廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

現代的な感覚に満ちた演奏

2018年12月16日 | Jazz LP (Vanguard)

Mel Powell Trio / Borderline, Thigamagig  ( 米 Vanguard VRS 8501, 8502 )


ヴァンガード・レーベルの音楽は、ジャズ愛好家の意識の中から急速な勢いで消え去りつつあるのではないだろうか。 このレーベルは「中間派専門」という
レッテルを貼られてしまったのがまずかった。 それは間違っているわけではないけれど、「中間派」という言葉が与える画一的なイメージが人々の興味を
無意識的に制限して限定してしまう。 その言葉が一般的に喚起するイメージは、ヴィック・ディッケンソンやバック・クレイトンらの音楽だろう。
それらは素晴らしい音楽だけど、その単調さにウンザリした気分がやってくるのも早い。

だが、実際にヴァンガードに残された作品の中には、そういう狭いカテゴリーには収まらないような優れたものが存在する。 その代表格がメル・パウエルの
アルバムだと思う。 イェール大学でパウル・ヒンデミットに師事するような人だったから、その音楽は「中間派」の枠になんか収まるわけがない。
でもヴァンガードのレコードを買って聴こうかという人の多くはスイング・ジャズを愛する人だから、例えばこれらのレコードは嗜好に合わずあまり評価されない。

ベースを入れず、ピアノとドラム、そして管楽器1本という変わったトリオ編成で、もうこの時点で感覚の違いが顕著だ。 管楽器はポール・クイニシェットであり、
ルビー・ブラフということで見かけ上はあくまでもスイング系だし、演奏も方法論としてはそれを踏襲しているけれど、出来上がった音楽は中間派とは程遠い、
まったく新しいものになっている。 管楽器奏者がそういう新しさに何の違和感もなく上手く馴染んでいるところに音楽的成功の鍵がある。

これは、例えば古い音楽にはまったく興味がなく、現代ジャズしか聴かないよ、という人が聴いても何も違和感を持たないであろう、そういう感覚に満ちている。
ピアノは自由に飛翔し、ドラムのブラシが空間の間口を拡げ、その中を管楽器がスムースに泳ぐ。 特にクイニシェットのテナーの艶めかしい動きが素晴らしい。
録音は1954年だが、メル・パウエルが牽引するここでの演奏の感覚は大きく時間を飛び越えて現代にまで手が届いているのが驚異的だと思う。

元々が作曲家志向だったことや筋ジストロフィーになったことなどから、演奏家として最盛期だった頃のレコードが少ししか残っていないのが何より残念だ。
そんな彼のアルバムをしっかりと残したのが、ヴァンガードというレーベルだった。


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