Duke Jordan / Flight To Denmark ( デンマーク SteepleChase SCS-1011 )
昔聴いてつまらなかったのに、今聴き直すと印象が変わっているものと言えば、このアルバムなんかもそうだ。 デューク・ジョーダンのトリオの代表作と
名高い作品だけど、若い頃はまあこれがさっぱり面白くなかった。 他のアルバムと比べて選曲がいいので人気があるのはよくわかる、でも何度聴いても
自分の中に引っかかるものがない。 だからレコードは早々に処分して、それ以来このアルバムのことは意識の中から消えていた。
デューク・ジョーダンが腕の達者なピアニストとは言えないことは、マイルスの供述を待つまでもなく、大方の人が認めるところだろう。 但し、だからと言って、
それが音楽家として失格ということではもちろんない。 彼の書いた名曲たちは永遠に輝き続ける。 ベニー・ゴルソンなんかと同じタイプだ。
この2人がいなかったら、ジャズという音楽は随分と味気ないものになっていたに違いない。
今これを改めて聴いてみると、まずは鍵盤へのタッチの素直さが心地好いことに気付く。 運指はなめらかではないけれど、そこから出てくる音の真っすぐな
ところが意外に気持ちいい。 こういう感じはジャズのフィーリングに欠ける、と捉えられ兼ねない部分で賛否は分かれるかもしれないけれど、今の私には
この音たちが心にうまく響くようになってきている。 だからその感覚に身を任せると、音の触感をトリガーにして音楽が身に染みるようになった。
"No Problem" や "Here's That Rainy Day" というセンスのいい曲が目に付くけれど、このアルバムの白眉は "Glad I Met Pat" というオリジナル。
欧州に移住後、ニューヨーク時代に近所に住んでいた愛らしい少女の想い出を綴ったこの曲は彼らしい慈愛に満ちた優雅で優しいメロディーが素晴らしい。
何気なくこういう曲をアルバムの中に入れるところも、何ともこの人らしい。 もっと前面に出して演奏すればきっと有名な曲になったのに、奥ゆかしい
というか、欲がないというか。
以前は気が付かなかったそういうことが、今はちゃんと受け取ることができる。 私も歳を取り、少しは成長したのかもしれない。
音楽を長年聴いていると、そういう風に自分を相対化できる瞬間がある。 それは決して無為な行為、ということではないのだ。
"Glad I Met Pat" を白眉と書いてみえたこと(私も同曲を推しました)、これをピアノトリオの、またデューク・ジョーダンの代表作としてではなく捉えていらっしゃる点が同意でコメントしました。この曲は確か同日録音「two loves」CDにも収録されていたと記憶します。
たぶん、20年振りくらいに聴きましたが、不思議なもんで色々といいところに気が付きながら聴くことができました。
世評で言うほどの傑作とまでは思えませんが、でも、こういうのが聴きたくなる気分の時がたまにあるのはあるので、
そういう時にはちょっといいレコードかもしれません。