Horace Silver Quintet / Silver's Blue ( 米 Epic LN 3326 )
ハード・バップは何も大きな音で弾けるように演奏しなくても十分に傑作をつくることができるということを証明しているのがこの作品。 死語となってうん十年、
思わず赤面してしまうけれど、"Light & Mellow" という言葉が一番ピッタリとくる。 ハード・バップは騒々しくて苦手、という向きにもこれなら大丈夫。
ドナルド・バードとアート・テイラーが入った演奏と、ジョー・ゴードンとケニー・クラークが入った演奏の2つの構成から成っているが、その違いはほとんど
わからない。 それくらい全体の質感が統一されている。 部分的な差異などものともしない、ホレス・シルヴァーの徹底した音楽作りが成功している。
ブルースとファンクを生来の極めて洗練された感覚でコーティングされたシルヴァー特有の音楽が、ここに最良の形で記録されていると思う。
楽曲も秀逸で、"Hank's Tune" の明るい曲想に導かれたモブレーの美しいアドリブ・ライン、"夜は千の眼を持つ" が放つ熱帯の夜のほのかな残り香の妖しさ。
他のアルバムでも演奏された彼らのオリジナル楽曲のわかりやすさ。 それらが非常に丁寧に、そして穏やかな表情で演奏されていく。
エピックの音質も相変わらず良くて、ノスタルジックな趣の適度な残響感の中、どの楽器も灯に照らされたような輝きを発している。 全体のバランス感も良く、
何かが過剰に突出することもない素晴らしい音場感で、演奏の良さをこれ以上なく引き立てている。 ヴァン・ゲルダーだけがハード・バップの音を作った
というわけではない。 こういう音作りも好ましい。
メジャー・レーベルのジャズということで愛好家からは軽く扱われがちのような気がするけれど、こんなによく出来たハード・バップは3大レーベルの中でも
探すのが難しいのではないだろうか。 ジャム・セッション的要素を排した、完成度高く音楽的にしっかりと聴かせる素晴らしい内容となっている。
20数年振りに聴いたのだが、こんなに出来が良かったっけ?とちょっと驚いてしまった。
すごく久し振りに聴きましたが、すごくマイルドで洗練されていて、驚きました。 年齢によって感じ方が随分違うなあと思いました。
私は「夜千」が気に入りました。 季節外れですが、初夏の匂いがしたような気がしました。
今ではこんなエピック盤もこまめに点検すると安く出回る時代なのでしょうか。
「hank's tune」は、私にとっての景気付けソングです。実に好ましい雰囲気の演奏に思い、折に触れて聴き付けます。最近もドナルドバードばかり聞く機会あって、これも取り出したばかりでした。