我が国の企業の劣化か?
トヨタグループを代表するトヨタ自動車の豊田章男会長が、自社のグループ内の豊田自動織機、日野自動車、ダイハツにおける検査等の不正を謝罪された。率直に言って“Better late than never.”だと受け止めた。このところ、我が国の製造会社での製品の質の問題ではなくて、製品の検査の手続き等における誤魔化しや不正行為があったのは、大いに問題であると危機感を覚えていた。
それは「劣悪な製品を市場に送り出すような技術や労働力が劣化したのではなく、簡単に言えば仕上がりの検査等でインチキをして通過させた製品を知らん顔で市場に供給していた非道徳的な行為だったから」である。これまでに、この種の不正が行われていたのは三菱系でもあったし、他にも先例があったので、これらは例外的かと思えば、そうでもなかったのは大いに遺憾である。
我が国の製造業ではモラル(と敢えてカタカナにするが)を失いつつあるのかという危機感である。そういう行為が何処かの後進国で行われたのではなく、歴とした世界の経済大国である我が国での怪しからん事件なのだ。
実務を担当する者たちが(上からの?)プレッシャーに圧されたの、なんのという言い訳もあったようだが、そうであれば製造現場の劣化ではなく、経営の実務を担当する会社側の連中の質の問題だろう。そんな事態が発生している事を、経営者たちが把握せず看過した責任は重大ではないのか。トヨタ自動車の佐藤社長や豊田会長が記者会見で頭を下げれば解決する問題とは思えないのだ。トヨタ内部で責任者を処分されたのだろうか。
現在の全世界の経済情勢は容易ならざるものがあると思う。だからと言って、生存競争を勝ち抜いて企業を存続させていく為には、不正な手段を採っても良いと経営陣が暗黙の了解でもしているのだろうかと疑いたくなる。もしそうならば、彼らは自社さえ良ければと考えて、需要家や消費者の為に物作りをしようとは考えていない事になる。そんな連中を許して良いのだろうか。そうではあるまい。
技術陣の質が低下したとか、製造現場の作業員たちの質も悪化して、質が悪い製品を作ったのであれば改善の余地があるだろう。だが、上に立つ者たちの道徳心が劣化していたのでは、問題の質が違う。
アメリカのように職能別組合の組合員たちの質に問題があって製品の品質管理が不行き届きで、世界の市場での地位を失っていったのとは問題の性質が違う。再教育されるべきは経営陣であり、会社の管理職なのではないか。
競争の激化だの、エネルギーコストの上昇だの、人件費の高騰だの、原材料費の値上がりだの、輸送コストの上昇等々の圧力に負けて、不正をしてまで競争を切り抜けて生存していこうとでも考えていたのであれば、それは道徳心の問題ではないのか。
最終製品を値上げしなければ会社として成り立たないというのであれば、需要家や消費者に納得して貰うような解りやすい説明をして正々堂々と値上げを試みていくべきではないのか。
街場のラーメン店ではないのだから「うちだけが値上げをすれば、お客様を同業に持って行かれる」などと考えて不正の挙に出たのであれば、経営者としての認識に欠け、責任を取ろうとの信念が薄弱だったのではなかったのかと非難したい。
私は「世界がどう受け止めるか」などは気にせずとも良いと考えているが「今回のトヨタの一件は事がトヨタだけに世界がどう受け止めるか」には大いに気懸かりなのだ。