Bill English / S/T ( 米 Vanguard VRS-9127 )
ビル・イングリッシュと言われても、ケニー・バレルの "ミッドナイト・ブルー" でドラムを叩いていた人、くらいの知識しかない。ジャズのドラムは他の楽器と
比べて個性の出にくい楽器なので、ドラマーのリーダー作は結局のところはドラムをメインで聴くというよりはバンド全体で聴くことになる。そうなると、
参加しているメンバーによって内容が左右されることになるが、このアルバムは地味ながらも実力派が揃っているので問題ない。
その中でも、セルダン・パウエルの好演が圧倒的で、これは彼の代表作と言ってもいいのかもしれない。ヴァンガードの中間派というイメージとは違う
正統派のメインストリームを行く演奏で、デイヴ・バーンズの控えめなサポートのおかげもあって彼のテナーが非常に映える内容になっている。
引き締まった魅力的な音色、適切なフレージングで強い知性を感じる。
楽曲も翳りのあるいい物が揃っていて、音楽的な満足感が高い。ビル本人やセルダン・パウエルが書いたオリジナル曲の出来が良く、それをしっかりした
演奏力が支えているので、聴いていてこれは何気にすごいぞ、と感心してしまう。ヴァンガードは音質もいいので、演奏が前に飛び出してくる感じがあり、
演奏が非常に生々しい。
ビルのドラムも控えめながらキレのいいリズムを刻んでいて、音楽が活き活きしている。63年の制作なので、ありふれたハード・バップからは一皮剥けた
洗練さがあり、ジャケットから受ける印象よりはもっとみずみずしい。お世辞にもよく知られたアーティストとは言えないにもかかわらず、こんなにも
クオリティーの高いアルバムを残しているところに、この音楽の強い力を感じてしまう。