ハンガリー映画『この世界に残されて』を見ました。1948年のハンガリーを舞台に、ホロコーストを生き延びた16歳の少女クララと42歳の医師アルドの信頼関係を描いた映画です。淡々と進んでいく中で、心の裏側まで見えてきて、心の虚実が描かれるすばらしい映画です。
監督 バルナバーシュ・トート
キャスト カーロイ・ハイデュク、アビゲール・セーケ、マリ・ナジ、カタリン・シムコー、バルナバーシュ・ホルカイ
(あらすじ)
第二次世界大戦が終わった1948年のハンガリー。婦人科医をしている42歳のアルドは、16歳の少女クララを診察する。クララは、ホロコーストで両親と妹を亡くしていた。アルドはクララの保護者となるが、ふたりの間には微妙な恋愛感情も生まれている。しかしそれをお互いに隠すしかない。一方ではホロコーストの影が迫っている。
最初はこの映画の意図が見えないままでした。少女と中年男性の恋を描いているのだろうか、それともホロコーストを描いているのかわかりません。淡々とアルドとクララの不安定で、それでも信頼を得ていく関係が描かれていきます。その中で二人には恋愛感情が生まれていくようにも見えます。しかしアルドはその感情を抑えているようにも思えます。
この微妙な関係が、言葉によって語られることはありません。淡々と描写されていくだけです。ホロコーストによる社会的な無言の圧力の中で、二人は心を表に出すことができなかったのです。
アルドは再婚を決心します。そして映画はいきなり3年後になります。その3年後を描く10分ほどの場面がとてもいい。すべてが昇華します。
特にクララが「うそついている?」と尋ねたことに対して、アルドが「いつもさ。」と答える場面がすばらしい。この「うそ」は決して騙すための「うそ」ではありません。真実そのものなのです。
「今ここにいない大切な人たちへ」と言って乾杯する場面で終わりになります。この終わり方がまたいい。
80分ほどの短い映画でしたが、真実が凝縮されたすばらいい映画でした。