セレンディピティ日記

読んでいる本、見たドラマなどからちょっと脱線して思いついたことを記録します。

意外な人の意外な主張

2010-07-15 18:19:56 | 社会経済
参議院選挙の結果は民主党の大敗だが、当面の菅総理の退陣はなさそうである。しかしながら民主党の敗北の原因が、菅総理の消費税についての一連の発言だという印象がつよいので、9月の民主党代表選挙では党首の交替も大いにありうる。中国の王朝末期だと皇帝が頻繁に替っている。前に自民党政権についてこのことを指摘したが、民主党政権になっても鳩山氏に続いて菅氏も短命政権で終わるとなると、自民党政権だけでなく民主党政権も含めた戦後官僚僭主政権が終焉に向かっていると言えるかもしれない。「僭主」というのは古代ギリシャでの非合法な独裁者のこと。

ところで最近、意外な人が意外な発言をするなと一瞬ビックリすることが2つあった。よく聞くと意外でもなくなるのだが。

1つは先週の金曜日のテレビ番組の『太田総理』での森永卓郎氏の主張だ。「日本銀行なんかいらない!」ということだ。僕はこのタイトルを見たとき、「森永氏はオーストリア学派に転向したのか?」と驚いた。オーストリア学派というのは経済学の異端派で、政府および中央銀行の財政金融政策というものは正しい経済運営を妨げるだけだと主張している。リバタリアンという極端な自由主義者の人たちの理論的基礎になっていて、アメリカのリバタリアンの下院議員はFRB(アメリカの中央銀行組織)を廃止せよと主張している。でも今までは森永氏は日銀にたいして、不要どころか過度の役割を期待していたはずである。でも結局森永氏は変わっていなかった。

テレビのニュースをみると、つきあっていた人から別れ話を切り出された男やストーカーが相手を殺害してしまう事件が時々ある。僕にすれば「殺してしまえば元も子もないだけでなく犯罪者になるのに」と思う不合理かつ不条理な犯罪である。森永氏の心情もこの犯罪者と似たようなところがあるよう見える。

でも森永氏をストーカー殺人犯と同列にみては失礼かもしれない。森永氏の意図は「殺す(なくす)こと」ではなく、言いなりにならないものへの「嫌がらせ」だもの。部下の女性に権力を使って嫌がらせを行いいいなりにしようとするのが「パワハラ」なら、言論人の森本氏ならメディアをつかった「メディハラ」ということになる。番組の最初に森永氏は日銀の総裁の年収は3千××万円という。あ、そうそう、その前に日銀は株式会社だけども半分公務員という伏線を引いている。これによってスタジオの出演者は「わ!高い」と思うのである。しかし僕の記憶では日銀は銀行の銀行だから総裁の報酬は都市銀行の頭取に準じている(少し上かも)ということを聞いたことがある。今では銀行は護送船団方式の横並びでなくなっているので、ひょっとしたら都市銀行の方が高いものがあるかもしれない。だから日銀の総裁の報酬の高い低いは一概にいえない。街宣右翼のような嫌がらせで目標を遂げようとするなよ。

森永氏が望んでいるのが、通貨供給のより一層の量的緩和であるならば、正々堂々とその論拠で主張すればよい。森永氏も含めてリフレ派は「通貨を流せばインフレになる。景気のいい時はインフレ気味だった。だから再び(re=リ)インフレ(フレ)を起こせば景気がよくなる」と主張する。主張の転倒性はともかくとして、最近の世界の経験では、お金を流してもそれが流通(回転)しないことが明らかだ。つまり通貨供給量をふやすとそれが回転(流通)する比率が低下しているのだ。というと疑似科学は「あれこれ言い抜けようする」とのポパーの指摘どおり、リフレ派は「それは足りないからだ。インフレが起こるぞと人々が確信するまで貨幣供給量を増やせばよい」と「ああ言えばこう言う」のおきまりのコースだ。本来のお題目の「インフレは貨幣現象だ」がここまでくると「インフレは心理現象」になってしまっている。

ちなみにいま山田久さんの『デフレ反転の成長戦略』(東洋経済新報社)を読んでいる。地味なタイトルのせいか書店にあまり置いてないのが残念だ。論理的で事実経過を踏まえている。30年ぐらい前に読んだ吉冨勝さんの本と感じが似ていて読みやすい。でもこれは内容が通俗的という意味ではない。これに反してリフレ派の人の本は断定が多く突っ込みたくなる。リフレ派の本によく出てくることは、「サルにでもわかる」とか「あたりまえ」とか高飛車な言葉だ。また普通に考えれば出てくる疑問に対しては「今度は違う。なぜならば・・・」という論法だ。「なぜならば」の先はどんなことが入ってもサルならば納得するだろう。でもこれらは、ネズミ講式経済詐欺と同じ論法だ。

2つめの意外思った発言は。「アゴラ」でみた池田信夫さんの7月9日の「いろいろ考えたけどやっぱりリフレを支持します」というタイトル。
http://agora-web.jp/
ちなみに池田信夫さんというのはメディアに登場する池田姓の2人のリバタリアン学者(僕の推測)の一人で、NHK記者出身の経済学者。なお、もう一人は生物学者の池田清彦さん。

僕がビックリしたのは池田信夫さんがリフレ派批判の急先鋒だからだ。しかしよく読んでみると、リフレ派の論理に賛成したのではなくて、リフレ派的手法をとり続ければ大インフレになる。そうすれば国債も紙くずになり国の借金問題も解決。日本経済が焼け野原になる可能性もあるが、かえって産業調整もすすみ、数年後には低くなった円の価値のもと産業も再生して躍進する、ということだ。もちろんリフレ派自身は大インフレにはならないと言っている。インフレを制御できるつもりだ。でもインフレを起こすこともできないのに起きてしまった大インフレを制御できるわけがないよ。

池田信夫さんはリフレ派にあおられてゆらゆらゆれる政治家に開き直っているように見える。僕自身は前にも書いたように財政破綻とハイパーインフレ(大インフレ)は「それでもいいか」ではなくて「避けられなく」また「必要」とみている。IMFが日本の財政赤字に危惧をいだいても、つよく是正を勧告しないのは、消費税率が低いのでまだ課税の余地があるからだ。しかし今回の選挙結果により、消費税はタブーという雰囲気が強まってしまった。だから理屈的には財政再建は可能でも事実上不可能だね。すべてはアラーの思し召しだ。