廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

硬質なアルトとうまいギターが絡むと

2019年02月23日 | Jazz LP (Bethlehem)

Hal McKusick / East Coast Jazz #8  ( 米 Bethlehem BCP 16 )


ジャズの世界にはアルバムは残っているけれど、実像が掴みにくいアーティストというのが大勢いる。ハル・マクシックもそういうタイプの人だ。
キャリアのスタートは有名なビッグバンドを渡り歩くことから始まり、50年代後半の数年間に複数のレーベルにリーダー作を集中して残して、
その後はスタジオ・ミュージシャンとして裏方にまわってしまった。マルチ奏者として1枚のアルバムの中で複数の楽器を吹き分けるし、
多管編成のものが多いということもあって、現代の我々には音楽家としての実像がわかりにくい。

そんな中でワンホーン・カルテットのアルバムが2枚残っていて、それらを聴くとこの人の素の姿が一番わかりやすい。 バリー・ガルブレイス、
ミルト・ヒントン、オジー・ジョンソンというピアノレスが趣味の良い伴奏で支える中、ハルのアルトやクラリネットが大きな音で鳴り響く。

この人のアルトは硬質で重みのある音で、奏法は力強くて音に覇気がある。演奏に隙が無く甘い情感で酔わせようという気配もないので、
聴き手がコロリと参るようなはところはなく、背筋のピンとした清潔感と生真面目さはリー・コニッツなんかよりもずっと徹底していて、
これを聴くとコニッツのサッスクは案外メロメロだったんだなと思ったりするくらいだ。そういう音楽に厳格さを求めるような人柄が
この業界には合わなかったのかもしれない。

強いアルトの音と同じくらい感心するのがガルブレイスのギターで、なんと上手いギターを弾くんだろうと驚かされる。こういう風にギター1本で
伴奏を付けるものは多いけれど、こんなに味わい深い演奏はちょっと他には思い当たらない。いつもジム・ホールやジョー・パスばかりが
称賛されがちだが、このガルブレイスも別格な演奏家であることがこれでよくわかる。

得てして「室内楽風な」と言われがちなところがあるけれど、これはそういうのとは違うだろうと思う。白人の腕利きミュージシャンが、
演奏家としての資質を最大限に生かすことができた非常に聴き応えのあるアルバムで、その核心には強いジャズのスピリットを感じることが
できる、実は静かに熱い演奏だ。

ベツレヘムの若い番号のレコードはローレル(月桂樹)のフラットディスクが初版だけど、この時期に製造されたものはプレスの状態が不安定で、
特にこのマクシックのアルバムはプレッシングバブル(凸)が目立つ盤がほとんどで、買うに買えないとマニアを泣かせるレコードだ。
私自身、まったく問題のない盤はこれまでに見たことがない。 手持ちの盤は凸はないけれど、フラット特有の外周部の細かいスレがあり、
少しノイズが出る。でもこの盤は音圧が高く楽器の音も太いので、盤面の多少の瑕疵は気にせずにゲットされてよいと思う。見た目の印象より、
実際の聴覚感がいいものは案外多い。これに関しては、経験上、問題ないものを待っているとおそらく日が暮れてしまうような気がする。


コメント (4)
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