セレンディピティ日記

読んでいる本、見たドラマなどからちょっと脱線して思いついたことを記録します。

読書ノート:大竹慎一『日本金融恐慌間奏曲』(李白社)その2

2010-01-04 22:35:00 | 社会経済
ごめん、この前「大竹氏は『自然の摂理』という用語は使っていない。『暴力的に均衡化』とかゆう左翼論文みたいな用語が好きみたいだ。僕は嫌いだから言い代えた。」と書いたが、それは誤りだ。大竹氏自身が「自然の摂理」という用語をよく使っていた。僕はそんな個所はスーと読み進んでいって、「暴力的に均衡化」という用語がでてきてひっかかる感じを覚え、「自然の摂理」という言葉が反射的に頭に浮かんだのだ。それは元々この本の前の方に使われていたから頭に浮かんだのかもしれない。

だが大竹氏が「自然の摂理」とか「自然・・」とかを使うときには、「われわれマネタリスト」という言葉も付随して使われているみたいだ。つまりマネタリストとしての自己を意識すると「自然」という言葉が多く出てきて、マルクス経済学の一派である宇野理論を意識するとき「暴力的に均衡」とかいう言葉が出てくるだと思う。

大竹氏の前著『世界金融恐慌序曲』(ビジネス社)によると、「大竹理論の三本足」とは、マックス・ウェーバーとマネタリズムと宇野理論だそうだ。浅学な自分の感想だが、マネタリズムというのは「自然失業率」とか、人為を超えた基準が好きなようだ。また宇野経済学以外のマルクス経済学では資本主義の内部矛盾は解決されずに激化してやがては資本主義社会の崩壊をもたらすことが資本主義社会の「経済法則」だと主張するが、宇野経済学では「法則」とは「繰り返して現れる」ことなので、資本主義の不均衡は恐慌によって強制的つまり暴力的に解消される。原理的にはこの「不均衡の発生」から強制的な「不均衡の解消」が永遠に繰り返されるように想定される。つまり政府の作為により完全に景気などをコントロールすることはできない点で、マネタリストと宇野理論は一致している。

ところで所得の半分という予想は、2012年ごろに急に現れるのではない。もうだいぶ進んできているのではないか。年収200万円以下の世帯が全世帯の3分の1をすでに占めている。製造業での派遣社員の急増は、立法措置の誤りで生じたというよりも、外国と競争する輸出産業の強い人件費削減要求から出てきたといえる。また全国の漁業関係者の年収は公務員の半額だという。命の危険のある職業なのに。だが公務員たちは、僕たちは試験に受かった勝ち組などと平然としている。

この『日本金融恐慌間奏曲』では、日本人の所得とりわけ大会社の正社員と公務員の賃銀ががあまり落ちてなくて高止まりしている理由を次のように分析している。
「・・・国際競争力にさらされることがなく、海外の低賃銀の会社からの挑戦を受けることもなく、しかも国内でも競合することのない業界が日本には存在する。官庁・役所、公社・公団、電力・ガス、銀行などである。
 これらは政府に規制された業界であることにあぐらをかいて、市場とはかかわりのない独占価格を定め、世界の実状を無視した賃銀水準を定めていて、日本の賃銀水準を高止まりにしている大きな要因となっている。・・・・
 私企業の多くが国際的にも国内的にも激しい競合の中にあるのだから、もっとフレキシビリティのある賃銀体系をもっていいはずである。にもかかわらず、相変わらずバブル以前の、できるだけ官公庁、公企業に準ずるという“悪弊”からいまだに抜け出せずにいる。
 業績がまったく給与に反映しない官公庁、公企業にしても、以前は一流の私企業の待遇を見習っていた。お互いにいいとこ取りをしていたら、こうなってしまったのだ。」(p.25L.5~p.26L.3)

ところで、大竹氏は現行実質0%の超低金利の異常だとして、早晩金利5%に是正されるという。大竹氏の話では国債の入札不調が火付け役となるらしい。

ここからは僕の独断。僕の感想ではたしかに超低金利は異常なので必ず上昇するだろう。その前後の因果関係は僕にはよく理解できないが、もし金利が上がったら、国債の発行と借り換えの費用が急騰して国の財政は破たんする。その前後に自治体の多くも財政破綻する。その時は確実にそして、公務員がどんなに叫ぼうと本に公務員の人件費の大幅削減が行われる。今、自治体は10%とか少し少し下げて住民の批判をかわそうとしているけど、政府および自治体が財政破綻したら否応なく本当に民間準拠の水準かそれ以下まで下がることになる。

過大な公債による財政破綻を避けるのはハイパーインフレつまり超インフレしかない。貨幣の価値を急激に減らすことだ。そうすれば発行済みの国債は紙切れ同様になり政府の負担は少なくなる。ただその時は、公務員の給料は急激に上がらないので、給料の名目高は変わらなくても、その購買力は大幅にへる。民間の給料は公務員より早く上昇するので、世間との給与水準は均衡してくる。