軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

庭にきた蝶(22)モンシロチョウ

2018-04-06 00:00:00 | 
 今回は”庭にきた蝶”の最終回で「モンシロチョウ」。前回の「ヤマトシジミ」とは順序が前後するが、それは撮影できた写真が1枚だけという状況であったので、採りあげるべきかどうか迷ったからであった。

 さて、このモンシロチョウ、前翅長20~30mmの中型の蝶で、いつもの「原色日本蝶類図鑑」(保育社発行)の表現を借りると、「最も親しい蝶として、わが国のあらゆる平野山野に棲息し、広くはアジア・ヨーロッパ・北アメリカの三大陸にも分布し、早春から初冬まで庭の一隅にも訪れる。・・・北方系の蝶であり、沖縄に採集された珍しい記録もあるが、台湾には棲息しない。」とある。しかし、最近の「フィールドガイド・日本のチョウ」(誠文堂新光社発行)の分布図を見ると、沖縄本島からさらに八重山諸島にも棲息域が広がっている。この点については、「日本産蝶類標準図鑑」(白水 隆著 2011年 学研発行)によると、沖縄県には1958年頃、沖縄南部の宮古島・石垣島・西表島・与那国島には1966年ごろになり侵入、定着したとされる。

 成虫の発生は寒冷地では年2~3回、暖地では7~8回に及ぶ。発生経過は、卵3日、幼虫期12日、蛹期6日の計21日の短期発生であり、通常蛹で越冬するが、暖地では幼虫で越冬することもあるとされる。

 我が家の庭にも来ることはあるのだが、ごく稀で、たいていはスジグロシロチョウを見間違えたものであった。そんな訳で、自宅庭で撮影できたのは前記の通り1枚だけであった。


庭の花に止まるモンシロチョウ(2015.9.2 撮影)

 義父の標本の中には、沖縄の名護で採集したモンシロチョウの標本が含まれていた。先の説明からすると当時としては珍しいものだろうか。スジグロ(シロ)チョウの標本と並べてみる。


左上:スジグロ(シロ)チョウ♀、左下:同♂、右上:モンシロチョウ♀。右下:同♂

 群馬にある妻の友人Mさんの畑には、何種類かのアブラナ科の植物が植えられていて、無農薬栽培をしているので、モンシロチョウがよくやって来て産卵している。少し探せば、青虫も簡単に見つかる。

 このモンシロチョウの幼虫を持ち帰り、育てたことがあった。飼育ケースに入れていたので、プラスチックの壁面で蛹化した。蛹の周辺にはかなりの範囲に細い糸が吐かれていて、きらきらと光って見える。このモンシロチョウは翌年まだ寒い2月に羽化してしまったが、翅が完全に開かなかった。


羽化後、鉢植えの花に止まらせたモンシロチョウ♀ 1/2(2017.2.1 撮影)


羽化後、鉢植えの花に止まらせたモンシロチョウ♀ 2/2(2017.2.1 撮影)

 ところで、このモンシロチョウについては、ファーブル昆虫記に記述がある。不思議に思われるかもしれないが、ファーブル昆虫記に本格的に登場する蝶というと、このモンシロチョウ1種だけである。

 全10巻の「ファーブル昆虫記」(山田吉彦、林 達夫訳、1990年 岩波書店発行)の総目次を見ると、鱗翅目・蝶類の箇所にはアカタテハ、欧州ヒオドシ、キアゲハ、コヒョウモンモドキ、そしてモンシロチョウの名前を見ることができる。(筆者注:この翻訳書では、オオモンシロチョウをモンシロチョウとして訳し、紹介しているので、以下ここではモンシロチョウとして扱う)

 しかし、本文を読んでみるとモンシロチョウ以外の種については、蝶自体の記述ではなく、アカタテハとキアゲハについては、ラングドックさそりの毒性の実験のために刺されて死んでしまうという内容である。

 「・・・(ラングドックさそりに刺されると)蝶類ではどんなことになるか。なよなよとしたこんな連中には、あの刺し傷はひどくこたえるに違いない。試験するまでもなく、そう私はきめ込んでいた。しかし観察者の良心から、実験だけは一応やっておこう。キアゲハもアカタテハも針を刺されると即時にたおれる。思ったとおりである。・・・」、と蝶好きには何とも困ったことになっている。

 また、蝶や蛾を飼育していると気がつくのだが、帯蛹のナミアゲハやキアゲハが羽化するときには、蛹の抜け殻の底に液体を排泄していく。また、翅が伸び、乾いていよいよ飛び立とうとするときにも、液体を排泄する。

 ヤママユ蛾の仲間も似たような行動をする。羽化したヤママユやウスタビガを掴もうとすると、突然尻の先から液体を噴出させるので驚くことがある。

 ファーブルはこうした液体や、幼虫時代の糞からの抽出物が、人体にどのような影響を与えるかを調べている。実験は、自身の上腕にこれらの排泄液や糞からの抽出物をガーゼなどに染み込ませたものを貼り付けて行っている。ほとんどの場合、抽出液に触れていた部分は赤く腫れてくるのである。

 欧州ヒオドシ、コヒョウモンモドキ、モンシロチョウについての記述も他の蛾類と共に、その排泄液の人体に及ぼす毒性についての記述であり、次のようである。

 「・・・私は蚕の乾いた糞をエステルで処理した。二、三滴に集約された浸出液は例の方法によって実験された。結果は驚くべきほど明瞭である。腕の疼く膿腫は、そのできかた、作用において、行列虫の排泄物が与えたと同様なものであった。推理の正しかったことが裏書された。・・・」

 「蚕で得た成功はどんな虫についてでも同じ成功を予想させた。事実はこの予想を残りなく確かめた。私はより好みをせず運よく手に入れたいろいろの幼虫、欧州ヒオドシ、コヒョウモンモドキ、モンシロチョウ、・・・・、をとって試験してみた。すべて私の実験は毒力に程度の差こそあれ、ただ一つの例外もなく痒みを起こした。・・・」

 「別の見地から、この問題を検討するときが来た。いつも汚物につきまとっている恐ろしい物質は消化物の残滓か。それはむしろ生体が働いて生む廃物、一般用語からは泌尿作用の産物といわれる廃物ではあるまいか。
 この生成物を遊離して別に採集することは、変態の経過に頼らなければとうてい行いがたい。すべての蝶類は蛹から出てくるとき、おびただしい尿酸の液汁とまだわからないいろいろの液体とを出すものである。これは新しい設計のもとに建て直された家の漆喰くずのようなもので、形を変えた動物体内で行われた根本作用の廃物なのである。それらの廃物は何よりも先ず泌尿作用の産物で、そこには消化された食料は少しも混ざっていない。
 それを手に入れるには、誰に頼んだらよいか。運はいろいろのことをしてくれる。私は庭の古い楡の上から珍しい幼虫を百匹ほど採集した。それは琥珀色のとげとげが七列に並んでいて、四つ五つ分枝を出したトキワサンザシといった具合だ。蛾(原文のまま)になったら、それは欧州ヒオドシに属することがわかるだろう。」

 思うに、ファーブルは蝶の生態についてはあまり関心がなかったようである。ただ、モンシロチョウについてだけは、その昆虫記の中で採りあげている。

 全10巻の最初の部分、序には次のような記述がある。

 「私はとうとうこの『昆虫記』の決定版を出す決心をすることになった。
 老齢に弱り、精力はなくなり、視力はおとろえ、動くこともほとんどできず、私は一切の研究の手段をうばわれてしまったので、たとえ命がのびたとしても、将来本書に何か付け加えられるとは思えない。
 本書の第一巻は1879年に、最後の第十巻は1910年に発行された。最近発表した二つの独立研究「つちぼたる」と「キャベツの青虫」はようやく手をつけかけた第十一巻の最初のいしずえとなるはずのものであった。・・・
 ・・・私の生涯の唯一のなぐさめであったこの研究を止むなく中止しなければならないことは実に残念である。昆虫の世界は実にあらゆる種類の思索の糧に富んでいる。もしも私が生まれかわり、また幾度か長い生涯を再び生き得るものとしても、私はその興味を汲みつくすことはないであろう。
                                                J・H・ファーブル」


J.-H. Fable (1823-1915、Wikipediaから引用)

 第十巻の最終24章「キャベツの青虫」ではこのモンシロチョウを採りあげている。(筆者注:昆虫記第十一巻は実際には発行されていない)

 モンシロチョウの食草であるキャベツについての記述と、モンシロチョウに寄生する「蚊」・ミクロガステルについての記述が長いが、モンシロチョウの幼虫・青虫が卵から孵化するときや、終齢の青虫が蛹化するときの記述は、次の通りさすがに詳細である。

 「卵は、植物の種子が中身が熟すと皮を破って割れるようにして壊れるのではない。生まれたての虫は、自分でその仕切りの一点を噛み破って、戸口をこしらえる。こうして円錐体の頂上に近く周りのきちんとした天窓ができる。それは裂け目も、破れれ目もない。これは壁のこの部分を齧って呑み込んでしまった証拠だ。・・・
 ・・・二時間ばかりのうちに全体の孵化は終わって、子虫は群がり合いながら、その場に残した産衣の上にいる。食物になる葉の上に降りてくる前に、長い間このテラスみたいなところに止まっている。。そこでたいへん忙しそうにさえしている。だが何のために? 珍しい芝生、そこにおったったなりのきれいな三角帽子を食べているのだ。ゆっくりと順序よく、赤ん坊たちは、上のほうから根元へ、今しがた出てきたばかりの袋を齧るのだ。一晩たつと、丸い点、なくなった袋の底のモザイクしか残っていない。
 最初の食料として、キャベツの青虫はその卵の包みの膜を食べるのだ。これが定まった食事だ。薄膜の袋のご馳走を食べる儀式的食事を済まさないで、近くの青葉に誘われる子虫を一匹だって見たことはない。幼虫が自分の生まれ出た袋を食べるなんて、これが初めてだ。この珍しいお菓子は、生まれたての青虫にとって一体何の役に立つのか? ・・・」

 キャベツの葉を旺盛な食欲で食べる青虫の姿を描写した後で、いよいよ蛹になるところについては、次のように描写している。

 「・・・一ヶ月ばかり食いつづけた後、飼籠の中の私の虫たちの、あのがつがつ食いは静まってきた。青虫は四方八方網目によじ登り、前身を持ちあげて目の前を探りながら、当てもなく歩き廻る。頭を振り振りそこここに、途々一本の糸を吐き出す。彼らは不安げにさまよい歩く。どうやら遠くに行ってしまいたい様子だ。・・・」
 「・・・どこか遠くに(蛹になるための)壁を捜しに行きたがって、幾日か網目の上で騒いでいた。壁は見つからないし、それに事はますます切迫してくるので、彼女等はあきらめて来る。めいめい自分の周りに、網目をたよりにして、薄い白絹の敷物を織る。これが蛹化の苦しい微妙な仕事の時の釣り床下敷きだ。この土台の上に、絹の座蒲団を使って、体の一番後の端を固定させるのだ。前身を釣り革を使ってそこに固定させる。肩の下を通って左右から敷物に結びつくようになっている釣り革である。このように三つの足場にぶら下がって、彼女は空中で幼虫の古衣を脱ぎすてて、蛹になるのだ。保護するものは壁だけで、私が手出しをしなかったら、きっとその壁を、どこかで見つけるに違いない。・・・」

 ファーブルが採りあげている「モンシロチョウ」は正確には「オオモンシロチョウ」で、日本で見られるモンシロチョウとは別種であり、ヨーロッパではアブラナ科作物の大害虫として知られている。

 このオオモンシロチョウの日本への進入が警戒されていたが、1995年に北海道で最初の発見があった。現在では、北海道のほぼ全域、青森県、岩手県北部に分布しているとされる。幼虫が高湿度に極端に弱く、また農薬に対する抵抗力が弱いことから日本では大害虫になる心配はほとんどないとされている。

 北軽井沢の嬬恋地区はキャベツの一大産地であるが、むろんこうした青虫による被害はない。われわれは安心して虫のいないキャベツを食べることができている。


 

 




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