廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

PHがデフォルトの人

2018年11月03日 | Jazz LP

Jerry De Villiers Et Son Jazz Quartet  ( 加 Trans-Canada TC-A-81 )


1963年制作という割にはモノラルだし溝があったりするし、と古風な作りのレコードだが、出てくる演奏はポスト・ハードバップな次世代主流派のストレートな
ジャズで、そのちぐはぐなギャップに少し驚かされる。 テナー/バリトンを加えたワンホーンだが、全てをメンバーたちのオリジナル曲で固めており、
かなり気合いを入れて作られた様子が伺える。 欧州ジャズほど垢抜けてはいないが、アメリカのジャズとは明らかに違う雰囲気で、欧米のハイブリッドである
カナダらしいと言われればそうなのかもしれない。 

ジュリ・ド・ヴィリエはカナダのピアニストだが、どうもジャズのアルバムは少なく、この後は商業音楽の方へ軸足を移したようで、その手の作品が残っている。
ジャズで一本立ちしたかったけど喰っていけず、というお決まりのコースだったのかもしれない。 カナダのジャズ・シーンのことはよくわからず、例えば
Nick Ayoub の "The Montreal Scene" なんかを聴くと、やはりこのアルバムと同様アメリカ側ではなく欧州側に寄った雰囲気で戸惑ってしまうが、
カナダ文化が持つ雰囲気が元々こういう感じなんだとしたら、アメリカに行っても上手くやっていくのはなかなか難しいだろうなと思う。 

全体的には落ち着いた雰囲気で統一されていて、大人っぽい雰囲気がある。 最近のソウルやヒップホップに寄ったジャズが前面に登場するようになる少し前の
現代主流派ジャズの源流のような感じがあるけど、それを60年代前半に演っていたというのは偶然なのか、突然変異だったのか、その辺りの関連もよくわからない。
ただ、アメリカ盤ばかり聴いている中でこれがかかると、「おっ!?」という感じになるのは間違いない。

いささかロー・ファイな録音だけど音圧は高く迫力のあるサウンドで、中でもベースの音が非常に目立つミキシングになっていて、非常に大きな音で鳴る。
だから、ベース好きには喜ばれる内容だろう。 演奏も上手くて、ベース奏者のリーダー作と言っても通じるかもしれない。

過去5~6枚見たこのレコードのすべてのジャケットにパンチホールが空いていた。 ここまでPH率の高いレコードは他には思い当たらず、元々穴空きが
オリジナルなんじゃないのか?と思うくらいで、当時から余程売れなかったようだ。 マイルスのレコードでPHがあるジャケットなんて見たことがない。
音楽家として売れる/売れないというのはこういう所にも違いが現れるのだ。

コメント
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