軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

クロスキバホウジャク

2022-09-02 00:00:00 | 
 小諸のMさんのバタフライガーデンを訪ねた時、ホウジャクの仲間が吸蜜にきているところに出会い、しばらく撮影を楽しんだ。

 以前自宅庭のブッドレアにホシホウジャクが来ていたので撮影したことがある(2016.12.9 公開当ブログ)。この時は古いニコンD200を使用していて、この機種はセンサー感度も低かったので、高速シャッターを切ることができず、思うような写真を撮ることができなかったが、今常用しているオリンパスOM-D/EM-1は高感度設定が可能で、シャッタースピードも充分速く設定できることから、ホバリング中のホウジャクの撮影への再挑戦である。

 ホウジャクの仲間についての知識がなく、現地では種名までは判らなかったが、帰宅後撮影した写真をみて、この日撮影したホウジャクはクロスキバホウジャクであると判明した。

 この種は分類ではスズメガ科・ホウジャク亜科に属し、同じ亜科にはオオスカシバ、ホウジャク、スキバホウジャク、ホシヒメホウジャク、ヒメクロホウジャク、ホシホウジャク、クロホウジャク、フリッツェホウジャクなどがいる。

 以前自宅庭のブッドレアに来ていたホシホウジャクは、翅に透明な部分はないが、今回撮影したクロスキバホウジャクは翅の大部分が透明で、体色もオオスカシバに近い。よく似た種にスキバホウジャクがいる。

 オオスカシバの翅は羽化直後は鱗粉がついていて不透明状態だが、翅を震わせることで鱗粉が脱落して、あのような透明な翅に変わることが知られている。今回撮影したクロスキバホウジャクやスキバホウジャクも同様で、やはりはじめは鱗粉が付いていて不透明であるという。

 バタフライガーデンで撮影した写真は次のようである。


吸蜜するクロスキバホウジャク 1/7(2022.7.20 撮影)

吸蜜するクロスキバホウジャク 2/7(2022.7.20 撮影)

吸蜜するクロスキバホウジャク 3/7(2022.7.20 撮影)

吸蜜するクロスキバホウジャク 4/7(2022.7.20 撮影)

吸蜜するクロスキバホウジャク 5/7(2022.7.20 撮影)

吸蜜するクロスキバホウジャク 6/7(2022.7.20 撮影)

吸蜜するクロスキバホウジャク 7/7(2022.7.20 撮影)


吸蜜後飛び立つクロスキバホウジャク(2022.7.20 撮影)

 義父のコレクションにはチョウと共に、ほぼ同数のガの標本も含まれている。その中には、ホウジャクの仲間もかなり網羅されているので、以下に紹介する。大きさの違いが良く判る(標本ラベルの年号は昭和。尚、下の写真でヒメクロホシホウジャクとあるのはヒメクロホウジャクと思われる)。



 

 

 

 
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ウスタビガ 2021年ー2/2

2021-09-10 00:00:00 | 
 前回紹介した繭上に産みつけられていた卵から孵化したウスタビガの幼虫を室内で飼育することにし、成長の様子を追った。撮影用に室内に取り込んだ繭はこのほかにもあり、4月24日までに合わせて33匹の幼虫が孵化していたので、これらを、プラスチック容器に挿した庭木のヨシノザクラやオオヤマザクラの葉を餌として与えた。


プラスチック容器に挿したサクラの枝で飼育中のウスタビガの1齢/2齢幼虫(2021.4.28 撮影)

 室内に取り込んだ幼虫は、ヨシノザクラやオオヤマザクラの葉を食べ、順調に成長していった。その成長の様子は次のようで、孵化後に体長5㎜程の大きさであった幼虫は脱皮を繰り返して、最後の1匹が孵化してから2週間目にはすべて体長が40㎜程の4齢幼虫に成長し、その2日後には終齢幼虫も現れた。


室内で飼育したウスタビガ幼虫の成長の様子(〇の中の数字は幼虫の数を示す)

 屋外に置いたケージのネットなどに産みつけられていた卵からも、大量の幼虫が孵化していて、これらは鉢植えのヨシノザクラに順次移して飼育していた。5個ある鉢植えのヨシノザクラにはネットをかけて幼虫を保護していた。

 室内で飼育し撮影対象にしていた幼虫がすべて4齢に達した5月8日時点で、庭の鉢植えの幼虫を確認したところ、すべてまだ1齢のままであり、屋外と室内での幼虫の成長スピードの余りの違いに驚いた。

 これまで、4年にわたりこのウスタビガやヤママユの幼虫を飼育してきたが、これらの幼虫の飼育環境はだいたい同じで、普段は屋外に置き、必要に応じて数匹を室内に取り込んで撮影していた。

 今回は、30数匹を室内で孵化させ、そのまま室内で飼育し、それ以外の幼虫は、飼育ケージ内で孵化すると屋外に置いた鉢植えのヨシノザクラに移動させていた。

 室内で飼育していた幼虫がすべて4齢に達したにもかかわらず、屋外の幼虫がすべて1齢であるということは、飼育環境の温度の差に違いないと思えた。

 そこで、室内の4齢幼虫を一部屋外に移し、逆に屋外の1齢幼虫を一部室内に移動させて様子を見ていたところ、屋外から室内に移した幼虫は早速脱皮して2齢になっていった。こうしてしばらくすると、3齢の幼虫も得られたので、同時に1齢から5(終)齢までを見ることができるという興味深いことが起きた。次の写真のようである。

 
1齢から終齢まで全員集合状態が実現(2021.5.19 撮影)

 屋外と室内の温度の違いをみると、室内は昼夜ともほぼ22℃に保たれているが、4月下旬から5月上旬までの屋外の気温は、次の気温データのようであり、夜は4℃あたりまで低下し、昼間の最高温度は18℃くらいになる。
 平均気温はおよそ10℃である。従って、室内外の平均の温度差は12℃ほどと考えられる。

軽井沢の年間気温変化(軽井沢町のHPから引用)

 昆虫の成長には累積温度が重要であるとは聞いていたが、今回観察したウスタビガの成長スピードの温度による違いは、化学反応でよく言われているアレニウスの法則、10℃・2倍則以上の差があるようにみえる。

 そこで、産業として行われている養蚕のデータがあるのではと思い調べてみると、蚕について、成長の速さと温度の関係についての研究報告(須藤ほか、日蚕雑 68(6)、461、1999)が見つかった。

 それによると、蚕が発育する温度の範囲は7~40℃位で、正常な発育ができる温度は、大体20~28℃位の範囲であり、一般に温度が高くなるにつれて、発育・成長が早くなるとされる。

 蚕の成長スピードもアレニウスの式に従っているようであるが、単純な化学反応とは異なり発育零点というものが存在しているという。

 これは、その温度より低い環境では、発育が全く止まってしまうことを意味する。蚕ではこの温度が10℃前後にあるという研究結果である。

 軽井沢の4月下旬から5月上旬の気温変化を見ると平均気温が10℃で夜間は4度まで低下し、日中は18度程度まで上昇している。蚕とウスタビガとでは異なっている可能性はもちろんあるが、上記の発育零点を考慮すると、10℃以下に曝されている間は、成長が止まっていることが考えられ、成長が可能な時間は約1/2に、その間の平均温度は14℃程度ということになる。

 積算温度の比の荒っぽい計算をすると、室内飼育の場合は22℃で一定であるのに対して、屋外では成長可能な時間が半分になり、その間の平均温度を考えると、その比はおよそ3-4倍になる。このように考えてみると、今回見られた室内飼育と屋外飼育での大きな差が理解されてくるのである。

 さて、このように、室内で飼育していた一部の幼虫が終齢に達したので、観察・撮影は終了し、幼虫はすべて庭木のオオヤマザクラに移すことにした。鉢植えのヨシノザクラの葉もそろそろ限界に達し、これ以上幼虫を飼育すると木が枯れてしまう。

 ウスタビガの幼虫を庭で自然に任せるのは初めてのことであり、オオヤマザクラがどうなっていくのか気にはなったが、とりあえず200匹ほどはいる幼虫達を養ってもらうことにした。

 しかし、野鳥の多い軽井沢のこと、粗いネットをオオヤマザクラの周囲に巡らせておいたものの、上部は開放状態なので気休めでしかなく、気がつくとシジュウカラが中に入り込んでいるといった状況であった。

 飼育ケージで飼育していた昨年までは、100%近い割合で繭を作るまでに成長させることができたのであったが、自然に任せるとどのような結果になるか。これも見守っていく事にした。

 
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ウスタビガ 2021年ー1/2

2021-09-03 00:00:00 | 
 今回は毛虫が登場しますので、苦手な方はご注意ください。

 昨年(2020年)飼育していたウスタビガはおよそ30匹が繭を作った。これらをコナラの枝から切り離し、飼育ケージに吊り下げておいたところ、秋に羽化し、♀はその繭にとどまり飛来した♂と交尾し、繭の表面に少し産卵し、移動後ケージのネットなどに産卵して飛び去って行った。

 次の写真は表面に卵が産みつけられているウスタビガの♀の繭(ヤマカマスとも)で、長さは約40mm、太さは約20mmで、一般に♀の繭は♂のものよりも大きい。産み付けられている卵の大きさは長さ約2.6mm、幅約1.8mmである。

ウスタビガの繭(ヤマカマス)の表面に産み付けられた卵(2021.4.23 撮影動画からのキャプチャー画像)

 この繭に産卵してあった卵から幼虫が孵化してくる様子をビデオ撮影したく思い、今年になってからは注意して観察していが、4月下旬に飼育ケージのネット上に数匹の幼虫を見つけた。繭上の卵を確認したが、こちらはまだ孵化していないようであった。

 そこで、表面に卵の付いている数個の繭を室内に取り込んで、撮影の準備に入った。いつ孵化するかがなかなか予測しづらいので、しばらく様子を見ていたところ、やがて一つの繭の表面に幼虫が一匹いるのが見つかったので、ビデオカメラをタイムラプスモードにセットして、2匹目が孵化するのを待った。こうして撮影したのが次の映像である。

 後の参考のために、繭上の卵から孵化してくる順番を次の写真の中に示す。「1」の卵からはすでに孵化していて穴が開いている。このあと見ていただく動画は「2」の卵からのものであるが、上部のやや色の濃い部分に穴が開きはじめる。


ウスタビガの繭(ヤマカマス)の表面に産み付けられた6個の卵(2021.4.23 撮影動画からのキャプチャー画像)

 撮影は30倍タイムラプスで行っていて、次の映像は約2時間45分間撮影したものを30分ごとに分割し編集したものである。孵化直後の幼虫は毛の根元の色が白っぽいが、次第に黒化して2時間ほど経つと全体がまっ黒になるのがわかる。

 
繭に産み付けられたウスタビガの卵からの孵化(2021.4.24  0:50-3:35 30倍タイムラプス撮影後編集)

 この「2」の卵から孵化した幼虫は、別に用意した食樹である瓶挿ししたサクラの葉に移し、次の卵からの孵化を待った。次の映像はサクラの葉を食べる先に孵化していた別の卵から孵化した幼虫である。

 
サクラの葉を食べる孵化直後のウスタビガ1齢幼虫(2021.4.23, 6:35-6:37 撮影)

 繭の上に産みつけられていた6個の卵のうち、3個目の卵からの孵化はタイミングの関係で見逃してしまい、気がつくとすでに幼虫が繭の上を這っていた。

 その次の4個目の卵からの孵化は実時間で撮影ができた。卵に穴が開いているのに気が付き撮影を始めたのは17:33頃であったが、次の動画は9分後の17:42頃からのものである。

 
繭の上の「4」の卵からの孵化(2021.4.24  17:42~17:45 撮影)

 これらの映像からもわかるように、孵化時、幼虫は卵の殻を内部から齧って小さな穴を開け、それを少しずつ大きくして、やがてそこから這い出して来るのだが、その穴を開ける場所はだいたい決まっていて、長めの球の頂点付近であり、その部分の色は周囲とは異なって見える。

 ところが、5番目の卵はその部分が隣接する卵「2」の陰に少し隠れている。幼虫が小さな穴を開け始めたが、隣の卵に邪魔をされて、それ以上広げることができない。どうも決められた場所以外に穴を広げることは難しいようで、中から齧りやすい場所は限られているのかと思える。しばらく格闘しているようであったが、諦めてしまった。

 そうしているうちに、最後の6番目の卵に動きが見られ、小さな穴が開き始めたと思っていたら、こちらはさっさと穴を大きくして、5番目の卵より先に孵化していった。次の映像で、左上にいるのは卵「4」から孵化した1齢幼虫。

 
卵「5」からの孵化を追い越して卵「6」が孵化する様子(2021.4.24, 17:55-19:29 撮影動画を編集)

 このままでは、5番目の幼虫は卵から脱出できないで終わってしまうのではと懸念し、邪魔をしている2番目の抜け殻を取り除いてやったところ、他の卵に比べてずいぶん時間がかかったが、ようやく幼虫が孵化して出てきた。

 前の動画と一部重複するが、卵「6」と卵「5」から孵化する様子をもう1台の別のカメラで撮影したのが次の映像である。

 
卵「6」が、卵「5」を追い越して孵化する様子。途中、卵「2」を取り除いている(2021.4.24, 19:27-19:50 撮影動画を編集)

 こうして6個すべての卵からの孵化は完了した。通常卵の一部に穴が開き始めてから1時間足らずで幼虫が出てくるが、「5」の卵だけが3倍程度長くかかっている。もし人の助けがなかった場合にどうなっていたのだろうかと思う。


繭上の6個の卵からの孵化日時

 これらの幼虫は室内で瓶挿ししたサクラの葉を与えてその後の成長の様子を追った。

 以下次回


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ウスタビガ(4)羽化

2018-12-21 00:00:00 | 
 ウスタビガの孵化に始まり繭作りまでの成長の過程を映像で追ってきたが、最後に羽化して繭から出てくるところを見ていただく。やはり羽化の瞬間はどの昆虫でも同じで一番ドラマチックなものと言えるだろう。卵から孵化して、決して美しいとはいえない毛虫になり、次にはミイラのような形をした蛹になり、そしてそこから抜け出して蝶や蛾に変身して出てくるときには、見違えるような姿になっている。

 次の動画はウスタビガの♀が繭から這い出て、翅を伸ばすまでの羽化の様子を追ったものであるが、撮影のための照明を嫌ってか、繭から出てくるとすぐに繭の後ろ側に回り込もうとする。仕方がないので、繭を180度回して、正面から撮影を続けようとしたが、また嫌われてしまった。この傾向は後ほど見ていただく、♂の場合も同様であった。

 普通は、羽化直後の無防備な状態に、天敵に襲われるのを避けるために、羽化は夜のうちに完了するようになっているのであろう。そのため、人工的な照明を避けるような行動をとるものと思える。こうした習性は昆虫の体内時計によって支配されていることが判っていて、自然界では「アメリカシロヒトリ」の羽化などは夏の夕方に次のように一斉に起きることが知られている。

 「・・・夕方四時前には、一匹の羽化も見られない。四時から、ごくポツポツと羽化してくるガが見られる。この状態が六時ごろまでつづく。六時半、日が沈む。とたんに羽化する個体数は二十分あたり三倍、四倍とふえていって、日没後一時間たった七時半にはピークに達する。あるデータによれば、四時から六時までの二時間に羽化したガは三十匹であったが、六時から八時の二時間では、百二十匹に達した。そして、八時半から九時をすぎると、羽化はピタリととまり、翌日の夕方まで、羽化してくる個体は一匹もない。・・・」(日高敏隆著 「昆虫という世界」1979年発行 朝日選書)

 では、今回は夜22時頃に始まった、ウスタビガの羽化をみていただこう。
  

ウスタビガ♀の羽化(2016.10.8 22:26~22:49 撮影動画を編集 )

 ♀のお腹は大きく、後述するように、繭の出口は酵素で軟らかくなっているのであるが、それでも出口から出てくるのは一苦労のようである。

 繭から出てきたときにはまだ翅は縮んだままで、伸びていない。繭につかまり、空間を確保してから、しずかに翅を伸ばし始める。これは、口から空気をのみこんで腸をふくらまし、その圧力で体の中の血液を翅脈の中へ送り込んで、翅を押し伸ばしていくとされている(前出「昆虫という世界」)。その様子を30倍のタイムラプスで撮影した動画は次のようである。


ウスタビガ♀の羽化後の翅の伸長(2016.10.8 22:50~10.9 00:10 30倍タイムラプス撮影動画を編集)

 ウスタビガの繭には、前回のこのブログで紹介した通り、出口があらかじめ作られていて、羽化するときにはここから這い出してくるようになっている。ヤママユの繭の場合には、繭は完全に閉じられていて、羽化時の出口はない。そのため、ヤママユは口から酵素液を吐き出して、繭の上部を溶かし、出口を作ってそこから這い出してくる。

 ウスタビガの場合は、あらかじめ繭には出口が用意されているので、繭を溶かす必要はないと思っていた。しかし、作成後3か月近く経過した繭壁は硬くなっていて、出口は容易には開かない。やはり、酵素液の助けを借り、繭糸を溶かさないまでも、出口周辺を軟らかくして、這い出しやすくする必要があったようだ。

 続いてウスタビガの♂が羽化してくる様子を見ていただく。以前このブログで、3D動画撮影と並行して撮影した写真を紹介したことがあるが(2016.10.21 公開)、それはその頃はまだ動画の編集がうまくできなかったからであった。今回、繭から出てくるところは通常撮影したものを、繭から出て翅を伸ばすところは30倍のタイムラプス撮影したものを用いて編集した。
 
 繭の中で、蛹から出た幼虫は、酵素液の効果で軟らかくなった繭の出口から慎重に外の様子を伺うようにして這い出してくるが、この間約30分かかっている。そして、繭から一気に這い出してからあとは、ゆっくりと約1時間20分ほどをかけて翅を伸ばす。


繭の出口に口から酵素液を吐きだして湿らせる(2016.10.8 18:41 撮影動画からのキャプチャー画像)


ウスタビガ♂の羽化(2016.10.8 18:58~20:51、通常撮影と30倍タイムラプス撮影を編集)

 翅を伸ばす力は血液であると先に紹介したが、この個体は左前翅中央部の翅脈に傷があったためか、そこから血液が漏れ出していた。これが多量になると翅の伸展が妨げられて、完全に伸びきらないという悲劇になることもあるようだが、今回の場合は、幸い傷口が小さかったのか、その漏れた量は少なく、翅は無事伸びていった。

 ♂の触角は、♀に比べると幅が広く大きい。これは、以前ヤママユでも紹介したように、♀が出す誘引物質であるフェロモンを敏感に検出するための装置として有効に働くように進化した構造である。

 腹部は、♀に比べると細く、すっきりとしている。

 次に、同時期に羽化した別の個体の、羽化直後の姿を回転させながら見ていただく。♀の翅の色は薄く黄色みを帯びている。一方♂の翅の色は濃く、その濃さには個体差も見られる。翅形状も♀は前翅先端部が丸みを帯びているが、オスでは尖り、先端部が曲がっている。

 ♀の腹部はご覧の通りふっくらとして大きいが、そのことを反映して、繭の段階でも大きさは♀の方が大きく、羽化前におよその見当がつくぐらいである。羽化直後の♀のお腹には卵がぎっしりと詰まっているのであろう。


羽化直後のウスタビガ♀(2016.10.4 撮影)


羽化直後のウスタビガ♂(2016.10.8 撮影)

 ♀では羽化するとすぐに、肛門付近をしきりに動かすしぐさが見られるが、これはフェロモンを発散し♂を呼び寄せているもののようである。先に羽化していた♂は、遠く離れた場所にいても、このフェロモンを敏感に感じとり、羽化直後の♀が掴まっている繭に飛来し、そこで交尾する。♀は繭表面に数個の卵を産み付け、少し軽くなってから別の場所に飛び立っていき、あちらこちらに産卵するものと思われる。


羽化後、繭にぶら下がったまま交尾するウスタビガ(2016.10.9 10:30 撮影)

 ウスタビガの繭表面には、このようにして卵が産みつけられていることがしばしばみられるのであるが、同じヤママユガ科の他の種ではこうしたことは見られないようである。これは、ウスタビガの繭が、長い柄の先に作られていて、周囲には産卵できるような場所が見当たらないことと関係しているのかもしれない。

 







 


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ウスタビガ(3)繭作り

2018-12-14 00:00:00 | 
 どの種の幼虫を飼育していても同じ様であるが、ウスタビガの場合も終齢幼虫になると、その食欲はすさまじく、おまけに20匹ほどの幼虫を飼っていたので、2鉢あった「ヨシノザクラ」の葉はとっくに食い尽くされ、追加の「ソメイヨシノ」をネットで数鉢購入して幼虫に与えていたがこの葉もそろそろなくなりかけていた。

 そこで、先々のことを考えて、軽井沢の造園業者から樹高3mほどの「オオヤマザクラ」の木を買って庭に植えた。そして、この木に幼虫を数匹移したところ、すぐに葉を食べ始めたが、しばらくして異常が現れた。

 「オオヤマザクラ」を与えた終齢幼虫は、口から褐色の液体を吐き出したのである。その液体は幼虫の緑色の体を汚し、幼虫はそれ以上オオヤマザクラの葉を食べなくなって、弱っていった。同じ桜の仲間だと思って与えた「オオヤマザクラ」の葉であったが、ウスタビガにとっては有害な別ものであったらしい。

 慌てて、関係書を調べなおし、餌の葉をヤママユに与えているコナラに切り替えることにした。ちょうどこの時期、同時に多数のヤママユを育てていたので、こちらは山で採ってきた枝がふんだんに用意できていた。

 弱っていたウスタビガはコナラの葉を食べ始め、再び元気になっていったが、一部は次第に弱り2匹ほどは死んでしまった。

 鉢植えのサクラの葉が少なくなっていたので、その後、半分ほどの幼虫はコナラの葉を与えて育てた。そして、18匹ほどの幼虫が、サクラやコナラの枝先に繭を作り始めた。「オオヤマザクラ」の葉を食べひどい目に遭い、体に褐色のシミをつけていた終齢幼虫もその後元気を取り戻して、無事繭を作った。

 以前書いたこともあるが、ウスタビガの繭にはカイコやヤママユの作る繭とは異なる2つの特徴がある。ひとつは、繭が糸を束ねた細長いひも状の柄の先に作られることである。

 もう一つは、ウスタビガの繭には、羽化した時に脱出するための出口があらかじめ作られていることである。両側から押すと口が開くがま口があるが、ちょうどあのような構造をしているもので、こうした構造を間違いなく作るウスタビガの習性には驚かされる。


細いひも状の柄の先に作られるウスタビガの繭、表面に見えるのは卵(2018.12.6 撮影)


ウスタビガの繭に作られている羽化時の成虫の出口(2018.12.6 撮影)

 また、この出口の隙間は狭く作られているとはいえ、開口部であることには違いなく、雨水が入り込む。そのため、ウスタビガの繭の下部には、水抜きの別な小さな穴も必要になり、これもきちんと作られている。


ウスタビガの繭の底にあけられている水抜きの穴(2018.12.6 撮影)

 この2つの特徴ある構造を、ウスタビガの終齢幼虫がどのようにして作り上げていくのか、とても興味があった。この時は、多くの幼虫を飼育したので、その様子を撮影することができた。

 繭を作る直前になると、ウスタビガの幼虫は気に入った場所を求めて盛んに動き回る。ただ、アゲハチョウの仲間で経験したような、食草から遠く離れる長距離の移動はせずに、餌のサクラやコナラの枝先をあちらこちら這いまわる。

 気に入った場所を見つけたようだなと、こちらが勝手に判断して撮影にかかると、その後移動してビデオカメラの視野から外れて、どこかに行ってしまうこともある。が、しばらくするとまた元の場所に戻るというような行動も見られた。

 繭を作り始める前に、周辺の枝には念入りに糸を吐いて巻き付けていく。これが最終的には、繭の柄の部分になっていくのだが、何のためのこの柄を作るのか。葉が落下しても、枝先からぶら下がっていられるようにするためかもしれないと思えるが、よくわからない。

 最初に、サクラの枝先に繭を作る様子を見ていただく。気がついた時には、すでに繭の形ができ始めていて、柄の部分もしっかりとソメイヨシノの葉から枝につながるように作られていた。

 ソメイヨシノの鉢植えは玄関に置いていた関係で、撮影時の照明が不十分であり、そのため画面は暗く、また玄関を出入りするため明るさが変化してしまった。


ウスタビガの繭作り・サクラ(2016.6.22/08:10~19:40, 通常撮影と30倍のタイムラプス撮影とを編集)

 次に、コナラの葉に繭を作る様子を紹介する。気に入ったコナラの枝先に糸を吐き始め、周囲の枝にも糸を張り巡らせてから繭を作っていった。こちらは、コナラの枝を容器に挿していたので、室内に持ち込んで照明の下で撮影した。撮影は2日と4時間以上に及んだが、ウスタビガはまだこの後も糸を吐き続けた。


ウスタビガの繭作り・コナラ(2016.6.29/02:11~7.1/06:40、30倍タイムラプスで撮影したものを編集)

 このサクラとコナラの枝先に繭を作る動画から、柄の部分を作る様子や、繭の出口そして水抜きを作る様子はうかがえるが、繭上部に作られる出口ができあがる工程をもうすこし詳しく見ておこうと思う。

 繭の上部に出口が作られる様子を約15時間ごとに見ると次のようである。この間、約2日をかけている。


ウスタビガの繭に出口が作られる様子 1/4(2016.7.20 13:00 撮影動画からのキャプチャー画像)


ウスタビガの繭に出口が作られる様子 2/4(2016.7.21 01:00 撮影動画からのキャプチャー画像)


ウスタビガの繭に出口が作られる様子 3/4(2016.7.21 16:00 撮影動画からのキャプチャー画像)


ウスタビガの繭に出口が作られる様子 4/4(2016.7.22 08:00 撮影動画からのキャプチャー画像)

 幼虫は繭全体にまんべんなく糸をかけていくが、出口を形作る作業をしているところだけを選んで編集した動画は次のようである。撮影は30倍のタイムラプスで行い、編集している。中から押す操作を加えながら、はじめは円形であった出口を上手にすぼめて、狭くし最終的にはほとんど閉じられた状態にしている。なかなか見事な仕事をしている。


ウスタビガの繭作り・出口作り(2016.7.20 13:00~7.22 08:00 30倍タイムラプス動画を編集)

 最後に、「オオヤマザクラ」を食べたために、褐色の液体を吐き、体がその色に染まってしまっていた終齢幼虫が無事繭を作り終える様子を見ておこうと思う。


褐色の液体を吐き出したために体が汚れたウスタビガの終齢幼虫 1/2(2016.6.23 撮影動画からのキャプチャー画像)


褐色の液体を吐き出したために体が汚れたウスタビガの終齢幼虫 2/2(2016.6.23 撮影動画からのキャプチャー画像)


ウスタビガの繭作り・体が褐色に汚れた個体(2016.6.24 02:00~6.26 10:00 30倍タイムラプス撮影と通常撮影したものを編集)

 サクラの枝先に繭を作ったもの、コナラの枝先に繭を作ったもの、そして食葉のトラブルに遭ったものなどを見てきたが、いずれも繭作りに際しては、柄や出口、水抜き穴を念入りに、まちがいなく作る様子がうかがえ、感心させられることしきりである。
 



 

 

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