アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

19c後(ドグラ期) カシミヤ刺繍衣装”チョーガー”

2016-06-07 00:30:00 | 民族衣装








製作地 インド ジャンムー・カシュミール州 シュリーナガル  
製作年代(推定) 19世紀後期 ドグラ期
素材/技法 カシミヤ山羊の内毛(うぶ毛)、天然染料 / 2/2綾組織、刺繍、アームリカル

本チョーガーは19世紀後期のドグラ期(英国植民地下のヒンドゥ藩国)のシュリーナガルで手掛けられたもので、2/2綾組織で織られた淡黄色のパシュミナ地に天然染料で色付けした多色のカシミヤ糸を素材に繊細な刺繍(アームリカル)により装飾がなされたものとなります。

前開き・長丈でゆったりと羽織るジャケットタイプの上着”チョーガー”は、トルコ・アフガン等の宮廷衣装の影響を受けムガル期に発展した貴族男性装束のひとつですが、これをカシミヤ(パシュミナ)という特殊な素材で手掛けた点にムガル(インド)染織・衣装の独創性が感じられます。

本品はチョーガーとしてはやや小さめで、サイズ面と色柄の意匠から鑑み若年者用と推察されますが、地には極めて繊細な糸遣いで密に織られた布が用いられており、緻密なステムステッチとダーニングステッチによる小さな花弁を無数に散りばめた”ボテ”や”花唐草”の刺繍は何とも瀟洒で秀逸、作品全体から貴族装束としての格調の高さと気品が薫ってまいります。

大小の欠損はあるものの、首周り・背・肩・袖・裾等の最も重要と言える刺繍部分はむしろ状態良好で美しさが保たれており、巧緻なつくりの組み・刺しの円盤状ボタンがオリジナルのまま残っている点など、欠損を補って余るほどの魅力をディテイル各所から感じられるところとなります。

19c後期パシュミナ刺繍チョーガーの薫り高き逸品であり、資料的にも極めて貴重な完品です。






















●本記事内容に関する参考(推奨)文献
 

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