ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

A Child Is Born Ⅳ

2013-11-27 06:08:27 | Weblog
楽譜を見れば分かるように、音楽は縦と横の目盛でできている。縦は音程、横は時間いわゆるリズムだ。音程は今の音楽はほとんど12個の階段状の周波数で区切られていて、その目盛で推移していく。だが横の時間軸はそうはいかない。個人個人の感覚に常にずれがあって、バンドで一緒にやっていわゆるリズムが合うという状態になるにはかなりのハードルがある。「正確なリズム」という定義がじつははっきりしないのだ。あまり速くなったり遅くなったりするのはもちろんよくないけど、それはトレーニングが足りないからでジャズの演奏でリズムが合うという状態はある一定のレベルに達したミュージシャン同士で通じあうコミュニケーションが成立している状態のことだ。その会話を理解するためには時間の目盛を細かくするしかない。楽譜に書かれているのはいわば四捨五入された目盛で実際の音符はかなり「ずれて」いる、というか「ずらして」いるのだ。またそうしないと音楽が歌わないものになってしまう。リズムセクションのビートに対してメロディーがわずかにずれる状態を楽しめないと音楽が成熟しない。もちろんこれは曲想、テンポ、場面で違ってくる。なんでもずらせばいいものではない。エロールガーナーのプレイは「behind the beat」と言われている。左手のビートに対して、右手のメロディーラインが遅れてくるのだ。これは彼が良いジャズを感性で捉えてそれを目指して訓練して身に付けた感覚だ。one&onlyのミュージシャンを引き合いにだすのも極端かもしれないが、この傾向は音楽は常にある。でもこの「ずれ」を表現するのは一朝一夕にはできない。そしてこの「ずれ」を楽しめるようにならないとリズムが合った状態の演奏は望めない。