中日新聞の「くらしの作文」に「繕(つくろ)う」というタイトルで、74歳の女性が投稿されていました。
「穴のあいた靴下を縫ってほしい」と差し出す夫に「もう十分はいたから、さよならしようよ」と返事した。
すると「暖かいから頼む。それにこれもお願い」と、虫食いのセーターまで持ってきた。
そんなことをしなくても、たくさん着るものはあるのにと思いながら、私は針と糸を用意した。
それらは、二十年ほど前に息子が着ていたものである。
当時夫は、入院中の息子に会うのを極力、避けていた。
親より先に逝ってしまう子に、口下手で掛ける言葉を持ち合わせていなかった彼は、現実を受け止めることができなかったのであろう。
私には分かる。
不器用な夫は今、息子の遺(のこ)した衣類を身に着けることで、精いっぱいの供養をしている。
「お願いだから、これ着て外へ出ないでね」と冗談ぽく念を押すと「うん」と空返事で上着を羽織って墓参りに出かけていった。
心の中で生きている息子に「お父さんも円くなったわ。好々爺(や)よ」と呟き、私は靴下の穴を繕う。
息子の衣類を着尽くすまで、夫には長生きしてもらいたい。
もうすぐ桜の花が咲く。
みんな揃って、またあなたの話をしますよ。
今年は一七回忌である。
以上です。
>「穴のあいた靴下を縫ってほしい」と差し出す夫に「もう十分はいたから、さよならしようよ」と返事した。
最初のここを読んで、「このおじさん何を考えているんだ!
奥さんが大変じゃないか」と言ったら、かみさんが「最後まで読んだら」と言いました。
>不器用な夫は今、息子の遺(のこ)した衣類を身に着けることで、精いっぱいの供養をしている。
そうなんだ、ご子息の衣類を身に着けることで供養されているんだ。
納得しました。
最後まで読んで納得しました。
>当時夫は、入院中の息子に会うのを極力、避けていた。
親より先に逝ってしまう子に、口下手で掛ける言葉を持ち合わせていなかった彼は、現実を受け止めることができなかったのであろう。
私には分かる。
理解ある奥様を持たれて良かった。
普通なら冷たすぎると思ってしまうのに。
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