まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

映画 『私の中のあなた』

2010-10-30 19:02:49 | 生老病死の倫理学
予告編を見たときは、倫理学者として見とかなきゃいけないかなあと思ったのですが、
この手の重い話が苦手な私は、ついついパスしていました。
最近になってうちの院生から強く薦められたので、しかたなくDVDを借りました。
『私の中のあなた』 です。
キャメロン・ディアスがシリアスな役に挑んだというので話題になった映画ですが、
シリアスなキャメロン・ディアスも特に見たくなかったし、
院生に薦められていなければ本当にずっと見なかったかもしれません。
しかし、見ておいてよかったです。
とてもいい映画でした。
教え子に感謝したいと思います。

あらすじはご存知の方も多いかもしれませんが、
白血病を患った長女を救うために、遺伝子操作でドナーとなれる次女をつくり、
臍帯血移植や骨髄移植を行ってきたのですが、
病気の進行の中で腎不全にもなってしまった長女に、
次女から腎臓移植をすることにしたら、
次女が臓器提供を拒否して両親と法廷で争うことになるというショッキングな内容です。
知りませんでしたが、この映画には原作の小説があり、
その小説は実話に基づいているのだそうです。
うーん、ものすごい話です。
こんなことが実際に起こるなんてさすがはアメリカです。

ただし原作と映画ではラストが違っているそうです。
原作はまだ読んでいませんが、
ネットで知りえた情報によるかぎり、映画のほうが断然いい感じです。
原作のほうはちょっと耐え難い結末です。
なので、実話や原作がどうなっているかはよくわかりませんが、
映画を見ただけの判断で以下は書くことにします。
表向きのテーマは生体移植の是非です。
脳死・臓器移植をずっと行うことのできなかった日本において、
生体移植はごく普通の医療行為であるかのように受け入れられてしまっていますが、
私は生体移植は脳死・臓器移植よりもはるかに、倫理学的にグレーな行為だと思っています。
特に生体移植はたいていの場合、家族間で行われますので、
アホのマスコミがすぐに美談として報じたがりますが、
この映画の次女のように、家族だからといって臓器を提供なんかしたくない、
という人がいたってまったく不思議ではないわけです。
この映画の裁判ではさらに、子どもに自主的判断能力があるかどうかということも争われます。
子どもにはまだ意思表示する能力がないのだから、
親が代理で決めてあげて、妹から姉に臓器提供をさせようとしているわけです。
こんなパターナリズムが許されていいのでしょうか?
遡っていえば、デザイナーズ・ベイビーをつくってその子から移植するという手がありますよ、
と薦めた医者こそがこの問題の大元凶です。
訴訟大国のアメリカで、なぜこういう医者を傷害罪で訴える弁護士が出てこないのか、
不思議でしょうがありません。

とまあ、生体移植反対派の私としては許し難いポイントがいくらでもあるのですが、
しかしこの映画は愛に溢れています。
たんなるパターナリスティックな愛というだけでなく、
本当の家族愛に溢れています。
この映画のもうひとつのテーマは 「死の受容」 です。
これ以上はネタバレになってしまいますのでもう書けませんが、
原作との違いもこのもうひとつのテーマがあるかないかということになるのではないでしょうか。
このテーマが付加されたことによって、
原作よりもはるかに奥深く感動を呼ぶ物語になったのだろうと思います (あくまでも推測)。
ボロボロ泣くことは間違いありませんが、悲しい涙ではありませんので、
ぜひ一度ご覧になってみることをオススメします。

さて、この映画の原題は 「My Sister’s Keeper」 です (原作も同じ)。
カインとアベルの物語のなかの、弟を殺したカインのセリフ、
「私は弟の番人 (my bother’s keeper) でしょうか?」 から取られています。
英語の sister は姉と妹どちらも指すことができますので、
妹は姉の命の番人であるという意味で My Sister’s Keeper であり、
姉は自分の身体の中に妹からもらったものを keep しているという意味で、
My Sister’s Keeper であるという、なかなか凝ったタイトルです。
それに対して、邦題の 「私の中のあなた」 は、これも原作の邦訳タイトルと同じなのですが、
原作の場合はまあこれでよかったにしても、
原作とラストを変えてある映画の場合、
「私の中のあなた」 ではこの映画のストーリーやテーマをうまく表せていないように思います。
なんて訳したらいいのかちょっと難しいですが (『姉の番人』 ではヒットしないでしょうし)、
困ったときは原題のまま 『マイ・シスターズ・キーパー』 でよかったのではないでしょうか。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« クララが立った | トップ | Q.生命倫理などに答えはだ... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは (トモ)
2010-11-01 00:12:33
DVDかりてみてみます!
返信する
ぜひっ! (まさおさま)
2010-11-01 00:59:29
ぜひ見てみてくださいっ!
返信する
はじめてコメントいたします。 (腎臓移植について)
2010-12-20 14:21:36
腎臓移植や肝臓移植をキーワードに調べていたところ、こちらのサイトへたどり着きました。
助かる命がそこにあるのなら、少しでもお役に立ちたいと臓器移植に関していろんなサイトを閲覧しています。
少しでも多くの人たちを助けたいと考え、微力ながらも行動しています。
こちらのサイトは参考になり大変助かりました。
ありがとうございました。
返信する
コメントありがとうございました (まさおさま)
2010-12-20 15:05:43
腎臓移植についてさん (これがお名前なんですよね?)、コメントありがとうございました。
私は倫理学者なのでできるだけ中立の立場から、
脳死や臓器移植についてもいくつか、学生向けに簡単に書いております。
また、なにかの節にお越しください。
返信する

コメントを投稿

生老病死の倫理学」カテゴリの最新記事