まさおさまの 何でも倫理学

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性本能のこわれた動物

2010-12-14 12:45:27 | 性愛の倫理学
昨日の南郷中学校の講演会ではいつものように、
人間は 「本能がこわれた動物」 であるというところからスタートしたのですが、
その話をゆっくりすることができませんでした。
特に人間の場合、性本能がこわれているという話はいろいろと面白いエピソードが多いのですが、
中学生相手だし、特に保護者の皆さんもいらっしゃったからということで、
私には珍しくちょっと自主規制してしまったという面もなきにしもあらずです。
私、意外と小心者ですね。
親の前では恥ずかしくてそんな話聞けないけど、実は興味津々という中学生のために、
ここで補足説明をしてあげることにいたしましょう。

「本能がこわれている」 というのは 「本能がない」 という意味ではありません。
本能はあるのですが、それが他の動物のようにきちんと本来の自然目的と結びついていないのです。
イヤなものからは離れよう、遠ざかろうとする生存本能は人間だって持っているのだけれど、
人生のなかのイヤなことから離れようとするあまりに、人間は自殺してしまうことがある、
それは、せっかくの生存本能がこわれてしまっていて、
生きるという本来の目的にしっかりと結びつけられていないからだ、と説明しました。
性本能に関しても同じことが言えます。
人間には性欲という形で性本能がそなわっています。
しかし、他の動物の場合、
性本能は生殖 (つまり子どもをつくる) という自然目的とちゃんと結びついているのですが、
人間の性本能はこわれてしまっているので、
性欲が生殖のための行動へとまっすぐ向かっていかないのです。

他の動物はほとんどの場合、繁殖期と呼ばれる妊娠可能な時期にしか性行為を行いません。
メスの排卵日以外に性交しても妊娠する可能性は低いですので、
子どもをつくることが目的であるならば、そんな時期に性交するのは無意味です。
ところが人間は、排卵日とかとはまったく関係なく、いつでも性交可能だし、
実際に妊娠の可能性がまったくないときにも性交してしまうのです。
動物から見ると、なんとムダなことをしているのだと見えることでしょう。
しかし人間の性本能はこわれていますから、
そもそも子どもをつくるためだけに性行為を行っているのではないのです。

それどころか人間は避妊をします。
皆さんが、自分で働いて一人前に稼いで生きていけるようになる前にセックスするときは、
必ず避妊をしなければなりませんが、
しかし、これも動物の目から見てみると、避妊をして性行為を行うというのは、
まったくわけがわからないということになるでしょう。
子どもができないように気をつけながら子どもをつくる行為をしているということになるのですから。
それぐらいなら最初からやらなければいいのに、
でも人間は避妊をしてでも性行為をしたいというくらい、
性本能 (つまり性欲) がおかしくなってしまっているのです。

人間のなかには同性愛の人たちもいます。
同性どうしで性行為をしても当然のことながら子どもはできません。
人間の性本能が動物のように生殖目的に限定されているならば、
同性どうしで愛し合うということは生じてこなかったでしょう。
しかし、人間の場合は性本能が生殖目的に限定されていませんので、
同性愛という、他の動物にはない、人間独特の性文化を生み出すことができたのです。

同性愛で驚いていてはいけません。
人間は自分ひとりで性行為をすることができます。
オナニーというのは性交ではないかもしれませんが、れっきとした性行為です。
人間はそれをひとりでしてしまうのです。
どんなにがんばっても絶対に子どもはできません。
でもしてしまいます。
それくらい人間の性本能は生殖から切り離されてしまっているのです。

たしかに他の動物と比べてみたら人間の性本能はこわれてしまっているかもしれませんが、
では人間は子どもをつくって種を保存していく能力が他の動物よりも劣っているでしょうか。
そんなことはありません。
人間は現在、地球上で最も繁栄し、繁殖にも成功している種であると言っていいでしょう。
(むしろ今では人口が増えすぎて困っているくらいです。)
なぜこんなに人類は繁栄することができたのでしょうか。
それはこわれてしまった性本能のかわりに、豊かな性の文化を生みだしてきたからです。
生殖とは無関係に性行為をする人間独特の性文化のおかげで、
結果的に子どもをたくさん殖やすということにも成功してきたのです。
(もちろん、生まれた子どもを確実に育てるためのさまざまな文化も大いに関係していますが。)

というわけで、人間は本能がこわれてしまったおかげで、
他の動物のように自然目的ときっちり結びついた行動が取れなくなってしまっていますが、
そのかわりに豊かな文化を築き上げることによって、
他の動物がけっして手に入れることのできないような可能性と自由を獲得しました。
皆さんもぜひ、人類が長い時間をかけて育ててきた多種多様な文化をひとつずつ身につけて、
無限の可能性と自由を手に入れてください。
そして、中学生のみんなにもう一度繰り返して言っておきますが、
若いうちに性行為をしなくてはいけなくなってしまった場合には、
避妊という、人類が生んだ素晴らしい性文化をきちんと実践するようにしましょう。
でも、あんまり急いで性行為をする必要はありません。
きちんと考える力がついて、自分のことも相手のことも大切にできるようになってから、
ゆっくり楽しめばいいことなんですから。
性行為というのも人間が生んだ素晴らしい文化のうちのひとつですが、
一歩間違うと自分も相手も深く傷つけてしまうことがありうるということは覚えておきましょう。


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