず、別な疑問に変わってしまった。

 前回の経験で、ウスタビガの幼虫は、1齢、2齢段階ではその色の違いで区別は容易であるが、3齢、4齢になると2齢で見られたツートンカラーの黒色の紋様がなくなり、外観が緑一色になって、とてもよく似ているため区別がつきにくいと感じていた。
 ところが、今回の飼育では様子が随分異なっていた。3齢、4齢でも2016年と同様、黄緑色一色のものもいるが、黒い模様が体に残っている個体も多く見られた。こうした体色の違いは、今回得た卵が3頭の異なるウスタビガの雌からであったためかと思う。改めて、イモムシハンドブック(安田 守著 2014年文一総合出版発行)を見直してみると、2-4齢の体色は黄色-薄黄緑色で黒化の程度に異変があると書かれているので、その通りの状況といえる。

 今回はそうした個体の体色の変異も観察してみた。4齢の黒化度の違いは次のようである。





体色の異なるウスタビガの4齢幼虫(2019.5.25 撮影、マス目は1cm、4番目の写真の小さい方の幼虫は3齢)

 このように、さまざまに黒化度の異なる4齢幼虫だが、脱皮して終齢幼虫になるとこうした違いはなくなり、全て一様に緑と黄緑色のツートンカラーになっていった。次の映像は、最も黒い部分の多かった4齢幼虫が脱皮して終齢幼虫になる様子と、脱皮後この終齢幼虫が抜け殻を食べる様子である。


体色の黒い部分の多い4齢幼虫の脱皮(2019.5.30 15:02~17:55 30倍タイムラプスで撮影)

 ところで、たくさんの幼虫を飼育していると、いろいろなことが起きる。今回は飼育用のハウスから脱走して、近くに置いてあった自転車の車輪で繭を作ったものと、他の昆虫に襲われたためか、頭部に黒点が見られ、発育が異常に悪いものなどが出た。


車輪で繭作り(2019.7.1 撮影)

 自転車の車輪で繭を作ってしまったものは、悪いがそのままにしておくわけにいかず、剥がしてみると、車輪に接していた部分には充分に糸を吐いていなくて薄く、中が透けて見える状態であった。そこで、この部分を切り取り、代わりにペットボトルの容器から切り抜いた透明なフィルムを貼り付けて完全に中が見えるようにした。 こうすることで、通常は見ることができない繭の中の幼虫の様子をビデオ撮影することができる。以前、ヤママユの繭で同じことを行っているが、その時は、正常にできた繭の一部を切り取ったのであったが、今回は、状況が少し違っていて、無理やりではない。

 このようにして撮影した映像は次のようである。撮影はタイムラプスの30倍、300倍、2400倍を適宜使用し、それらを編集したものである。ウスタビガの終齢幼虫は、作った繭の中でどんどん小さく縮んでいき、やがて狭い空間内で器用に脱皮して蛹になる。初め緑色で一部だけが薄い茶色をしていたものが、次第に色が濃くなっていき、数日で濃褐色の蛹になる。この間も、繭の中では前蛹の時も、蛹になってからも結構動いているのが判る。

 ウスタビガの終齢幼虫は、触ると「キュー」と鳴くことが知られているが、繭の中の前蛹も同じようで、撮影していて、繭を揺らしたりすると鳴き声が聞こえていた。しかし、蛹になるとさすがに鳴き声は聞かれなくなった。

 シースルーの繭の中で蛹になった、脱走ウスタビガ。触角の形が見え、♂であることが判る。


繭の中のウスタビガの蛹化(2019.7.10 18:30~7.15 8:50 30倍、300倍、2400倍T/L撮影動画を編集)

 今回は最終的に40個ほどの繭が得られた。多くは、食葉として与えた瓶差しのコナラの枝にぶら下がる形となったが、毎日のように観察をしていると、終齢幼虫が繭つくりにとりかかるタイミングが判るようになる。餌を食べなくなるとともに、幼虫の形状が短く横幅が太くなってくる。

 撮影する場合は、この段階のものを、枝ごと室内に持ち込むと、幼虫は移動しないで、その場所で繭作りを始める。また、希望の場所に繭を造らせたい場合には、幼虫だけをその場所に移動させる。

 今回、ヨシノザクラの鉢植えの枝先に繭をできるだけ多く作らせたいと思っていたので、繭作りの態勢に入った終齢幼虫を、瓶挿ししているコナラの枝からこの鉢植えのヨシノザクラの枝に移動した。

 思惑が外れて、再びヨシノザクラの葉を食べ始めるものも出て、鉢植えの葉がなくなってしまうのではないかと案じたが、それも少数で、結局9個の繭を鉢植えのヨシノザクラの枝先に作らせることができた。ウスタビガの繭は別名ヤマカマスであるが、こうして「ヤマカマスの成る木」の完成である。


ヤマカマスの成る木(2019.7.31 撮影)

 同様の方法で、庭木のオオヤマザクラの枝先にも終齢の幼虫を移して、10個ほどの繭を作った。餌として与えていたコナラの枝先で繭を作ったものも、枝ごと切って、庭木の枝先にくくりつけている。このほうが風雨にさらされたりしながら、より自然に近い状態で羽化の時期を迎えるのではと思っている。繭になってしまえば、外敵に襲われることもない。


庭のオオヤマザクラの枝先にぶら下がるヤマカマス(2019.7.31 撮影)

 6月24日に、最初の1匹から始まったウスタビガの繭つくりは7月28日にすべて終了した。ほぼ同時に孵化してきた幼虫であったが、繭作りの段階では1か月以上の開きが出ることになった。繭は前半にできたものは小さく、後半にできたものは大きい傾向があったが、これは雌雄の差が出たものと思われる。羽化するタイミングは雄よりも雌の方が遅い。繭になるタイミングも同様で、雌の方がたっぷりと餌の葉を食べて大きな幼虫になってから蛹になるので、結果的に雌の繭は大きく、遅く作られることになるようである。


最後の繭(左)と先にできた繭(右)の大きさ比較(2019.7.31 撮影)

 こうして、しばらくの間繭の中で眠りについた幼虫達は、秋になると美しい成虫になった姿を見せてくれるはずである。

 次は「ウスタビガの成る木」が見られることを楽しみにしようと思っている。



 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする