セレンディピティ日記

読んでいる本、見たドラマなどからちょっと脱線して思いついたことを記録します。

読書ノート:上念司『デフレと円高の何が「悪」か』光文社新書

2010-02-16 09:41:49 | 社会経済
日本語には反語というものがある。あることを強く主張するため、反対の内容のことを疑問型にして表現するものである。反語かそうでないかは通常前後の文脈などであきらかであるので取り違える人はすくない。ところが僕はそれをしてしまった。『デフレと円高の何が「悪」か』というタイトルを書店でみたとき、一瞬これは反語として理解した。つまり『デフレと円高の何が「悪」か』=「いや悪くはない」。でもこれは反語ではなかった。ページを開くと勝間和代さんが序文を書いているのだから、本当にデフレを「悪」と言っている本なのだ。

ではなぜ僕がタイトルの内容を取り違えたのか。たぶんデフレのメリットの享受者なのだからかもしれない。上念氏は「・・たとえば収入が下がりにくい人、倒産の危険の少ない人、リストラされにくい人は、物価が下がるというメリットを享受できる立場にいます。そういう人って誰でしょう。そう、公務員とか大企業の正社員の皆さんです。」(p.27L.11~13)。でもそれ以上に、退職した公務員で貯金生活している者が一番のメリット享受者だ。それは僕だからつい潜在意識でデフレ擁護していてタイトルを読み間違えたのかもしれない。

この本は経済学の知識のない人でもわかるようにしかも経済学の知識を使いながら解説していく本である。法学部出身の上念氏が経済学を勉強していく過程を読者は追体験する本であるかもしれない。

さてこの本は、経済学の知識がない人はなるほどとよく納得するだろう。また経済学の知識の豊富な人も立場がちがってもその主張の経済的知識の裏付けを了解するだろう。ところが僕は納得も了解もしにくい点が多々ある。つまりそれは全く経済学の知識がないわけではないが、経済学の知識が十分あるというわけでもない中途半端な知識の持ち主ということにもよるが、一番の原因は僕がポアリアンということだ。ポアリアンでなくて経済学の知識のない人は著者の論証を素直に受け取って感心して、そしてマスコミ・政府・日銀はどうして馬鹿なのかと不思議に思うことだろう。ポアリアンでなくて経済学の専門家はこの本に使われる公式の権威で納得してしまうだろう。でもポパイアンである僕は、各項目で「アレレ?」と反証を思いつく。ポアリアンの元祖のカール・ポパー先生は、論争相手の理論の細かい弱点を見つけてはそれを訂正してより完成度の高いものにしてあげてから、全体をこっぴどく批判したそうだ。僕はこの本の主張を批判しきれないが、気付いた点はいくつかある。

まず上念氏は「中国デフレ原因説(いわゆる輸入デフレ説)はインチキ」だという。インチキかどうかは僕にはわからないが、いちおう「もし、安い中国製品が日本を10年上デフレに陥れていると仮定するなら、日本よりも中国からの輸入依存度の高い国は、日本以上デフレに見舞われていないと筋が通りません。しかし、全世界で10年以上デフレが続いているのは日本だけです。」(p.57L.3~6)という考えも了とする。しかしその後がおかしい。上念氏は各国(日本を含めて5カ国)の「輸入総額に占める中国の割合」を表にしめし、アメリカ等は日本よりその割合が高いのにデフレではない胸を張る。でもちょっと待て!輸入総額に占める中国の割合と、国民の消費生活全体の中国の割合は別のものだ。日本はご存知のように先進国のなかで食糧の海外依存率が一番高い国だ。アメリカは食糧だけでなく資源を含めて自国で完結できる能力を持つ大国で輸入依存する割合が資源小国の日本とははるかに違う。ほとんど海外に依存している日本の輸入量の16%と、輸入なしでもやっていけるアメリカの輸入量16.1%を比べて、アメリカの方が中国に依存しているといえるのか。

この本では、「デフレというのは、モノとお金のバランスが、お金不足によって崩れることで発生する現象だ、とここまで一貫して主張してきました。お金不足が原因ですから、お金を刷って供給すれば、かならずいつかデフレから脱却することができます。これは当たり前のことなのです。」(p.114L.3~6)という。上念氏の主張をまとめてみると。
(A)デフレに良いデフレはなく、デフレはかならず失業や倒産の原因となる。つまりデフレ=不況である。また一般的にインフレは好況である。
(B)デフレは貨幣の流通不足によって生じる。
(C)よって貨幣の供給を増やせば不況は克服できる。

(B)の主張は、マネタリストという人々の主張によく似ている。つまり全般的な物価水準は財の取引量を貨幣の供給量と流通速度の積で割ったものとなる。だがマネタリストの論理からは、こうしたことによる物価水準の上昇および下降つまりインフレおよびデフレは長期的にみれば実経済に影響を与えないとされている。だからデフレ下の好況もインフレ下の不況もありうる。一方(A)の主張はケインジアン的である。しかし70年代にインフレ下の不況(スタグフレイション)という事態がおこり、ケインジアンは後退してマネタリストが勃興した。だから上念氏の主張はマネタリストの貨幣理論にケインジアンの景気理論を接ぎ木したようである。異なる理論背景のものの接ぎ木だが、むしろ現代の経済政策論の一般傾向をあらわしているのかもしれない。ただ上念氏は学派上のアイデンテテイがないのであからさまに表現できるのだろう。

ところで、お金の流通が景気を決めるという同じ内容の主張は昔からある。この本の内容を検討するにあたり、昭和57年の古い本だが金森久雄さんの『景気の秘密』という本を読み返してみた。金森久雄さんは1960年代に経済企画庁の内国調査課長として経済白書を書いた人だ。70年代に『日本経済入門』という本を出されたので改訂版が出るたびに購入していた。あまり読んではいなかったが・・。今は80歳代後半だと思うが御存命のようだ。『景気の秘密』は一般向けの簡易な装丁の本だがなかなか内容は濃い。そこに代表的な景気循環の学説の7つのうち3番目に「貨幣説」というのがあげられていた。「これは、イギリスのR・G・ホートレー(1879-1975)という学者が主張したものである。彼は貨幣の流れが不況と好況の交替の、唯一、かつ十分な原因であるといった。すなわち、銀行がお金をどんどん貸すと、取引は活発となり、生産は増え経済活動が盛んになる。しかし、その結果物価が上がる。銀行がお金の貸し出しをおさえると、経済活動が縮小し、不況になるというような、通貨、信用の動きを重視する理論である。」(金森久雄『景気の秘密』潮文社、p.55L.4~8)

ホートレーの説は物価の上昇は経済活動の活発化の結果なので、貨幣量と物価水準を直接結びつけるマネタリストではない。しかし貨幣供給を増大させれば景気が良くなるという上念氏と同じ主張をしている。したがってホートレー説は上念説と同じ難点を持っている。金森さんの本の続きをみよう。「ホートレーの議論は、政策論的には、お金をうまくコントロールすれば、景気変動をなくすことができる、ということになる。だが金融政策では、景気のいきすぎを抑える時には有効であるが、不況から立ち直らせる時には、あまり効きめがないという見方もある。金融政策は、手綱のようなもので、それを引き締めれば、馬を引き止めることができるが、それを緩めたからといって、必ずしも馬が駆け出すとは限らないといわれるのである。・・・・・しかし、これを緩めたからといって、企業が積極的な投資欲を持っていなければ、設備投資を増やしたり、在庫投資を増やして、景気の拡大に転じるとは限らない。そのような時には、政府が直接公共投資等によって需要を作り出すことが必要になると考えられる。」(金森、同上p.56L.1~11)

上記の理由で、現在日本で低金利政策が続いているのに、貨幣供給が増えないのは、企業が積極的な投資欲を持っていないからだ。だから当然、上念氏の主張には多くの反論が出ている。それを上念氏は「資金需要」というマジックワードでコロリとだまされているという。なんせ「中央銀行は通貨発行を通じて単独でインフレを起こせるというあたり前の結論・・」(p.115L.8・9)。「そもそも、モノとお金のバランスによって価格は決定するわけですから、お金の供給が増えれば価格が上昇するというのは説明不要の理屈です。」(p.120L.10~12)。でも現実に「資金需要」がなければ貨幣は流通しないのだが。すると上念氏は最初に大きなブースターが必要という。でもそうなると需要の創出が先でその結果で経済活動が活発になって貨幣需要が出てくるということではないの。

この本では、過去のデフレ脱却の良い例として高橋是清をあげている。高橋是清が国債を発行して日銀に引き受けさせたので貨幣供給量が増えたという。でも経済史の通説では高橋是清は「日本のケインズ」とか「ケインズ以前のケインジアン」とか言われている。つまり国債の発行は、それを財源とした公共投資による財政政策と思われている。

ところで昨日(2月15日)の日経夕刊の一面は「GDP実質4.6%成長」というタイトルだ。10~12月が年率で4.6%の成長だ、名目成長率は0.9%だが物価の動向は過去最高の3%のデフレとなっているので、実質の成長率は4.6%となる。過去最高のデフレ下での大幅なGDP成長をこれを上念氏はどう見るのだろうか。

これを書いているうち、日本の今のデフレは通貨供給量の問題ではなく、一つには中国等の安い海外製品に日本の依存度が大きくなっていることと、それを含めて流通形態の改変が進行しているせいだと思うようになった。貨幣流通量の不足というより、大竹慎一氏の本からの受け売りだが、諸外国に比して高かった日本の物価世界標準に近づいてきたと見るのが正解じゃないのかな。ずっと東京が世界1物価の高い都市だったもの。これがいつまでも是正されないのなら企業も消費者もなんら創意も工夫も努力もしない国民ということになる。

ポパリアンだからいろんな反論が浮かんでくるのでこんな批判めいた文章を書いてしまった。だから上念氏を敵と思っているわけではない。むしろこの本からは、上念氏はポパリアンであるという匂いが感じられる。でもポパリアンは主人持ちのセクト(宗派)の奴隷ではないので、身びいきや非学問的な遠慮とは無縁なので批判は批判としてせざるをえない。上念氏がポパリアンだと思う根拠の1つは198・198ページに引用された石橋湛山の1936年の記事の引用。これはポパーより以前に表明された「漸次的社会工学」の表明だと思う。また207ページにある「政治の究極目的は、『苦しんでいる人の苦しみを最小にすること』」という文面は明らかにポパーを意識したものと思える。また上念氏がその本で大きく影響うけたとしている野口旭氏は、ぼくもその人の本を読んだことがあるが、明示的なポパリアンであった。

ところでこの本ではデフレは絶対悪でこれを放置するのは弱い立場の人をさらにくるしめるという断定と気負いにあふれているが、ちょっと待った。思い起こせばインフレの時にはインフレによる物価高が弱い立場の人を苦しめるという話はよく聞いた。「物価があがって年金生活者が困窮している」とか。古くは江戸時代「コメの値段が大幅に上がったため、江戸の下層町民は大いに困窮した。潤うのは収入をコメで得ている武士と値上げ期待で売り惜しみする大商人だ」なんてね。

この本では出てこないが、世にいう「デフレスパイラル」という言葉もなんもおかしいと思っている。商品の値段が下がる→会社の利益が減る→給料が減る→モノが売れなくなる→商品の値段が下がる→会社の利益が減る・・・。スパイラルというと同じ事を永遠に繰り返すというイメージだけど、おかしいよ。モノが売れなくて商品の値段を下げるのはわかるが、その後に来るのは、採算が取れなくなった企業は撤収して、採算の取れる企業が残るという形でこのリンクは終焉する。永遠に値段を下げ続けられる企業はない。

ところで金森久雄さんの『景気の謎』という本に戻るが、景気循環の学説の5番目に「過小消費説」というのがある。マルクスやJ・A・ホブソン(1858-1940)という経済学者の説だ。「ものを作っても、だれも買う人がいなければ生産者は損をして不況になる。消費が足りないことが、不況の原因だという説である。それではどうして過小消費になるのかという点については、いろいろ見方が分かれるけれども、マルクスやボブソンの考え方では、
資本主義がだんだん発達していくと、富の分配が不平等になって、金持ちと貧乏人の差が開く。金持ちは、お金がたくさんあっても、その大部分を貯蓄してあまり消費をしない。一方、貧乏人の方は、買いたいものはたくさんあるが、お金がないから、これも消費しない。結局、経済全体としては消費がのびなくなるという考え方である。」(金森久雄『景気の秘密』潮文社、p.59L.12~p.60L.4)

金森さんはマルクスとボブスンの説は3つ欠陥があって当てはまらないが、消費が過小で不況になるときは確かに存在するとのことであった。「富の分配による不平等」も含めて今がその時ではないのだろうか。

僕の主張をまとめると、経済停滞の原因は、富の分配の不平等による過小消費である。デフレは不況の原因ではない。低所得者にはデフレで商品価格が安くなって救われているものもいる。いまの日本のデフレは世界一高かった日本の物価の是正作用で、中国での生産加工も含めて流通形態の変革によるものである。


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12 コメント

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ご指摘の点に関して (smith796000)
2010-02-16 12:03:02
私の本を取り上げていただいてありがとうございます。ご指摘の点について回答いたします。

中国デフレ原因説について
中国への貿易依存度を対GDPで比較してみても、日本より中国に依存している国がデフレになっていることは証明できません。よって、この説は明らかに間違っています。北朝鮮はデフレどころかインフレになっていることから考えてもこの説は全く根拠がありません。

実質成長率がデフレ下でも伸びているというご指摘について
実質GDPとは、下がっている物価で割り戻したGDPです。これに対して借金の負担は契約時の名目値に固定されます。なので、デフレ下では実質GDPがいくら伸びようと、負債の名目固定性により、借金の負担が減らず、人々は新たな投資より借金の返済に追われる事になります。この点も本書で指摘したとおりです。

資金需要について
こちらについても本書にて指摘済みですが、資金需要が生じるまで金融緩和を続ければいいというのが答えになると思います。デフレが終わるまで毎月10万円の定額給付金を配り続ければ、通貨バブルが弾け、人々は必ずモノを求めるようになります。(ワルラスの法則)

インフレで生活が困窮したという指摘について
新聞記事よりは、客観的な統計をご覧いただいた方が良いでしょう。デフレの今とインフレだった80年代の失業率、有効求人倍率を比べるだけで、どちらの時代がマシだったかは一目瞭然です。

上念
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Unknown (本多)
2010-02-16 23:05:37
実は、わたしご書評の『円高とデフレの何が「悪」か』は読んでおりません。気になるテーマですので書店で10分ほど立ち読みしましたが、ちょっと読むのがつらくてそのままにしました。ていねいに読み込んでおられ、感服いたします。
著者自らコメントされているのも、優れた読者の証左でありましょう。

日本のデフレは、世界一高かった物価を是正するための均衡化現象。確かにそう捉えると、同様にデフレ圧力を受けているはずの先進国の中で、日本が物価下落で一頭抜けている理由が見える気がいたします。
一方、わたしはデフレには政策的な要因もあると思っています。通産省(当時)が「内外価格差」の解消を流通政策の柱にしたのは95年あたりでした。政策の効果が現れるには2~3年かかりますから、間の悪いことに顕在化のタイミングと中国の台頭の時期が重なってしまった。再び「嵐に向って雨戸を開け放った」ということでしょうか。

また、ご指摘のとおり、デフレが不況の原因とする昨今の風潮にわたしも疑問を覚えております。出版物を見ると、01年から02年にもデフレが主要テーマになったことがありました。ところが02年半ばになるとそうした本はふっつりと消え、株と投資の本が隆盛を極める状態に。その間もデフレが止まったわけではありません。輸出関連産業を中心に目に見える回復が出てきたせいです。
リーマンショックまでそういう状況でした。
そしてリーマンショック後の不況で、再びデフレを悪玉にし始める。どうもデフレ悪玉説は、ご都合主義の匂いがしてなりません。

では、著者直々のコメント(中国依存度とデフレの関係で北朝鮮を例に挙げるのはちょっと信じられません、定額給付金は政府支出を民間に置き換えるだけで総需要に変化はないと思います、インフレでも日本より失業率の高い国はたくさんあります)に対してもボバリアンらしく再度反証されることにすこし期待しつつ、「セレンディピティ日記」のこれからを見守ってまいりたいと思います。
長くなってすみません。
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デフレは貨幣現象です (smith796000)
2010-02-17 00:44:51
デフレとは、「モノとお金のバランスがお金不足によって崩れる」ことで発生する貨幣現象です。これは自然に起こるものではなく、「バブル退治」といった金融政策の間違ったターゲットの副作用として発生する人工的な現象です。この点を理解しないと永久に議論が噛み合いません。(内外価格差が自然に是正されたわけではありません。そもそも内外価格差の議論も為替レートの問題として考えればデフレによって価格差が助長されるわけですから何の解決にもなってないです。)

定額給付金をインフレになるまで続ければいつか必ず絶対にデフレは終わります。そのメカニズムについては長くなるので是非本書をお読み下さい。

北朝鮮は中国への依存度が最も高い国の一つですが、デフレではなくインフレになっています。韓国もしかり。ラオスとかモンゴルみたいな国でもデフレにはなっていません。そもそも戦後デフレが10年以上も続いた国は人類史上日本しかありません。中国デフレ原因説では、日本だけに発生した特異な現象を全く説明できません。

90年代に1929年世界恐慌の発生とその終了のメカニズムに関する研究が進み、ご指摘いただいた点について、経済学の世界ではほぼ決着がついてしまいました。そのことを多くの人に知ってもらうためにこの本を書きました。

是非、ご一読いただいた上で、再度疑問点など挙げていただければと思います。

尚、本書は一般の方でも飽きずに最後まで読めるように、一部過激な表現があります。特に政府や日銀に対する批判は辛辣を極めておりますので、予めご了承下さい。

上念
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コメントありがとうございます (kyujiu)
2010-02-17 16:06:44
上念さん、私のノートに著者のかたからコメントいただき勉強の励みになります。
なにが真理かと究極のことを決定することはできませんが、その時点での仮説としてですが自分が生きてく上で了解できる世界像はもつことはできます。あなたの著書との対話をつうじて自分の世界像(この場合はデフレ像)がはっきりしてきました。あなたの本の主張と論拠が明快だからだと思います。結果として私のデフレ感はちがいますが、これは良い本だと言っているのです。
さて一般人に近いというか一般人の私ですので、頭の道具箱には経済学の道具はあんまりありませんので経済論争はできませんが、上念さんのコメントを参考にもう一度上念さんの本を読み直したり調べ物をしたりしてもっと納得できる自分の考えを作っていきたいと思います。
ところで、勝手に上念さんをポパリアンと想定してしまいました。だけど社会論的にはポパリアンらしいけど、科学論的にはポパリアン的でない点も見えます。「当たり前の結論」とか「説明不要の理屈」という言葉はポパリアンらしくありません。
ポパーの科学論といえば反証可能性ですが、デフレ=不況そしてインフレ=好況という理論に対してデフレでも好況、インフレでも不況という状況が存在すれば上記の理論は反証されたことになります。インフレでも不況というのがスタグレイションとして出現しています。ではデフレでも好況はあるのかないのか。それが僕の15日の夕刊記事を取り上げた理由です。
科学論でいいますと反証可能性のないものは科学理論でないといいます。理論に反する事例をあげてもあれこれ言い訳できる可能あるものです。フロイトの精神分析とかマルクス主義がこれにあたるといいます。上念さんはブースターとか10円の定額給付金をデフレが終わるまで配り続けるといいますが、これは財政政策で需要創出の結果好景気になってお金が増えたのか、お金が増えて好景気になったのか不明です。順番的には需要創出の方が先なのですが。

本多さん
有益なコメントありがとうございます。本多さんは私に上念さんのコメントに再度反証することを期待するとおしゃってますが、本多さんがカッコの中で反証されてしまいました。たしかに北朝鮮を中国輸入デフレ論の反証にはなりません。ラオス・モンゴルも同じです。韓国の事情はよくわかりませんが・・。北朝鮮がインフレなら逆に中国依存原因説も成り立ちます。つまり以前は社会主義国同士ということで国際価格より安価で資源や農産物を中国が北朝鮮に送っていたが、中国が開放経済になったため国際価格でしか販売しなくなった。しかも中国の経済発展により国際価格自体も上がってきた。そのため北朝鮮はインフレなった。日本のデフレも北朝鮮のインフレも同じ論拠で説明できます。
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中国デフレ原因説と古典的な懐疑論への配慮について (smith796000)
2010-02-18 10:34:58
中国デフレ原因説についてはすでに内閣府のレポート等で、仮にあったとしてもその寄与度はきわめて小さいことが指摘されています。

http://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh03-01/sh03-01-01-02.html

デフレ問題を解決するために、原因に対する寄与度がゼロかもしくは極めて小さい問題を取り扱うのは適切ではないと考えます。それを一般の人にも分かりやすく説明すると、「中国デフレ原因説には根拠がない。以上」ということになります。

その表現が古典的な懐疑論者に対する配慮を欠いているというのであれば、その通りです。一般の方を対象として、「現時点では」とか「反論もありますが」といった限定的な妥当性しかないかのような表現を敢えて使う必要はないと判断しました。なぜなら、私が批判している主張は「お金を刷ってもインフレにならない」とか「中国がデフレの原因だ」といったおよそデータ上からは全く正当化できない、仮にできたとしたらノーベル賞級の主張だからです。

「デフレが宇宙人の陰謀」とか「イルミナティの攻撃で国家破産」といったレベルの反論まで、まともな反論として取り扱う必要性を感じません。

但し、敢えて私の主張に対する反論可能性を示すのであれば以下のような反例を実証していただければいいと思います。

1.中国と貿易している国で日本以外にデフレになった国がある。または、将来デフレになることがデータ上証明できる国がある。

2.お金を刷り続けてインフレにならなかった国がある。無税国家が存在する。

これらが証明されない限り、現時点では経済学の一般的な知見こそが最も正しい意見となるわけです。

別に反論を禁止しているわけでも、反論可能性を認めていないわけでもありません。上記1、2のようにあまりにバカバカしい話が新聞紙上を賑わしているので、一刀両断に分かりやすく否定してみたわけです。
当然ですが反論も自由ですし、私の再反論も自由であることは理解しています。いまこうして、コメントを書いているのもそれを理解している証拠になるでしょう。

いずれにしても、中国デフレ原因説は日本のデフレの主因ではないというのが現在の経済学の知見です。

これを覆すのであれば、1の反例を是非探していただいてお示しいただければと思います。

上念
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中国デフレ原因説について (kyujiu)
2010-02-18 16:12:14
私の主張は本文にも書いたとおり、今のデフレの原因は中国からの輸入の増大を含めた流通機構の改編によるものです。流通機構の改編が主語ですが、流通機構の改編の大きな柱の一つが中国での製造ですので、中国デフレ原因説もまた可なりです。
内閣府のレポートは「あったとしても小さい」とのことですが、役人の書いたレポートは他の思惑が入っているので信用できない、といっては身も蓋もありませんが、これは元役人の端くれの私がいうから確かだというのではなく、公共事業等についての事前評価がすべてためにする作文だったのは広く知られた事実です。でも一般論でなく根拠を示しましょう。
中国の経済が開放経済になり個別企業の裁量が大きくなるとともに、日本から技術や資本の導入により、中国で日本仕様の製品が製造可能になった。企業競争の結果として多くの産業で、賃金等の製造コストが安い中国等に生産現場を移すか、国内でより付加価値の高い製品を作るかに迫られたのはご承知の通りです。つまり慣れ親しんだ日本のメーカーの製品であっても中国製は多い。通常はメイドインチャイナの表示もあり内閣府のレポートでも織り込み済みです。ところが中国で半製品をつくり日本で包装等のちょっとした最終作業をしたものは日本製品として再び統計上現れる。日本での付加価値は一部でも消費生活上の統計では小売価格全体が日本製品として上がってくる。偽(あるいは准)日本製品の統計上のパイが膨らむため中国輸入の消費生活上の影響評価が低く抑えられるのです。これは中小製造業がエクソダスしている日本のアメリカとは違う事情です。なお大企業も国際的の汎用品は中国等で付加価値の高い製品は国内で、とこれが経営の標準になっているみたいだ。株主への報告書での知識でした。

ところでこの10年に大きく普及したものと言えば、インターネット取引、宅配便、駐車場完備の大型スーパーやホームセンターですね。大型スーパーでは産地からの直接大量買い付けをおこない商品単価と流通経費を大幅に小さくしています。インターネットの普及は人々をより安い値段に注意をむけさせます。インターネットと宅配便の組み合わせは個人が生産者あるいは一番安い販売者からの直接購入を可能にしています。

個別企業内の国際分業も含めての流通再編は目覚ましいものがある。上念さんも含めて10年前の生活と今と比べて消費生活は明らかに変わっているはずです。これで全般的に物価が下がらなかったらおかしいです。
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数値的な根拠は? (smith796000)
2010-02-19 00:00:51
中国製品は世界中にばら撒かれています。追加のコメントは読ませていただきましたが、なぜ世界中にばら撒かれた中国製品が日本だけをデフレにするのか、そのメカニズムは明らかになっていません。

まず、日本のGDPに占める中国との貿易の割合はどれぐらいかご存知でしょうか?IMFがまとめた統計をご覧下さい。

http://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh03-01/sh03-01-01-07z.html

この統計にある日本より中国製品の市場シェア(対GDP比)が多い国(シンガポール、韓国、台湾、香港)はデフレになっていません。

中国との貿易の割合が多い国がこれだけあるにも関わらず、日本だけデフレというのは中国がデフレの原因でない最も有力な証拠です。
中国による「流通機構の改編」なるものはこれらの国には発生してないのでしょうか?仮に「流通機構の改編」がデフレの原因なら、中国は単独でデフレを起こせないことになりませんか?
そもそも「流通機構の改編」なるものは数値的にその趨勢を追えるような概念ではないです。申し訳ありませんが、本書ではこういう定義の曖昧な語を「マジックワード」と読んでいます。

残念ながら、近代以降デフレを10年以上も続けてしまった国は日本だけです。これを最もよく説明するロジックは通貨供給量の不足であって、中国との貿易でないこと明らかです。

前のコメントでも申し上げたとおり、シンガポール、韓国、台湾、香港がことごとくデフレになっているということが証明されない限り、中国デフレ原因説は証明できません。というか、日本がデフレになってから10年以上経過しているのに、それ以外の国がデフレではないわけですから、どう考えても日本のデフレは国内要因=経済政策の失敗、という推論をするのが最も正しいと思います。

上念
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バーナンキは自分で自分を反証しました (kyujiu)
2010-02-20 17:19:17
上念さん、「中国」という言葉が「マジックワード」になっていませんか。もともと中国製品原因説というのは、日本という物価の非常に高い国と同様な製品を安く大量に供給できる中国との隣り合う2国間の個別特殊的な関係問題です。だから日本との価格差が第1、そして市場への浸透状況が第2です。日本という物価の世界一高い国との関係という個別具体的な関係を忘却して中国製品の世界中への流出状況をだけを並べると、まるで中国が世界を徘徊する経済的妖怪のようです。中国製品の各国への物価水準への影響力を比較するなら、物価水準の差×市場への浸透状況で求めるべきです。薄い膜で隔てた異なる濃度の塩水の浸透圧みたいなものです。
日本ほど物価の高い国はいないと思われます。したがってこの点で比較可能な国はないということになります。ただ北朝鮮は中国との物価水準の差で、日本と反対の鏡面上にありますので、正負符号が反対の物価に影響が出ているとすると、つまりインフレになっていると日本のデフレ原因の傍証になります。
つぎに市場への浸透率ですが、上念さんは再びIMFの統計をだされましたが、前回のわたしのコメントの趣旨が伝わっていなかったのは残念です。つまりご承知のように日本の企業は中小企業も含めて中国に生産拠点を持ちだしています。大企業の下請けもです。そこで作られた部品あるいは半製品は当然中国製ですが、日本に持ち込まれて加工されたり組み立てられたりすれば日本製品となります。消費市場へ出た場合は、日本工場での付加価値分でなく商品価格全体が金額上の日本製品の市場シェアとなります。だから日本のようにあたりまえのように一つの日本企業が日本と中国に生産過程の企業内分業を行っているのなら、市場浸透率が統計上は中国製品が実状より小さく日本製品が実状より多く統計上は出てしまうのです。なお前のコメントで「包装等のちょっとした最終作業をしたもの」と書いたが、包装では日本製品と認められない。製品の本質をなす部分が作られたところが産出国となる。だから冷凍食品の魚フライを日本で包装しただけでは中国製だ。だが魚に衣をつけたまでの部分を中国で行い、日本であげてフライにしたのなら日本製品だ(と思う)。
そこで仮に日本と中国の価格水準の差の度合いを1.5として、なお1の場合は差がない場合です。市場浸透の度合いも1.5とする。なお1の場合は浸透度0の場合です。仮にある国の価格水準の差の度合いは、当然に低いからたとえば韓国を1.1、台湾を1.2とする。市場浸透の度合いは韓国1.4、台湾1.4とする。IMFの統計では両国とも日本より市場占有率が高いが、90年代の終わりつまり10年ぐらい前の統計では両国とも下降気味だが日本の鋭角で上昇しているので現在では日本1.5として両国を1.4とするのが妥当と推定した。なおその他の国との比較では上記の企業内業を考慮して差をつけるが、韓国と台湾は日本と同じ事情と思いそれを差の考慮から外した。
さて物価水準への影響力は、日本は1.5×1.5=2.25。韓国は、1.1×1.4=1.54。台湾は1.2×1.4=1.68となる。韓国との影響力の差は1.25÷0.54=2.31。台湾との影響力は1.25÷0.68=1.84となる。他の国と影響力を比較しても日本は中国製品の価格影響力が2倍前後あると思われる。
上念さんは「他の国で中国製品による『流通機構の改編』なるものはこれらの国には発生しないでしょうか?」などと頓珍漢なことを書いています。私は明瞭に書いたつもりなのに伝わっていなかったのですね。日本は歴史的に形成されてきた中間業者の多い流通機構と商慣習によって国際的にも高い消費価格になっていたのです。ですから「流通機構の改編」とは特殊日本的な課題です。私ははっきりと「流通機構の改編が主語ですが、流通機構の改編の大きな柱の一つが中国での製造ですので、中国デフレ原因説もまた可なりです。
」と書きました。日本の物価水準という湖が、物価の内外価格差という水圧をバネに不合理な流通機構という人為的なダムを様々の水路を見つけ出して決壊させているのです。
数値ですか。「『流通機構の改編』なるものは数値的にその趨勢を追えるような概念ではない」と上念さんはおっしゃいますが、明らかに数値的にその趨勢を追えるような概念です。たとえば金物業をとり70年代80年代90年代と年代ごとに、どの生産地域からどのような出荷先へ、また中間取扱業者(問屋あるいは専門商社)の取扱高およびそうした業者の趨勢、小売店および大規模スーパの販売数とルートの統計をとれば明らかになるでしょ。きっと日本中の経済経営専攻の大学院生の論文の中には業種はいろいろかもしれませんがいくつかあると思います。だって数値化しやすく結論をだしやすいテーマですから。
では今、現実に示してと言われることでしょう。経済学の研究者なら当然です。でも僕はその必要を感じません。なぜなら経済にかぎらす世界についての知識に興味があるのは、17日にも書きましたように、「自分が生きてく上で了解できる世界像はもつ」ためですので、論争に勝つためでも他人を説得するためでもないからです。でも逆に思うのですが、上念さんはこの圧倒的な環境の変化を感じ取れないのが不思議です。
陽明学徒的には「考えるよりまず感じろ」と思います。ですから「当たり前の理屈」とか「経済学の知見」とか「バーナンキ背理法」とかいわれても、ポパリアンとしても陽明学徒としてもなんか胡散臭いと感じてしまいます。そこで上念さんが完全無欠の論理のようにいう「バーナンキ背理法」の胡散臭さを解明しましょう。バーナンキの背理法とは、「政府が紙幣をいくら刷ってもインフレにならないのなら、税金を取らないでも政府が紙幣だけ刷って財源としてもインフレにならないことになる。それなら無税国家が可能になる。だけど無税国家は存在しない。だから政府が紙幣を発行するとインフレになる。」というもの。だからやがてはインフレになるのだから政府が紙幣を配りましょうという主張の根拠にしている。ところがバーナンキの前半の部分の「インフレ」の意味合いと後半の部分の「インフレ」の意味合いがすり替えられている。今までの為政者が税金を取らずに政府紙幣の発行を財源とすることをしなかったのは、勿論インフレになるからなのだが、それは貨幣の堕落により生産も生活も破壊するハイパーインフレになるからだ。ところがバーナンキの求めているインフレとは好況を呼ぶマイルドなインフレのことだ。だから政府紙幣を財源とする無税国家がないのは、ハイパーインフレになるからだ。貨幣の堕落によるインフレは制御できないからだ。無税国家はなかったが、それに近い財政の収入を政府紙幣による例は戦争国家にいくつもある。第2次世界大戦中の蒋介石政権だ。もちろん激しいインフレになった。戦時国債を多発した日本政府も敗戦で統制が解除されると激しいインフレになった。年率59%のインフレではハイパーインフレにはならないというが国民経済の障害となる。貨幣信用がなくなり物々交換が行われる。
ではより確かな別の背理法を「政府紙幣の発行によるインフレの程度を制御でき、またインフレ即好況を意味するなら、インフレが暴発しない程度で完全雇用が達成できるぎりぎりまで政府紙幣を発行すればよい。完全雇用なので社会保障費が少なくて済むので財源の政府紙幣もそれほど多くならない。しかし歴史上無税国家は存在しない。だから政府紙幣の発行によるインフレは制御できない。」
まあ下らない言葉遊びをやってしまいました。でもお金の供給を増やせば景気が良くなるという上念さんとバーナンキの主張は、バーナンキ自身により反証されているのだよ。FBR議長のバーナンキは自分の主張を証明するため、市中への直接資金を行うため、市中の債券の買い取りや民間企業への直接貸し出しを行った。そのためFRBのバランスシート上の試算残高は8700憶ドルから2兆ドル(2009年9月)に激増した。その結果ベースマネーが2008年10月以降急増して現在では2倍になっている。しかしインフレは起きなかった。そうそう最近バーナンキは歴史上際も低い支持でFBR議長に再任されました。
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結局数値はない&バーナンキの背理法への誤解 (smith796000)
2010-02-21 00:59:01
1.で、数値的根拠は??

>数値ですか。「『流通機構の改編』なるものは数値的にその趨勢を追えるような概念ではない」と上念さんはおっしゃいますが、明らかに数値的にその趨勢を追えるような概念です。

では数値を示して下さ、、、

>では今、現実に示してと言われることでしょう。経済学の研究者なら当然です。でも僕はその必要を感じません。

この部分でコケそうになりました。
これだけ長文で説明されている内容について特に数値的な裏付けはないということはよく分かりました。いずれにしろ、追加のコメントをどう読んでも、「シンガポール、韓国、台湾、香港がことごとくデフレになっているということ」は証明できていないです。香港の消費者物価指数が0%以下であることを示す統計データを示せば、難解な長文は不要です。香港政庁のHPで経済統計などお探しいただいた方がいいと思います。

ちなみに、「日本と中国の価格水準の差の度合いを1.5として、、、(以下略)」というよく分からない計算ですが、二国間の物価をこのような形で単純比較できるというのがそもそも思い込みに過ぎません。為替レートの問題を完全に無視してますので、この計算をいくらやっても答は×です。
それにご指摘のようなメカニズムを通じて、香港、シンガポール、、、が結果的にデフレになってないです。

2.バーナンキの背理法への誤解について

まず「インフレ」の意味合いは「デフレ」ではないこと。以上です。前後で全く同じ意味で使われています。

もう少し丁寧に解説すると、
「お金をいくら刷ってもデフレが止まらない」
=「お金をどんなにたくさん刷って(配っても)も絶対にインフレにならない」
=政府は税収をすべて通貨発行で賄える
=無税国家の誕生

という仮定からスタートします。
もし、この仮定が正しいなら大いに結構。日本の財政問題も明日解決します。政府は1000兆円紙幣を印刷して財政赤字をすべて返済し、余ったお金を国庫に組み入れればいいのです。でも、そんなことやってる国は歴史上存在しません。なぜなら、通貨を発行し続ければ、いつか必ずインフレになってしまうからです。

デフレというのは通貨に対する需要超過のことなので、それを解消するためには通貨の供給を増やしていわば逆のショックを与える必要があります。お金を刷ってそれを何らかの形で国民に配れば、通貨の希少性がなくなり、通貨に対する需要超過状態が解消されます。

通貨に対する需要超過が解消されることは、モノに対する需要増加を意味します。モノに対する需要増加を適切なレベルでコントロールするために、スピードメーター(コアコアCPI)を見ながら調整するのが金融政策の役割です。物価はいきなりジャンプしないので、いきなりハイパーまでぶっ飛ぶことはありません。ちょうど高速道路で制限速度まで加速してその後80キロ前後で巡航するように、金融政策のアクセルとブレーキをコントロールすればいいわけです。

これまで国際的な制限速度は2%でしたが、最近のIMFの研究によるとこれは4%ぐらいの方が、今回のような危機が発生したときにショックを吸収しやすいとのことです。いずれにしても、日銀が言っている0-2%よりは相当高めレンジです。

ちなみに、日銀の運転技術は相当高く、ここ数年コアCPIで0-1%のレンジで見事に物価をコントロールしています。ゼロ戦パイロット並です。その点はサムナー教授にも指摘されています。
http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20091115/sumner_on_boj_qe

しかし、作戦目標の設定が0-2%ではダメなんです。2-4%のレンジを目標にこの技術を使えば何のことはない、数年でデフレから脱却できるでしょう。

ところで、ポイントは何なのかというと、インフレと言えばハイパーみたいな根拠のない議論が無意味ということです。そもそも下記のような主張をされる根拠は一体何でしょうか?

>貨幣の堕落によるインフレは制御できないからだ。

OECD加盟国で通貨の堕落でインフレが制御できなかった事例を挙げていただけますか?ジンバブエのような鎖国政策+高額紙幣大量発行のような例外的なものを除き、そのようなケースが発生したことはありました?

現在、世界で標準的に使われている金融政策の枠組みは、通貨供給のスピードコントロールを適切に行うために編み出された人類の叡智です。その有効性は歴史が証明していると思いますが、なぜか「インフレと言えばハイパー」みたいなことを平気で言う人が多く、大変困ったことだなぁと感じています。歴史がそれを証明していないというなら、「OECD加盟国で通貨の堕落でインフレが制御できなかった事例」を示してください。

それから、ポパリアンとか、陽明学徒とかそんなカテゴリ分けって何か意味があるんでしょうか?主張しているが、根拠がない、証拠がない、だからおかしい。それでいいんじゃないでしょうか?

こと経済に関しては、主張の裏に証拠(データ)が必要です。主張されたいことは分かりますが、残念ながらデータも根拠も薄弱であると結論付けるしかありません。

大変申し訳ありませんが、私の本や岩田規久男先生の本を一度読んでいただいて、その上でもう一度エントリーを上げていただければと思います。

上念
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計算の意図が分かった! (smith796000)
2010-02-21 01:06:57
為替レートの問題を無視して、固定レートで価格差だけ存在するというかなり強引な仮定をしたわけですね!!意味が分かりました。

例えば、日本と韓国と中国が全部同じ通貨を使っていて、価格差が3:2:1だった場合、中国製品の市場シェアが同じでも、価格差の開きが多い分日本の物価が安くなる、ということと理解しましたが、あってますか?

仰るとおり、この3カ国の通貨がドルとか円で統一されていたらそのような価格調整は起こるかもしれません。しかし、残念ながら、3カ国は別々の通貨で、しかも変動為替制なのでこの計算は成り立たないんです。なぜなら、価格差そのものが為替レートに依拠しているからです。

では、為替レートは何で決まるかというと、だいたい各国の金融政策で決まります。日本が円高になるのは、日銀がお金をケチってぜんぜん発行しないからです。お金をケチっている状態で、いくら中国製品が流入しても、お金が少ない状態=貨幣に対する需要超過=デフレということになります。

90年代後半から中国製品は大量に流入してますが、一向にデフレが終わらないのはこのためです。

価格差は金融政策の結果であって、原因ではないんです。

この点を誤解されているということに気が付きました。念のため追加で指摘させていただきます。

上念
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