廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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日本ビクター盤で聴く "Waltz For Debby" の愉楽(5)

2021年12月05日 | Jazz LP (国内盤)

Bill Evans / Waltz For Debby  ( 日本ビクター VIJJ-30011 )


日本ビクターが1993年にリリースした4回目のプレス。93年と言えばCDへの移行が完了した時期で、こういうアナログが出るのは珍しく、
帯にも書かれているように「完全限定プレス」だった。レコードへの未練が残る最後のユーザに向けた、これが辞世の句だったのだろう。
レーベル・デザインがオリジナルのそれを模しており、そういうマニアをターゲットにしたリリースであったことがここからも伺える。

私の感覚ではこのプレスが1番入手が難しい。先の3枚はいずれも千円台で何の苦も無く入手したが、このプレスだけが長い間見つからず、
ようやく見つけた3年ほど前の時点で既に4千円の値が付いていた。

規格番号からも類推できるように、84年プレスの音質をベースにして更にマスタリングし直したのではないかと思えるような音場感だ。
各年代で試行錯誤したそれぞれの特徴的なサウンドを総括したような印象があり、各楽器の音量のバランスが1番整っている。
ピアノ、ベース、ドラムの1つ1つがクッキリとした輪郭を持ち、ぴったりと度が合った眼鏡をかけた時に目の前に広がる風景を見ているようだ。
おそらくこれが一般的には1番いい音だ、という感想を持たれるサウンドではないかと思う。
音量を上げてもうるさい感じがなく、上質の極みを感じる。

日本ビクターがオリジナルの発売から30年かけて辿り着いた最終地点がこれだということになるのだろう。ここで聴かれる音場感は、
オリジナル盤の欠点であるベースやドラムの音量の頼りなさを克服し、その結果、このトリオがヴァンガードで演ったのは幽玄な雰囲気の
ピアノ音楽などでは決してなく、明るく強力にスイングする音楽だったことを正しくリスナーに伝えるものとなった。「リマスター」という
言葉を全面に押し出し、同じ音源を何度もマニアに買わせようとする供給側の策略にはうんざりさせられるけれど、ビクターが10年単位で
やった "ワルツ" の再リリースには、どうすればその音源が本来もっていた音楽的な力をより正しく伝えることがことができるかに
呻吟した痕跡が感じられる。そこがいいと思うのだ。

これはビクターと言う会社が一介のジャズマニアが興したベンチャー企業ではなく、老舗の大手音響メーカーであったことと無関係では
ないだろう。長年積み上げられてきた音響技術に対する知見と資金力がなければ、出来なかった仕事だったろうと思う。

ここまで細かくこだわって聴いたものは他にはないので、他のタイトルも同様なのかどうかはわからないけど、少なくとこのアルバムに
関してはビクター盤はオリジナルにはないまったく別の新しい価値を提供していることは間違いない。これは断言できる。


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2 コメント

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Unknown (うみとやま)
2022-01-01 12:03:44
あけましておめでとうございます。
昨年度より拝読させていただいております、jazz初心者です。
エヴァンスのピアノにハマり駆け足気味に再発〜オリジナルとほぼ揃えて聴き込んでおります。
とても勉強になる内容ばかりで感銘を受けるばかりです。

長くなって申し訳ございません。

先日念願のwaltz for debbyオリジナルモノラル盤のニアミント状態に某協会さんで出会いました。
しかし驚愕の20万越え…迷いに迷いましたが、店内で試聴させてもらったところ、おやおや…そんなに驚く程の音質ではないと感じてしまい購入を断念しました。
それからは適正価格?で出会ったオランダ盤ステレオで今は満足している日々です。
本当に仰る通りオリジナルを盲信するのはいけないなと痛感しました。

いつかはオリジナルを手に入れたいけど、今の高騰具合とは折り合いが付かなそうです…
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Unknown (ルネ)
2022-01-01 13:08:59
あけましておめでとうございます。
コメント下さり、どうもありがとうございます。

ほぼすべてをお揃いになったとのこと、すごいですね。大事なのはジャズという音楽がまだ新鮮に耳に響く時期に、たくさん聴くことだと思います。
その時の感動は20万円のオリジナル盤を買った時のそれとは比較にはなりません。量的にも質的にも違います。

オリジナル盤なんて、そのうち、いつか手に入ります。そんなのはまったく重要なことではない、というのが長年の経験から学んだことです。
猟盤という行為自体を楽しんでください。この「レコード屋に行って、レコードを探す」をいう行為そのものに、この趣味の楽しさの根源があります。

エヴァンスのリヴァーサイド・オリジナル盤でいい音だなと私が思ったのは、"At Shelly's Manne-Hole"のステレオ盤だけでした。他はどれも冴えない音です。
フォンタナ盤は聴いたことがないですが、それ自体も最近は見なくなったような気がします。貴重な盤を買うことができて幸いだったですね。
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