廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ジャズの本の難しさ

2016年07月18日 | Jazz LP (Epic)

Johnny Coles / The Warm Sound  ( 米 Epic LA 16015 )


先日、1時間ほど時間を潰す必要があったので本屋で色々立ち読みをしていたら、近年出版された名盤100選本の中にこのアルバムが載っていた。
現在の視点で名盤100選を見直したらどういう内容になるんだろうとちょっと興味があって手に取ったのだが、相変わらずこういうアルバムを取り上げて
いるのか、とひどくがっかりして本を閉じた。 当然、その本は買わなかった。

このレコードは稀少盤だが、名盤ではないと思う。 トランペットの音は美しくもなくたどたどしいし、ケニー・ドリューのピアノも気の抜けたビールの
ように散漫な感じだ。 全体的に纏まりのないバラバラなアンサンブルで、リズム感も乏しく、音楽が死んでいる。 誰かの演奏が別の誰かにいい影響を
与えて名演になって、というジャズならではの生々しさもない。 正直、両面続けて聴くのはとても無理だ。

ところが、このレコードは違う観点でなら価値のあるレコードだと褒めることができる。 それは稀少盤であるということ、そしてモノラルプレスの
音がなかなかいいということで、コレクターには値千金の価値があるということだ。 「激レア」と称される割には、状態の悪い盤を含めて24時間365日
市場で流通しているブルーノートなんかとは違い、このレコードは状態の悪いものですらまったく流通しない、言葉本来の意味での稀少盤。
デイヴ・ベイリーの作品はセカンド・レーベルがあったり他国プレスもあったりで発売当時にそこそこ売れた形跡があるけれど、このレコードはそもそもの
弾数がメジャーレーベルにも関わらず極端に少なかったらしい。 まあ、この内容ではそれも当然だろうと思う。 

だから、蒐集家がこのレコードを褒めるのは極めて正しい。 この作品の意味をちゃんとわかっている。 蒐集家にとって重要なのは「音楽」ではなく
「所有」だから、稀少であることが内容を当然凌駕するし、値段の高いレコードのほうが安いレコードよりもいいレコードだと考える。 欲望に忠実な分、
レコードへの評価基準が明確だ。 ところが、名盤100選を執筆しようかという人(なのか、出版社の編集方針なのか)の評価基準は曖昧でよくわからない
ことが多い。 頭数を揃えなければいけなかったから取り敢えずメンバーに入れただけなのかもしれないけれど、これを名盤として扱うような本はやっぱり
買う気が失せる。 

ジャズの本は作るのが難しいんだなと思う。 もうここのところ、DUの "Jazz Perspective" もまったくつまらなくなってしまって、もはや買う気も起きず
立ち読みだけで済ましてしまっているし、ジャズ愛好家の読書生活は寂しい日々が続いている。 


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4 コメント

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冷房の効いたおでん屋 (senriyan)
2016-07-19 07:01:49
ルネさん、こんにちは。

私も、その手のガイドブックを買うようなことはまずないです。
新しい事実を知ることもまれですし。
何より、書き手と、自身そのレコードに対する思いれが希薄で伝わってこない。
このアルバムは羨ましいです。
メジャー・レーベルがなぜこの人を使おうと思ったか、それも面白い。
でも、庶民の味の店構えにしなくてはならないことはちゃんと心得ている。
このお休み、人気のあるおでんのお店に行きましたが、季節のせいかすいてました。(笑)
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おでん、かあ〜 (ルネ)
2016-07-19 07:38:50
senriyanさん、こんにちは。
ホント、なんでこの人だったんでしょう? デイヴ・ベイリー名義で3枚も作ったり、デイヴ・パイクだったり。 他との契約関係がない人だけを探して選んだのかなあ?
ガイド本でこの盤を取り上げるなら、なぜこれを推薦するのかをちゃんと書くべきだと思うのですが、特に目から鱗の視点があるわけでもなく、中途半端なマニア魂が透けていて、ちょっと嫌でした。
有名なおでん屋、いいですねえ。 私もおでんが食べたくなりました。 空いてるんなら、近いうちに行ってみようと思いました。
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読み手次第・・・・・ (dodge(bs))
2016-07-21 12:48:41
こんにちは、

〇〇選はもう・・・・・・出尽くした感があり、しかも裏の事情が透けて見える本もありますね。建前と本音のダブル・スタンダード以上に曖昧なものさえ。
クラシックでは出版されていますが、ジャズ版「こんな名盤はいらない!」は出そうで出ない所がこの業界の体質。
日本人は「洗脳と恫喝」に弱い民族というのが世界のスタンダードにならないようにせねば(笑)

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Unknown (ルネ)
2016-07-21 14:17:12
dodge(bs)さん、こんにちは。

かつての大御所評論家のご意見、老舗ジャズ喫茶のコワモテマスターのうんちく、そういう権威(なのかなあ?)に逆らえずなびいてしまう、
サラリーマンリスナーが如何に多いか、というところがあるような気がします。
ジャズ関連本の絶対数が少ないカタルシスとしてこの手の本を(半ば仕方なく)手に取る人が多いというのが実態なんでしょうが、
書いてる内容に無批判に簡単に染まってしまうのだとしたら、読み手側にも問題があるのかもしれません。
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