新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

アメリカの企業に採用されれば

2021-11-04 09:40:15 | コラム
そこは異文化の世界なのである:

本日発行される週刊新潮の新聞広告を見れば「小室氏が法律事務所クビか」とあった。「それを言うのか」と思った。

今頃になって遅ればせながら「アメリカとはこういう異文化の世界であること」を記事にしようとすることが良いのかも知れないが、少なくとも企業社会における文化の違いを何とかして広く知られておくようにすることは賛成である。

何が言いたいかだが、私は報道機関が取り上げたことを基にするしかないので、週刊新潮が言わんとすることは「Lowenstein Sandlerは弁護士試験に受かるはずの小室氏に2,000万円という年俸を払う予定だったのだが、不合格だった以上はその資格がない以上継続して雇用しないだろう」だと思う。さもなければ、来年2月の試験に合格するまでは600万円の助手扱いという意味か。

私は既に何度かアメリカの法律事務所に弁護士として採用されれば、高額の初任給を与えられるが、その勤務で生じる労働量の大きさは下世話な言葉で言えば「半端じゃない」と解説してきた。但し、こういうことに関するマスコミ報道では「アメリカで法律事務所に弁護士として採用されれば、そこには素晴らしいバラ色の世界が待っている」とでも言いたいように思えてならなかった。現実はそういうことではないようなのに。

断言するが「それが100%正しいことではないし、真実を伝えていない」のである。アメリカの会社に勤務するとはどういう事になるかは、拙著「アメリカ人は英語がうまい」にも詳細に述べてあるが、敢えて再録してみよう。「高額な年俸を与えられるということは、それに見合う働きをしなければ馘首されても苦情を申し立てません」と誓ったのと同じなのである。更に述べてあったことは「初年とは必死に能力の限界まで働いて何とか目標を達成しても、翌年度の目標は更に高くなるので、能力の限界を超えてしまうので、達成できずに馘首となる危険性が高い」だった。

あるアメリカの大手企業の非常に能力が高い辣腕の誉れ高い日本代表者は言った「俺は本社からクビを言われることは99%ないと確信している。だが、何か些細なことが起きると残っていた1%が急激に膨れ上がって99になってしまう恐怖感がある。だから、俺は毎日毎晩その残る1%を何としても抑え込もうと必死なんだ」のように。この我が国の企業社会ではあり得ないような「馘首」の危険性は常に我々に付きまとってくるのだ。私はこの状態を古い言い方で「板子一枚下は地獄であり、毎日その薄い板の上を彷徨い歩いているだけ」と表現していた。

その危険性がある世界に入ってきた代償が高額の年俸なのであるが、実力と能力と実績次第ではその高給は待ったなしで何処かに吹っ飛んでいく世界なのだ。これは決して単なる面白おかしい異文化の国の話ではないのだ。私は何人もから俗に言われている「朝出勤してみたらデスクの上に『貴方の仕事は昨日で終了した。この知らせを持って経理部に行って昨日までの給与を受け取って帰ってくれ』と記した紙があった」との経験談を聞いている。今朝会ったばかりの若手が午後に「明日から来なくても良い」と告げられたと嘆いたのを聞いたこともあった。

職業選択の自由や、自由に職(会社)を移動できるということの裏には、このようになっているのだ。「何だ。そんなことは知っている」などと言わないで欲しい。アメリカでは会社が社員を採用するのではなく、各事業部の長が必要により新規の即戦力社を採用しているのであって、採用しても条件を満たさなければ馘首する権限を持っているのだ。何度も採り上げた例に「ヘンリー・フォード二世は社長のリー・アイアコッカを突然退任させ、アイアコッカ氏の腹心の副社長をも“I don’t like you.”という解りやすい理由で解雇したのだった。

そういう世界であるから、週刊新潮が「小室氏が法律事務所クビか」という記事を載せたということは「故なきことではない。そういう事態もあり得るか」なのである。小室氏がもしも「bar examに合格する」との条件で採用されていたのだったら、そのような最悪の事態もあるのがアメリカなのだ。


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