セレンディピティ日記

読んでいる本、見たドラマなどからちょっと脱線して思いついたことを記録します。

読書ノート:志木沢郁「可児才蔵」学研M文庫

2007-08-28 22:30:05 | 歴史
戦国時代に槍一筋に戦場を駆け回った武士の物語。裏表紙に福島正則の家来だったことが書いてあったが、正直知らない名前だ。ではなぜ買って読む気になったかというと、作者が志木沢郁だったから。この人、同じ学研M文庫で「立花宗茂」を書いていて、立花宗茂ファンの僕は非常に感動したから。作者の立花宗茂にたいする共感がわかるよい本であった。

さて「可児才蔵」に戻るけど、可児才蔵は戦場での槍働きの名人で、旗指物の変わりに竹笹の枝を背中にさしており、戦場で討ち取った敵の首の数が多く持てないので笹の葉を敵の生首に加えさせて自分が討ち取った証拠を残して次の敵に向かっていくことで、世に聞こえた武者だ。でも有名なのはそれだけではない。斎藤龍興、柴田勝家、明智光秀、織田信孝、羽柴秀次、前田利家そして最後に福島正則と7人の主人に仕えたことでも有名だ。でも主をかえることは戦国時代でそう珍しいことではない。藤堂高虎も同じくらい主を変えた。この藤堂高虎という武将、人気はないけど自立した人間であり僕は好きな人物だ。でも可児才蔵と藤堂高虎の違いは、初めは同じような槍働きから始まったが、高虎は転職する度にキャリアアップしていって大名になったけど、才蔵は平侍のままで、やっと関が原の後にそれまでの250石から500石加増で750石になったのが最終到達点だ。これには仕えていた主人(明智、織田信孝)が滅びたり、家中(柴田、前田)の人間とのいさかいで退出したりしたための失業、でヘッドハンティングされたためでないので、再就職してもなかなか俸禄があがらないことや、主と折り合いが悪かったのは羽柴秀次だけであるのだが、主人に逆らうのではという偏見や、仕えた家が滅ぶ縁起の悪い男といううわさがたち、就職に苦労したことにもよるが、最大の原因は将器がなかったことだ。才蔵はもっと下の者を指導してはと光秀から忠告をうけているように、根っからの一騎駆けの武者で将たる器でなかったからだ。うむ、思い当たるな。

この本は登場人物の性格描写がよい。とくに加藤清正を意識したりする福島正則の性格描写がおもしろい。また広く資料から収録したおもしろいエピソードも適当な場所に盛り込んである。福島正則が重臣を引き連れて家康に面会したときに、重臣たちに体が満足のままのものが一人もいなかったというエピソードは他でも読んだことがあるが象徴的なエピソードを押さえてある。才蔵の武士感・忠義感と家康の忠義感の違いの対比もおもしろい。