Bud Shank / Bud Shank Quartet ( 米 Pacific Jazz Records PJ-1215 )
バド・シャンクと言えばまずはこれなんだろうけど、このアルバムを語るのは難しい。
バド・シャンクを素晴らしいアルト奏者だと認識したのは、とある動画を見た時だった。(https://www.youtube.com/watch?v=P-keeHBoz8A)
ワンホーンで前傾姿勢と取りながらひたむきに疾走する演奏がカッコよく、なんて素晴らしいんだろうと思った。そして、この素晴らしさが
彼のレコードには収められていないのが残念だなあとも思った。
退屈なアレンジものを量産した西海岸のレーベルの中でこのレコードは目を引く存在だ。アンサンブル要員の1人に過ぎなかった彼が群れの中から
抜け出してワンホーンで臨んだ作品で、ジャケットの意匠も素晴らしく、本来であれば名盤となるはずだっただろうけど、そうはならなかった。
まず、バックのピアノ・トリオの演奏が単調過ぎる。クロード・ウィリアムソンの悪いところが出ていて、抑揚も陰影もなく一本調子な演奏は
単調で味気ない。ベースとドラムの演奏も弱々しくて覇気がなく、音楽に厚みがない。この凡庸さが悪目立ちしていて、バド・シャンクの演奏の
良さを感じる上で障害物になっている。
選曲もあまり良くなくて、音楽的魅力に欠ける。演奏仲間のボブ・クーパーやウィリアムソン作の曲を取り上げる気持ちはわかるけど、楽曲と
してはつまらないし、そこにエリントンやマイルスの曲を入れても喰い合わせが悪い。せっかく "All This And Heaven Too" なんていうメル・
トーメも歌ったいい曲を取り上げているんだから、そちらに寄せてもよかったのではないかと思う。曲が良ければ他の欠点をカバーしてくれる
場合もあるのだが、それがここではなかった。
このアルバムは1956年の録音で先の動画の6年前ということもあり、バド・シャンクの演奏は上手くてきれいな演奏ながらもその1歩先の力強さに
欠けていて、演奏の力で聴き手を説得するようなところがまだない。観賞する上では申し分ないけれど、あと少し訴求力があればもっといいのに
と思わずにはいられないところがあるのが惜しい。
まだ若い頃の演奏だから多くは望まず、もっと寛容な気持ちで聴けばいいのはわかっているけれど、退屈な演奏が多いウェストコースト・ジャズの
中では「これは」と期待させる条件が揃っているレコードなので、つい、ぜいたくなことを言ってしまう。そういう複雑な気持ちになるのが
このレコードなのではないか。