2010年11月14日 01時03分11秒掲載
URL http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/101113/crm1011132108015-n1.htm
「警視庁捜査1課と東京地検が捜査を続ける沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐる映像流出事件。捜査当局は、流出を認めた神戸海上保安部の海上保安官(43)について、週初めにも逮捕の可否など捜査方針を決める。捜査当局は「国家公務員法の守秘義務違反にあたるか否か」「逮捕すべきか否か」「世論をどう考えるか」といった論点を検討したうえで、最終的な捜査方針を決断することになりそうだ。
国家公務員法100条では「職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない」としている。問題は、映像が「秘密」にあたるかどうかだ。法曹関係者の中には、「限定的とはいえ国会議員に公開されたのだから、秘密といえるのか」といった意見がある。
しかし、法務・検察内ではこれまでのところ、映像は「秘密」にあたり、流出は違法行為との見方でほぼ一致している。
法務省の西川克行刑事局長は国会答弁で、「捜査資料として提供を受けたものだから(刑事訴訟法)47条の『訴訟に関する書類』に該当する」と答弁。訴訟書類を公判前に公開することを禁じている刑訴法47条により、映像は「秘密」にあたるとの見解を示した。
検察首脳も「海保の人間でなければ見られない映像で職務上知り得た秘密といえる」と話す。
保安官はこれまで、任意での聴取を受けてきた。逮捕するのか、書類送検とするのか。法務・検察内部では、起訴して刑事罰を科すだけの悪質性があるのかが議論になっている。
ある検察幹部は「海保職員なら誰でも見られる状態だったのならば、刑事的な処分が必要なのか疑問だ。逮捕せずに起訴猶予が妥当だろう」と話す。
一方で、別の検察幹部は「USBメモリーを捨てているし、供述もあいまいなところが多い。逮捕する必要性は十分ある」と話す。
処罰をも求めない国民世論も意識せざるを得ない。警視庁関係者は「世論を考えると、逮捕という選択は難しいのでは」と話す。一方、法務省幹部は「あまりに国民の声を考慮しすぎると、国家公務員法が成り立たなくなる」と、悩ましい胸の内を語っている。
国民に利益、起訴猶予が相当
元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士の話「流出したビデオ映像は、国家公務員法にいう『秘密』に該当すると思う。だが、誰がどう見ても該当するというものではなく、ギリギリの限界事例だといえる。国民は衝突の事実を知っているし、秘密性の程度はそれほど強いものではない。要保護性についても国民の知る権利との関係を考えると、それほど強くない。違法性の程度は軽度であると思う。
刑事処分を考える上で最も重要なのは、どうして流出させたのかという動機だ。面白半分でネットに投稿した場合は酌量の余地はないが、仮に義憤にかられて国民の知る権利に応えるためにやったとなれば、ビデオ流出自体は違法なことだが、国民として共感できる部分もある。
また、中国船の船長は釈放されているので、今後の捜査への影響はほとんどない。中国に対する外交上のカードはなくなったといえるが、国民が受けた社会的な利益を考える必要もある。さらに船長を外交的配慮で釈放した件とのバランスの問題もある。純粋にそのような動機であれば、仮に逮捕したとしても、起訴猶予が相当だと考える」
再発防止へ起訴すべきだ
公益通報支援センター事務局長の阪口徳雄弁護士「ビデオ流出は国家公務員法違反に該当し、違法性は高く起訴されるべき事案だと思う。あの程度のビデオを公開しなかったという政府の判断には賛成しないが、政府がいったん公開しないと判断したものを、公務員が政府の政策が気にくわないからといって勝手に公開するとなると、国家の体をなさなくなる。
内部告発者を保護する公益通報者保護法は、刑事罰に処されるような違法、不正行為の場合に限って告発者が守られるもの。今回のケースは政府が外交上の判断などでビデオを一般公開しなかっただけで不正行為ではない。政策の当否をめぐる議論にすぎず、公益性のある通報とはいえない。
普通の公務員ではなく、海上保安官という点も重要だ。海上保安官は捜査権という権力を持っており、例えば、民主党元代表の小沢一郎氏の政治資金規正法違反事件を担当した東京地検特捜部検事が『不起訴は許せない』といって関係者の供述調書を公開するのと同じ行為だと思う。
今後も公務員が秘密を暴露する事件が起きたらどうするのか。再発防止の観点からも、刑事処分は粛々と行われるべきだ」
URL http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/101113/crm1011132108015-n1.htm
「警視庁捜査1課と東京地検が捜査を続ける沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐる映像流出事件。捜査当局は、流出を認めた神戸海上保安部の海上保安官(43)について、週初めにも逮捕の可否など捜査方針を決める。捜査当局は「国家公務員法の守秘義務違反にあたるか否か」「逮捕すべきか否か」「世論をどう考えるか」といった論点を検討したうえで、最終的な捜査方針を決断することになりそうだ。
国家公務員法100条では「職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない」としている。問題は、映像が「秘密」にあたるかどうかだ。法曹関係者の中には、「限定的とはいえ国会議員に公開されたのだから、秘密といえるのか」といった意見がある。
しかし、法務・検察内ではこれまでのところ、映像は「秘密」にあたり、流出は違法行為との見方でほぼ一致している。
法務省の西川克行刑事局長は国会答弁で、「捜査資料として提供を受けたものだから(刑事訴訟法)47条の『訴訟に関する書類』に該当する」と答弁。訴訟書類を公判前に公開することを禁じている刑訴法47条により、映像は「秘密」にあたるとの見解を示した。
検察首脳も「海保の人間でなければ見られない映像で職務上知り得た秘密といえる」と話す。
保安官はこれまで、任意での聴取を受けてきた。逮捕するのか、書類送検とするのか。法務・検察内部では、起訴して刑事罰を科すだけの悪質性があるのかが議論になっている。
ある検察幹部は「海保職員なら誰でも見られる状態だったのならば、刑事的な処分が必要なのか疑問だ。逮捕せずに起訴猶予が妥当だろう」と話す。
一方で、別の検察幹部は「USBメモリーを捨てているし、供述もあいまいなところが多い。逮捕する必要性は十分ある」と話す。
処罰をも求めない国民世論も意識せざるを得ない。警視庁関係者は「世論を考えると、逮捕という選択は難しいのでは」と話す。一方、法務省幹部は「あまりに国民の声を考慮しすぎると、国家公務員法が成り立たなくなる」と、悩ましい胸の内を語っている。
国民に利益、起訴猶予が相当
元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士の話「流出したビデオ映像は、国家公務員法にいう『秘密』に該当すると思う。だが、誰がどう見ても該当するというものではなく、ギリギリの限界事例だといえる。国民は衝突の事実を知っているし、秘密性の程度はそれほど強いものではない。要保護性についても国民の知る権利との関係を考えると、それほど強くない。違法性の程度は軽度であると思う。
刑事処分を考える上で最も重要なのは、どうして流出させたのかという動機だ。面白半分でネットに投稿した場合は酌量の余地はないが、仮に義憤にかられて国民の知る権利に応えるためにやったとなれば、ビデオ流出自体は違法なことだが、国民として共感できる部分もある。
また、中国船の船長は釈放されているので、今後の捜査への影響はほとんどない。中国に対する外交上のカードはなくなったといえるが、国民が受けた社会的な利益を考える必要もある。さらに船長を外交的配慮で釈放した件とのバランスの問題もある。純粋にそのような動機であれば、仮に逮捕したとしても、起訴猶予が相当だと考える」
再発防止へ起訴すべきだ
公益通報支援センター事務局長の阪口徳雄弁護士「ビデオ流出は国家公務員法違反に該当し、違法性は高く起訴されるべき事案だと思う。あの程度のビデオを公開しなかったという政府の判断には賛成しないが、政府がいったん公開しないと判断したものを、公務員が政府の政策が気にくわないからといって勝手に公開するとなると、国家の体をなさなくなる。
内部告発者を保護する公益通報者保護法は、刑事罰に処されるような違法、不正行為の場合に限って告発者が守られるもの。今回のケースは政府が外交上の判断などでビデオを一般公開しなかっただけで不正行為ではない。政策の当否をめぐる議論にすぎず、公益性のある通報とはいえない。
普通の公務員ではなく、海上保安官という点も重要だ。海上保安官は捜査権という権力を持っており、例えば、民主党元代表の小沢一郎氏の政治資金規正法違反事件を担当した東京地検特捜部検事が『不起訴は許せない』といって関係者の供述調書を公開するのと同じ行為だと思う。
今後も公務員が秘密を暴露する事件が起きたらどうするのか。再発防止の観点からも、刑事処分は粛々と行われるべきだ」