ジャズの本分は即興だけど、その方法をどうやって身につけるかというのが、ジャズを目指す全てのミュージシャンの大問題だ。最初は本当に雲を掴むような話だ。スケールの名前やリハーモナイズの方法を知っていたところで、ほとんど役にはたたない。まあ無駄とは言わないけど・・・。練習といったって何をどう練習したらいいのか分からない。ずっと悩む、時々開き直る、それの繰り返しだ。結局、思いつくことを色々練習し、音楽構造を研究し、そしてセッションでボロボロになりながら体で覚えていくんだ。それしかないんだろう。でもちょっと冷静な立場で、考えてみると、ジャズプレーヤーのアドリブの発信源はそんなに単純に特定されるものではないんだ。とにかく一番大きく影響するのはそのひとの持ってる「音楽的教養」なんだ。うううん・・・ちょっと抽象的かな?でも他に言いようがない。それが「インプロヴィゼーション」なんだ。教養というのは、その人の価値を高めるものではあるけど、ひけらかすと鼻につく。扱いが難しい。マイルスが「In A Silent Way」のレコーディングの時、ジョーザヴィヌルの創ったあのたった数小節の曲のメロディーをルバートでやるのに、そのとき英国からやって来たばかりのジョンマグラフリンに弾かせようとした。マグラフリンはアメリカではまだ無名だったけどすでに一流の腕と個性を備えていた。音楽的教養も充分だ。でもマグラフリンは教養を使って工夫しようしすぎたのと、おまけに尊敬するマイルスの前だということで緊張して何回やってもうまく行かなかった。「どうしてもできません」と泣きを入れるとマイルスは「ギターが全く弾けない奴が弾いてるみたいに弾いてみろ」と言った。そしてうまくいった。マグラフリンの弾く超シンプルな弾き方には、彼の音楽的教養があふれている。教養を捨て去ることでかえってそれがにじみでたわけだ。マグラフリンもこれでジャズの歴史的名盤の重要な役割を果たすことになった。