ガラスショップオープンまであと2日となったが、4月1日にはご招待した方々を主な対象とする内覧会を開催することにしている。
買い集めた商品をすべて展示するスペースはないので、複数ある商品は1、2点だけを展示するにとどめるなどして、できるだけ多くの種類を展示できるようにしたが、それでもウェブサイトのギャラリーでご紹介しているものすべてを棚に並べることはできていない(ガラスショップのウェブサイト http://karuizawanouveau.com をご覧ください)。
さて、前回に続きこれらのガラス器に盛り込まれた種々の技法についてもう少し紹介を続ける。
成形後のガラス器を豪華に見せる方法に金彩がある。単に縁取りなどに使う場合もあれば、カットやエングレーヴィング法で彫った箇所に、さらに金彩を施し、より一層豪華に見せる方法も採られている。
ガラスや陶磁器に金彩を施す技術は古く、イスラムの時代(8世紀中ごろに始まる)にはすでに、その基となる材料である王水(硝酸1部、塩酸3部の混酸)が発明されていた。金を王水に溶かし、さらに樹脂やガラス粉と混ぜたものを塗って焼成することで、ガラスを金色にすることができた。
ただ、この金彩は剥がれやすいものもあるようで、古いものではしばしば金が薄くなったり、剥げ落ちているものがある。
金彩の縁取りと、エングレーヴィングを施した1900年頃のワイングラス(高さ約16cm)
縁取り部と、エングレーヴィングの上に金彩を施したリキュールグラス(高さ約8.5cm)
金彩とカット、エングレーヴィングを組み合わせた小皿、金彩のほとんどが剥がれている(長さ約8.5cm)
紫色の着色をしてさらにエングレーヴィングの上に金彩を施した皿(径約22cm)
エングレーヴィングの上に金彩を施した豪華なキャヴィア・ボウル(径約18cm)
エングレーヴィングの上に金彩を施し、さらに多色のエナメルで男女像を描いた華麗なボウル(径約23cm)
同上の部分
最後の写真には、エングレーヴィング、金彩に加えて多色のエナメルで男女像が描かれていて、一層華麗なものに仕上がっている。当時どのような人々がこのようなものを使っていたのであろうか。
このエナメル技法も古い技法で、ローマ時代にはすでに使われていたとされる。濃い色ガラスを松脂が入った油で溶き、絵や紋様を描いている。これを高温で焼き付けているので、基体のガラスと融合するため保存状態は良い。
エナメル技法だけを用いて、グラスに精密な人物像を多色や単色で描いたもの、あるいは花柄などを描いたものもある。
多色のエナメルで男子像を描いたグラス(高さ約13.5cm)
ピンクのエナメルで男女像を描いたグラス(高さ約15cm)
同上の部分
エナメルで花柄を描いたシャンパングラス(高さ約20cm)
ヴェネチアで発明された技術に、レース・ガラスという技法がある。レース編みが盛んであったヴェネチアで、そのレースをガラスに写しとろうとして、工夫の末に16世紀後半にムラーノ島で生み出されたもので、ヴェネチアは独占的技法として外部に漏れることを固く防止し、ガラス職人たちは一生をムラーノ島に閉じ込められて過ごしたとされている。
レース・ガラス皿(径約23cm)
レース・ガラスボウル(径約15cm)
その工程の概略については、以前このブログで紹介したことがあるので(2017.3.24 付)それを参考にしていただきたいが、このレース・ガラスはヴェネチアの秘法として200年以上もの間、一切技術を明かされることなく、ムラーノ島内だけで守られてきたというが、さすがに徐々に外部に漏れ出し、こうしたレース技法をワイングラスのステム部分に用いたものが、イギリスで盛んに造られるようになった。
これらはオペークツイストステムと呼ばれている。またレースガラスに代わり空気を封じ込めたものはエアーツイストステムと呼ばれている。
ブドウ柄のエングレーヴィングとオペークツイストステムのワイングラス(高さ約20cm)
オペークツイストステムビアグラス(高さ約19cm)
エアーツイストステムのワイングラス(高さ約17cm)
日本製品でおなじみの、切り子・カッティング技法の歴史も古く、アケメネス朝に始まり、ローマ、ササン朝、イスラムに引き継がれ、ビザンチンを経由して、十七世紀以降、ボヘミアやイギリスで隆盛したとされる。
正倉院宝物として知られる、白瑠璃碗もこのカット技法で作られたもので、ササン朝ペルシャで作られ、日本にもたらされたと考えられている。ガラス工芸史家として知られる、由水常雄氏が再現した白瑠璃碗と同型のぐい呑みが次の写真である。
正倉院宝物・白瑠璃碗を再現したぐい呑み(径約5.5cm)
ヨーロッパの製品には大胆なカットを用いたものが多くみられるが、カットとエングレーヴィングを組み合わせたものもあり、日本の切り子とは趣を異にしている。
豪快なカットとエングレーヴィング彫りが組み合わせられたボウル(径約22.5cm)
透明ガラスにアンバーガラスを被せてからカット加工した大型ボウル(径約23.5cm)
カット技法を多用したボヘミアのガラス器の中でも、史上最高のデザインとされているものが500PKである。これは、カットデザインの500番目のものという意味であるが、このデザインを取り入れた種々のガラス器が現在も製造されている。
ボヘミアカットガラス史上最高のデザインとされる500PKデザインの花瓶(高さ約30cm)
500PKデザインのコンポート(径約30cm)
500PKデザインのワイングラス(高さ約15cm)
1929年に始まる世界大恐慌。この時代背景の下、アメリカで作られたガラス器はデプレッションガラスと呼ばれている。プレス型により大量生産されたもので、高価なものではない。無色透明のものだけではなくピンク、グリーン、ブルー、イエローなど種々の着色ガラス生地が用いられていて、コレクターも多いと言われている。
ピンクのデプレッションガラスカップ(径約9cm)&ソーサー(径約15cm)
グリーンのデプレッションガラス皿(径約20cm、ウランガラスの発光が見られる)
イエローのデプレッション期のピッチャー(高さ約23cm)とグラス(高さ約12cm)のセット
ガラス器を手にとりながら、こうした技術背景や、歴史に思いを馳せてみるのもまた楽しいものである。
買い集めた商品をすべて展示するスペースはないので、複数ある商品は1、2点だけを展示するにとどめるなどして、できるだけ多くの種類を展示できるようにしたが、それでもウェブサイトのギャラリーでご紹介しているものすべてを棚に並べることはできていない(ガラスショップのウェブサイト http://karuizawanouveau.com をご覧ください)。
さて、前回に続きこれらのガラス器に盛り込まれた種々の技法についてもう少し紹介を続ける。
成形後のガラス器を豪華に見せる方法に金彩がある。単に縁取りなどに使う場合もあれば、カットやエングレーヴィング法で彫った箇所に、さらに金彩を施し、より一層豪華に見せる方法も採られている。
ガラスや陶磁器に金彩を施す技術は古く、イスラムの時代(8世紀中ごろに始まる)にはすでに、その基となる材料である王水(硝酸1部、塩酸3部の混酸)が発明されていた。金を王水に溶かし、さらに樹脂やガラス粉と混ぜたものを塗って焼成することで、ガラスを金色にすることができた。
ただ、この金彩は剥がれやすいものもあるようで、古いものではしばしば金が薄くなったり、剥げ落ちているものがある。
金彩の縁取りと、エングレーヴィングを施した1900年頃のワイングラス(高さ約16cm)
縁取り部と、エングレーヴィングの上に金彩を施したリキュールグラス(高さ約8.5cm)
金彩とカット、エングレーヴィングを組み合わせた小皿、金彩のほとんどが剥がれている(長さ約8.5cm)
紫色の着色をしてさらにエングレーヴィングの上に金彩を施した皿(径約22cm)
エングレーヴィングの上に金彩を施した豪華なキャヴィア・ボウル(径約18cm)
エングレーヴィングの上に金彩を施し、さらに多色のエナメルで男女像を描いた華麗なボウル(径約23cm)
同上の部分
最後の写真には、エングレーヴィング、金彩に加えて多色のエナメルで男女像が描かれていて、一層華麗なものに仕上がっている。当時どのような人々がこのようなものを使っていたのであろうか。
このエナメル技法も古い技法で、ローマ時代にはすでに使われていたとされる。濃い色ガラスを松脂が入った油で溶き、絵や紋様を描いている。これを高温で焼き付けているので、基体のガラスと融合するため保存状態は良い。
エナメル技法だけを用いて、グラスに精密な人物像を多色や単色で描いたもの、あるいは花柄などを描いたものもある。
多色のエナメルで男子像を描いたグラス(高さ約13.5cm)
ピンクのエナメルで男女像を描いたグラス(高さ約15cm)
同上の部分
エナメルで花柄を描いたシャンパングラス(高さ約20cm)
ヴェネチアで発明された技術に、レース・ガラスという技法がある。レース編みが盛んであったヴェネチアで、そのレースをガラスに写しとろうとして、工夫の末に16世紀後半にムラーノ島で生み出されたもので、ヴェネチアは独占的技法として外部に漏れることを固く防止し、ガラス職人たちは一生をムラーノ島に閉じ込められて過ごしたとされている。
レース・ガラス皿(径約23cm)
レース・ガラスボウル(径約15cm)
その工程の概略については、以前このブログで紹介したことがあるので(2017.3.24 付)それを参考にしていただきたいが、このレース・ガラスはヴェネチアの秘法として200年以上もの間、一切技術を明かされることなく、ムラーノ島内だけで守られてきたというが、さすがに徐々に外部に漏れ出し、こうしたレース技法をワイングラスのステム部分に用いたものが、イギリスで盛んに造られるようになった。
これらはオペークツイストステムと呼ばれている。またレースガラスに代わり空気を封じ込めたものはエアーツイストステムと呼ばれている。
ブドウ柄のエングレーヴィングとオペークツイストステムのワイングラス(高さ約20cm)
オペークツイストステムビアグラス(高さ約19cm)
エアーツイストステムのワイングラス(高さ約17cm)
日本製品でおなじみの、切り子・カッティング技法の歴史も古く、アケメネス朝に始まり、ローマ、ササン朝、イスラムに引き継がれ、ビザンチンを経由して、十七世紀以降、ボヘミアやイギリスで隆盛したとされる。
正倉院宝物として知られる、白瑠璃碗もこのカット技法で作られたもので、ササン朝ペルシャで作られ、日本にもたらされたと考えられている。ガラス工芸史家として知られる、由水常雄氏が再現した白瑠璃碗と同型のぐい呑みが次の写真である。
正倉院宝物・白瑠璃碗を再現したぐい呑み(径約5.5cm)
ヨーロッパの製品には大胆なカットを用いたものが多くみられるが、カットとエングレーヴィングを組み合わせたものもあり、日本の切り子とは趣を異にしている。
豪快なカットとエングレーヴィング彫りが組み合わせられたボウル(径約22.5cm)
透明ガラスにアンバーガラスを被せてからカット加工した大型ボウル(径約23.5cm)
カット技法を多用したボヘミアのガラス器の中でも、史上最高のデザインとされているものが500PKである。これは、カットデザインの500番目のものという意味であるが、このデザインを取り入れた種々のガラス器が現在も製造されている。
ボヘミアカットガラス史上最高のデザインとされる500PKデザインの花瓶(高さ約30cm)
500PKデザインのコンポート(径約30cm)
500PKデザインのワイングラス(高さ約15cm)
1929年に始まる世界大恐慌。この時代背景の下、アメリカで作られたガラス器はデプレッションガラスと呼ばれている。プレス型により大量生産されたもので、高価なものではない。無色透明のものだけではなくピンク、グリーン、ブルー、イエローなど種々の着色ガラス生地が用いられていて、コレクターも多いと言われている。
ピンクのデプレッションガラスカップ(径約9cm)&ソーサー(径約15cm)
グリーンのデプレッションガラス皿(径約20cm、ウランガラスの発光が見られる)
イエローのデプレッション期のピッチャー(高さ約23cm)とグラス(高さ約12cm)のセット
ガラス器を手にとりながら、こうした技術背景や、歴史に思いを馳せてみるのもまた楽しいものである。