軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

突然死?

2024-03-29 00:00:00 | 日記
 このところ、親類、友人、知人や著名人の突然の訃報に接することが多く、驚きとともに悲しみに襲われるのであるが、今回の話は人ではなく私が使用しているIT機器に関する話である。

 もう2年ほど前になるが、長年使い続けてきたパソコンが突然動かなくなり、自分ではどうにもならないので、近くにある家電量販店に急遽持ち込んだところ、電源系統の不具合で、古い機種なので修理も不能だという。

 すでに10年ほど使い続けてきた機種であり、仕方なく、あきらめることにして、その場で後継機の購入を決めたので、作業に大きな支障を来すことはなく、また旧機に内蔵されていたハードディスク2台については、専用のパーツが用意されていて、USB接続することで、今後も外付けのメモリーとして使えることが判ったので、そのパーツを注文して、新旧のパソコンと共に帰宅した。このパソコンについては切り替えが順調に進み、事なきを得て現在に至っている。

 もう一つ、パソコンではとても苦い思い出がある。

 新潟県の会社に転勤になって、少し経った頃、ヨーロッパに技術調査で出張する機会があった。この会社では、海外出張も特別な理由がない限り一人で出かける。

 この時は、オランダのアーネム(Arnhem)にある会社の社長NM氏と技術的な面談を行い、その後続いてオランダ・アイントホーヴェンの会社とスイス・バーゼルの会社を訪問する予定であった。

 トラブルは、オランダのスキポール空港からアーネムに行く列車での移動の際に起きた。

 空港からアーネムまでは列車で1時間程度であるが、先ずアムステルダム行きに乗って、すぐに乗り換える必要がある。大きな旅行鞄と手持ちのアタッシュケースの2個の荷物を携えての移動であった。

 空港を出てすぐに、車内の少し離れた場所にいた2,3人のアラブ系と思われる浅黒い風貌の男性の視線に気が付いたが、そのまま乗り換え駅に下り立った。

 立体的に交差している別の路線のホームに移動して、アーネム行きの列車を待っている間、階段脇の低い壁際にアタッシュケースを置いて、それを塞ぐようにして大きい方の旅行鞄を置き、天井から下がっている列車時刻表をチェックしていると、先ほど車内で見かけた男性が話しかけてきた。

 XX駅に行きたいが、このホームでいいかと聞いてくる。今いるのがその XX駅なので、おかしいことを聞くんだなと思いながら、そのように伝えると、Thank you と言って去っていった。

 アッと思って振り返って荷物を見ると、旅行鞄の後ろに置いてあったアタッシュケースが無くなっていた。

 周りを見回しても、もう先ほどの男性も、一緒にいたと思える別の男性の姿もない。あたふたとしていると、異変に気が付いたのか、別の一人の男性が、何かあったのか?と話しかけてきた。事情を話すと、駅の事務所に行って、被害届けをするといいと教えてくれた。

 そこで、階段を降りて事務所を探し、事情を話して盗難品の内容についての調書を作成した。そこで改めて気が付いたのだが、アタッシュケースの中にはビジネス用品の全てが入っていた。ノートパソコン、カメラ、名刺、筆記用具をはじめとして空港で両替した少額の外貨と不要になった日本円、それとトラベラーズチェックも入れてあった。これらすべてが一瞬にしてなくなってしまった。

 幸い、冬のことで背広とコートの内ポケットに、クレジットカードの入った財布(現金はない)、パスポート、航空券、手帳とボールペン1本があり、空港駅で買ったアーネムまでの切符はコートのポケットにあった。

 調書を提出して、再びホームに戻り、列車でアーネムに向かったが、この先どうしたものかと、頭がいっぱいになった。

 アーネム駅に下り立ったものの、ホテルまではタクシーで行くつもりであったので、ホテルの場所は確認していない。現金がなく、タクシーにも乗れないので、駅周辺をしばらく歩き回り、ホテルを見つけようとあてもなく探してみたが、全く判らないので諦め、タクシー乗り場に向かった。

 タクシードライバーにホテル名を告げて、走り出してみると、2,3kmほど行ったライン川沿いに目指すホテルはあった。これでは、駅周辺を探しても見つかるはずがなかった。

 タクシードライバーに、事情を話して現金の持ち合わせがないことを告げ、待ってもらい、ホテルのフロントで同じように事情を話して、クレジットカードでのキャッシングを頼んだところ、快く応じてくれて、タクシー運賃を無事支払うことができた。

 翌日、予定通り訪問先にNM氏を訪問し、仕事を済ませ、昨日のできごとを話したところ、最近こうした事件が多発しているが、どうかオランダ人のことを悪く思わないでほしい、多くは移民の仕業なのだと教えてくれた。

 こうして、最悪の事態の中、残る2件の訪問を何とか終えて、帰国したのであったが、このパソコンの盗難には後日談がある。

 数か月後だったと思うが、アーネムのNM氏からメール連絡が入り、アムステルダムのパソコンなどを修理する業者から連絡があり、先に盗難に遭っていた私のパソコンが見つかったようだと伝えてきた。

 詳しく聞いてみると、修理を依頼された業者がパソコンの中身を点検していると、NM氏の会社名や名前が見つかったので、念のため連絡してきたのだという。

 盗難品であることを伝えて、私の代わりに、何とかNM氏のもとに取り戻せないかと相談したが、業者に迷惑がかかったり危険が及んだりするかもしれず、難しいだろうという。

 NM氏にまで迷惑をかけることは避けたく、仕方なく、業者にはハードディスク内の情報をすべて破棄するようにNM氏から依頼してもらい、パソコンを取り戻すことは断念したのであった。

 続く話題はプリンターである。プリンターが突然使えなくなった。機種はインクジェット型プリンターだが、最近文字が滲んで印刷されるようになっていた。セットアップ機能のひとつ、プリントヘッドのノズルチェックを行うと、6色ある色のうちで、黒だけが飛び飛びに印刷されている。そこで、ヘッドクリーニング操作を行うことで、この不具合は解消されることが判ったが、毎日のようにこの操作を行わないと、きちんと印刷ができないようになった。

 その後しばらく使っていると、この不具合は自然に解消して、ヘッドクリーニング操作をしなくても正しく印刷できるようになっていたのだが、4月からのショップ再開に向けて、多数の商品写真の印刷を行っていた所、突然警告音が鳴り、動作が止まってしまった。

 表示パネルには次のようなメッセージが出ていて、廃インク吸収パッドの吸収量が限界に達したので、メーカーの修理窓口に連絡して交換しなければならないという。


プリンターのエラー表示

 取扱説明書によると、このメッセージ表示については、「廃インク吸収パッドは、お客様による交換ができないため、〇〇の修理窓口に依頼してください。」と書かれている。

 通常、プリンターを使用していて、使えなくなるのはインク切れの時である。この場合はインク残量を示す表示があるので、予備のインクを用意しておくことで、突然の事態に対処できるが、今回は突然動かなくなり、何の操作も受け付けなくなってしまった。

 取扱説明書には、こうなる前に、「廃インク吸収パッドの吸収量が限界に近付いています。お早めに〇〇の修理窓口にご依頼ください。」との表示が出ると記されているが、私の場合この表示が出ることはなく、突然の交換指示であった。

 これまで何台ものプリンターを使ってきたが、この「廃インク吸収パッド」交換といった事態に至ることが無かったので、その機能をよく理解していなかった。取扱説明書の構造図にも当然記載がなく、どこに配置されていて、どのような構造の物かも全く分からない。

 そこで、ネットで検索をしてみると、たくさんの記事が見つかった。今回の私と同じような事態に遭遇した方々のものである。対処方法について示しているものも含まれている。

 その中の一つを参考に、プリンターの右前底面のビスを2個外すと、廃インク容器を取り外して、内部を点検することができた。次のようである。

プリンターから外した廃インク容器(サイズ:50mm x 105mm x 65mm)

 簡単な構造で、プラスチック容器の中に6枚のインク吸収パッドが装着されている。インクカートリッジ交換と同じ感覚で取り外すことができるので、別売の部品として購入できれば自分で交換できそうである。何故そうしないのだろうかといぶかしく思えるものであった。

 別のネット情報によれば、このパーツは、単に交換すればいいというものではなく、別途ソフトでリセットをかけなければ、プリンターは再起動しないという厄介なもののようである。

 こうなると、メーカー窓口に連絡をして、引き取り修理を依頼するしかないが、印刷作業をその間中断することがためらわれたことと、以前からショップの業務用として別機種の購入を検討していたこともあるので、現在のプリンターは少々時間をかけて修理することにして、新たに購入することを決断した。

 すぐに届けられたプリンタを開梱すると、本体の他に、セットアップ用のインクカートリッジと共にもう1個小箱が付属していた。その箱の1つの面には「メンテナンスボックス」と書かれていて、裏面には装着方法の絵も描かれている。


新規に購入したプリンターの付属品のメンテナンスボックス

 取扱説明書にも「消耗品の交換」として「メンテナンスボックスの交換」の項があり、次のように書かれていて、上記の小箱に描かれているのと同様の説明図が記されている。このメンテナンスボックスとは「廃インク容器」のことであった。

 「メンテナンスボックスは、クリーニング時や印刷中に排出される廃インクを溜める容器です。操作パネルの画面にメンテナンスボックスの空き容量不足のメッセージが表示されたときは、新しいメンテナンスボックスを用意してください。交換の案内が表示されるまで印刷できます。交換のメッセージが表示されたら新品と交換してください。」

 この機種では廃インク容器が一杯になった時、ユーザーが交換部品と交換して印刷を継続できるように配慮されていた。

 これが正しい姿であろう。メンテナンスボックスという不明瞭な表現を用いているところに、このメーカーの姿勢がにじみ出ているし、従来機種で同じことができなかった理由は何だろうかと考えてしまう。

 このプリンタのケースでも、別機種の購入という、強硬手段での解決ということになってしまった。

 さて、こうしてストレスの溜まる状況に見舞われている時に、更なる突然死症候群が出現した。

 新潟時代からお世話になってきた、地域ネットワークサービス会社から、次のようなサービスの終了連絡が赤色でメーラー画面に表示された。

メーラー画面に突然現れたシステム管理会社からのサービス終了の連絡

 このメールサービスはかれこれ20年ほど使い続けているもので、有料であるが、新潟を離れてからも、関係者にメールアドレス変更で迷惑をかけることを避けるために使い続けてきた。送受信したメールの総数は数万件になる。

 「サービス終了のお知らせ」内容は次のようである。

 「コミュニティーサイトとして、ご利用いただいておりましたXXXX(〇〇コミュニティエリアネットワーク)サービスにつきましては、2024年8月29日をもちましてサービス提供を終了させていただくこととなりました。
 長きに渡りご愛顧いただきまして誠にありがとうございました。
 詳細は こちら をご確認ください。」 

 このお知らせと共に次の文が添付されていた。

 「XXXXサービス終了のお知らせ
 日頃より XXXX サービスをご利用いただき誠にありがとうございます。 コミュニティーサイトとして、ご利用いただいておりました XXXX(〇〇コミュニティエ リアネットワーク)サービスにつきましては、2024年8月29日をもちましてサービス 提供を終了させていただくこととなりました。 システム自体の老朽化も進み、今後も安定的にサービスを提供することは困難との判断 に至りました。ご理解賜りますようお願い申し上げます。 これまで⾧きに渡りご愛顧いただきまして誠にありがとうございました。

 記 1.提供終了サービス: XXXX(〇〇コミュニティエリアネットワーク)サービス 
     2.サービス終了日:2024年8月29日(木) 
     3.データ退避について 回覧板等に添付されたファイルデータ、ファイル倉庫に格納された必
            要なデータはご 利用者様にて退避するなど対処をお願いいたします。 回覧板への書き込
            みコメント、添付データ等含め全てのデータについて個別のデータ 抽出等の対応はでき
     ません。予めご承知おきをお願いいたします。 
     4.お問合せ先 XXXX ご相談窓口 (XXX ネットヘルプデスク) 電話番号:XXX-XXX-XXXX」

 さて、どう対処したものか考えることになった。この件は突然の連絡ではあるが、完全終了までまだ数か月の時間的な猶予はある。その間に対処法を考えるなり、心構えをすることができる。

 こうしたサービス提供の終了の話は時々聞いていたことだが、やはり利用者としては受けるダメージは大きい。日頃から、こうした事態への心構えや、備えをしておくことが必要なのだろう。

 当ブログについても、同じことが言えるのだろうと思う。開始からすでに9年目、基本毎週1回の投稿だが、特別版もあるので、記事数も766件になっている。1回の平均文字数を5000字とすると、累計で400万字ほどを書き続けてきたことになる。

 このブログのサービス終了と、自分自身の寿命が尽きるのと、どちらが先なのだろうかなどと考えさせられてしまう。こうした点についても、そろそろ終活が必要なのだと思い知らされる出来事の数々であった。




 
 



 

 
 

 

 

 

 

 
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シルバーカトラリー

2024-03-22 00:00:00 | 日記
 日本人には"箸"という便利なものがあって、家庭での食事の際にはこれでほとんどの場合、用が足りてしまう。日常生活における食事では、カトラリーを使うのは、カレーライス、オムライスやチャーハンをたべるときのスプーンくらいだろうか。

 先日、テーブルウェア・フェスティバルを見に行ったので、その時のことは当ブログでも紹介したが、ここでの大賞・経済産業大臣賞をはじめとする受賞作品を改めて紹介すると、次のようであった。

テーブルウェア大賞、大賞・経済産業大臣賞受賞作品(2023.12.6 撮影)

テーブルウェア大賞、最優秀賞・東京都知事賞受賞作品(2023.12.6 撮影)


テーブルウェア大賞、優秀賞受賞作品(2023.12.6 撮影)

テーブルウェア大賞、佳作受賞作品(2023.12.6 撮影)

 これら受賞作品を見ても判るように、家庭での食事をテーマとしたテーブルセッティングで、金属カトラリーが使用されるケースは少なく、もっぱら箸がつかわれている。

 一方、結婚式などのフォーマルな場では、フランス料理などの洋食が提供されることが多く、こうした場では多種類の金属カトラリーがテーブルにセットされるので、何をどのように使うのか、戸惑うこともある。そうしたこともあってか、子供たちが高校を卒業するころに、テーブルマナーを学んだりするケースもあると聞いている。


フォーマルなディナーのテーブル・セッティングの例(米国カトラリー販売会社のサイトから引用)

 家庭でも、招待客を迎えての食事や、パーティーを開いたりする場合にはやはり金属カトラリーを用いることが多くなることから、金属カトラリー一式を揃えるケースも増えてきているようである。

 欧米では、結婚のお祝いにカトラリーセットを贈るといったことも行われているとされる。

 私のアンティーク・ガラスショップにも、少しだけ金属カトラリーを置いてきたが、その中でも純銀製のティースプーンを中心に、お買い求めいただくことが時々でていたので、この春のショップ再開に合わせて、純銀製(スターリングシルバー、SS)および銀メッキ製(シルバープレート、SP)カトラリーの品ぞろえを進めてきた。一部を紹介すると、次のようである。

柄部分にエングレーヴィングによる美しい装飾加工があるバークス社(アメリカ)製アンティーク・カトラリーセット(SS、1914年からのモデル、8人用のケース入りセットから)

日本人にも使いやすいサイズのジョージ・ジェンセン社(デンマーク)製カトラリー・セット(アカンサス、SS、布袋入りの6人用セットから)


日本でも人気のクリストフル社(フランス)製カトラリーセット(40ミクロンSP)

日本人にも適した組み合わせのストラチャン社(オーストラリア)製カトラリーセット(30ミクロンSP、ケース入り6人用セットから)


アンティーク・フィッシュカトラリーセット(メーカー・制作年代不詳SP、 12人用木箱入りセットから)

英国製アンティークのフィッシュナイフ・フォークサーバーセット(SP)

 日本での食事シーンを想定すると、ナイフ、フォークとスプーンが基本で、これにサラダ用フォーク、スープ用スプーンやケーキ/デザート用フォークとティー/コーヒースプーンがあれば先ずは十分かと思う。

 ちなみに、国内メーカーの製品サイトには、次のような12種類が紹介されている。


主なカトラリーの種類とサイズ(山崎金属工業のHPから引用)

 これに対して、欧米のカトラリー販売会社の解説などにはより多くの種類が紹介されている。次の例では19種類の、更に様々な用途の物が揃っている。サイズの明示はないが、長さは相対的な図となっているので推定できると思う。また、ここでは国内メーカーと呼称も一部異なっている。




米国のカトラリー販売会社のサイトに見られるカトラリーの種類と呼称

 このほか、カトラリーの本には、フォークとして、フィッシュフォーク、フルーツフォーク、デザートフォーク、ペストリーフォーク、ロブスターフォーク、スネイルフォーク、オイスターフォーク、シーフードフォーク、サーディーンフォーク、ブレッドフォークなどが、ナイフでは、フィッシュナイフ、フルーツナイフ、バターナイフ、チーズナイフ、サラダナイフ、ブレッドナイフなどが、そしてスプーンには、ソーススプーン、ブイヨンスプーン、シトラススプーン、フルーツスプーン、アイスクリームスプーン、キャビアスプーンなどの名前が見られ、実に様々なものが用意されていることがわかる。

 ハンドル部に金属以外の材質、象牙、骨、角、真珠母貝、木を用いたものも知られており、特に真珠母貝(マザーオブパール)を用いたものは美しく、純銀部との相性が良いと感じる。

 当ショップでは純銀製(92.5%のスターリングシルバーが主体)と純銀メッキ(洋白製をベースに銀メッキされたものが主体)を店頭で紹介しているが、その良さはやはり外観の白さである。銀はあらゆる金属の中で最も反射率が高く、可視光線を98%反射するので白く美しい。

 次の表は理科年表に示された金属の分光反射率で、人間の目が感じる明るさに近い波長0.55ミクロンで比較して、銀が最も高く97.9%、次いでアルミニウムが91.6%、金が81.7% である。

 日常使いのカトラリーの大半はステンレス製であると思うが、反射率は60%前後とされているので、その差は大きい。
 

金属の分光反射率(理科年表から引用)

 この銀製品も、空気中の硫黄と反応して黒っぽく変化するという欠点がある。特に当地は、浅間山からの噴気の影響で、空気中の硫黄成分が多いために変化のスピードが速いように思える。

 だだ、この表面の黒ずみも、専用のペーストを布に付けて拭き取ったり、銀磨き用液体に数秒浸漬することで簡単に落とすことができるので、それほど気にはならない。人によっては、この作業がいい気分転換になるという人もいる。 

 外観だけを見ると、純銀(SS)と銀メッキ(SP)の差はないが、耐久性についてはこの作業のことを考えると注意を要する。

 銀の表面に自然に形成されるこの硫黄との反応層の厚みについての詳しいデータは手元にないが、十数原子層から厚くても数十原子層だと推定されるので、仮に10nm程度の厚さになると色変化して、気になり始めるとすれば、以下のような計算で、銀メッキ層の耐久性が推定できる。

着色層の厚さ:10nm(= 0.01ミクロン)
月に1回クリーニング
    1年間に減る銀メッキ層の厚さ:0.01x12=0.12 ミクロン
  10年間に減る銀メッキ層の厚さ:1.2ミクロン
100年間に減る銀メッキ層の厚さ:12ミクロン
 
 国内で洋白銀と呼ばれている製品は洋白(銅、亜鉛、ニッケルの白色合金)をベースにして、その表面に銀メッキを施したものであり、メッキ層の厚さはメーカや商品により異なるが、おおむね、2ミクロンから4ミクロン程度とされる。

 一方、欧米の製品ではメッキ層の厚さは、その品質基準が定められていて、33ミクロン以上あるのものをA1クラスと呼んでいる。

 英国のMappin & Webb 社ではこれをマッピンプレートと称して、そのメッキ層の厚さを保証しているし、フランスのChristofle France 社やErcuis 社ではそれぞれ、40ミクロンおよび33ミクロン以上と公表している。

 このように国内製品とヨーロッパ製品とでは、銀メッキの厚さに大きな差のあることが判るが、これはおそらくは日常的な使用頻度から来る耐久性への要求レベルが異なるためと思われる。

 激しくこすれ合うような、お玉のような使い方をすると別だし、研磨剤入りのペーストで磨いたり、深い傷をつけたりするともちろん事情は異なるが、通常の家庭での使用の場合には、国内製品でも十年から数十年の使用に耐えるものと思えるし、ヨーロッパ製品では親から子供、さらに孫の代にまで引き継いでいっても、メッキがはげ落ちるという心配はないと言える厚さであることが理解される。

 実際、製品の基本的な品質も加味してのことであるが、純銀製のカトラリーと、高級な銀メッキ製品のカトラリーの市場価格には、使用されている銀の量ほどの差がついていないのが実態である。

 日本のカトラリー市場規模は欧米に比べると、とても小さいと推定できるが、製造技術では決してひけを取らず、むしろ凌駕していると言える事実があるので、紹介しておきたい。

 それは、ノーベル賞の晩さん会で使用されているカトラリーである。1991年に、ノーベル賞創設90周年記念として採用されたカトラリーセットは日本製である。

 次の写真は、その製造メーカーである山崎金属工業のHPから引用したものであるが、当ショップも、当面非売品扱いとしていくが、同製品を保有している。

ノーベル賞晩さん会で使用されている山崎金属工業製のカトラリー(GP, SP 同社HPより)

 これまで紹介してきた銀製品や銀メッキ製品を実際に手に取って見ていただき、その良さを実感して、使っていただければと思っている。 


 

 




  

 
 


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

軽井沢出身外交官が語る中東情勢

2024-03-15 00:00:00 | 軽井沢
 元レバノン特命全権大使の山口又宏氏による特別講演会が、3月10日(日)に行われることを区回覧で知り、聞きに出かけてきた。このチラシには、軽井沢出身外交官とあり、「東部小学校、軽井沢中学校出身」と記されているのでとても身近に感じられる。

山口又宏氏の特別講演開催を伝えるチラシ

 前回の浅田次郎氏の講演会の時もそうであったが、申込不要とある。少し早めに中央公民館に着いたが、駐車場にはまだ十分余裕があり、会場の大講堂に入ってみると、こちらも来場者はまばらで、前方4列目ほどに席をとることができた。

 しばらく経って司会者が挨拶を始める頃には会場も7割程度が埋まり、多くは私同様白髪交じりの人たちの姿と見受けた。

 先のチラシには「・・・今般の中東情勢を目の当たりにして、平和の意味を考え、国際親善文化観光都市軽井沢から平和を訴える。」とあり、もちろん今一番の中東問題であるイスラエルによるガザ地区への侵攻について、元大使のお話が聞けるであろうと考えて出かけたのであった。

 ロシアによるウクライナ侵略の先が未だ見えない中、引き続いて起きたハマスによるイスラエル攻撃と、それに続くイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃であるが、ここで起きている惨状に、多くの人が心を傷めている。

 今回の、ことの発端は2023年10月7日のハマスによるイスラエル奇襲であったが、もちろんその背景には長い長い歴史がある。

 イスラエルは直ちに反撃し、ハマスが潜伏しているガザ地区北部への空爆を開始したが、このことに関して、2人の発言を振り返っておきたい。

 1人はグテーレス国連事務総長の10月24日の安保理会合での声明である。

 CNNが伝えるところでは、次のようである。

 「国連のグテーレス事務総長は24日、中東に関する安保理の会合で、イスラム組織ハマスが今月7日にイスラエルに対して実施した攻撃について、『他と無関係で起こったのではない』と述べた。
 グテーレス氏は『ハマスによる攻撃は他と無関係で起こったのではないことを認識することも重要だ。パレスチナの人々は56年にわたり、息の詰まるような占領を受けてきた』と指摘。グテーレス氏は、パレスチナの人々は『自分たちの土地が入植によって着実に侵食され、暴力に苦しめられるのを見てきた』と言い添えた。
 グテーレス氏は同時に『パレスチナの人々の不満はハマスによる恐ろしい攻撃を正当化することはできない』と述べた。グテーレス氏は、パレスチナの人々がハマスの攻撃のために、集団的に罰せられるべきでもないと指摘した。
 このため、全ての紛争の当事者は軍事作戦の実行において、民間人に危害を加えないよう常に注意を払うだけでなく、病院を尊重し、保護し、そして、現在60万人以上のパレスチナ人が避難している国連施設に対する不可侵性を尊重すべきだとグテーレス氏は述べた。
 グテーレス氏は、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への激しい攻撃について、深く憂慮しているとし、民間人の死傷者の水準や、近隣地域の大規模な破壊の継続を挙げた。
 グテーレス氏によれば、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)で働く職員のうち、少なくとも35人が過去2週間のガザに対する攻撃で死亡した。
 グテーレス氏は、『国際人道法の明白な違反』がガザで目撃されているとし、例として、イスラエルが今月に入り100万人以上の人々に対して退避を指示したことを挙げた。
 グテーレス氏は、ガザに届けられた支援について、数日で枯渇しかけている燃料供給を含めて、同地の膨大な需要に対応していないと強調した。
 グテーレス氏は、即時の人道的停戦とパレスチナ・イスラエル紛争の2国家解決、無条件での人質全員の即時解放を改めて訴えた。」

 この発言に対し、イスラエル側は強く反発し、グテーレス氏の辞任を要求したが、グテーレス国連事務総長は25日、次のように弁明したとCNNは再び報じている。
 
 「国連のグテーレス事務総長は25日、前日の安全保障理事会での自身の声明にイスラエルが反発したことについて、『誤った解釈』に『ショックを受けている』と述べた。
 グテーレス氏は25日、国連本部にいる記者団の前に予告なく現れ、前日の声明を再度読み、『誤解解き』を図った。
 グテーレス氏は24日の声明で『ハマスによる攻撃は他と無関係で起こったのではないことを認識することも重要だ』と指摘。『パレスチナの人々は56年間、息の詰まるような占領下に置かれてきた。入植によって土地がどんどん奪われ、暴力に悩まされ、経済は抑圧され、人々は家を追われ、そして家屋は取り壊されてきた』とこれまでの経緯に言及した。
 『だがパレスチナの人々が恨みを抱えているからといって、ハマスによる恐ろしい攻撃を正当化することはできない。また、そのような恐ろしい攻撃によって、パレスチナ人に対する集団的懲罰を正当化することはできない。戦争にもルールがある』とも述べた。
 グテーレス氏は25日、『7日にイスラエルで起きたハマスによる恐るべき前代未聞のテロ行為』を明確に非難したと繰り返した。
 同氏は『パレスチナの人々の恨みについて語った』ことを認めた一方で、『ハマスによる恐ろしい攻撃を正当化することはできない』と述べたことを強調した。
 グテーレス氏の声明に対してはイスラエルが強く反発し、同国の政府関係者はグテーレス氏の辞任を要求したほか、国連職員への査証(ビザ)発行を停止している。」

 2番目に思い出しておきたいのは、イスラエル人で、世界的に著名な歴史学者であるユヴァル・ノア・ハラリ教授が2023年10月20日に、日本のTV報道番組のインタビューに答えて語った以下の内容である。

 「Q:今回のハマスによるテロ攻撃は、ホロコースト以来の大虐殺ともいわれています。ハラリさんはイスラエル人当事者として、そして歴史学者として、それぞれの立場から今回のことをどのように受け止めていらっしゃいますか。

 A:イスラエルは今ここ何年かで最大の危機にあります。そして実際、地域全体がここ何年かで最大の危機にあります。核戦争まであと24時間といってもいいです。ヒズボラなどのイランの同盟組織が数万のミサイルでイスラエルを攻撃する可能性があるからです。それでもイスラエルは核を含む全戦力で自衛できます。今、非常に危険な時です。さらにイスラエル国民にとって非常に難しい悲劇的な時でもあります。民間人の虐殺は本当にひどいものでした。叔父と叔母はテロリストに襲撃され壊滅した集落の1つに住んでいました。2人が身を隠す中テロリストは1軒ずつ住宅を調べ、2人はかろうじて難を逃れました。
 テロリストは意図的に民間人を襲っただけでなく、考えうる最も残虐な方法で拷問し殺害しそれを公開しました。
 その目的はイスラエルと地域全体の心に憎しみの種を植え付けて、和平のチャンスをすべて潰すために。もう1つだけ言っておきたいのですが、この襲撃の裏ではイスラエルとサウジアラビアが平和条約を締結する寸前でした。この条約がイスラエルとアラブ世界との関係を正常化し、イスラエルとパレスチナの和平プロセスを再開するはずでした。
 ハマスとイランが和平成立を恐れたから今回の凶悪な襲撃を仕掛けたのです。だからこそ彼らはこの悪質な襲撃を開始したのです。この攻撃で多くのイスラエル人が犠牲になっただけでなく、数百万のパレスチナの民間人が難民として他国に移るかもしれません。

 Q:ハラリさんは以前、人類は進化し戦争はなくなると本に書いています。歴史的にイスラエルは多くの苦悩と苦しみを経験してきました。(今を切り取れば)ガザの人々に対する報復を通して彼らが苦難することになります。あなたはこの現実をどのように受け止めていますか?。

 A:我々は暴力の悪循環の中にいます。それはもう何十年も続いていて今エスカレートしています。一番の問題は人々が過去の傷を癒すことなく、相手を傷つけるための大義名分に利用していることにあります。さらなる傷を与えることを正当化していることです。
 歴史家としてこれは“歴史の呪い”です。みんな未来ではなく過去を救おうとしているのです。
 過去に戻って何年も何十年も前の過ちをただすことはできません。必要なのは未来に目を向け平和のための道を探すこと、現時点ではほぼ不可能に見えますが、長い目で見れば不可能ではないと思います。というのも80年前、ユダヤ人はドイツのナチスに虐殺されましたが、いまやドイツ人とユダヤ人は友好的です。これが可能ならば、過去のあらゆる傷も癒えるはずです。ただそれは人々が傷を癒すことに関心を持って、戦争や暴力の言い訳として利用しないことが条件です。

 Q:今、イスラエルは報復のために地上侵攻を準備しています。今このタイミングで、ハラリさんにインタビューできることが重要なことだと思っていますが、では、地上侵攻これ以上の報復を止めることはできないのでしょうか?。イスラエルの人たちはそれをどう思っているのでしょうか?。

 A:ハマスとガザのパレスチナ民間人を分けて考える必要があります。イスラエルにはハマスから国民と領土を守る権利があります。ハマスはテロ組織で、その狙いは和平のチャンスを潰すことです。だから和平を求める人は誰でもハマスの武装解除を求めているでしょう。これが戦争の目的です。イスラエルは民間人を殺そうとしているのではありません。民間人にも被害は出ていますが、目的はテロリストを攻撃することなのです。残念ながらハマスは民間人を人間の盾に、民間人居住区内に基地と武器を持っています。
 イスラエルは民間人の命と人権を守る義務があります。民間人が戦闘地域から退避できる方法が見つかることを願います。
 例えばエジプトはガザ地区と隣接しているので、戦争の間だけでもガザの民間人を受け入れられたはずです。イスラエルがハマスを武装解除させながら、私たちは他国とあらゆる選択肢を考えるべきでしょう。民間人の命と人権を守るにはどうすればいいのかを他の国々やイスラエルとともにあらゆる選択肢を模索する必要があります。

 Q:番組ではイスラエルの上級顧問であるマーク・レイブ氏に尋ねたところ、彼は「停戦はない」と言いました。そして戦争に犠牲はつきものだと話していました。もちろんハマスのやったことは卑劣極まりない残虐行為・テロ行為ですが、ガザ地区にはハマスだけではなく罪のない人々がいます。民間人の犠牲を避けることはとても難しいでしょうが、それについてはどう思いますか。

 A:イスラエルには民主主義国家として国際法を遵守し、民間人への危害を可能な限り制限する努力義務があります。私もガザ地区の惨状に心を痛めています。しかし、イスラエルが意図的に民間人を殺そうとしているわけではないことは誰の目にも明らかでしょう。
 イスラエルは巨大な軍事力を持っており、それを慎重に使おうとしています。シリアの内戦と比べてみてください。アサド政権はホムスやアレッポで意図的に民間人を殺害しました。
 意図的にできるだけ多くの市民を殺そうとしたことと比較してみてください。シリア軍は大量の大砲で街全体を容赦なく無差別に爆撃しました。民間人を殺すために。これはイスラエルがガザでやっていることではありません。イスラエルは民間人の犠牲を最小限に抑えるためにすべての作戦を制限する必要があります。理想としてエジプトなどが民間人の退避に同意してくれれば、イスラエルは戦いに集中することができるのです。

 Q:世界に目を向けたいと思います。イスラエル、ユダヤ人には支持する国々、アメリカなどがあります。そして、アラブ人、パレスチナの後ろには支持する周辺国がある。大きな対立になりそうな、この現状をどうみますか。

 A:確かにこれは危険性を伴います。高い確率ではありませんが、核戦争に近づいているとも考えられます。この問題は全世界の国々が注目すべき事情です。みなさんイスラエルとガザ地区のむごい映像を見ていると思います。この「苦しみの海」にのまれている人の心は、痛みで満ちているため他人の苦しみを感じとれず、共感できない。イスラエル人とパレスチナ人両方に言えることです。これは人間の心情にすぎません。ただ国外で暮らしたり中東に親族・友人もいない英国やブラジルや日本の人たちは記事やテレビでしか現状を知らないでしょう。
 イスラエルとパレスチナ双方の視点から物事を見るようにすべきです。「知的・感情的な怠惰」に陥らないようにすべきです。どちらかが「絶対的な正義」で、もう一方が「絶対悪」だと思い込まないようにすべきです。「知的な怠惰」は避けなければなりません。現実というものの複雑性を把握するよう試みることが必要です。そして状況の“緩和”に協力して、戦争が他の地域へ広がることを阻止するべきです。これこそが外部の人の義務です。

 Q:今まではハラリさんは歴史学者として「アウトサイダー」でもあったと思いますが、今回はまさに「当事者」になっていると思います。歴史学者として、当事者として苦しいところだと思います。被害を目の当たりにして苦しみで頭の中がいっぱいかもしれませんが、歴史学者として極めて冷静な目で今を判断するとしたらどう言い表しますか。

 A:これは私自身の家族や友人に深く影響を及ぼし、これは私自身のひどい苦しみを与え続けている問題であるため、現時点では私は客観的になることができないと思います。もちろんこのインタビューを見ている人にも、パレスチナ人などの異なる視点の人々とのインタビューも見てほしいです。
 信用する情報には慎重になって結論を急がないようにすべきです。ガザの病院で起きた無残な爆発が一例に挙げられます。当初はイスラエルのせいだと考える人が多くでしたが、事実確認がなされた結果、主要の専門家やメディアはイスラエル側のせいではなく、“イスラエルへ発射しようとしたところ誤射で病院に当ててしまった”テロ組織のせいだと判断しました。これは単なる一例にすぎません。双方の話を聞いて慎重に判断しなければなりません。そして外部の人にはどこかで見てきた動画などではなく、しっかりした根拠に基づいて判断をすることが求められます。

 Q:長い歴史の中で考えると、イスラエルの人々もパレスチナの人々も、どちらも被害者であると思います。そこには憎しみ・悲しみの連鎖があり、今も争いがある。その憎しみの連鎖をほどくヒントはどこにあるのでしょうか。

 A:第一に歴史上で人々は被害者であると同時に加害者であることがほとんどのケースであるという事実を受け入れなければなりません。多くの人がこれを理解しません。被害者か加害者でしかないと思い込んでしまう人がほとんどです。歴史においてこのようなことはほぼありえません。少なくとも複雑な問題や長年続く争いごとについては、同じ人々が被害者と加害者両方であることがほとんどです。歴史の事実は複雑であると考えるのは平和への重要なステップです。人の中には「絶対的な正義」を求めてしまう者もいます。地球上に「絶対的な正義」など存在しません。「絶対的な正義」を探し求める人は、必然的に避けられない争いに引かれてしまいます。どんなことであっても譲歩が全くできなくなってしまうからです。人類史上において平和条約というものは必ず譲歩に基づいたものであり、「絶対的な正義」を求めたものは一つもありません。つまり我々は選ばなければなりません。絶対的正義という妄想を追い続けるのか、それとも平和のために譲歩しあう意思があるのか。歴史学者として答えは明白です。譲歩しなければなりません。人類は死後の世界での運命や絶対的な正義といった妄想ではなく、今ここにある地球で生きなければならないからです。このような状況で打開策に至るのは極めて難しいでしょう。
 イスラエルはサウジアラビアを介して和平合意という打開策の一歩手前でした。これがハマスの攻撃を招いたのです。なのでハマスを壊滅させることだけでは不十分なのです。戦争の目標は平和を築くことが可能になる段階へ導くことであるべきです。これを達成するためにはハマスを倒すだけではなく、パレスチナの人々がまっとうな生活をできるようにすることが必須です。

 Q:今のイスラエル政府の報復の姿勢を見ていると、そこに複雑さ、歴史を顧みての迷いは感じられますか。

 A:アメリカ政府とイスラエル政府という2つの勢力を考慮しなければなりません。イスラエル政府について私は代表することはできませんし、ネタニヤフ首相と閣僚が何を考えているかわかりませんが、彼らの行動を観察すると報復を行おうとしているだけではないと読みとれます。より多くのパレスチナ人を殺害しようとしているわけではありません。彼らの目標はテロ組織「ハマス」の武装解除です。平和を求める人であればこの目標に賛同するべきです。なぜならハマスは創立当初からイスラエルの存在する権利を否定し、平和に向けたいかなる試みも意図的に妨害しようとしてきたからです。オスロ合意も頓挫してしまいましたし、イスラエル=サウジアラビア間の平和条約についてもしかりです。イスラエルの目標は単純な報復ではありません。ハマスがガザ地区を支配する限り、10月7日に誘拐された人質だけではなく、イスラエルとパレスチナ双方の人々をその宗教的な妄想のために人質にしているのです。
 もう一つの勢力はアメリカです。アメリカは膨大な軍事力を地域へ派遣することによって極めて強硬的に介入しました。これは良いことだと思います。イスラエルに支援の態勢を示し、敵勢力からの攻撃の心配を軽減させるうえ、アメリカ側にイスラエルを制御する正当性と信頼性を与えるからです。
 私はどちらの政府の代表者でもありませんが、イスラエル・アメリカ両方の政府が、軍事的にハマスに勝利するだけでなく、将来的に平和の種をまくことを目的にしていると望んでいます。同時にイスラエルの人々だけでなくパレスチナの民間人も守うえで、彼らに尊厳ある存在を将来約束する義務を忘れないことが必要です。

 Q:ハラリさんはほかのインタビューで、今回のことはイスラエル政府の思いあがりの代償でもあると言っていましたが、そのことを教えてください。

 A:これはハマス攻撃の言い訳にはなりませんが、長年のネタニヤフとその政権については批判できることが多くあります。私自身も長い間ネタニヤフ政権を批判してきました。
 残念ながら10年以上にわたり、ネタニヤフ政権はパレスチナと真の平和を築く努力を怠ってきました。ネタニヤフ政権はイスラエルの占領に関して、ますます過激な立ち位置を摂るようになり、時にはパレスチナに対して人種差別的な世界観を選び、それは大きな間違いでした。さらにイスラエル国内において、ネタニヤフ政権はイスラエルを二分化し、ポピュリズムを選択、自ら権限を欲する国家機関を非難し、軍隊など自分に反対し、自分の権限を制する機関を批判しました。
 またネタニヤフ陣営は国家に仕えるエリートを非難しました。最前線で国に仕えていた人を国家の裏切り者だと攻撃し、それにより国家とその機関が弱体化し、今イスラエルはその長年の間違った政策のつけを払っています。
 対パレスチナ政策だけではなく、自国に対する政策も含みます。もっと広く世界をみると、イスラエルとパレスチナはここ10年の間違った政策のおかげで、世界中で代償を払っています。それは開かれた世界秩序を批判し、破壊したことです。ロシアや北朝鮮だけでなく、トランプ前米大統領でさえも、自由主義・国際秩序を非難し秩序を破壊すると残るのは、アナーキー(無政府主義)とカオス(混沌)です。
 ウクライナ侵攻や現在のハマスのイスラエルへの攻撃を見ると如実です。国際協力と国際法に基づいて機能する国際秩序を作り直さない限り、残念ながらこういった暴力行為は世界中にもっと普及していくでしょう。

 Q:今回の発信メッセージによって、イスラエル国民にも警鐘を鳴らしているのでしょうか?

 A:はい、これは非常に危険な時です。イスラエルやパレスチナにも、近隣諸国や世界にとっても、自由で開かれた国際秩序の破綻は、そもそも何を基にしたものだったかを理解する必要があります。リベラルな理想とは全人類が基本的には同じだということ、同じ動物であり、同じ生物学的な体験を共有し、痛みを感じ、子供を愛し、親を愛すること。
 我々にはこういった共有体験に基づいた、共通した守るべき利益・価値観があります。これが自由で開かれた国際秩序の基本的な考え方です。それが世界中の人たちさらにはネタニヤフ本人からも非難されたのです。
 オルバン首相・トランプ前大統領・ボルソナロ前大統領と結託し、自由で開かれた国際秩序を非難しました。しかも代案を示さなかった。リベラルな価値観が嫌いだとしよう、それは良いが、じゃあ代替案は何か。国家同士がリベラルな価値観で協力できないなら、どのような代替的な普遍的価値観なら協力できるのか。彼らは代替案を一切示しませんでした。そのため今秩序が破綻しており、あるのは無秩序です。
 私のメッセージはイスラエルだけではなく、世界の人へも向けています。秩序を再建しなければ今イスラエルを破壊している暴力行為が世界に広まり、とても緊迫した東アジアや世界の他の地域に広がります。
 何らかの機能する国際秩序にもどらない限り、世界は悲惨なアナーキーと戦争の事態に陥るでしょう。

 Q:今のお話を聞くと、政治家に頼るだけではなく、私たち一人一人がきちんと考えて物事を冷静に見るようにし、複雑なんだということを理解しながら考えていかなきゃいけないということでもありますか。

 A:はい、どんな人もこの世界でなんらかの力を持っています。誰でも何らかの責任を持っています。SNSを見て何か書き込むだけでも世界に影響を与えます。大きくはないかもしれませんが影響はあります。常に自問すべきは「自分は世界にどんな“種”をまいているのか?」です。「自分は世界にどんな種を植え付けているのか?」です。
 憎悪や暴力の種をまいているか、それとも慈悲と和解の種か、政治家には大きな責任があります。責任のある政治家が必要です。政治家の代わりになるものはありません。政治家はそれ自体が職業です。私には資格もないしできません。特定の資格であり自分の行動に責任を取れる良い政治家が必要なのです。
 しかし、誰でもこの世において一定の行動力を持っており、それに対する責任もあります。今、世界では多くの人が壁や境界線を作る必要性を語っています。思考と口の間にも壁を作らなければなりません。我々は頭に思い浮かぶ考えや感情はコントロールできません。しかし口から何を発するかはコントロールできる。
 SNSで何を書くかもコントロールできる。それが私たちの責任であるべきだ。政治家は特にそうだ。例えばトランプのように「本物」の政治家なのに、頭に浮かんだことをすぐに口に出す政治家もいる。
 「いいねと思ったことを正直に言う政治家だ」と感心する人もいるが、これはとても良くないことだ。政治家は頭に浮かんだことをすぐに口に出していけない、責任感が必要だ。
 私の思考もゴミだらけです。時には憎悪や怒りもあります。このようにテレビで何百万人も見ている時は、発言に注意しなければなりません。私の言葉が数多くの人の思考に「憎悪の種」を植える可能性もある。政治家だったら、責任はもっと大きい。数百万の人の思考に「種」を植えることができるから。
 たとえ一個人で、テレビで話をするわけでもなく、大統領でもなくても責任を持つ必要があります。思考の内容にではない、思考はコントロールが非常に難しい。しかし、何かを言うか書くかするかに関しては責任を持つべきだ。

 Q:ハラリさんは著書で「人類は進化する」「戦争はもう起こらないんじゃないか」とおっしゃってましたが、本当に人類は難しく、複雑で、愚かで、でも優しくて未来があるんですけど・・難しいですね。

 A:はい、私はそう言った言葉をまったく違う時代に書きました。10年ほど前の、平和を満喫していた時代のことです。それ以来、状況は本当に悪化しました。先ほど言ったように、世界秩序に対する攻撃がありました。北朝鮮のような外の国々からだけではなく、世界秩序を築いたアメリカやイギリスからもです。
 我々は今、歴史の中で異なる時代にいます。コロナ禍では共通の敵であるウィルスに対して団結する代わりに、十分な国際協力が行われませんでした。そして、コロナ禍の後にも結論が出されなかったことに、私は本当に驚いたというか、落胆しました。私や多くの人々がこの恐ろしいコロナ禍の後、パンデミックが人類全体にとっても危険であることに気づき、我々がパンデミックに対する警告と、封じ込めの世界的なシステムを構築することを期待していましたが、パンデミック、ウクライナ侵攻、そしてハマスの攻撃です。状況はますます悪化しています。しかし、我々にはまだそれを止める力があります。
 人間の愚かさを決して過小評価すべきではありません。それは歴史上最も強力な力の一つであり、歴史上最大の大惨事となることもしばしばあります。大惨事が起こるのは外部の力のせいではなく、人間の愚かさのためなのです。しかし、同時に人間の知恵を決して過小評価してはなりません。私たちは正しいことをすることができます。そして繰り返しますが、これはまず政治家の責任であり、最終的には私たち一人ひとりの責任なのです。

 Q:今、ハラリさんがイスラエルからロンドンに移ってこられ、世界のたくさんのメディアのインタビューに答えています。どんな目的で、何を訴えたくて、こうしたインタビューに答えくださっているのですか。

 A:最も重要なメッセ-ジは、エスカレートさせないことです。この戦争を広げさせないことです。今のままでも十分悪いことです。しかし、このインタビューの冒頭で申し上げたように、西岸やレバノンだけでなく、核戦争に広がる可能性があります。広島と長崎以来、初めて核兵器が戦闘に使用されるかもしれないのです。なぜならこの地域には核戦力を持つ国がいくつかあるからです。そして、もしこういった国々が存亡の危機に瀕していると感じれば、壊滅的な結果を招きかねません。つまり最も重要なことはこの状況に対して、何らかの影響力を持つすべての国が、繰り返しますがある種の“絶対的正義”を求めてはいけません、それは今すぐには実現しません、先ず第一に戦火が広がるのを防ぐことです。ハマスは襲撃に「トゥファン」というコードネームをつけました。アラビア語で洪水を意味します。これは聖書の洪水のことで、人類はほぼ全滅します。だから、我々はこの洪水がより多くの地域に広がり、より多くの人々を破滅の危機にさらすことを防ぐ必要があります。

 Q:最後に、いま日本は遠く離れてはいますが、連日イスラエルとパレスチナのことが報道されています。ハラリさんから見て日本にいる者ができることにはどんなことがありますか。

 A:日本ができるのは政治・経済・文化の力を利用して戦火のエスカレートを防ぐことでしょう。あとは苦しむ人たちに人道支援物資を送ることです。避難民の数はイスラエル国内で数万、ガザ地区では数十万人で、命の危険にさらされ恐怖や苦痛とくらすひとは数百万人です。恐怖と苦しみの中で暮らしています。だから本当に重要なのは平和のための“スペース”をとっておくこと、平和のための余地を守るために最も重要なことかもしれません。なぜなら申し上げたようにイスラエル人の心もパレスチナ人の心も今や完全に苦痛のみになっているからです。痛みについて語るにしても、イスラエルのことでなければ頭にくるんです。「私たちが感じている激しい痛みを知らずに、なぜパレスチナなのか」こういった状況では平和のための“スペース”は生まれません。苦痛の海に浸りきりの私たちでは、心に平和のための“余地”(スペース)がありません。だから皆さんで大切にしてください。いつか私たちが平和の“スペース”に暮らすことになりますから。

 Q:今日は、本当に大変な中、長い時間お答えくださって、有難うございました。母国もそして周辺の国の人々も無事を祈ります。有難うございました。

 A:私もそう願っています。有難うございました。」
 
 長い引用になったが、ここで本題に戻り、上記二人の話では触れられていない、山口氏の講演内容に戻る。

 山口氏は苦学の末、外交官試験に合格するが、専攻の語学を登録する際に、英語、フランス語、スペイン語、ロシア語そしてアラビア語を挙げた。アラビア語を選択する人は少なく、書けば即決定される状況であり、中東担当が決まったという。

 中東諸国では、エジプト、スーダンなど7か国に勤務したが、1993年から97年までイスラエルに勤務している。1993年と言えばオスロ合意が9月に米国ホワイトハウスで調印された年であるが、山口氏は初代のパレスチナ担当者であった。

 山口氏が講演で紹介した「事態の真相」とする内容で印象に残っている話題が2つある。一つは、ガザ地区の置かれた状況である。天井のない監獄という表現はしばしば耳にするところであるが、ガザ地区の生活インフラ、すなわち電気、ガス、水道などはすべてイスラエルが管理しており、パレスチナの人たちはこれらをイスラエルから購入し、その使用料金を支払っていた。消費税まで払っているとの説明であった。今回の侵攻に際して、このすべての供給が停止された。また、食料も同様であり、ガザ地区に住む人たちはイスラエル経由で購入する以外に道はなかったのだという。これらすべてが今回停止された。

 このあたりの状況について、駐日パレスチナ常駐総代表部のワリード・シアム氏がインタビューで語っているので、引用する(2023年11月5日、堀潤氏のインタビューからの引用)

 「・・・私たちは30年前にイスラエルと和平協定、オスロ合意に調印しました。オスロ合意では、2国家による解決が明記されていました。アメリカはそれを支持しました。
 しかしその後、イスラエルは一部の国際社会の国々に守られているため、イスラエルがヨルダン川西岸に違法入植地を拡大することを支持してきたのです。イスラエルはガザを占領していないと言いますが、実質的にガザを占領しています。
 海を支配し、国境を支配し、水を支配しています。電気も支配しています。ガザの周囲には65キロの鉄壁があります。自由に出入りができず、食糧の搬入も限られています。
 つまり、ガザに住むすべてのパレスチナ人のライフラインを支配しているのです。そして、彼らは大胆にも『我々はガザを去った。2005年にガザを去った。だからガザは占領下にはない』と言い出しました。

 これを何と呼ぶのでしょうか?占領下でないというなら、その称号はひとつしかありません。パレスチナ人に対する集団的懲罰です。占領よりもひどい。国際法に反しています。人道にも反しているのです。
 だから、ガザを占領していないと言うのは大嘘です。
 彼らは電気を止め、水を止め、医療を止め、何もかもを止めました。いいですか?どうしてガザの人たちは占領されていないと言えるんですか?彼らが通信手段を支配すれば、すべてを支配できてしまうのですよ。
 それなのに、どうして彼らは、我々はガザを占領していないと言えるのでしょうか?」

 2024年3月現在、アメリカによる食料の空中投下が始まり、さらに、より多くの物資を運搬するために船による輸送が検討されているが、港湾施設の整備には2か月を要する状況であり、現在の緊急事態にはとても間に合わない。この点は山口氏も強調していたことである。

 もう一つ、山口氏は日本からパレスチナへの経済支援を担当し、今日までにおよそ3000億円の援助がなされたが、今回の侵攻でそのほとんどが破壊されているという。

 山口氏は、冒頭紹介したグテーレス国連事務総長の声明を支持していた。人々が貧しく苦しい中で、営々として築き上げてきたものが、いとも簡単に破壊し尽くされていく様子を見ることは、何とも空しい。最終的には2国家共存しか解決策はないとされながらも、イスラエルにもパレスチナ側にも、近い将来共存の道を歩む姿が想像できないと米国の政治学者ジョン・ミアシャイマー氏は語っている。

 

 










コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雲場池の水鳥(28)トモエガモ

2024-03-08 00:00:00 | 野鳥
 今回はトモエガモ。この種も雲場池では珍しい部類に入り、今季初めて、それもほんの一瞬だけ姿を見たという状況である。

 それでも、なぜ取り上げるかというと、このところ国内数か所で異常な大集団が目撃され話題になっているからである。
 
 まず、いつもの「原色日本鳥類図鑑」(小林桂助著 1973年保育者発行)の記述を見ると、次のようである。

 「形態 ♂は頭上、喉は黒。顔は黒、淡黄かっ色、金緑色で美しい模様をなす。嘴峰35~39mm、翼長190~220mm、尾長76~98mm、跗蹠32~38mm。背は灰青色で下方は黒かっ色。肩羽長く延び白、黒、黄かっ色の縦しまとなる。胸は淡かっ色にて黒色丸形はん散在。胸側には顕著な白色の一横はんがある。♀はコガモの♀に似ているがやや大型で嘴の基部に円形の白色はんがあるので容易に識別できる。

生態 シベリア東部で繁殖し、冬季は中国南部にまで渡る。我国には秋期多数渡来し、本州中部以西に多い。近畿地方では厳冬には一時数を減じ春季再び数を増す。淡水に生息し昼間でも海洋上にはあまり出ない。

分布 北海道・本州・八丈島・四国・九州・対馬などに渡来する。」

 ここには、大集団に関する記述はないが、「野鳥観察図鑑」(2005年 成美堂出版発行)には次のような記述がある。

 「・・・一般に数は少ないが、北陸地方には比較的多く、石川県の片野鴨池では年によって大群が見られることもある。・・・」

 雲場池でこのトモエガモを見かけたのは、今年1月20日のことで、数羽のカモが頭上を旋回して飛んでいるのを目で追っていたら、数十メートル先の雲場池の下流域近くに着水した。大きさや形態が見慣れない様子であったので、超望遠レンズ越しにみると顔の模様からトモエガモとすぐに判った。

 観察・撮影できたのはほんの一瞬で、すぐに飛び立ち、ややしばらく上空を旋回して、再び雲場池の、今度は奥の方に着水したので近寄ろうとしたところ、飛び立って行き、もう戻ることはなかった。

 他の水鳥に比べ、とても警戒心が強いようであったが、撮影できた姿は次のようである。

トモエガモのペア 1/2(2024.1.20 撮影)

トモエガモのペア 2/2(2024.1.20 撮影)

 初めて見る種であるが、時々出かけている安曇野の、御宝田遊水池(ごほうでんゆうすいち)にある看板には、この美しいトモエガモが絵入りで紹介されているので、是非見てみたいものと思っていたが、これまで果たせないでいた。

 そのトモエガモが思いがけず雲場池に現れたのであったが、先に書いたように、今年は年初からこのトモエガモが大群となり各地に現れているとのニュースに接していたので、なにかそうしたこととの関係でもあるのかと思ったのであった。

 トモエガモをウィキペディアで調べてみると、次のような記述に出会う。

 「カモ類の中では最も美味であるとされる。そのため古くはアジガモ(味鴨)や単にアジ(䳑)と呼称されることもあった。・・・
 開発による生息地の破壊、乱獲により生息数は激減している。・・・
 1993年の大韓民国にある2か所の保護区における生息数は5,0000-5,5000羽と推定されている。
 2020年代に入ると、環境の変化などで越冬地での生息数は急増しており、島根県宍道湖では2023年度に58,000羽、千葉県印旛沼では同年度に66,000羽の飛来がそれぞれ確認されている。」

 絶滅危惧種に指定されているが、近年数を増やす傾向にあり、今年はさらにその数が増えていることになる。

 TVのニュースをひろってみると、

・2023年12月25日(ニュース番組 めざまし8)
 【なぜ?】絶滅危惧種のトモエガモが千葉・印旛沼に大量飛来! 12月中旬には5万羽以上にも!? 竜巻のような巨大な渦を形成。
・2023年12月29日(ニュース番組 イット)
 島根・松江市に27日、鳥の大群が現れ、異様な光景を作り出した。専門家は、鳥の正体は「トモエガモ」で、シベリア東北部での数の増加が日本への渡来数の増加につながっているのではと推測している。
・2024年1月20日(ニュース番組 イット)
 16日、佐賀・嬉野市でトモエガモの大群が観察された。

 雲場池ではほんのわずかの時間だけであったので、近隣に生息地があるのであればぜひもう一度見てみたいのもと思い、生息地に関する情報を調べてみたところ、次のような地名が見つかった。

 ・石川県加賀市・片野鴨池
 ・千葉県の北印旛沼、八丁堰、山倉ダム
 ・埼玉県の狭山湖
 ・八王子の長池公園
 ・横浜の恩田川
 ・大阪の鶴見緑地、大阪城公園
 ・長崎県の諫早湾
 ・島根県の穴道湖
 ・神奈川県の相模原沈殿池

 狭山湖が一番近いが、残念ながら、簡単に行けるところは見つからなかった。

 さて、雲場池の水鳥に話を戻すが、これまで4年ほど、朝の時間帯であるが観察と撮影を続けてきた。今回のトモエガモで計18種になるが、参考までに、これらをまとめると次のようである。


雲場池で見られる水鳥とその時期(夏期に見られるマガモはエクリプス)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雨氷

2024-03-01 00:00:00 | 日記
 2月22日の朝、いつもは散歩に出かける時刻であったが、寒い日だったのでぐずぐずしているところに、妻がやってきて、外の景色が何だか変だという。

 窓のブラインドを開けて、庭のもみじの木を見ると、小枝が凍り付いていて、所々に小さなつらら状の氷がぶら下がって見える。

凍りついたモミジの枝先(2024.2.22 撮影)

凍りついたドウダンツツジの枝先(2024.2.22 撮影)

太めの枝にはつらら状の氷ができている(2024.2.22 撮影)

モミの木にできたつらら状の氷(2024.2.22 撮影)

 これは雨氷というものだと妻が何かで調べたらしく、教えてくれた。これまで、霧氷とか樹氷という語は聞いていたが、その違いもよく分からないし、雨氷という語になると聞いた覚えが無く、その違いは何だろうかということで、ウィキペディアで調べてみた。

霧氷(むひょう、英: rime)は、着氷現象の一種で、氷点下の環境で樹木などの地物に付着して発達する、白色や半透明で結晶構造が顕著な氷層の総称。
 過冷却にある霧粒子や雲粒子(着氷性の霧)によるものと、空気中の水蒸気の昇華によるものがある。樹氷、粗氷、樹霜の3つに分類される。
 霧氷は気泡を多く含むため、密度は 0.2 - 0.3 g/cm3程度。

 樹氷(じゅひょう、英: soft rime)は、過冷却水滴からなる濃霧が地物に衝突して凍結付着した氷層のうち、白色で脆いものをいう。
 気温−5 ℃以下の環境で風の弱いときに顕著に発達し、気泡を多く含むために不透明で、白色を呈する。小さな粒状の氷が無数に凝集する構造で、手で触ると簡単に崩れるほど脆く、樹氷が付着している物体を揺らすと簡単に落ちる。

 粗氷(そひょう、英: hard rime)は、過冷却水滴からなる濃霧が地物に衝突し、凍結付着した氷層のうち、半透明のものをいう。樹氷よりも硬いが、大抵は手で触ると崩れる程度の脆さである。樹氷に比べ氷の粒が大きく、粒同士が融合して大きな氷の塊を形成する場合もあるが、気泡を多く含むため透明にはならず半透明にとどまる。

 樹霜(じゅそう、英: hoarfrost)は、空気中の水蒸気が昇華して樹枝などの地物に付着した樹枝状ないし針状の結晶である。観察すると、球状霧粒の混じることもあるが、針状や板状、柱状など結晶のはっきりした性状が目立つものが多い。
 霜と同じ原理であるが、層状に発達し、特に樹木などに付着したものをこう呼ぶ。霜は地面付近の地物に多く付くのに対して、樹霜は高い枝にも付く。樹氷と樹霜の判別が難しいことがあるが、霧がなかった場合にはふつう樹霜と考える。

 雨氷(うひょう、英: freezing rain)は、0℃以下でも凍っていない過冷却状態の雨(着氷性の雨)が地面や木などの物体に付着することをきっかけに凍って形成される硬く透明な氷のこと。着氷現象の一種でもある。
 地物の温度が0℃以下またはわずかに上回るときに生じ、こちらは密度 0.8 - 0.9 g/cm3程度になる。」
 
 粗氷や樹霜という語まで登場したが、樹氷、粗氷、樹霜は、霧氷の一種で、どれも氷の密度は比較的小さなもので、白色から半透明の外観になるが、雨氷は密度が高く、硬く透明だとされる。

 庭の木の枝を包むようになっている今回の氷を見ると、透明で硬そうに見える。確かに雨氷である。

 雨氷をつくり出す、前記の着氷性の雨が発生する条件は、地上気温が0℃からマイナス数℃の狭い範囲であり、上空に適度な厚みの逆転層が存在することが必要なことから、ごくありふれた現象である雨や雪と比べて、雨氷は目にする機会が少なく、発生頻度も低いため、珍しい気象現象とされている。

 ちなみに、よく似た語には流行歌の題名でも知られる「氷雨」というものもあるが、ウィキペディアによるとこちらは、次のようである。

氷雨(ひさめ、ひあめ)は、空から降ってくる氷の粒のこと。あるいは、冬季に降る冷たい雨のこと。気象学で定義された用語ではない。 」

 結局、この日は散歩を止めて庭で雨氷の写真撮影をしたが、曇天で外気温が低いままであったためか、この雨氷は終日溶けることなかった。

 見ているとなかなかきれいな雨氷であるが、軽井沢を発着する「しなの鉄道」には大きな被害をもたらしていたことが、夕方のTVニュースで報じられた。



雨氷による架線凍結の影響で終日運休となったしなの鉄道の様子を伝えるTVニュース(2024.2.22 TV放送画面を撮影)

 この雨氷は硬く、簡単には除去できないため、作業者が手作業で取り除かなければならず、その作業が困難を極めたため、しなの鉄道はこの日から2日半にわたり運休することになり、運転を再開したのは24日の昼近くになってからであった。

 自宅付近の電線をみると、24日の朝もまだ、しなの鉄道の架線に着氷したものと同様の小さなつらら状の雨氷が見られたが、やがて天候の回復と共に溶けていった。

 しなの鉄道の発表によると、雨氷による運休は2010年以来とのことで、軽井沢でも珍しい現象であったことがわかる。

3日目の朝もまだ電線などには雨氷が残る(2024.2.24 8:55 撮影)

雨氷がほとんど消えた電線など(2024.2.24 11:16 撮影)

 鉄道には大きな被害を及ぼすことになった雨氷であるが、景色としてはなかなか珍しく、美しく思えたので、発生の翌日、小雪がちらついている中、いつもの朝散歩に出かけ、雲場池周辺の木々に付着した雨氷とその上に降り積もった雪の様子を撮影した。

 先ずは自宅周辺で見かけた雨氷から。雨氷のサイズ(つらら状の雨氷の直径など)は付着物によらずほぼ一定の大きさであることが判る。






自宅周辺の人工物などに見られた雨氷(2024.2.23 撮影)

 続いて雲場池周辺の木々の雨氷。





















雲場池周辺の木々に見られた雨氷(2024.2.23 撮影)

 曇天が続いたこともあり、電線や家の周りの人工物の雨氷は溶けて、消えていったが、雲場池周辺の木々の雨氷は25日まで残っているのが見られた。

 翌26日の朝は快晴となり青空が見られるようになり、この間に降り積もった雪が解け始めたためか、雨氷がより太く、長いつらら状に成長していると思われる場所も見られた。途中経過を見ていたわけではないので、雨氷が一旦溶けた後に新たにできたものか、残っていた雨氷がさらに成長したものかは判然としないが。

快晴の朝の雲場池(2024.2.26 撮影)

ワインセラーの建物壁面のツタにできたつらら状の氷(2024.2.26 撮影)

 できることなら、次は雨氷の成長と消滅過程を観察したいところであるが、いつ見ることができるのか・・・。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする